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2013年6月21日

【柴山桂太】酪農が危ない!

FROM 柴山桂太@滋賀大学准教授

先日、北海道の中標津で、酪農の現場を見学しました。北海道の酪農と言うと、広い牧場に牛が放たれて、優雅に牧草を食んでいる光景を思い浮かべる方も多いと思います(私もそうでした)が、私が訪問した酪農家は、もっと経営が合理化されていました。

乳牛には一頭ずつバーコードが付されており、エサの管理から牛の健康状態まできわめて精密に管理されていました。
牧草や飼料などのエサは、地域のセンターで一括して生産され、一日二回、トラックで運ばれてきます。搾乳も搾乳機で行い、子牛の保育も保育ロボットが行っていました。技術進歩のスピードには目を見張るものがあります。
もちろん、全ての酪農家がこうした技術を取り入れているわけではないのでしょうが、外国との競争を考えると、どうやら止みがたい趨勢のようです。

何が言いたいかというと、農業は(酪農を含めて)全体的に装置産業化が進んでいる、ということです。

競争が激しくなるなかで利益を確保しようとすれば、収量を上げつつ品質を保ち、かつコストを下げていく以外に方法がありません。そのためには人手のかかる部分を機械で代替していく装置産業化を進めるのが、もっとも効率的なのです。

装置産業には、当然ながら投資資金が不可欠になります。長期的な展望のもとに、牛舎を立て替え、重機を新しくし、最新の科学的管理を取り入れる。技術進歩を取り入れる酪農家は、たくさん借金をしながら、設備更新を進めています。私が見た酪農の現状は、そのようなものでした。

問題は、長期投資が次第にやりにくくなっているということです。
特にTPPによって将来、乳製品の関税がゼロになると、安い外国製品の流入で収益が大幅に減る可能性が高まります。そうした不安材料があると、農業投資は下がることはあっても、上がることはありません。
米韓FTAでは、韓国の酪農家が将来を悲観して離農するケースが相次いだようですが、今後、日本でも同様の現象が見られるかもしれません。

農地を大規模化していけば良いではないか、という反論があるかもしれません。しかし現地に行ってみてわかったのは、農地の大規模化が進むと、地域共同体が崩壊していくということです。当たり前ですが、農地を倍にして人手を半分にすれば、地域共同体のメンバーの数は減ります。それで本当にいいのでしょうか。農家一戸あたりの収益は増えるでしょうが、地域社会を維持するための行政コストも増えることになるでしょう

また大規模化や装置化が進めば、事業の運営に必要な資金の量も上がります。マスコミでは農業への新規参入を求める声は後を絶ちませんが、私がヒアリングしたところでは、近代的な酪農をあらたに始めようとすると、初期投資だけで2億近いお金が必要になるようです。とても個人が背負える額ではありません。

そうなると、株式会社の参入ということになるのでしょうが、地域共同体はますます弱体化するでしょうし、収益が本社に還元される傾向も強まるでしょう。本社の経営判断で、資本を引き上げるというケースも出てくるはずです。
また酪農では、海外飼料を使う関係で、為替のリスクに振り回される傾向が強まっているようです。自然を相手にする農業は、ただでさえ経営の安定を保つのが難しい上に、マクロ経済の動向という別の不確実性も背負いはじめているのです。こうなると、農業は次第にギャンブルに近づきます。

農業の装置産業化やグローバル化は、われわれの想像を超えるスピードで進んでいます。農業に競争がないというのは全くの嘘です。むしろ激しいグローバル競争が、農業の経営基盤を次第に脆弱なものに変えているというのが、真相と言うべきでしょう。

TPPによって関税をゼロにすれば、そのスピードはますます速まります。それによって短期的な効率が上がる地域も出るかもしれません。しかし日本全体として見れば、地域共同体の崩壊や(いまの世界経済の不安定化によって生じる)経営の不確実性も上がります。

農業という産業の根幹を、そのようなリスクに晒すことが本当に望ましいのか。農業を「当たるも八卦、当たらぬも八卦」のギャンブルのような不確実性の高い事業に変えてしまって本当に良いのか。よくよく考えてみる時が来ているようです。

PS
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【柴山桂太】酪農が危ない!への2件のコメント

  1. 岡井健 より

    上っ面だけなぞっただけですが、三橋さんが酪農に興味を持たれたことに驚いています。大型酪農の危うさを、現場の獣医師として何度も訴えてきています。http://okaiken.blog.ocn.ne.jp/060607/2014/04/post_870b.htmlhttp://okaiken.blog.ocn.ne.jp/060607/2014/04/post_8ca9.html大型化した畜産は、アメリカのトウモロコシに依存しています。トウモロコシの作付の問題と、トウモロコシの戦略的な問題と、トウモロコシの炭水化物の問題・C4の問題など、無数にあります。大型化すると経済効率が高くなるとする危うさが、アベノミクスの問題を洗い出します。

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  2. mxpbh より

    まったくそのとおりです。私は行政で畜産関係に携わったことがありますが、畜産は、酪農の他にも、肉用牛の繁殖を業とするもの、肉用牛の肥育を業とするもの、以上大きく3つに分かれています。そして従事者は、それぞれの業を成功させるため、試行錯誤、大きな投資、休暇なしで過酷な労働に従事されている姿をいつも拝見していました。結構、若い方が多いです。そして、廃業せず、何とか借金の返済の目処もつき食べていけると思った暁に、今回のアレです。私も農業に従事している訳ではありませんが、農業に対し、一国の首相の言葉の軽さには、絶句していました。もちろん農業だけではありませんが、あの首相には、人の人生がかかっていることの認識なんてないのでしょうね。

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