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2013年5月24日

【柴山桂太】鎖国幻想

FROM 柴山桂太@滋賀大学准教授

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●「月刊三橋」5月号は国土強靭化と公共事業のある大問題について。
過去の構造改革が日本に深刻な影響を与えています。大問題です。

⇒ http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_100_2013_05/index.php

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どうも日本はまだ鎖国していると思っている人がいるようです。

少しでもTPPに反対すると「日本は鎖国しては生きていけない!

という情緒的な反発がくるところをみると、
日本鎖国説はかなり幅広い層に刷り込まれているようです。

事実、日本の政治家のなかには、この説を信じて「開国」するぞと息巻いている人たちもいます。菅直人元首相が、TPP参加を「平成の開国」と位置づけたのは記憶に新しいところです。

自民党も、推進派のグループはやはり同じような考え方を持っているようです。先日、テレビで甘利大臣がやはり「鎖国では生きていけない」という趣旨の発言をされていました。

なんなのでしょう、この鎖国幻想は。

事実を確認しておきたいのですが、日本は鎖国なんてしていません。

1955年にGATT(貿易および関税に関する一般協定)に加盟して以後、
複数の交渉ラウンドを通じて、日本は関税率を段階的に下げてきました。
今や、平均関税率は(2011年のWTO調べで)5.3%と、
他の先進国並みに低い水準にあります。

二桁を超える関税率をとっている国が、途上国・新興国を中心にまだ多いことを考えると、日本の関税は十分、低い水準にあります。とくに非農業品の関税率は、2.3%と、アメリカよりも低い水準です。日本が鎖国しているというなら、世界中が鎖国していると言わなければなりません。

投資についても、日本は1970年代から対内投資規制を段階的に撤廃してきました。これは戦後のブレトンウッズ体制が崩壊していく中で、厳しい資本移動の規制が世界的に撤廃されていく流れと合致しています。90年代には金融ビックバンで金融市場も開放されました。まだ外資の規制が残っているのは、公益事業やマスコミなど一部の業種だけです。

身の回りを見ても、外資系のファッションブランドやファストフード店、家具店、IT企業、保険会社がたくさんあって、私たちの消費生活と深く結びついていますよね。それなのに、どこをどう見れば日本が鎖国しているという説が成り立つのか、私にはまったく分かりません。

もちろん、コメなど一部の農産物で高関税品目が残っているのは事実です。だからTPP交渉でも激しく削られることになるでしょう。しかし、一部の品目を高関税で守っているからといって、日本が鎖国していることにはなりません。現に、私たちの食卓は、外国産の食品で溢れているではないですか。

それでも日本は、非関税障壁で外国企業の参入をブロックしているという意見もあります。しかし、非関税障壁というのはその国の制度やルールのことですから、国境線によって壁があるのは当たり前のことです。グローバル化を進めるということは、その壁で守られた国による違いを小さくして、世界を単一の市場に統合するということです。

もちろん、それが望ましいという人もいるでしょうが、国民の大多数が、そんなことを本当に望んでいるとは思いません。実際、そんなことをすれば必ず反発が起こるでしょう。いま、EUで起きている混乱は、そういう事態です。

あらためて確認すれば、日本は鎖国などしていませんし、他の国と比べて開放度が低いということもありません。もう十分開国している中で、国民の生活や国家の安定を守るために最低限、守るべきものはなにか。今は、それを議論すべき時なのです。

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