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2013年5月25日

【後藤孝典】民法改正とTPP

From 後藤孝典@弁護士法人虎ノ門国際法律事務所&弁護士

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●●「月刊三橋」最新号は国土強靭化と公共事業のある大問題について。
過去の構造改革が日本に深刻な影響を与えています。大問題です。

⇒ http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_100_2013_05/index.php

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「猫チン事件」をご存知だろうか。アメリカの、ある老婦人が雨の日、家の外に出てずぶ濡れになった愛猫をかわいそうだと思い、電子レンジに入れ、乾かした。老婦人が再び電子レンジの蓋を開けたとき、その猫は内側からすっかり調理されていた。この事件は、まだ続きがある。

ショックを受けた老婦人は、その電子レンジのメーカーを相手に損害賠償請求の訴訟を起こした。請求原因は「猫が死んだのは、電子レンジの取扱説明書に、生きた動物を入れないでください、という注意書きがなかったからだ」というものであった。

裁判所は原告の請求を認め、被告に多額の損害賠償金の支払いを命じた。それ以降、電子レンジの取扱い説明書に「動物を乾かす目的で使用しないで下さい」という注意書きがあるのは、このためである。

この話は、作り話にしては、アメリカの訴訟社会を描いてよくできているが、日本人からすると非常識だ。

しかし、問題は、この日本でも似たようなことになりかねないことだ。現在TPP問題と重大性においてほとんど変らない問題がこの国内で進行している。現行民法制定以来110年ぶりの根本的大改正(債権関係)である。

債権法は金融を中心とする企業活動の基礎を支えており、税法を含む膨大な行政諸法の骨格であり、私人対私人の関係を含め、あらゆる法主体と法主体との法的関係を規定するインフラである。

このように重大な日本の基礎を変えようとする法改正が進行しているのに、メディアはボンヤリしており、一般には知る人が少ない。法務省から、「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」が公表され、今年4月16日にはパブコメが始まっており、この6月17日には締め切られる。

ところが、今回の民法改正は異常なことが多すぎる。

まず、<1>改正の必要がどこにあるのか、よくわからないことだ。

経済界や労働組合などから改正の要望がなされたわけでもない。裁判所が民法に欠陥があると指摘したわけでもない。改正推進の中心にいる内田貴(元東京大学教授、法務省参与)という特定の個人の、アメリカ憧憬症的な解釈論を立法化しようとする傾向が顕著だ。

<2>日本民法では契約が成立すれば当事者間に債権債務関係が発生すると捉え、債務者は期限に履行できなければ債務不履行となると構成し、債務不履行が債務者の「責めに帰すべき事由」によって生じたとすれば債務者に責任があると考える。

つまり債務者に過失があるから責任があると考える。

この考え方は債権法の基礎であり、したがって契約総則、契約各論の基礎である。そればかりか、日本人は、契約関係で、なにか事故が起きても、その原因を作った人には過失がないから責任を問うことは止めようと考えるように、この考え方は日本人の文化の基底部をなしている。

<3>ところがアメリカ法ではそうではない。アメリカにはまず債権という概念がない。アメリカでは、契約で、あるリスクを引受けていると解せられるかどうかが責任の判断基準になる。引受けていないリスクには責任を負わなくてよいと考える。

<4>今回の中間試案では、債務不履行があっても、「当該契約の趣旨に照らして、債務者に債務の履行を請求することが相当でないと認められる事由」=履行請求権の限界事由があるときは、「債権者は、債務者に対してその履行を請求することができない」(第9の2)とされている。

そうである以上、契約書や取扱い説明書に、「動物を乾かす目的で使用しないで下さい」と書いてなければ「動物を乾かす目的で使用」するリスクを引受けないと明示してはいないのだから、「動物を乾かす目的で使用」した場合の責任を取ってくれと電子レンジメーカーに追求するのはもっともだという事になる。

<5>この中間試案が法律として成立したときは、民法制定以来、百年以上にわたって積み上げられてきた判例は無意味になりかねず逆にアメリカの判例がこの日本でも適用可能性の幅をきかすようになる。アメリカの弁護士は日本で仕事がしやすくなり、日本の常識、習慣が歪められてしまい、法的安定性が崩れ、未来が読めなくなる。

<6>この民法改正は、小泉内閣にはじまるアメリカ化、グローバル化の大波の一貫と考えるべきであろう。特に司法関係における大波は、アメリカの年次改革要望書を踏まえた平成13年6月12日の「司法制度改革審議会意見書」に始まる。
陪審員制度も、法科大学院の新設も、弁護士大量生産もそうだ。この流れの中で野田内閣は平成23年12月24日の閣議決定「日本再生の基本戦略」を定め、その中でTPP協定についての交渉参加を謳うと同時に「経済のグローバル化等を踏まえた民法(債権関係)改正」を重点的に取り組むべき施策に掲げている(7頁参照)。
ここでいうグローバル化は単なる国際化ではない。日本人は外国との競争に簡単に負けはしない。そうではなくて、日本の経済活動にかかわる「制度」を変えようとする力が、外国からも、国内からも働いていることが問題なのだ。

パブコメ期間も残りわずか(6月17日まで)となっている。反対意見は多くなかった等のエクスキューズを許してはならない。もちろん、私自身反対意見を提出する予定である。

ことは基礎中の基礎にかかわる問題であるから、法律家だけではなく幅広い層から意見が出されることが望ましい。TPP問題と同様である。是非、ご検討いただきたい。

下記イーガブ、意見提出フォームで意見を出せます。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=300080106&Mode=0

民法改正中間試案は、法務省HPよりダウンロードできます。

http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900184.html

PS
日本経済のバカの壁とは?
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_100_2013_05/index.php

PPS
ひょっとすると大きなビジネスチャンスかもしません。

 

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【後藤孝典】民法改正とTPPへの4件のコメント

  1. 浦辺 より

    既存の法理論とのすり合わせも行われていない中で国民にどう説明するのか官僚・政府は真剣に考えているのか?現政権の支持率を背景に強引に進めてしまおうとする出来レースに見えてしまうのは自分だけだろうか。TPP参加交渉を契機にアメリカ式契約社会に擦り寄る現状には、日本はすでに国民主権ではなく媚米派の企業や政治屋が支配する米の属国になったと実感させられる。一時期言われていた「日本再占領計画」なんて眉唾な話もこれでは本気にせざるをえないな。日本を守るべき官僚がこれを進めている事実こそ一番救えない話だがw

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  2. 野口 英巳 より

    はじめまして、後藤孝典 さま 私は、こちらに集う優秀な人たちとは違います。多くの時間を薬の副作用でよって、使い物にならない自分が情けない状況にあります。その枕元に、こちらに集う若い人達の声をニコニコ動画・ユーチューブから拾って、方向を見失わないように、するのが誠意いっぱいです。 後藤さんが例えで挙げてくださった内容から、この先、日本の製造業が、大中小に関わらず、潰されていくと解説していた声を記憶しています。 私の稚拙な声が届くのか、迷いがありますが、6月17日という期限を念頭に、文章をまとめて、提出します。気持ちを届ける道を案内くださって、ありがとうございます。    野口 英巳

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  3. keit より

    民法改悪、これはTPP以上の悪影響ある可能性大ですが一般には理解されにくいのが難ですね。不動産登記法改正の時も当初識別情報の認証問題などで金融不動産業界では混乱が激しかったのですが。登記実務不動産取引の実態知らない学者官僚が適当にいじるおかげでああなったのでしょうが、今回の民法改悪のインパクトは国の形を根本的に変える悪法かと思います。なんとか一般にわかりやすい形で自民党議員もふくめ啓蒙活動を是非お願いしたいものです。

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  4. 木原節子 より

    情報ありがとうございます。猫チン事件、もちろん知っています。アメリカの製造業は壊滅するよね、度を過ぎた訴訟社会だなあと。遠い世界他人事だった世界がやってくるかもしれないのですね。恐ろしいことです。

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