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2013年3月29日

【柴山桂太】落とし穴

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FROM 柴山桂太@滋賀大学准教授

キプロス問題で、欧州がふたたび揺れています。キプロスは小国ですから、ささっと救済してしまえば良さそうなものですが、またしてもEU(中心は間違いなくドイツ)は支援に厳しい条件を課しました。その結果、キプロス政府は銀行預金に課税するという「荒技」を採らざるをえないところまで追い込まれたのです。

問題は、キプロスがロシアの企業や金持ちの租税回避地になっている、という点にありました。なんでロシアの金持ちを救うのに、EUがカネをださなきゃいけないんだ、という不満が今回の厳しい救済措置につながったようです。もちろんロシアは黙っていません。キプロス問題は、欧露関係の緊張をこれまで以上に高めてしまいました。

また銀行預金に課税する(=負担を預金者に求める)という今回の措置は、次の危機国にも取られるのではないか、という不安が生まれています。キプロスよりも規模の大きな国で同様の「救済」が取られたら、取り付け騒ぎで大変なパニックになるでしょう。そうなる危険をおかしても厳しい条件をつきつけたわけですから、ドイツの意志は本当に強固と言わざるをえません。

背景には、ドイツの国内事情があります。キプロス問題の交渉が佳境にさしかかった3月21日、ブンデスバンクが「意味深」な報道発表を行いました。

http://www.bruegel.org/nc/blog/detail/article/1053-wealth-distribution-in-the-eurozone/#.UVL6rr8X7FZ

上のリンクには、欧州中央銀行の家計調査の結果が載っています。ドイツの一般家庭は決してお金持ちではない、とのデータが示されています。ドイツの家計が保有する金融資産は、フランスやイタリアよりも低いどころか、債務危機で救済されたスペインよりも低い、という内容です。

特に平均値ではなく中央値で見ると、ドイツの家計資産は、イタリアやスペインの三分の一しかありません。その理由は(データにも示されているように)旧東ドイツが貧しいからですが、それを勘案してもずいぶん低い数字です。こういうデータを、このタイミングで発表した意図は明らかでしょう。「なんで南欧・地中海の国々を支援するのに、普通のドイツ人が犠牲にならなきゃいけないんだ」という不満のメッセージが込められているのです。

確かにドイツ経済は比較的好調ですが、儲かっているのは大企業と金持ちだけです。賃金は増えていませんし、(上のデータにもあるように)持ち家比率も南欧諸国に比べて低いままです。ドイツはバブルにも踊りませんでした。それなのになぜドイツだけが悪く言われるのかという不満が渦巻いているわけです。まるでアリとキリギリスの寓話ですね。

ドイツは今年、総選挙を控えていますからメルケルも簡単には妥協できないでしょう。どんなに経済統合が進んでも、国家主権と民主主義は消えません。むしろ、こういうトラブルが起きると国家が前面に出てきて、統合への推進力より遠心力の方が強く働くのです。

何十年もかけて自由貿易と経済統合を慎重に進めてきたはずのEUでさえ、この有様です。「世界の流れに取り残されるな」とばかりにTPPだRCEP(東アジア地域包括的経済連携)だと慌てて突き進む日本は、どこまでリスク・シナリオを検討しているのでしょうか。

国民性の違う国同士の多国間連携には落とし穴がいっぱいあります。ユーロ危機から学ぶべきは、そのような教訓でなければならないでしょう。なにしろ日本の向こうにいるのは、アメリカという「最強のキリギリス」なのですから。

PS
「世界の流れに取り残されるな」と“改革派”は言いますが、
日本がグローバル資本主義の植民地になる可能性については、
深く考えていないかもしれません。

滅茶苦茶に改革されないようにするには、何が必要か?
その答えは、こちらにあります。

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【柴山桂太】落とし穴への2件のコメント

  1. とみちゃん より

    ドイツの一般的な家庭の家計資産がイタリアやスペインの3分の1しかないというのは意外でした。普通のドイツ人からしてみれば、何故南欧やロシアのお金持ちの救済を貧乏な自分たちがしなければならないんだという不満が出てくるのは、当然ですね。こういった悲劇が起こるのも、ユーロという共通通貨にしてしまったからです。国境を取り払うことによって、逆に国家間の摩擦が激しくなっていくのは皮肉なことです。ユーロの悲惨な状況を見るにつけ、TPPに対して警戒感を持たざるを得ません。もはやグローバリズムは、世界経済全体の向上にとって、阻害要因でしかないと思います。

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  2. Yuriya Kaito より

    アメリカという最強のキリギリス、とは良い表現ですね。日本の頭脳にこういった情報がインプットされているのかどうか見えないのが、もどかしい。

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