From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学
おはようございます(^_^)/
安倍新内閣が発足しましたね。期待できそうでよかったです。
民主党政権下では、新内閣の発表時に、「国家公安委員長に、よりによってコイツが…」とか、「法務大臣にこのヒトって、どういうブラック・ジョークじゃぁ…」とか、毎回、絶句しておりました。
安倍政権だと、外国人地方参政権や人権擁護法案などの危ない法案が通ってしまう心配をしなくてすむので、ほっとします。
というか、そんな心配をしなくてはならないここしばらくの政治っていったいなんだったんでしょうね。
(-.-”)
***
さて本題。今日は、外交政策について触れたいと思います。
先日、当メルマガの藤井聡先生の記事「アベノミクスの本質」を、「なるほどなあ」と思って読んでおりました。
藤井先生は、以下のようにお書きになっていました。
「アベノミクスの根幹にあるのは、『保守思想』である。日本の『国柄』、つまり日本の歴史と伝統を通じて培われてきた、われわれの『たたずまい、とか、風土、とか、雰囲気、とか、文化、とかいうもの』を守ろうとする姿勢である」。
これって、基本、外交政策でも同じだと思うんですよね。
つまり、外交の主目標も、われわれ日本人が、「昔から大切にし、いまも大事にしており、子孫にもぜひ引き継いでもらいたいもの」を守ること、そしてそれを守りやすい国際的環境の実現に努めることに置かれるべきだと思います。
そういう昔から大切にしてきて、いまもなじんでいるような文化的環境のなかで、人々は、一番落ち着いて、自分たちの力を発揮できるのだと思います。
ところで、安倍新政権では、外交政策の柱として「自由と繁栄の弧」の構想が復活するのではないかといわれています。
内閣官房参与に、谷内正太郎・元外務事務次官が就任したこともありますし。
「自由と繁栄の弧」とは、かつての安倍政権や麻生政権の外交政策として掲げられたものです。谷内さんや麻生さんが中心となって構想したといわれています。
簡単にいえば、「普遍的価値である、自由や民主主義、人権、法の支配、市場経済などの理念を共有する国々、具体的にはユーラシア大陸の外周に成長しつつある自由民主主義的な新興諸国を支援していこう」という政策です。
自由や民主主義、市場経済などを普遍的価値として前面に押し出すので、別名「価値観外交」とか「価値の外交」とも呼ばれます。
中国やロシアに対する包囲網ではないかと警戒されることもあります。まあそうかもしれません。
私は、鳩山政権時のように、「東アジア共同体」推進!とするよりは、「自由と繁栄の弧」の路線のほうがはるかによいと思います。
自由民主主義や市場経済などは、さきほど触れた「日本人が大切にしてきて、これらからも大切にしていこうと思っているもの」を守るために確かに必要だからです。
「東アジア共同体」がもしできてしまったら、おそらく中国の影響力が大きいでしょうから、自由民主主義も人権も、なくなってしまうでしょう。
ですので「東アジア共同体」路線よりも、「自由と繁栄の弧」路線のほうがずっといいのですが、「自由と繁栄の弧」にも、少々注意すべき点があります。以下の二点です。
第一点めは、「民主主義」、「自由」、「人権」、「市場経済」などを備えた制度というのは、一つの形しかないわけではないということです。
それぞれ、各国の文化に根差し、それを土台にして、国ごとに特徴ある形に作られていくはずのものだということです。
たとえば、「市場経済」と一口にいっても、実際には、アメリカ型の市場経済もあるでしょうし、安倍首相が最近よく言っているように、日本型の「瑞穂の国の資本主義」もありうるでしょう。以前よく話題にされた「日本型資本主義」とか、「日本的経営」は、その一例でしょう。
また、議論好きで自己主張の強いアメリカ人が作り上げる民主主義と、議論をあまり好まず控えめな日本人になじむ民主主義とは、同じ「民主主義」といっても、かなり違う形のものになるでしょう。当然、「フランス型」や「インド型」の民主主義などもあると思います。
第二点めは、どの国にとっても、民主主義や自由、市場経済などは大切かもしれませんが、決してそれだけが大事だというわけではないという点です。
たとえば日本にとっては、民主主義や自由なども大事ですが、それと同じくらい、日本の文化や風土、安定した地域社会、なじみ深い生活習慣、国民相互の連帯意識なども、重要だということです。
何が言いたいかといえば、以上の二点を忘れてしまうと、下手をすると、「自由と繁栄の弧」が、TPP推進に利用されかねないので用心すべきだということです。
「自由」や「民主主義」、「市場経済」などを「普遍的価値」と称して、それらを共有する国々を支援することが「自由と繁栄の弧」の路線だといってしまうと少々舌足らずです。
これだけだと、「自由と繁栄の弧」は、結局、アメリカ型の政治制度や経済制度を「グローバル・スタンダード」として捉えて、その輸出に日本が手を貸すみたいな話になりかねない感じがします。現状では、TPP推進がその具体化ということになってしまいそうです。
実際、「自由と繁栄の弧」を構想した一人だといわれる谷内氏はTPP推進論者ですし、たとえば、この構想に共鳴する櫻井よしこ氏もTPP賛成派です。
「自由と繁栄の弧」=TPP推進、とならないようにするためには、上記の二点を忘れないようにするべきです。
そのためには、「自由と繁栄の弧」の構想とは何かを定めるとき、もっと日本らしさを強調したらいいのではないかと思います。
日本の暮らしやすさは、ひとつに、自由、民主主義、市場経済などの理念や制度を欧米から学びつつも、日本に合うように、それらの「翻訳」や「土着化」をうまく行い、日本の文化や言語のうえに根付かせたことに由来するといえるでしょう。いわば、一般の日本人になじみやすいかたちで、近代社会を作り上げたことにあるといえます。
ですので、「自由と繁栄の弧」を日本外交の柱に据えるなら、「自由民主主義や市場経済は普遍的価値なので、これらを共有する国々を日本は支援します」というのではなく、もっと日本の経験を前面に出したほうがいいんじゃないかと思います。つまり、次のような言い方です。
「各国の文化や伝統を活かしつつ、各国の一般国民がなじみやすい近代的社会を作っていくために手を貸します。たとえば自由、民主主義、法の支配、市場経済といった欧米生まれの理念を、各国の文化的文脈にうまく『翻訳』し『土着化』し、根付かせるお手伝いをします。こういうのが、日本の外交方針である『自由と繁栄の弧』です」。
以上のような言い方をすれば、TPP推進とはかなり違う路線だということがはっきりすると思います。
「自由と繁栄の弧」の路線は、以上のようにとらえるなら、明治以来の近代日本の国作りのやり方の輸出といえるかもしれません。(いわば、前回の私の記事で触れた馬場辰猪的な国作りの路線と言えるかもしれません)。
ご承知の通り、TPPは、環太平洋地域に、統合された経済的市場を生み出そうとするものです。おそらく実質的には、一番政治力のあるアメリカ型の経済的・法的制度を行き渡らせることになってしまうでしょう。
これでは、日本の「大切にしてきたもの」の多くは守れないでしょうし、日本以外の国でも、それぞれの国が大事にしてきたものは同様に損なわれてしまう可能性が高いと思います。
他方、あるべき「自由と繁栄の弧」路線をとれば、各国の文化や伝統や社会的状況を活かしつつ、そのうえに、各国の一般国民がなじみやすい「自由」や「民主主義」、「市場経済」などの制度が作られるよう支援していくということになるでしょう。
その場合、経済の進め方も当然、各国の文化や伝統、社会的事情を活かしたものになるはずです。TPPでは否定されてしまう関税自主権は、やはりある程度、必要でしょう。各国の事情に合わせて、保護すべき領域などは当然、認められてしかるべきだからです。
また、各国の歴史や文化を踏まえたうえで作られてきたさまざまな制度(福祉制度や、教育制度など)も、大事でしょう。
日本が目指すべきは、各国の文化や伝統が活かされたさまざまな近代社会が、多元的に花開いているような世界でしょう。
そういう世界のほうが、日本人にとって暮らしやすいでしょうし、他の国々の人々にとっても、そうなんではないかと思います。
***
気が付くと、だいぶ長くなってしまいました…
失礼しましたm(__)m
皆様、どうぞ良いお年をお迎えください\(^o^)/
PS
中野剛志氏と一緒に、こんな本を書いています。
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【施 光恒】「自由と繁栄の弧」路線をどうとらえるかへの2件のコメント
2012年12月29日 11:29 PM
施 光恒(せ・てるひさ) 様「自由と繁栄の弧」≠「TPP推進」 =「日本の国造りの輸出」という見解は、素晴らしいと感じます。かつての台湾や朝鮮を思い出しますが、日本が今そんな様相を帯びることはあり得ませんので、本当に実現すればいいな、と考えます。イメージとしては、イラクのサマーワに派遣された自衛隊員が、人々と一緒に汗を流し、非常に厚い信頼をかちえた、というような形でしょう。
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2012年12月30日 4:58 PM
地球連邦よりGガンの世界ってことですね。「一握りのエリートが、宇宙にまで膨れ上がった〜」の部分はグローバル資本に当てはまりますし、先見の明があったんですかねえ。
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