政治

2020年10月17日

【小野盛司】[特別投稿]シミュレーションで発見した日本経済を発展させる方法(後編)

From 小野盛司@日本経済復活の会会長/ベーシックインカム学会理事

(3)消費税減税をする場合


ここでは消費税減税が経済に及ぼす影響を日経新聞社のNEEDS日本経済モデルMACROQ80を使って2020年9月に発表されたデータを使って計算してみた。ただし税率変更は2020Q4からとする。

図3-1

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消費減税をすると消費税でかさ上げされていた分がなくなり、その分が名目GDPを落ち込ませる。更にコロナ禍による経済の落ち込みが加わるので図のような急激な名目GDPの落ち込みがある。しかし消費減税は可処分所得を増やし消費を増大させ名目GDPを押し上げる。

図3-2

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これで分かるように実質GDPは税率が10%のままだと2年後になっても2年前の水準に戻らない。税率を8%にまで下げるとやっと2年前の水準を超え、税率0%にすると2年後の実質GDPはやっと560兆円に届くだけである。図2-2と図3-2を比べれば、消費税率を0%にすることは、全国民に40万円を毎年給付することに相当することが分かる。コロナショックから立ち直るには最低限この程度の刺激策は必須となる。

消費の伸びが景気を回復させる。図3-3に実質民間最終消費を示した。これを図2-3と比べると、消費税率を0%にすることは、全国民に40万円を毎年給付することに相当することが確かめられる。

図3-3

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図3-4

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図3-4で分かるように消費税率を下げると、景気は押し上げられるが必ず物価は下がり、デフレとなる。安倍政権では消費増税に随分熱心だったが、消費税によって名目GDPをかさ上げし、これは経済を犠牲にしてでもデフレから脱却しようとしていたということか。図3-4より消費税率を3年間0%にしてもまだ元の物価水準に戻れない。図3-5で示したように消費減税で住宅投資は伸びる。

図3-5

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図3-5と図2-5を比較すれば、やはり消費税率を0%にすることは全国民に毎年40万円の給付をすることに相当することが分かる。次の図はGDPギャップである。5%に下げても、GDPギャップが0%になるのは2023Q1まで待たなければならない。

図3-6

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図3-7

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図3-7で示されたように、消費減税で景気刺激をすれば金利は僅かに上昇するが、心配しなければならないほど上昇することはない。

図3-8

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図3-8で示されたように、例えば消費税率を0%にすると企業に大きな利益をもたらす。
図3-9

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図3-9で示されたように実質民間設備投資はコロナショックで大きく落ち込む。消費減税はあまり大きな押し上げ効果は持たない。図3-10で雇用者報酬がどれだけ消費減税で押し上げられるかを示した。押し上げ率は小さいし、現金給付の図2-10と比べても更に小さい。もちろん、国民にとっては少ない賃金上昇率であっても、消費減税による物価の下落というメリットはある。失われた20年で続いた悪夢のデフレが更に続くという面では、消費マインドに悪い影響があるかもしれない。

図3-10

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雇用者報酬の増加率は大きくない。ここでは税率が10%のままだった場合に比べどれだけ増加するかを示した。

図3-11

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図3-11で示したように株価は上昇し、株を保有する人にはメリットはある。しかし現金配布の図2-11に比べれば株価上昇は限定的である。

図3-12

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税率が10%のままだと2021年のQ2には失業率は3.88%まで増加する。2023Q1になっても3.4%までしか改善しない。税率を0%にすれば、2023年Q1の失業率は2.69%まで下がる。

(4)公共投資を増額する場合


景気対策の定番は公共事業なので、公共事業費を増額したときにどのような影響がでるかを日経NEEDS日本経済モデル MACRO80を使い、2020年9月に日経が発表したデータを使って計算した。公共投資と言っても何をするかによって技術者や業者が対応できるかどうか分からないのだが、ここはそれが対応できたと仮定し、2020Q4(10月~12月)から予算を通常の予算より一定額増加させて計算した。その増加額は0兆円、10兆円、20兆円、30兆円の4種類とした。

まず名目GDPを図4-1で示す。

図4-1

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2020年のQ2(4月~6月)にはコロナ禍で名目GDPが約40兆円押し下げられている。図4-1と現金給付の図2-1を比較すると、国民全員に約20万円を給付するのと公共投資を10兆円増額するのとで、ほぼGDP押し上げ効果は同じということとなる。つまり効率だけ考えると公共投資のほうが約2倍効率がよい。しかし公共投資増額による雇用者報酬の増加率は僅かであり、国民の収入増を考えれば現金給付のほうがはるかによい。次に実質GDPを考える。

図4-2

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図2-2と図3-2の実質GDPを比べるとそれぞれの押し上げ効果を比較できる。2023Q1で実質GDPが540~550兆円にあるのは、
①一人当たり20万円を国民全員に給付
②消費税率を5%にする
③公共投資を10兆円増額
となる。政府の年間の負担額は①が25兆円、②が11兆円、③が10兆円であるから、一見すると公共投資が最も効率的にGDPを押し上げることができるように見える。それでは一人当たりの雇用者報酬を比べてみる。2021Q1~2021Q4の合計を比べる。
①471万円
②472万円
③473万円
やはり公共投資が最も給料を押し上げることが分かる。しかし例えば父親だけ働いている親子4人家族を考えれば、現金給付金を80万円もらっているわけで、①は551万円となるから断トツでトップとなる。日本は長期にわたって実質賃金は下がり続けている一方で企業収益は伸びている。つまり企業にお金は溜まるが国民にはお金は行かない。AI/ロボットが労働を代替するようになれば、ますますその傾向が強まり、何らかの対策が必要となる。その意味では現金給付は重要さを増す。このことに関しては小野盛司(2019)を参照して頂きたい。次に民間最終消費のグラフを示す。

図4-3

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公共投資を増やしても消費はあまり伸びない。賃金の上昇が僅かだからだ。図3-3に関連して指摘したように消費減税でジワジワ消費は伸びるがそれも限定的だ。何しろコロナ禍による消費減少が余りにも大きかったために、元の水準に戻るのは時間がかかる。それに比べ図2-3で示したように現金給付は消費を力強く押し上げる。ただし、これはコロナが収束して人々が自由に娯楽を楽しめる状態になることが大前提だ。いくら現金給付をしても、家に閉じこもっているだけではやれることは限られているから。

図4-4

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図4-4で分かるように,公共投資を増やしてもそれほど物価を押し上げない。それは雇用者報酬の増加が限定的だからである。図2-4と図4-4を比べると80万円の現金給付と20万円の公共投資増額とが、同程度の物価押し上げ効果を持つことが分かる。現金給付の場合は一旦貯金しておいて後で使う人も多いから、経済活性化の効果が長続きするとも考えられる。

図4-5

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財政支出が拡大すれば、それは国民へと流れる。お金を国民が持てば住宅にも投資する。バブルの後、高騰する地価を下げるため1990年頃からバブル潰しが始まった。「年収の5倍でマイホームが買えるように」という目標で、1990年には公定歩合を6%に上げ土地を買いにくくした。カネが無ければマイホームは買えないから地価は下がりマイホームの値段も下がった。しかし新築住宅着工件数も下がっていった。地価を下げればマイホームが買いやすくなるだろうという政治家の思惑は外れた。むしろ国民の可処分所得を増やした方が、多くの国民がマイホームを買えただろう。

図4-6

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この図よりデフレギャップをプラスにしようと思えば10兆円では足りずそれ以上公共投資を増やすことが必要になることが分かる。ここまで3種類の景気刺激策を検討してきたが、明かになったのはデフレ脱却には、すさまじい景気刺激策が必要なことだ。このことはすでに小野盛司(2003)で詳しく説明されていたし、ここでの試算と整合的である。

図4-7

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これだけ大規模な景気刺激策をするのにも係わらず、長期金利はほとんど上がりそうもない。1990年には長期金利は8%台に達していたが、需要不足とカネあまりの時代の今、金利は上がりそうもない。景気の下支えのため日銀は無制限に国債を買うと言っており、また長期金利は制御可能とも言っているので、金利は簡単には上がらない。つまり国債の暴落はあり得ない。

図4-8

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このグラフと図2-8と図3-8を比べると
①一人当たり40万円を国民全員に給付
②消費税率を0%にする
③公共投資を20兆円増額
が似た押し上げ効果を持つことが分かる。

図4-9

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このグラフと図2-9と図3-9を比べると消費減税の場合、税率を変えても設備投資はあまり変わらないが、公共投資の場合は投資額を変えるとかなり設備投資額は変わってくることが分かる。ただしこの3つの場合に共通して言えることは、強烈な景気刺激策を行っても、2020Q1のレベルに戻るのは2年近く掛かるということである。

図4-10

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例えばこの図と図2-10と3-10を単純に比べると、雇用者報酬の増加率は公共投資20兆円増加に相当するのは消費税率0%である。しかしながら消費税率0%だと、物価は消費税分だけ下がっているのだから、消費者はその分は利益を得ている。国民にとっての利益は消費税が無くなった分に賃金の上昇を合わせたものである。一方で公共投資増額はインフラ整備という意味で国民は利益を得る。現金給付であるが、これは受け取った現金に加え賃金も上昇するのだから国民にとっての利益は大きい。企業経営者とそれ以外の国民で、富の分配を考えたとき、現金給付の場合が最もそれ以外の国民が多くの分配を受けるようになる。

図4-11

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公共投資の増額は比較的容易に株価を押し上げるように見えるが、消費税減税の場合は例えば税率0%の場合消費税分がすべての物の値段から引かれる。株価も同様であり、本来は「実質」で比べなければならないとうことで、その分プラスして考えなければならない。コロナ禍、米国大統領選、東京オリンピックなどの結果次第で大きく予測から外れる可能性がある。

(5)結論


財政支出を増やせば、経済は活性化し、消費も伸び、企業の利益も拡大し国際競争力も向上し、国民も豊かになることは誰もが知っている。しかし政府がそれを躊躇するのは、何か悪いことが起きるのではないかと心配しているからである。ここでは我が国で最も信頼できるマクロモデルを使って財政支出を拡大した場合何が起きるかを詳しく調べた。確かに限度を超せば悪いことは起きるかもしれないが、この程度なら安全だという目安をマクロモデルで示すことが出来た。「安全」と言えるのは、例えば現金給付であれば、全国民に1年間毎月10万円を給付すること、消費税率を2年間0%にすること、公共投資を年間30兆円増額し2年間続けること。この3種の中のどれかをやることに何ら問題は起こらないが日本経済は大きく発展する。ただしそれが終わりではない。それを行った後に経済データを精査し、次の1~2年の戦略を考えれば良い。今必要なのは政治家の決断である。

文献
小野盛司(2019)『資本主義から解放主義へ』三省堂書店
小野盛司(2003)『これでいける日本経済復活論 シミュレーションで明らかになった驚きの事実』 ナビ出版

この試算に協力して下さいました荒井潤氏と山下元氏に感謝いたします。
本試算では日経新聞社の承認を得てNEEDS日本経済モデルMACROQ79を使用しましたが、その推計結果に関しては日本経済新聞社が承認したものではありません。

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  1. 大和魂 より

    わたくしも大阪都構想の賛成票を投じる平和ボケしたルサンチマンプロパガンダの実態をシミュレーションしてみた!それでいくつかの要因はあるものの影響があると考えられるのが日本国民はもとより特に大阪市民にも根付いている東京を敵視しているルサンチマンの弊害とバブル崩壊から続いている疲弊による閉塞感。そしてそれが関西を中心とした国民を煽る最低の読売テレビのプロパガンダ番組【そこまで言って委員会】による印象操作と連動していると見てい いと思います。それでその詳細は番組開始などの時期などをお調べ頂き当時の国際社会の出来事や日本社会の動向それに時の政権となどあれこれ想像すれば、自然と答えが出て来ますね!ちなみにその始まりは悪夢の小泉政権のワンフレーズに由来しています。ならば今回の大阪都構想に注意するべきも、二重行政がーとか大阪の成長がーとか最後がーなどの【響き】に騙されないでくださいという結論に至りました!

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