政治

2020年10月16日

【小野盛司】[特別投稿]シミュレーションで発見した日本経済を発展させる方法(前編)

From 小野盛司@日本経済復活の会会長/ベーシックインカム学会理事

(1)はじめに


一切の先入観を排除し、純粋に科学的方法で、どうやれば日本経済は発展するのかを探る。ここで使ったのは日経新聞社が開発したNEEDS日本経済モデルである。これは47年の歴史を持ち、日本最大級の経済データを持つ日経新聞社が開発したもので最新のものはMACRO80である。筆者はこのモデルを20年近く前から使っているが、その予測精度は内閣府のモデルの十倍以上だと考えている。この信頼できる試算結果を、マスコミも政府も先入観を持たずに見て頂きたい。内閣府のモデルが政府に忖度したものしか発表できないのに対し、今回の試算は政府からの干渉を全く受けていない。

失われた20年で落ち込んでいた日本経済だが、昨年の消費増税で更に落ち込んだ。その上にコロナ禍で日本経済は最悪の状態にある。しかし日本人は経済悪化に慣れてしまい、黙ってそれを受け入れようとしている。ちょっと待って欲しい。NEEDSを使った計算は財政支出の拡大で経済を急回復させる事ができることを示している。4月30日に令和2年度の第1次補正予算が成立し、1人一律10万円の特別定額給付金の支給が決定した。この決定には多くの国民は賛成している。『文春オンライン』では、緊急アンケートとして「新型コロナ緊急対策『1人10万円給付』に賛成? 反対?」を実施。5日間で総数905票、20代~80代から回答が得られた。結果は賛成が731票(80.8%)、反対が174票(19.2%)と圧倒的に賛成が多かった。財源は国債発行だが、国債暴落もハイパーインフレも円の暴落も起きていない。生活苦の人々にも10万円が届き、喜んだ人も多いだろう。素朴な疑問は、この10万円給付を繰り返し行ったら何が起きるのかということだ。ここはNEEDSに聞いてみれば良い。

(2)現金を給付する場合


政府がもっと大規模に現金を給付する場合を考える。給付金額を年間40万円、80万円、120万円とし、全く給付しない場合と比べる。年間120万円は毎月10万円と同じだ。ただし、全く給付しないと言っても特別定額給付金の10万円は給付が完了したものとする。給付は2020Q3から始まるとし給付金額は年4回に分け、Q1(1月~3月)、Q2(4月~6月)、Q3(7月~9月)、Q4(10月~12月)の4回配り、その合計額が上記の金額(40万円、80万円、120万円)になるようにし2023Q1まで支給は続けるものとして計算した。まず名目GDPを示す。計算の基礎となっているのが、日経新聞社が2020年9月に出したデータであり、これには第1次と第2次の補正予算の効果はすでに反映されている。

図2-1
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120万円の場合、2022Q4と2023Q1のデータは示していないが、これはこのモデルでは計算不能ということである。ここですぐ気付くのは2020Q2で落ち込んでいることだ。これはコロナ禍で自粛させられたために経済活動が停滞したことが原因となっている。ただし、この見積もりは9月に日経が発表したデータを使った。0円の場合はコロナ禍による落ち込みからなかなか脱却できないでいる。支給金額を増やしていくとV字回復が鮮明になってくる。支給額が増えれば増えるほどGDPは拡大していく。120万円を配る案では、1年半後にはGDPは600兆円を超し、夢の世界の実現である。

図2-2
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図2-2は実質GDPである。物価の変動を除いたため、若干上昇率が下がる。国民に現金を支給するとなぜGDPが増大するのかと言えば、それは消費が伸びるからでありどの程度伸びるかを次に示す。

図2-3

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

このように、国民は支給されたお金を使うので消費が伸びることが分かる。ここで気になるのはインフレが起きるのではないかということだ。もしそうならお金をもらっても何にもならない。以下に消費者物価指数をグラフで示す。

図2-4

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


このグラフで分かることは物価の値上がりは最初の2年間は少ないということだ。120万円のケースでさえ物価指数はやっと2年後にやっと2ポイント上昇するだけであり年平均1%のインフレ率となる。まとまったお金を受け取れる国民にとっては嬉しい。消費は伸びるが物価は上がらないということは、需要の伸びに対し供給は対応できるということだ。ただし供給を大幅に増やす事は容易ではないと思われる分野もある。例えば住宅投資だ。例えば5人世帯の場合支給されるので年間600万円であり、2年間で1200万円だ。それだけ収入が増えれば改築、増築、新築の需要は一気に増えることが考えられる。住宅投資のグラフは以下に示す。

図2-5

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

120万円の場合、2022Q3では投資額は急増している。このような爆発的な需要増加に対応するのは至難の業であり注文してから長時間待つことになるに違いない。現在建築業界では深刻な人手不足である。低賃金で長時間労働で肉体的な負担も大きく危険を伴うこともあるため若い人が入ってこない。そこで外国人を入れて補充しようとしている。しかしコロナ禍のためスムーズにそれが進むかどうか分からない。建材の需要も急増するだろうし、住宅建設には多くの熟練工が必要となり、短期間で養成は無理だから注文してもそれなりに待たされることになるだろう。AI/ロボットを導入して省力化することも試みるだろう。需要が急増すれば賃金を上げなければ人は確保できないから建設コストは上昇するに違いない。

ただし全ての業種でこのような事態になるとは思えない。日本は慢性的な需要不足が続いている。次にGDPギャップを示す。このグラフが示しているのは、もし支給金額がゼロならGDPギャップがずっとマイナスであり需要不足が続くということだ。かなりの額を支給し続けてもインフレにならないということは、供給に余裕があるとうことだし、需要が増えれば製造ラインを増やしたり輸入を増やしたりして対応できるということだ。

図2-6

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


次に長期金利(10年物国債利回り)を示す。金利は非常に低いレベルに留まっていることが分かる。2018年度の内部留保は463兆円にも達しておりコロナ禍であっても資金不足にはならないかもしれない。日銀は市場に大量に資金を提供しており、ここで計算した範囲内では国債の暴落(金利の暴騰)はあり得ない事が分かった。

図2-7

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


消費や投資が拡大することから経済は活性化し企業の利益は大きく拡大する。
図2-8

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


これで分かるように現金給付は個人に大きな利益があるだけでなく企業にも大きな利益をもたらす。例えば2022Q3で120万円の場合を見ると経常利益は0円の場合の約2.6倍にもなる。そのような巨額の利益が発生するのなら設備投資も巨額になると考えるのが自然である。
図2-9

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


しかしこのグラフで分かるように設備投資は2022Q3で120万円の場合0円の場合に比べて約18%増えただけだ。国内需要が大きく伸びているのだからもっと設備投資が伸びてもよいかと思うのだがそうなっていないようだ。企業業績が好調なのだから当然株価は上昇する。

企業の利益が拡大すると雇用者報酬も上昇するはずだから、グラフにしてみよう。グラフからわかるように雇用者報酬の上昇率は経常利益の上昇率よりはるかに小さい。

図2-10

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。


2022Q3においては企業の経常利益は0円に比べて120万円の場合26兆円多くなっている。設備投資においてはその差は4兆円であり、雇用者報酬ではその差は4兆円である。つまり企業に大きな利益が出ても雇用者の手に渡るのは僅かだと分かる。この傾向は例えば公共投資や減税で景気刺激を行っても労働者の所得の増加額は僅かであることはすでに示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/04/post-ebaa09.html

しかし、例えば120万円を国民全体に給付する場合、給付自体ですでに年間150兆円の現金が国民に渡っているのであり、それに加え4兆円が雇用者報酬の増加という形で国民に渡る。その意味で国民を豊かにするという観点からは、現金給付という方法が最良の方法である。

図2-11

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

企業の業績が向上すると株価は大きく上昇する。しかし1989年につけた最高値38,915円には届かない。それでも2022Q3頃には120万円給付の場合株式時価総額は1000兆円に近づく。株価上昇で家計も企業も資産残高を大きく増やす。

ここで見たようにコロナ禍による経済の落ち込みは極めて深刻であり、戦後経験したことがないほどの規模である。これに対する対策は想像を絶するほどの大規模なものでなければならないことをここで示した。もちろん特に困っている人々に重点的に給付するということも重要だが、大規模で行わなければならないことを忘れないで頂きたい。

最後に失業率を示す。2020年8月の完全失業率は3.0%まで上昇したとの発表があった。日経の予想だと2021Q1の失業率は3.88%まで上昇し2023Q1になっても3.4%までしか下がらない。しかし毎年80万円給付する場合だと2023Q1には失業率は2.52%まで下がる。

図2-12

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【注】120万円の場合2022Q4と2023Q1は計算不能。

ところで120万円給付の場合、このモデルでは2022Q4以降計算不能になる。そこで何が起きるかを断定的に言うことはできない。取りあえず120万円給付を1年間続ければこのモデルがどの程度正確に予測できるのかが判定でき、その後の経済データを更に正確に予測できるようになると思われる。2022Q3で大変な事になるのかもしれないが、どこまでなら安心かということをNEEDSで確かめながら給付を行えば良い。給付から1~2年は素晴らしい結果が予想され、他の先進国並の経済成長が期待できるのだからこの給付は検討すべきである。

後編に続きます…

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【小野盛司】[特別投稿]シミュレーションで発見した日本経済を発展させる方法(前編)への10件のコメント

  1. NH より

    もしかして、後編は消費税減税のシミュレーションでしょうか、、期待してしまいます。

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  3. 大和魂 より

    この寄稿を拝見して素直に感情に出てきたのが話題の都構想に通じる構想のワードでした。それから言葉遊びになりますがイマジネーションに到達して、日本を代表する文学者の小林秀雄を思い出しながら九州大学の施先生にたどり着きました。そしてこれがいわゆるわたくし自身の思考形態の一部となっているところです。ちなみに三橋先生がよくご存じの戸締まりとモップは相変わらずのようですね。

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  4. たかゆき より

    wise spending

    特別定額給付金の支給が
    まさに それ

    どこぞの 大銀行の お偉いさん

    政府のバラマキは 言外
    なので
    政府の wise spending に
    国民は いつも 関心をもつべき とか、、

    小生 不覚にも 焼酎を 吹き出して 
    しまった。。。

    キーワードは たったの 4個

    税制 国債 財政出動 デフレギャップ

    たった4個さえ しっかり 理解できたら

    財政経済 自由自在

    今日から みんなが 財務大臣

    だべ ♪

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  5. 赤城 より

    中長期のインフラ公共投資を復活させれば一気に完璧に日本経済は復活できる。
    国家の安定的な発展にとても重要だからこそ潰されてきた投資です。

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  6. チキン より

    むしろ、日経新聞がこんな経済シミュレーションモデルがあるにもかかわらず、プライマリーバランスマンセーやあの程度の記事しか書けないことに驚きを感じる。

    猫に小判。
    宝の持ち腐れ じゃねーか日経よ…

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