政治

2020年4月28日

【室伏謙一】「身を切る改革」というポピュラリズムの先にある国民経済の窮乏化

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 

 令和2年度補正予算案、いわゆる緊急経済対策が組み替えの上閣議決定され、今週衆参両院で審議、4月30日には成立する予定です。「本来であれば本年度の本予算を組み替えて、新年度から執行できるようにすべきだった。」、「遅きに失している。」と言った意見が専門家や永田町関係者から聞かれる一方、ダイヤモンドオンラインの拙稿「「コロナ緊急経済対策」は各省庁の予算案を見るとやはりガッカリな理由」(https://diamond.jp/articles/-/234909)でも指摘したとおり、多くの問題を孕んでいるのですが、立憲民主党は「いろいろあるけど(審議に)協力する」んだそうです。この人達は日本のこと、国民のことを本気で考えているのだろうか?と疑いたくなります。

 そんな緊急経済対策について、その問題点や本来措置すべき事項についてTBSの報道番組「NEWS23」で解説させていただいたところ、非常に多くの反響をいただきました。ご覧いただいた皆様、ありがとうございました。問題点については前掲の拙稿をお読みいただくとして、本来措置すべき事項とは、すなわち、(1)失われた粗利の100%補償、(2)消費税の減税(軽減税率の仕組みを使うことも含めたゼロか、最低でも5%への税率引下げ)、そして(3)インバウンド等外需依存、サプライチェーンの過剰なグローバル化からの脱却とそのための特に地方へのインフラ投資です。まさに安藤裕衆院議員らの「日本の未来を考える勉強会」の提言(https://nihonm.jp/post_article/20200311)そのものです。

 さて、その緊急経済対策、なぜ組み替えが行われたのかと言えば、国民に一律に10万円を給付する給付金を新たに追加したことによるものであることは、ご承知のとおり。これ自体は悪い話ではないですし、これだけでは一時凌ぎにしかならないかもしれませんが、休業どころか解雇や派遣切りに遭ってしまい、収入の途を絶たれてしまった方々には恵の雨。出来る限り速やかに執行して欲しいところですし、日本に財政問題は存在しないわけですから、前掲の本来措置すべき事項と併せて、給付金の増額や継続給付も措置して欲しいところです。

 ところが、この10万円の給付金について、金持ちは受け取るな、真に困っている人だけに給付しろ、公務員や議員には給付するな、金持ちや公務員、議員に給付する分を他の新型コロナ感染症対策予算に回せ、公務員でも医療関係者に限定しろといった主張が、「言論人」を中心に雨後の筍のように出てきています。(「生活保護を受け取っている人には給付すべきではない」なんてトンデモナイ主張も見られました。生活保護受給世帯こそ給付金を給付されるべきだというのに、かつて一部に見られた不正受給を奇貨として、生活保護世帯を攻撃目標にでも仕立て上げたいのでしょうか。)

 更に、県職員の給付金は県が召し上げて基金にするといった頓珍漢な発言をする知事まで出る始末。県職員として給付を受けるものではないところ、何をか言わんやです。後にこの発言は撤回しましたが、その根底にある考え方は、今後も批判されてしかるべきでしょう。

 その考え方とは、どこかの予算を削ってどこか別のところにつける、削りやすく批判もされにくく、むしろ賛同を得やすい公務員給与を狙えというもの。まあ給付金は公務員給与ではないので、それを公務員給与と同列に考えていたということ自体が大いなる問題なのですが、それはそれとして、この給付金を巡る騒ぎをきっかけとして、新型コロナショック対策予算は公務員給与や議員報酬の削減で財源を捻出という考え方というかやり方が、当然のこと、正しいことのように広がりつつあります。

 いわゆる「身を切る改革」というやつです。民が苦しんでいるのだから、政治家や公務員が率先して「身を切る」、なんとなく耳障りがよく、立派なことのように聞こえるかもしれませんが、結論から言えば、最低最悪の話で、悪いこと以外のなにものでもなく、最終的には民をもっと苦しめることにつながります。

 ではなぜ最終的に民を苦しめることにつながるのかと言えば、まず、公務員等の給与は今の段階のターゲットであって、今後あらゆる分野の予算がターゲットにされうるからです。たとえば、公務員給与削減→公務員定数削減→組織の廃止といった具合にです。現状、ただでさえ公務員数が足りていないというのに、そんな安易に定員を減らされていったらどうなるか、サービスの質が低下するのは火を見るより明らかでしょう。

 次に、民間で同種同様のサービスが供給されているのだから、公的主体が提供する必要はない→地方公共団体のサービスとして廃止(予算も廃止)→民間からサービスを購入する形式に(柔然の予算よりも削減)→当該サービスの民間市場が「成熟」してきたことを理由に購入も廃止といった流れが起こることも考えられます。今度はサービスがなくなり、どうしても必要な場合は民間事業者が提供するサービスを購入しなければならなくなります。この場合、サービスの価格が高くなることが容易に想定されます。仮にそのサービスが生活に密接に関係するものであれば、サービス価格の上昇は、当然のことながら家計を圧迫することになります。

 そしてこうした場合にも、首長や議員が、「率先して」給与や議員報酬の削減を行って「身を切り」、民と「苦しみ」、「痛み」を共にする、(そして得意げになり悦にいる)ということが行われます。(しかし単なるパフォーマンスです。)

 更に、事務事業の民営化(つまりは民間への二束三文での売却)や不動産等の公的財産を使った収益事業の実施という形での「身を切る改革」(「身売り改革」と言った方がいいかもしれませんが)も行われるようになっていくでしょう。都道府県民の財産が、市区町村民の財産がいとも簡単に売り飛ばされ、特定の利益の用に供されることになるというのは随分おかしな話。売却で一時的にお金は入ってくるかもしれませんが、一度売却してしまえば、再び買い戻すのも、再び同じ事業を創設するのも容易ではありません。

 また公的財産が特定の利益のために使われるとして、使用料は入ってくるのでしょうけれど、特定利益との契約期間中は公の目的での使用はできなくなります。契約を解除すればいいと言われるかもしれませんが、損害賠償を求められるかもしれませんし、機材の搬入や改装等を行っていることを理由に引き渡しを拒否されるかもしれません。要は余計なコストがかかりうるし、公の財産としての活用の柔軟性、自由度が失われてしまうわけです。

 こうしたことの背景としてあるのは、地方公共団体の財政難や財政逼迫。だから自分でなんとかしろ、国は余計な金は出さないというのが、小泉政権下で始まった例の「三位一体の改革」。しかし、元々地方交付税交付金で財政格差をなくしていたものを、それを減らしておいてなんとかしろ、自分で考えろ、無駄をなくせとは随分酷い話。国のみならず地方の行政需要は常に変化していますし、特に自然災害が猛威を振るうようになり、巨大地震の発災確率も高くなってきていると言われている昨今、国が率先して手厚い支援をしていく必要があるはずなのですが、減らせ減らせの大合唱に、新自由主義者や「改革派」の地方議員まで加わり、削減合戦、身売り合戦を繰り広げている始末。

 しかし新型コロナウィルスの感染拡大はこれを転換させるいい機会になると思います。なぜなら、そうした「身を切る改革」や「身売り改革」の「成果」がまさに仇となっているわけですから。

 「身を切る改革」、「身売り改革」は国民を窮乏化させる最悪の政策です。このことははっきり覚えておきましょう。そしてその認識を広げていきましょう。

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【室伏謙一】「身を切る改革」というポピュラリズムの先にある国民経済の窮乏化への6件のコメント

  1. たかゆき より

    とある 精神科医の言葉

    「患者と同じ気持ちになれたら 病人がもう一人 増えるだけだ」

    そして緊縮脳

    財務省と同じ気持ちになれた

    知的障害者が 大多数の日本

    緊縮脳に効く薬

    コロリ もとい コロナが出現と思いきや

    はてさて どうなりますことやら。。。

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  2. 大和魂 より

    身を切る改革やら、額に汗するだとか有権者にすれば聞こえだけが一級品!!まあこのところの野党第一党の立憲民主党に三行半を突きつけた山尾しおりの行動からも、維新の会同様のカス政党だと認識されましたからね。それから、どちらも執行部が高慢のクズだから、所詮は自民党や共産党以下の半人前!ならば、私なら保身と権力操作と世襲だけの自民は無いので共産党に投票するよ。それと一年前に維新の片山と馬場のアホが、火事場泥棒のロシアに謝罪したコントがありましたよね!更に今回はコロナ禍で、トコトン屑と認識されましたからね。だからメディアからの猛烈な指摘や批判を受けながらも現在の東京都の財政を盤石にした石原慎太郎さんが維新と組まなかった訳ですよ。これが政治家のあるべき姿だと認識しています。

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  3. 麦粒 より

    保守主義者は、精神、思考が、幼く、硬直的。だから、新自由主義者、グローバリストに負ける。

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  4. 「金は天下の回り物」 より

    「金は天下の回り物」
    この言葉の意味がわかっている人が実は少ないということでしょうね。
    普通の人は普段、自分の財布の中身しか気にしていないから。

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  5. 新自由主義新聞 より

    何や、ここのサイト
    またぞろ売国奴安倍一家集合写真で日本はもう終わりだとか 安倍のジャマする3つの敵とか
    どういう了見で取り下げてたウソつき安倍主張を再掲するか? 
    やっぱり国家神道新聞だな、桜のデブ社長と同じように反省してないな、売国奴
    陽性 陰性 陽性ってコロコロ変わるコロナウイルスかよ?
    反省しろ!

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      1. 新自由主義新聞 より

        安倍3つの敵
        1. 友達以外の日本国民 庶民
        2.現日本国憲法
        3.外資を規制する諸々の国内法

        「日本は終わりだ」
         狂人総理の日本国への捨て台詞。

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