政治

2019年12月10日

【室伏謙一】レントシーカーの手口 ― 国有財産を狙え!

From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

 

 先日、TBSテレビのお昼の番組「ひるおび!」にゲストコメンテーターとして出演してきました。その際のお題は、ご想像どおり「桜を見る会」疑惑。私は、公文書とはというお題と、公文書を扱う官僚とはというお題に関し話をしてきました。

 基本的に実態の解説だったので、番組で具体的に何を話したのかはさておき、意外と皆さんは官僚の実態を知らないなあというのが、私の得た所感です。(まあ知らないから私のような人間が解説していく必要があるわけですが。)

 その官僚、特にキャリア官僚はエリートとして羨望の眼差しで見られることがある一方、何かあれば批判の的にされ、集中砲火を浴びせられてきました。そうした公務員バッシングとも言える状況が最も強まったのが20数年前の官僚不祥事がマスコミを賑わせた頃。そしてそれは公務員制度改革へと引き継がれていったわけですが、その際に紛れ込んだ、関係ありそうで実は関係のない話があります。

 それは、公務員宿舎、いわゆる官舎問題です。官僚は官舎に格安で住んでけしからん、特に都心の一等地にある官舎は周辺の賃貸住宅相場に比べて著しく安い。これは官僚の特権以外の何ものでもない!といった批判が連日のように聞かれました。そして最終的にはそうした官舎は、緊急要員がその職にある時のみ居住できる、霞が関・永田町から至近距離のもの等を除いて、基本的に廃止されることになりました。

 廃止してどうしたかって、売却されました。財政健全化に資するよう(という名目で)、国有財産である官舎の跡地を売却し、売上を国庫に入れたわけです。なんとなくいい結果に終わったように思われるかもしれません。確かに、その後の話はほとんど話題にはされませんでした。

 しかし、売却先は、一部の例外を除いて不動産ディヴェロッパー。今や超高級マンション、いわゆる億ションが堂々と建っているところがほとんど。ちなみに私も都心の一等地と言われるところの官舎に役人時代の後半住んでいましたが、そこは珍しくマンションではなく、区の施設と大使館、国際機関代表部が建っています。また、アートスペースになっているところもあります。

 では、その官舎、その実態はどうだったかと言えば、私の経験からお話しすれば、都心の一等地の高級住宅のイメージとは遠く遠くかけ離れたもの。油断しているとなんでもかんでもカビてしまう様なオンボロ住宅で、仮に民間の賃貸住宅として貸し出したとしても、とても大枚を叩いて借りたい人が出てくるような代物ではありませんでした。(メディアに登場したのはごくごく一部の幹部用官舎で、そうしたものは端的に例外と言っていいでしょう。私の住んでいた官舎の敷地にも幹部用の建物がありましたが、外見からはとても上級幹部が住んでいる住宅には見えませんでした。低賃料の公営住宅には見えたかもしれませんが。)

 しかも、官舎の敷地は基本的には官舎の整備用に購入した土地ではありません。例えば私が住んでいた官舎の場合は、元は旗本の屋敷でした。それを明治新政府が接収し、その後は内閣統計局や研究所として上手に使いまわしてきた土地で、官舎として使用されるようになったのは戦後のことのようです。

 つまり、国が大事に、かつ上手に活用してきた国有財産ということであり、官舎もその用途の一つだったというわけです。官舎が都心にあろうと何の問題もないと思いますし、官舎は国が不動産事業、収益事業として住宅の用に供しているわけではありませんから、周辺の家賃相場と比べてどうのこうのという批判はそもそも当てはまりません。(官僚の給与は、同様に大変な仕事に比べて著しく安いですが、そのことは問題にされませんね。)

 官舎が霞が関・永田町から近い都心にあれば、緊急対応要員でなくとも、何か事が起きた時に短時間で駆けつけられますし、通勤交通費等も低額で済みます。つまり多くのメリットがあるのです。

 仮に、官舎をどこかに整理・統合するから、ある官舎の敷地が更地になるとしたとしても、別に売却する必要はなく、これまでのように別の用途に転用すればいいわけです。

 しかし、国はこうした国有財産をいとも簡単に売却してしまいました。一度売却してマンション等が建ってしまえば、再び入手することは極めて困難です。

 ではなぜそうした貴重な財産を売却してしまったのでしょうか。売却先を見ればすぐ想像が付きますね。すなわち、公務員制度改革や公務員バッシングに託つけて、都心でなかなか出ない規模の土地を手に入れよう、という意図が働いていたのではないか、ということです。まさに「改革」に託つけたレントシーカーの手口そのものではありませんか!

 まだまだ緊縮財政、財政健全化がなぜか叫ばれる中、様々な理由をつけて、理由というよりハッキリ言って難癖をつけて、国有財産が狙い撃ちにされることは今後も起きるでしょう。(そもそも財政健全化にまつわるエトセトラが嘘話で満ち満ちていますけど。)国有財産には貴重なインフラや権利、研究の成果等も含まれます。そうした時は思い出してください、その背景には必ずレントシーカーがいると。そして、「「○○改革」、「○○批判」はレントシーカーのためのもの。レントシーカーに貴重な国有財産を奪われてはいけない!レントシーカーから国有財産を守れ!」と声高に叫んでください、ネットで拡散してください。

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【室伏謙一】レントシーカーの手口 ― 国有財産を狙え!への3件のコメント

  1. たかゆき より

    レントシーカーの 一味

    買弁 とも いふ、、、

    それが 安 倍菅 だ べ。。

    とっても 解り易くって

    すんなり きます ♪

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  2. とすくん より

    貴重なご意見ありがとうございます。いまだに「国会議員の給与がぁ~」は後を絶ちませんね。何も考えずにただの憂さ晴らしなのでしょうか?消費税増税に対する批評も少なく感じられます。安倍けしからんも何か的がズレているような…(サクラばっかり)。衆愚とはかようなものなのでしょうかね?

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  3. 有形の国有財産ばかりではありませんよ。

    小泉内閣以来のぶっ壊し切売り政策は、室伏先生ご案内のとおり、無形の国民の人生をも切売りして国民を益々窮状に追い込んでいます。

    「郵政民営化」以来、もう枚挙にいとまがありませんが、最近露わになって大混乱になっている、英語民間試験、国数の記述式回答の導入を柱とする「大学入試改革」とやらも全くその類です。

    英語の読解、作文、聴聞、会話の四技能のバランス良い向上の為、民間活力を導入!
    或いは、思考力を養い、問うための記述式試験の導入!
    と、耳障りの良さげな謳い文句で、強制的に英語業者や塾・私教育業者に受験生(の親)から金銭をむしり取る阿漕な商売を大臣以下、文部省が率先して行なっている醜悪さ!!

    大学入試という、未来ある子供がどうしても通らねばならぬ人生の関門を人質に取って、甘言で法外な通行税をむしり取る金の亡者と、その神輿に乗って踊り狂う大臣以下、高級役人の数々。それを「良きに計らえ」と黙許推奨する総理官邸。…鹿鳴館も裸足で逃げ出す恥晒しです。

    大体、大学入試改革の審議委員に、TOEFL、IELTS、ベネッセなど、利益相反そのままの連中が就任して、堂々と利益誘導して決めた「改革」と称する代物です。

    子供たちの未来を喰い物にして、その親からお金を巻上げようとしている、鬼畜生どもです。「一つ、人の生き血をすすり、二つ、不埒な悪行三昧、三つ、醜い浮世の鬼を」と言ったのは、桃太郎侍ですが、時代劇も真っ青に仰け反る現世であります。

    流石にこれは不公平、不公正の極みであり、まともな実現性は皆無であることから、無期延期の様相ではありますが、こうなるまで、政府内、与党内の、誰も何も思わなかったのか?

    それなりに完成度の高い大学入試センター試験で、何がどこがいけないのか。

    この馬鹿げた構想を真面目に実行に移そうとしたのは、天下の馬鹿大臣、下村博文その人ですが、とある文科官僚に直に聞いたところ、「大臣どころか、国会議員であることすら有得ないほどの不見識な人物。おまけに「権力の私物化」とはこの人のためにある言葉だ。あんなのが「お友達」だなんて、安倍政権のお里が知れる。大臣のご立派な下のお名前が泣いている。」だそうです。

    萩生田現大臣は、ド阿呆の尻拭いで大変でしょうが、同じく「お友達」のあなたにゃそれがお似合いです。

    業者どもは、儲かるから、クルクル大臣サマサマ、不見識役人サマサマですよ。だから、パー大臣と不勉強役人を手の平で転がして、裏で算盤弾いてウハウハ喜んでいる訳です。そんなのに群がられて、田分け大臣と無思慮役人は、「俺様は人徳がある!」なんて喜んでいる。全く以て、天下の奇観、いや、○○丸出しです。

    私が室伏先生に続いて言いたいのは、「「大学入試改革」、「入試批判」はレントシーカーのためのもの。レントシーカーに貴重な国民の人生を奪われてはいけない!レントシーカーから子供たちの未来を守れ!」です。

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