政治

2019年5月24日

【施 光恒】「シンゾー・アベ」か、「アベ・シンゾー」か

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

おっはようございまーす(^_^)/

先日、次のような記事が出ていました。

「ローマ字、姓・名の順に 河野外相が海外メディアに要請へ」(『産経新聞』令和元年(2019年)5月21日付)
https://www.sankei.com/politics/news/190521/plt1905210034-n1.html

日本人の名前を、外国人向けなどでローマ字表記する際、多くの場合、普段の「姓+名」ではなく、ひっくり返して「名+姓」にします。安倍首相であれば、「シンゾー アベ」です。

これを改め、海外向けのローマ字表記でも「アベ シンゾー」にしようというのです。
外務省だけでなく、文科省、文化庁も賛成のようです。

これ、私もいいのではないかと思います。

日本人の名前をローマ字表記にする際、姓と名の順番をどうするかということについて、少し古いですが、丁寧に議論している本があります。

パナマ大使、ベルギー大使などを務めた元・外交官で、元・国際交流基金専務理事なども務めた加藤淳平氏の『文化の戦略――明日の文化交流に向けて』(中公新書、1996年)という本です。

今回の外務省の要請と同様、加藤氏も「名+姓」ではなく、やはり国内と同じく「姓+名」の順番で記すべきだという考えです。

加藤氏は、「姓+名」という順番の方がいいという理由として、主に二つの点を挙げています。

一つは、世界を見渡してみれば、必ずしも欧米のように「名+姓」の順番で書く国ばかりではない、つまり別に「名+姓」がグローバル・スタンダードというわけでは決してないということです。

よく指摘されるように、中国や韓国、ベトナムなどは日本と同じく「姓+名」の順ですし、外国人向けにひっくり返すことも普通、ありません。

日本も欧米のみに媚びず、日本式の書き方でいいのではないかということです。

この点で加藤氏は、名前と姓のあり方は姓と名の順番以外にも世界のさまざまな文化ごとに大きく異なると述べ、その例としてアラブ文化圏の例を挙げます。

アラブ人の世界では、人の名前はまず個人名、その次に父親、次いでその父、つまり祖父の名前が来て、さらに必要とあれば、延々と祖先をさかのぼっていきます。最後に家族名や部族名を置くこともありますが、普通は簡便に、個人名の後に父親の名前を書きます。

例えば、かつてのイラクの大統領サダム・フセインの場合、個人名が「サダム」で、「フセイン」は父親の個人名であり、姓ではありません。日本のマスコミなどは、サダム・フセインをよく「フセイン大統領」と呼んでいましたが、これは誤りです。

安倍首相がアラブ式に名前を書けば、安倍首相の父上は外務大臣などを務めた「晋太郎」氏なので「シンゾー・シンタロー(・アベ)」(姓は書かなくてもよい)という具合になるわけです。

このように、人々の名前の書き方は文化によってまさにさまざまです。そのため、日本人が海外向けにローマ字で日本人の名前を表記する際、普段と異なり、欧米式に「名+姓」とすることは別にグローバルではなく、欧米にのみ媚びているように見えてしまう恐れがあります。

また、加藤氏が挙げる「姓+名」のほうがいいというもう一つの理由は、日本の歴史的人物の名前を称するときに、「名+姓」だと大きな混乱を招くということです。

例えば、紀貫之や平清盛などの「の」を入れて読むのが慣例の人名の場合、「姓+名」という通常通りの順番であれば、ローマ字表記でも「キ・ノ・ツラユキ」「タイラ・ノ・キヨモリ」で特に問題は生じないが、「名+姓」では「ツラユキ・キ」「キヨモリ・タイラ」なのか「ツラユキ・キノ」「キヨモリ・タイラノ」なのか、はたまた「ツラユキ・キ(ノ)」「キヨモリ・タイラ(ノ)」であるのか、問題が複雑になります。

また、「源九郎義経」や「大石内蔵助良雄」などの「姓」「名」以外に通称などがある名前、あるいは「真田安房守昌幸」や「井伊掃部頭直弼」などの官職名が付いた名前なども、日本で普通に称している通りという原則で表記するのであれば混乱はほとんどないでしょう。しかし、欧米式にひっくり返し、「名+姓」の順で書くとすれば、「ヨシツネ・ミナモト(ノ)・クロウ」なのか「ヨシツネ・クロウ・ミナモトノ」なのか、「マサユキ・サナダ・アワノカミ」なのか「マサユキ・アワノカミ・サナダ」なのか、これまた複雑になります。

加えて、「二葉亭四迷」や「江戸川乱歩」などのもじった名前も、「名+姓」の順にひっくりかえすともじりの意味がなくなってしまいます。

日本の歴史的人物まで考慮に入れると、日本で呼びならわされてきたように「姓+名」のとおりで記すことを原則にしたほうがやはりよさそうです。

日本の文化や歴史を海外の人々に説明するとき、日本の歴史上の人物に触れることはとても多いでしょう。日本人の名前は原則的に国内と同じく「姓+名」の順番で称するということを原則にしておいたほうが混乱が少ないはずです。

ちなみに、加藤氏は、「姓+名」の順番で書く場合、「ABE Shinzo」のように姓は大文字、名は頭文字以外は小文字で書くというふうにすれば、どちらか苗字か外国人にもわかりやすいのではないかと述べています。

日本人は、外国というと欧米、特に米国を強く意識し、米国に倣えばよろしいといった風潮がいまだに強いようです。今回の外務大臣の外国メディアへの要請をきっかけに、名前の表記の慣例が変わり、それに伴って、日本が、日本のやり方をきちんと海外に説明しつつ、それを普通に貫くようになればいいですよね。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

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  1. リグス より

    これは勉強になりますた・・・

    フセインって父親の名前なのですね、姓だと思ってました。しかし、マスコミともあろうものがフセイン大統領って。ま、知っていたけど不自然?にならないよう、あえて姓のように使っていたのかもしれませんが。

    姓と名をひっくり返してうまく使ったのが、「人志松本のすべらない話」。洋風で全くない松ちゃんを、わざわざそう呼んで面白かった。ラジオで松ちゃんが「なんで人志松本やねん」と言っていたのを思い出しました。

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  2. 天鳥船 より

    これは昔から思っていました。そもそも固有名詞なのだから変えるのはおかしいのではないかと。
    ドナルド・トランプ大統領が日本に来たら、トランプ・ドナルド大統領と呼びますか?ジョニー・デップが日本に来たら、デップ・ジョニーと言いますか?
    言わないでしょ。ジョニー・デップは世界中どこに言ってもジョニー・デップでしょ。なのに、何故日本人だけひっくり返す必要があるのか。
    ま、中には「俺はグローバルに活躍しているんだぞ」と、殊更アピールしたいのか、自分から進んで名・姓とひっくり返している猿並の脳味噌の人間もいますが(特にデザイナーとか芸術関係の業界には多いですね)。
    公式には、姓・名とすべきだと思います。と言うより、もっと早くそのようにすべきでした。

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