政治

2018年7月12日

【小浜逸郎】角栄の政治家魂を復権させよう

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

西日本を襲った豪雨は広域にわたって
大被害を及ぼしました。
不幸にして亡くられた方たちに
心よりお悔やみを申し上げるとともに、
被災者の方たちが一刻も早く立ち直って
くださることをお祈りいたします。

今回の災害では、これまでにも増して、
インフラの未整備や経年劣化したインフラの
メンテナンスを怠ってきた行政の怠慢が
露呈しました。
長年の間、緊縮財政に固執してきた財務省
による人災の面が色濃く出たと思います。

ところで、田中角栄と聞くと、みなさんは
どんなイメージを思い浮かべますか。
ロッキード事件、田中金脈、日本列島改造論、
今太閤、目白の闇将軍などいろいろあります
が、概してあまりいいイメージを抱かれてい
ないと思います。

しかし総理大臣以前、1950年代から70年代
初めにかけての衆議院議員や閣僚時代、
田中の政治家としての活躍には目覚ましい
ものがありました。

衆議院議員としては、何と100本を超える
議員立法を成立させています。

その主なものは、
建築士法
公営住宅法(これは日本住宅公団設立のため
の基本法です)
道路法全面改正
道路港湾空港の整備のための特別会計法
二級国道制定による国費投入の範囲の拡大
道路審議会の設置による民意の反映
道路整備費の財源等に関する臨時措置法(こ
れは道路特定財源の獲得を意味します)

また閣僚時代には、
社会基盤整備にかかわる通産省、建設省、
運輸省、郵政省などに強い影響力を及ぼし、
政治主導による官僚統制の原型
作り出したのです。
大蔵大臣時代に豪雪被害に初めて災害救助法
を適用させたこともその大きな功績です。
その後、この官僚統制の型はすっかり崩れ、
財務省が実権を握ってしまいました。

こうしてみると高度成長時代の実現を、
インフラ整備の面で制度的に支えた田中の、
政治家としての実力がいかに大きかったか
がわかろうというものです。

もちろん、こうした大きな力を振るうには、
巨大な金脈を作り出し、それを存分に用い、
あらゆるコネを利用し、法的には、
ずいぶん危ない橋も渡ったことでしょう。
そのことをいいとは言いませんが、
そうしなかったら日本の成長と繁栄が
なかったことも事実です。

また彼の活躍した時代には、
官僚に勝手な真似をさせず、
国民の豊かさの実現のために彼らを
思い通りに使うことができたのです。
政治家と官僚とはシーソーのようなもの。
本当に国民のためを思う力ある政治家が
その気になって官僚を統制すれば、
官僚は言うことを聞くものです。

ちなみに安藤裕議員率いる
日本の未来を考える勉強会」が、
このたび安倍首相に素晴らしい提言を
しましたが、
安倍首相がこれをまともに受け取って、
財務官僚を抑えることを切に望みます。

さて一方には、田中金脈問題を執拗に追い、
「巨悪」なるものを暴くことに信じられない
ほど情熱を注いだ作家がいました。
ご存知、立花隆氏です(『田中角栄研究』)。
全二巻にまとめられたこの分厚い本では、
角栄の金脈や人脈を追いかけるばかりで、
驚いたことに、彼の政治的手腕をどう評価
するのかについてはただの1ページも記され
ていません

この本は、戦後の政治権力者の「道徳的な悪」
を暴く仕事の嚆矢と言ってもよいもので、
民衆のルサンチマンを煽る悪い風潮
作り出しました。
今でもこの風潮が根強く残っていることは、
近年流行の政治家・官僚の引きずりおろし
ごっこを見ても歴然としています。

政治家や官僚はもちろん公人として
高い道徳性を要求されますが、
そのことだけで政治家を評価して、
国民のためにどんな政治的手腕や才覚や
視野の広さを行動によって示したか
という肝心の点に目がいかなくなってしまう
のは困ったことです。

「清廉潔白」は政治の理想かもしれませんが、
現実の政治とそれを取り巻く世界とは、
猥雑さに満ちています。
複雑な社会でものごとを通そうと思ったら、
理想通りにはいかないことは、
大人なら誰でも知っているはず。
民衆のルサンチマンを満たすために、
道徳の名を借りて政治の本質から目をそらす
ことは、たいへん下品でけち臭いことです。

今回の大災害で、どんな理屈を垂れようが、
緊縮などと言っている場合ではなく、
インフラ整備、インフラ・メンテのために
早急に予算を増額すべきことがはっきり
しました。
転ばぬ先の杖(もう転んでいるのですが)が
何より大事であることを
角栄は「土建屋」の直感で知っていたのです。
角栄の政治家魂を復権させましょう。

【小浜逸郎からのお知らせ】
●新著『福沢諭吉 しなやかな日本精神』
(PHP新書)が発売になりました!

http://amzn.asia/dtn4VCr
『日本語は哲学する言語である』が
まもなく徳間書店より刊行になります。

●月刊誌『Voice』6月号
「西部邁氏の自裁死は独善か」
●『正論』8月号(7月1日発売)
「日大アメフト報道の短慮」
●『正論』9月号(8月1日発売予定)
「戦後リベラル隠し砦の三悪人・丸山眞男、
柄谷行人、中沢新一」
●『表現者クライテリオン』9月号特集
「ポピュリズムの再評価」(仮)の座談会に
出席しました。(8月15日発売予定)
●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo

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【小浜逸郎】角栄の政治家魂を復権させようへの5件のコメント

  1. あまき より

    世にふくらはぎは第2の心臓と申します。政治家にとって政策がふくらはぎなら、人格資質は心臓そのものです。ましてや首相ともなれば、人格資質も政策も常に厳しく問われて当然です。またそれらを常に問い、やすやすと鵜呑みにしないのが、先日のたいへん立派なコメントにもあった国民の「正気」であり、保守というものだと思います。

    政策を是々非々するのはいいが、人格資質に指さすのは個人攻撃で、感情的で、人の悪口に当たると公言して憚らない保守ものかきや、それをやすやすと真に受けて首肯するようなお人よしは、正気を失っています。新自由主義による制度と社会の完成に手を貸していることに気がついていない。首相の人格資質すら正面から批評しようとない方が、原理主義組織・財務省の弱体化はおろか、角栄魂の復権を唱えるなど、いったい何をか況やです。

    渡部昇一は生前、うそつきには面と向かって「あなたはうそをついていますね」と指さして弾じよう、と聴衆に向かって訴えました。渡部の主な批判対象は日本社会党、朝日新聞でしたが、もちろん自由民主党も含まれていた。田中真紀子や稲田朋美やゆかりのハイエクを称揚するお茶目なところもあったが、国民に向かって正気の必要を説く保守のまことはさすが揺らがなかった。

    安倍さんは明確にうそをつき続けて来たのです。渡部に倣うまでもなく、うそつきに政権を預けるわけにはいかない。いや、これでもかなり好意的に解釈した上でのうそつき呼ばわりなのです。以下に個人の解釈を示しておきます。ガチガチの反安倍が読んだら臍が茶を沸かすと言うかも知れませんけど。

    安倍さんはいい人で、いろんな人の希望を聞き入れ、出来る限り多くの人に沿うかたちにしたいと思っている。三橋さんが財政問題は存在しないと言えば大いに頷く。一方、地方自治体財政健全化法で地方に痛みを伴う改革を強いている、国としても財政問題に取り組まない訳にはいかないし、あなたならきっとやれると言われると、そうかと安倍さんはお思いになる。結局、経済諮問会議だけでよかったのに経済「財政」諮問会議にしてしまい、人事権の掌握に成功しながら、首相に財政問題認識があるとみた財務省から緊縮派、均衡論者を陸続と送り込まれて難儀する。

    前述の渡部も言い残しているが、移民受け入れを一度許すと国家が滅びますよと言われると、移民政策はとらないときっぱり公言、支持者たちからぴょんぴょん喝采を浴びる。しかし目先を現実と称する阿世の経団連や各後援会から請われ願われ、人手不足で経営ままならぬ中小企業の支援策にもなると説かれると、それもそうなんだよなとお考えになる。結果、なんと世界第4位の移民大国にしてしまう。

    それから、安倍さんは東大にものすごく弱い。安倍さんを「勉強熱心」「頭がいい」「すべて理解している」と評した主な面々。岡崎氏。日下氏。谷内氏。高橋氏。言われてもその気になってはいけない人たちなのに、その気になった形跡がある。もっとも、安倍さんが勉強熱心なのではなくて、称賛した人たちが勉強不足なだけではないか、との僭越な見方もあるようですが。

    もっと安倍さんに好意的な書き方をします。うそをつくつもりなどなかったかも知れない安倍さんにここまでうそをつかせてきたのは誰か。それは、首相の政策批判を譲る代わりに首相の人格資質に指さすなと擁護して来た人たちであり、うそをついているのにうそをついてはいないと詭弁を弄してきた人たちです。保守に必要な正気をかなぐり捨てた、恥知らずの人たちです。経営者は赤字にならないと反省しないと日下氏は言った。政治家も落選するまでは思い至りません。詭弁による擁護は首相にも政権にも政党にも何ら利益にならないのです。

    個人的に批判したいのは、安倍さんご本人はもちろん、安倍さんにも増して実にこの人たちなのです。正面から指を差さないで来た人たちが安倍さん的な宰相の再生産を助けるのです。財務省批判や角栄的政治家魂の復権に逃げ、倒閣はいけないとか、本質を逸らそうとしている人を見ると、かなしくなります。

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  2. ぬこ より

    なんで、日本の停滞の真の原因たるアメリカの批判が保守派から上がらないのか?不思議。

    怖いなら怖いと言えば良いのに。
    西部さんも晩年の晩年ですよね。
    アシュケナージやその裏のスイスやイタリアのバンコを批判し出したのは(笑)

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  3. ご著書の『福沢諭吉 しなやかな日本精神』(PHP新書)について質問です。

    小浜先生は、福澤諭吉が『学問のすゝめ』二編で用いた「権理通義」なる用語について、ご著書の42頁で、「いまの言葉で言えば、個々の人間が共通に持つ法的人格ということになると思います。」と一応定義付けてらっしゃいますが、

    福澤は『学問のすゝめ』三篇(岩波文庫)で、「二編にある権利通義の四字を略して、ここにはただ権義と記したり。いずれも英語の「ライト」という字に当る。」として、「権理通義」が「right」に相当すると明示していますので、その延長線上に論を敷衍していただいた方が、読者には解りやすかったのではないかと思いますが、如何でしょうか。

    小生が解しますに、「right」は現在、日本語で「権利」と訳語が充てられていますが、元々の英語の意義は、「正しい」或いは「正義、正論」ですから、そのある物事や事柄が(個人ばかりでなく社会共通の)「正義」に適っているから、「権利」になるのだという理解で、福澤は、これを言っているのではないかと思います。

    その意味で、福澤が充てた「権理通義」の用語は誠に意義深く、「right」は、一種の「権限」であり、且つ「理」に適っていて、個人と社会に共「通」する「正義」だとした彼の感性は、「right」の意味として、その後に使われている様々な説得力ある例示を見ても、必要十分なものであったと評せざるを得ません。この辺りは、先生ご指摘の通り、「society」を「人間交際」と訳した福澤の面目躍如だと思うのです。

    ある意味、後に他の日本人が「right」を「権利」と訳したのは、「利」が「利得、利益」の意であるがために、現在では「権利」がしばしば「我儘放蕩」の語感を持つに至っていることを考えると、誤訳であると言えるのではないでしょうか。

    「right」を行使せんとする英米人が、誇らしげである理由は、個人にとっても社会にとっても「正義」(の権限)を貫徹しようとする思いが横溢するからではないかと思います。だから、「right」は、個人の利得・利益と捉えるべきではなく、語義通りに訳すのなら、福澤が用いたように、「権義」としたり、「権理」とすべきであったのだろうと思えてなりません。

    例えば、「幸福追求権」というのが憲法にありますが、国民が幸福に暮すことって、単に個人の権益のみならず、我が国にとって正義そのものでもある訳ですから。正直、小生は「right」について、『学問のすゝめ』で初めてその本義を知った思いです。

    引続き、ご著書の続きを楽しみに拝読します。

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      1. コメント、ありがとうございます。

        おっしゃる通り、福沢の「権理通義」あるいは「権義」は「right」の訳ですね。そのことを明示することによって、近代の法理念によるより強固な根拠づけと説得力が増したかもしれません。
        またついでに、「権利」という表記が汎用されることで生じた、多くの日本人の誤解の傾向、つまり公正性を保障されていないのに、やたら私的欲求(わがまま)の要求のためにこの概念を濫用する風潮に対する抑止の意味を示せたかもしれません。
        もう少し書き加えておくべきだったかもしれませんね。

        ただし、該当ページの文脈では、福沢が「平等主義者」だったという誤解を取り除くためにのみ書かれていますので、福沢は、「人は法的人格としては平等だが、存在としては平等ではない」と考えていたということを示すために、『学問のすゝめ』二編での言葉を引用したわけです。ここからさらに進んで「right」との関係にまで書き及ぶと、ただでさえ分厚い本が、さらに分厚くなってしまうので、さらりと流してしまいました(笑)。

        もちろん、「デオキシリボ核さん」さんのご理解は、基本的に正しいと思います。

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        1. 先生のご丁寧な返信をいただき、大変感謝しております。

          「right」が、「公正、正義の権益」であること、改めて得心できました。実はこの「right=権利」は、小生も『学問のすゝめ』を読むまでは、今一つ納得できていなかった概念でして、時に「私益」の意味で使われがちな「権利」に対して、「自由や権利には、責任や義務が伴う」という、良く対抗的に保守派が用いがちな文言も含めて、何か違う気がする、と納得できていなかったところ、『学問のすゝめ』を読むことで、ストンと納得できた、且つ、これまでの概念を覆すほどの衝撃を受けたのです。

          これは、「権利」について学ぶ公民の授業で、中学生に遍く教えてあげなければいけないことではないかと思ったほどです。

          なので小生の方では、この「権理通義」に対して少しく拘りを持ち、思わず先生にこの記述についてお尋ねしてしまったところです。

          福澤諭吉の著作の重要性については、最近になって気付き、何でこんな古典的名著群を見逃し続けてきたのだろうと、己の不勉強に地団太踏んでいます。殆どの人は、私も含めて、最も知られた著作である筈の『学問のすゝめ』すら、通読していないのですよ。

          これまでの社会構造の左派的理解(戦後民主主義)に加え、新自由主義の価値転覆的視線が蔓延してきた昨今では、根本から戻って(日本)社会のあるべき姿を探っていくためには、福澤の名著群が今や、本当に必要なのではないかと思われてなりません。

          小生は最近、和魂洋才って何だろう、ではその前の和魂漢才とは、また和魂和才とは、という疑問に答を求めていまして、牛歩の歩みではありますが、少しづつ読書と考察を進めていきたいと思っています。

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