日本経済

2019年10月26日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第六十二話『継承を考えない空虚な器』

From 平松禎史@アニメーター/演出家

 

先週は、日本文化チャンネル桜の討論番組に出演してクールジャパン戦略の議論に参加しました。
番組タイトルは「クールジャパンの空虚と日本文化の現在」です。アーカイブで視聴できますのでまだの方はご覧ください。
https://youtu.be/DmYs2K5pe8Q

さて、先月の台風15号の被害が癒えないうちに19号が近畿から東北までの広範囲に被害をもたらしました。東京都心部は江戸時代からつづけられた治水利水事業のため、大規模な停電・断水などはあまりなかったようです。しかし、大田区や都下、周辺のベッドタウンには河川の氾濫、大量の雨水を処理しきれずに浸水被害が起きた。道路や橋梁にも多くの被害が出た。もし、利根川や荒川が氾濫していたら都心近郊の東部にも大被害があったわけです。都心部で働く人は周辺の区や都下、隣県に住んでいますから、東京都そのものの活動に多大な影響が及びます。詳しい様相が見えてくるに従って、被害の大きさに驚かざるを得ません。
「八ッ場ダムや首都圏外郭放水路のおかげで助かった!」と過去のインフラを礼賛するのもよろしいが、どちらもギリギリだったことが現在までの報道でわかっている。平成以降の緊縮デフレで、新たなインフラ整備予算の削減やメンテナンスの不備が、十数都県で引き起こした多大な被害を思い知らねばなりません。
安倍政権は、民主党政権以上に公共投資を削っているのです。経済的な疲弊と災害の長期化で国民は余裕を失っている。

「悪夢の民主党政権」と言うのなら、「堕獄の安倍政権」と言わねば実態にあっていません。

なぜ、「堕獄の安倍政権」が50%前後もの高支持率を維持できるのか。7年近くも政権担当できているのか、まったく不思議でなりません。

この疑問に答える多くの示唆が、同じくチャンネル桜の10月5日の討論「安倍総理『器』論とは真実か?」にありました。
https://youtu.be/2sGeW4TXpMg

第六十二話:「継承を考えない空虚な器」

「安倍総理『器』論」の議論で特に注目したのは、この議論の火付け役にもなった浜崎洋介さんが提示した安倍長期政権像です。念のために書き添えておくと、安倍政権に限ったことではなく、橋本政権の行政改革にはじまり、小泉政権の構造改革を経て、さらに「官から民へ」の民主党政権の改革も加わって、安倍政権で集大成となっているものと言えます。自民党は30年で大きく姿を変えている。

ボクの考え方も一部入ってますが要約するとこうなるでしょう。
・トップダウンで政策決定をスピードアップするために総理の権限を強化した。
・小選挙区制への移行で党上層部へ権力が集中、派閥の解体で人気主義へ傾斜した。
・総理・内閣を中心とする規制改革や経済財政の会議体に民間ビジネスマンを投入して直結化した。
・利益の読めない公共投資は削減してビジネス目的の政策へと傾斜。
・人気が取り柄の総理によってビジネスマンの利益最大化に都合の良い政治構造ができた。
・右側の不満は、韓国や左派メディア、旧民主党政権を「敵」に設定することでかわし無効化する。
・左側の不満は、「反日勢力」のレッテル貼りでかわし無効化する。
・それぞれの不満をそれぞれの「敵」へと誘導し、「これまでの内閣より良い」幻を作り出す。
・空疎な左右対立を弾幕にした後ろで、緊縮財政・改革・グローバル化という日本破壊が確実に行われる。

まことに狡猾ですが、おそらく昭和末期~平成の経路によって半ば偶然できあっがたのだろうと思う。無定見な宰相にとってこの枠組は権力維持に好都合となり、中心に侵入して利益を貪りたい連中にとっても好都合。双方の利益が一致したのだろう。だからこそ、転換できないのです。

ただ、
ボクは、日本社会の中心が『器』であること自体が問題とは思いません。
「〇〇の器」「器量」ということばは誰でも知っていると思いますが、「器」と表現されるのはその人の力量を、「何を入れて、何を入れないか」で計る意識があるからでしょう。「器」「器量」は、その内側の「空」をどう扱うかで良し悪しが決まるのです。

古事記に記された日本人の原初的な感覚、河合隼雄著『中空構造日本の深層』で示された日本神話と日本人の心理構造分析からも見えてくる。
つまり、日本の中心は「空」であり、その周囲を球のごとく取り囲むように神々が配置されている。中心に新しい何かがやってくると取り囲む神々は咀嚼して良いものは取り入れ、折り合わないものは取り除いていく。そうやって「空」が適切に維持継承されていくのだ、と。

なぜ日本社会あるいは日本人の心理の中心を、「空」と言えるのか。
例えば、天地開闢ののち最初にあらわれた三柱の神、アメノミナカヌシ、タカミムスヒ、カミムスヒのうち、「天御中主」と中心を示す漢字を当てられたアメノミナカヌシは生まれてからは姿を見せず語られません。さらに、イザナキから生み成された三柱の神は、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲですが、このうち二番目(まん中)のツクヨミは生まれたのち語られません。
ヒコホノニニギとコノハナサクヤビメが生み成した子はホデリ、ホスセリ、ホヲリですが、このうち二番目(まん中)のホスセリは語られません。
タカミムスヒとカミムスヒ、アマテラスとスサノヲ、ホデリとホヲリといった対照的な神に対して、中心に何も語られない神が存在しているのです。しかも、天地開闢の直後、イザナキが黄泉国から戻って禊をした時、高天原から葦原中津国へと降りたニニギの子、という重要な場面のそれぞれに、何も語られない「空」の存在があるのは偶然とも思えない。「わからない」もの、「何か」があるのです。
神話から実体的な歴史になると、天皇があらわれます。天皇親政時代を経て象徴的な天皇(平安時代)へと移行していくなかで、天皇が「空」となったのは、日本社会の構築のされ方、日本人の心理にとって、中心が「空」であったほうが穏当に丸く収まって好都合だ、ということでしょう。
現代日本人も、何かを決める時、誰かが主導して決めるより、そこにいない何者か(空気)によって決めることを好むでしょう。
権力を集中させると、諍いを生み、和が破壊されて共同体を保てないと、古代から学んできたのです。和を維持しなければ、毎年やってくる自然災害に対処できませんし、集団作業である農耕もやっていけませんからね。

ここで浜崎さんの議論に戻りましょう。
中心が「空」、あるいは「空虚な器」だったとして、神話時代から古代政治にかけて確立された「空」が守られてきたのは、そこに「中身」があったからだ、とも言えるでしょう。しかし具体的な中身ではなく、「継承していくこと」だった。
政府が、何を継承していくべきなのか、という考えを持ちながら、周囲を囲む神々、つまり閣僚やブレーンや与野党政治家などが政策議論を戦わせているうちは、日本というものが根底から破壊されるような変革はおこらない。時代に応じて、新たなものを中心へ取り込みながら私達にあわないもの(継承を妨げるもの)は取り除かれてきたのだ。中選挙区制時代の自民党の派閥はまさに球を取り囲む神々のように機能していたのでしょう。

日本は、外国文化を大きく取り入れた時代が21世紀までに3度ありました。7世紀後半から8世紀、19世紀後半、20世紀中盤。その都度、中心を侵食させないよう、もがきながら日本流に変えていく努力をしてきました。
世界の変化がスピードを増していくなかで、日本的な「何か」を考える時間が失われてしまった。
20世紀終盤の冷戦終結後、日本への風当たりが強くなるとともに内部変革を焦り、改革のスピードアップを図り、再度アメリカ流を、4度目は無節操の自覚もなく侵食させているのではないか。

その結果、「空」が「中身」を失った。

継承すべきものを考えなくなった。

日本政治の中心は、「継承を考えない空虚な器」になってしまった。

+ + +

10月22日に行われた即位の礼では、前日から強い雨が続いていましたが、正殿の儀がおこなわれた13時直前、空が明るくなり太陽が出た。高い建物から虹が見えたことも話題になりました。
科学的にはただの偶然となるのでしょうが、そこに「何か」があるのではないか、と感じる。
神話の時代より「ことば(音声)」で伝えられてきた日本の中心にある「何か」は、科学では解明できません。「わからないこと」が人間にとって重要な意味を持つのだ、と教えてくれるのです。
印象的だった虹ですが、これには「不吉の象徴」「凶兆」の意味もあることを忘れてはならないでしょう。

…何を継承すべきなのか。これは明確にできません。一神教的な世界では、例えばキリスト教のように統合的な中心がはっきりしており、あらゆることを明確にしていくことが神(GOD)を理解することになる。わからないことを明確にしてきたのです。その意識でもって学問や技術を「作り出す」ことにつながった。
多神教的な日本人は、明確な中心をむしろ避け明確にすることを避けるため、ものごとは自然に「成る」と考える。成ることに「わからない何か」が介在することを、明確にしない。そこに祈りの文化がある。
「作り出す」と「成る」の違いはとてつもなく大きいと思います。

世界が狭くなりスピードが求められる現代、外国との違いを自覚して生きられるか。我々が継承すべき「何か」とは…と、考えつづけることが重要なのではないか。と、 一旦立ち止まることで、今回はおしまいにいたします。

◯コマーシャル

ボクのブログです。
https://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第六十二話『継承を考えない空虚な器』への3件のコメント

  1. たかゆき より

    器論

    器の中は 「空」

    「空」の中には 「気」が充満

    その「気」が「無気」だったら、、、

    色即是空 空即是色

    受想行識 亦復如是 ♪

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  2. のりさんたかのり より

    ツィートで引用させて頂きました!

    与党支持の方も、野党支持の方も、ニホンを壊さないで!

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  3. 赤城 より

    空とかいうものの本質は
    国家国民民族の暗黙のうちに当たり前に存在する
    明文化されない常識のことでしょう。
    それがこの敗戦後教育の70年で根本から破壊されて消え去った。

    そのあとに入り込んでくる空気、空というのは何か。
    それはそこで本当に権力を持つものの意図である。
    まあ、属国奴隷根性の地球市民に自分たち共通の
    まっとうな常識を取り戻そうと言っても虚無ばかりで
    絶望的としか思えないです。

    情報工作する力のある組織や他国家が好き勝手に日本国民を
    扇動し先導し空気を作って操り、
    民族丸ごと生殺与奪することでしょう。

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