From 佐藤健志
2017年も、いよいよ残りわずかとなってきました。
そこで今年がどんな年だったか、ちょっと面白い方法で振り返ってみましょう。
つまり、本紙に寄稿した記事のタイトル。
ずらっと並べてみると、見えてくるものがあると思うわけです。
まずは1月~3月。
最近の紅白がつまらない理由(1/11)
ドナルド・トランプと「柔らかい官能」(1/18)
日本外交は冷静で、つねに用意周到らしい(1/25)
日本は良くも悪くも戦前になど回帰しない(2/1)
左翼・リベラルに同情せずにはいられない話(2/15)
稲田防相のWW(訳分からない)答弁(2/22)
売国と亡国のサンバ、またはリベラルの移民反対論(3/1)
ブーメランをあげつらうというブーメラン(3/8)
震災復興と地政経済学(3/15)
「変」のパワーを活かす方法(3/22)
さらば、愛の行為よ(3/29)
いやあ、まだ平和でしたね。
稲田防相のWW答弁など、スーダンPKOに関するもの。
言い替えれば北朝鮮問題が、まだ前面に出ていなかったのです。
ただし保守と左翼・リベラルの相互依存関係は、すでに目立ち始めていました。
稲田さんは国会で
〈「戦闘」と言うと憲法上の問題が生じるから「衝突」と言った〉
なる旨を口にしてしまったわけですが、
この発想、現実より憲法のほうを優先させる点で、護憲派左翼の論理とまるで同じではありませんか。
にもかかわらず、表面的には対立し、相手を攻撃しあっている。
こうして出てくるのが、「敵への心理的依存と思考停止に関する平松テーゼ」です。
おさらいしておきましょう。
〈自分(たち)よりも明白に劣っている存在〉
ないし
〈自分(たち)と違って、明白に間違っている存在〉
を設定し、
○○だから劣ってる
○○は間違っているに違いない
○○だったら、どんな攻撃をしても許される
○○が褒めるものは間違っている
という形で、自分(たち)の正しさを確認しようとする者は
相手が劣っていること、ないし間違っていることをよりどころにするため、
否定しようとしているはずの当の相手の存在に、いつしか依存しはじめる。
けれども、この点を認めてしまうと自分の立場が破綻する。
そこで、くだんの依存に陥った者は
1)物事を深く考えないように努め
2)おのれの矛盾を指摘されるとキレてごまかす
思考停止の状態に陥る。
思考停止に陥った者が、経世済民で結果を出すことはありえません。
まさに「右の売国、左の亡国」。
『右の売国、左の亡国 2020年、日本は世界の中心で消滅する』(アスペクト)
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そして「右も左も結果を出せない」状況で浮上したのが、北朝鮮危機だったりするわけです。
4月~6月行きましょう。
平松テーゼとジャン=リュック・ゴダール(4/5)
戦後ニッポン三原則とは何か(4/12)
大国民の襟度(きんど)(4/26)
「日本の防衛は万全だ」と閣議決定せよ!(5/3)
今村前復興相をめぐる勘違い(5/10)
風が吹くとき、または実感なき危機意識(5/17)
「私、日本人で良かった」の大笑い(5/24)
炎上とツイン・ピークス(6/7)
炎よ、われと共に歩め!(6/21)
カール全国販売中止と炎上の制御(6/28)
防相に続いて、復興大臣がしょうもない発言をやらかしたのは、考えてみれば象徴的。
国防もそうですが、大災害からの復興にしたって、経世済民の要というか、安全保障の基本のキです。
基本のキを担当するはずの大臣が、不用意な発言をどんどんしてしまう。
こんな体たらくで、経世済民が達成できると思いますか?
いくら〈万全の体制で国民を守り抜く〉などと見得を切ったところで、万全の中身も知れたもの。
弾道ミサイル対策をめぐる政府のQ&Aが、笑えないぐらいに笑えるお粗末な仕上がりだったのも、当然と評さねばなりません。
こうしてわが国は、文字通りの炎上の危機を迎えるにいたったのでした。
『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)
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では、7月~9月です。
稲田防相は自衛隊を暴走させたいらしい(7/12)
保守の対立概念は「反動」なんだってさ!(7/19)
炎上政治と内閣支持率急落(7/26)
現内閣を支持するのは国民の義務らしい(8/2)
支持率変動と認知的不協和(8/9)
ゾンビ映画の社会批評(8/23)
ワイズ・ファイティングと「不戦勝の誓い」(8/30)
前衛意識と自己絶対化(9/13)
前衛の最大の危機とは(9/20)
閣僚の失言があいついだり、森友・加計学園問題が騒がれたりしたこともあって、内閣支持率は春を過ぎたころから下落を始めました。
それが7月の都議選における自民党の歴史的惨敗を経て、ますます下落。
調査によっては、危険水域(30%以下)へと突入してしまいます。
テンパったせいでしょう、保守派と呼ばれる人々の言動もますます混乱、認知的不協和の領域へと突入。
左翼・リベラルを批判するつもりで、「旧体制の反動」と規定するという、仰天ものの主張が飛び出したのは記憶に新しいところです。
「旧体制の反動」って、極右のことなんですからね。
背水の陣となった安倍内閣は、かなりの議席減を覚悟のうえで9月に衆議院を解散。
ところが狙いすましたかのごとく、小池百合子さんが「希望の党」を旗揚げ!
総理の命運も尽きたかに思われましたが・・・
10月~12月行きましょう。
感情的貨幣論と風水的財政政策(10/11)
天高く総崩れの秋(10/18)
経世済民ができた時代への憧れ(11/1)
若者の「保守化傾向」の正体(11/15)
トランプ来日と横田基地(11/22)
「米国に逆らうと日本のようになるぞ!」(11/29)
「痩せ太り」の経済、デフレ型の幸福(12/6)
慰安婦問題と日馬富士引退(12/13)
平成は十年ごとに悪くなっていった(12/20)
例の「排除いたします」発言によって、希望の党は離陸直後に墜落するかのごとき顛末となる。
この壊滅的オウンゴールのおかげもあり、自民党は解散前の予想をくつがえして大勝。
まことに強運の安倍総理であります。
し・か・し。
強運の根底にあるのが、政権側の力量や徳目にあらず、「敵」(=希望の党)の失態にすぎなかったのは隠しようがなかった。
「敵への心理的依存」どころか「敵への全面的依存による勝利」だったのです。
さらに11月のトランプ来日で、安倍総理はバンカーでひっくり返りつつも、みごとなアメポチぶりを披露。
ここ数年間、
「総理はとりあえずアメリカに迎合しつつ、したたかに自主独立の機会をうかがっているのだ」
という擁護論を繰り広げてきた保守派すら、
「自主独立路線は放棄された」と認めざるをえなくなりました。
すなわち対米従属、構造改革、グローバリズムの3点セットは、今後もしっかり続く。
ならば「安倍一強」にいかなる意義があるのか。
経世済民の達成に寄与していると言えるのか?
だいたい現政権は、今や何かにつけて「革命」を連呼するにいたっています。
エドマンド・バークの名言ではありませんが、物事をとことん変えないことには納得できなくなっているのです。
『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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(※)上記の語句は101ページに出てきます。
いったい、これの何が保守なのでしょう?
選挙の勝利にもかかわらず、2017年、保守派は挫折したのでありました。
戦後脱却の展望が見えないまま、平成が終わることだけが決まり、北朝鮮情勢はいっそう緊迫してゆく。
CIAのマイク・ポンペオ長官は、トランプ大統領にたいして
「北朝鮮のICBM(開発)を阻止できる時間は3ヶ月しか残されていない」
と報告したと言うのですぞ。
(カッコは引用者)
https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20171219-00079466/
すなわち2017年は
敵への依存と思考停止に始まり、
認知的不協和を経て、
自主独立をめぐる挫折と危機の深刻化で終わった
ということになります。
さあ、2018年はどうなるか?!
閉塞状況がいっそう深まるだけならまだしも、米朝衝突をきっかけに日本が北朝鮮の攻撃対象となり、
東京などに重大な被害が生じるといった事態も、想定しておく必要があるかも知れません。
来年暮れ、こんなふうに一年を振り返ることは、はたして可能なのか。
そんなことが気になる年の瀬でありました。
なお次週、1月3日と、その次、1月10日はお休みします。
1月17日にまたお会いしましょう。
ではみなさん、良いお年を!
<年末年始・佐藤健志からのお知らせ>
1)12月28日(木)と1月4日(木)、文化放送の番組『おはよう寺ちゃん 活動中』に出演します(6:00~7:00)
http://www.joqr.co.jp/tera/
2)1月4日(木)、日本文化チャンネル桜の新春キャスター討論に出演します(11:00~14:15。生番組)
テーマ「転換期の日本~私達はどう生きる?」(仮)
他の出演者は、富岡幸一郎さん、sayaさん、佐波優子さんなどです。
http://www.ch-sakura.jp
3)1月12日(金)、日本文化チャンネル桜の番組『FRONT JAPAN 桜』でキャスターを務めます。共演は銀谷翠さんです。
http://www.ch-sakura.jp/programs/program-info.html?id=1651(番組詳細)
4)12月20日(水)、『FRONT JAPAN 桜』でキャスターを務めました。共演は浅野久美さんです。
トピックス
・北海道沖「M9」級大地震切迫~その具体策は?
・「すべては祖国のため」と言えるか
・愛国のパラドックス~親米とは浮気である
https://www.youtube.com/watch?v=XgrpQPFskh8
過去の回もどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=OWFlElnkZiY
(12月6日配信、共演・浅野久美)
https://www.youtube.com/watch?v=vsEUk5GMDn8
(11月17日配信、共演・佐波優子)
5)12月23日(土)、日本文化チャンネル桜の番組『闘論! 倒論! 討論!』に出演しました。西部先生や、おなじみ藤井聡さんも一緒です。
テーマ:戦後日本人は変わってしまったのか?
https://www.youtube.com/watch?v=jeULK-D266k
6)『表現者』76号(MXエンターテインメント)に、評論「フリードリッヒ・リストの晩春」が掲載されました。
7)発展と繁栄の昭和から、低迷と衰退の平成へ。時代の区切りにあたって、戦後史を振り返りましょう。
『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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8)敵への依存、思考停止、そして認知的不協和。保守もリベラルもすっかりパラドックスに陥っています。その構造を分析し、脱却の方法をさぐりました。
『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
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9)政治の目的は経世済民の達成です。社会を保守するとは、この状態を保ちつづけることなのです。事態が総崩れの様相を呈しているときこそ、原点に立ち返りましょう。
『本格保守宣言』(新潮新書)
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10)「このような事態は前代未聞と言える。まったくはじめてのケースなのだから、何が起きるかも予想がつかない」(225ページ)
くだんの状況から、アメリカは独立を勝ち取りました。さて、日本はどうなることか・・・
『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
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11)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
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