政治

2017年9月20日

【佐藤健志】前衛の最大の危機とは

From 佐藤健志

先週の記事
「前衛意識と自己絶対化」では、
いわゆる「前衛」の特徴について考察しました。

「前衛」の定義はこうです。
〈いかなるイデオロギーを信奉するかとは関係なく、自分たちこそは社会変革を率先して担う存在であるという信念、ないし妄想に取り憑かれた人々〉。
で、結論は以下のとおり。

1)前衛は宿命的に自己絶対化をきたす。
2)自己絶対化の内容は、次の三点に要約される。
a)自分たちのめざす変革の正しさは、世の人々も認めている。
b)ゆえに自分たちは、世の人々から(少なくとも潜在的に)支持されている。
c)世の中は、遅かれ早かれ自分たちのめざす方向に進む。
そのときは自分たちこそ、オイシイ思いができるはずである。
3)ところが上記の三点は、客観的に見れば(ほとんどの場合)ひとりよがりの錯覚にすぎない。

ちなみに1980年代以後のわが国では、
「前衛勢力が変革に成功した結果として権力を握る」
のではなく
「もともと権力を握っていた勢力が前衛化して変革に走る」
という現象が見られました。
構造改革やグローバリズム志向のことですよ、念のため。

すでに権力を握っている以上、この場合、特徴(3)は必ずしも当てはまりません。
ただしこれは例外的な事例ですので、脇に置くことにしましょう。

さて。
自己絶対化をきたしているのですから、前衛は権威主義的・全体主義的な傾向も必然的に帯びます。

とはいえ前衛の権威は、たいてい一般には認められない。
前衛の全体主義にしても、社会の片隅にしか影響を及ぼせない。
物事は思い通りにならないわけです。

ふつうに考えれば、これは非常に残念な状況。
ストレスがたまること請け合いでしょう。
しかし前衛は、驚くべきウルトラCを披露する。

「自分たちの権威が認められないことこそ、最後には自分たちの権威が認められる証拠であり、
社会の片隅にしか影響を及ぼせないことこそ、最後には自分たちが社会全体を変えられる証拠である!」

なんと、そう構えるのですよ!!
このような認知的不協和丸出しの発想が、どうやって成り立つのか、構造をご説明しましょう。

前衛の頭の中では、
社会は「より良い状態をめざして行進を続ける巨大な軍隊」のごとくイメージされます。
本隊(=一般民衆)の前方にあって、変革の道を切り開いているのが、ほかならぬ自分たちという次第。

すなわち前衛は、一般民衆よりもずっと進んだ(=優れた)存在と規定されます。
勝手にそう決めているだけなんですけどね。

しかるにお立ち会い。
ならば「本隊」たる一般民衆は、前衛の主張や行動について、しばしば理解できなくて当然ではないか?!

そうです。
自分たちの権威を認めてもらえないことや、社会の片隅にしか影響を及ぼせないことこそ、
前衛たる自分たちが、一般民衆のはるか先を進んでいることの動かぬ証拠となるのです!!

むろんこのすべては、自己正当化のための詭弁と見なして、まず差し支えありません。
けれども物事が(現在)うまく行っていないことを、物事が(将来)うまく行くことの根拠にできるのですから、便利と言えば、じつに便利。

これにしたがえば
〈失敗すればするほど、最終的な成功は保証される〉
ことになるんですからね。

かくして前衛は
「雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ、旧体制ノ反動ニモ負ケズ」とばかり、辛抱強く、ないし意固地になって頑張る。
しかし、ここに恐怖の落とし穴が待っています。

物事がうまく行きはじめたらどうするか?
少なくとも、そんなふうに見えたらどうするか?

そりゃ、最初は躍り上がるでしょう。
ついにわれわれの時代が来た!
長年の苦労が報われた!!
残りの人生、オイシイ思いが待っているぞ!!!
・・・てなもんです。

ところがどっこい。
物事が(現在)うまく行っていないことこそ、物事が(将来)うまく行くことの根拠だったのですから、
物事がうまく行きはじめたのであれば、物事が将来うまく行く根拠も失われてしまう。

しかも。
物事がうまく行っているからには、一般民衆も前衛のレベルに追いついたに違いない。
裏を返せば、「自分たちは一般民衆よりも優れている」と信じる根拠まで失われます。

前衛のアイデンティティは、物事がうまく行きはじめたときこそ、崩壊の危機に瀕するのです!

この危機を乗り越えるには、一般民衆がついてこられないぐらいに、主張を急進化させるしかありません。
けれどもこれをやりだすと、物事は当然、うまく行かなくなる。

前衛のアイデンティティは、崩壊の危機を乗り越えようとすることで、ふたたび崩壊の危機に瀕するのです!!

早い話が
〈物事がうまく行ってもダメ、うまく行かなくてもダメ〉
ということですから、残された対処法は一つ。
ずばり、八つ当たりです。
〈うまく行きかけた物事をダメにしようと画策する敵勢力〉の存在を想定し、「敵の謀略を許すな!!」と炎上するのですよ。

というわけで、こちらをどうぞ。
『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)
http://amzn.asia/7iF51Hv(紙版)
http://amzn.asia/cOR5QgA(電子版)

が、八つ当たりはしょせん八つ当たり。
この炎上にのめり込んでゆくと、みずからの自己絶対化ぶり、あるいは妄想崛起ぶりが、いよいよ際立ってしまいます。

つまりは物事がますますうまく行かなくなるものの、ここで前衛は最後の切り札を持ち出す。
〈うまく行きかけた物事をダメにしようとする敵勢力〉を、身内に見出そうとするのです。
要するに内ゲバを始める次第。
だとしても、この帰結が自滅にほかならないのは自明でしょう。

前衛が滅びる決定的要因、それは「反動」の謀略などではなく、みずからが抱える認知的不協和と欺瞞なのです!
ご存じのとおり、かのフランス革命こそ、このような自滅プロセスの見本のごときものでした。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

ただし2012年末、第二次安倍内閣が成立してからの保守派(の大半。以下同じ)の動向にも、遺憾ながらこれと重なる点が多々見られる。

2009年から民主党政権が続いたところにもってきて、「保守のプリンス」などと言われる安倍さんが総理の座にカムバックしたため、
保守派は当初、
「ついにわれわれの時代が来た! 長年の苦労が報われた!!」
とばかり躍り上がりました。

日本は望ましい方向にどんどん変わるのだからと、主張を急進的にエスカレートさせる傾向も見られたものです。
しかし安倍内閣は、対米従属とグローバリズム路線を強めるばかりで、保守派の期待した路線を取ろうとしない。
経世済民の成果もあがらない。

さあ、保守派はどうしたか?
そうです。
〈反日勢力の策謀〉を想定し、糾弾・排除を叫びだしたのです!

まさしくセオリー通りの展開。
やはり彼らは「保守前衛」だったのでしょう。

だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)

よって、わが国の保守派の間では、これから内ゲバが激化する恐れが強い。
その帰結は、むろん自滅とならざるをえません。
たとえ一時的にであれ、物事がうまく行ってしまう(ように見える)と、かくも恐ろしい結末が待っているのです。

なお来週(9/27)と、再来週(10/4)はお休みします。
10/11にまたお会いしましょう。

ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)前衛意識に駆られて行うかぎり、戦後脱却は良くて見果てぬ夢、悪ければ自滅的失敗に終わります。詳細はこちらを。

『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)

2)右と左が、それぞれ「保守前衛」と「左翼反動」に変異し、ねじれまくった堂々めぐりを続けるにいたった構造を論じました。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

3)経世済民の道を邁進するはずだった戦後日本が、ねじれまくった堂々めぐりに陥っていった過程の記録です。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

4)保守主義とは本来、自己絶対化の対極にある思想。「保守前衛」が台頭している今こそ、原点を振り返りましょう。

『本格保守宣言』(新潮新書)
http://amzn.to/1n0R2vR

5)「われわれの力は、大陸全体の連帯から生まれる。各地域がバラバラに行動しては元も子もなくなる」(161ページ)
アメリカ独立革命の前衛トマス・ペインも、内ゲバについて心配していました。

『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

6)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

関連記事

政治

【三橋貴明】天照大神に感謝する

政治

【施 光恒】「国民」軽視が招くもの

政治

【三橋貴明】今年の年末は出雲で過ごしています

政治

【藤井聡】貞観地震後に「減税」を決断した清和天皇 ~天災が多発するデフレの今、「増税」など「悪政の極み」である~

政治

【三橋貴明】ナショナル・アイデンティティ

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【室伏謙一】「金融緩和悪玉論」を信じると自分達の首を絞...

  2. 日本経済

    【三橋貴明】聖徳太子の英雄物語

  3. 日本経済

    【三橋貴明】政府債務対GDP比率と財政破綻は関係がない

  4. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】『2023年度 国土強靱化定量的脆弱性評価・...

  5. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【3月14日に土木学会で記者会見】首都直下地...

  6. 日本経済

    【三橋貴明】無知で間違っている働き者は度し難い

  7. 日本経済

    【三橋貴明】PBと財政破綻は何の関係もない

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【岸田総裁の政倫審出席はむしろ有害】岸田氏の...

  9. 未分類

    【竹村公太郎】流域共同体の誕生、崩壊そして再生 ―新...

  10. 日本経済

    【室伏謙一】財務省が金融引締め、そして緊縮増税へ向けた...

MORE

タグクラウド