政治

2016年1月29日

【上島嘉郎】ヘイトスピーチ規制という大阪市の“実験”

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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1月15日、大阪市議会でヘイトスピーチ(憎悪表現)の抑止策を定めた全国初の条例案が自民党以外の賛成多数によって可決、成立しました。
「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」がそれで、同市は新たに設ける「審査会」の意見を聞いた上で、ヘイトスピーチを行ったと認定した個人の氏名、団体の名称などを公表し抑止を図っていくとしています。

条例はヘイトスピーチを、特定の人種や民族の個人や集団を社会から排除し、憎悪や差別意識をあおる目的で侮蔑や誹謗中傷するものなどと定義し、ヘイトスピーチの申し出や、大阪市の行う拡散防止措置や認識等の公表に関する規定の施行期日については、後日市長が定めるそうです。

また、この条例はヘイトスピーチが大阪市外で行われたものであっても、市内の関係者に影響があれば適用されます。罰則はありませんが、「いいことだ」と能天気に言えないのは、何がヘイトスピーチに当たるかの認定をめぐって、憲法に認められた言論・表現の自由との関係が甚だ不分明だからです。

条例の「ヘイトスピーチの定義」は抽象的で、拡大解釈が可能ですし、ヘイトスピーチで傷つけられたという被害者感情と、問題視された当該発言の妥当性(単なる憎悪や誹謗中傷なのか、事実に基づく批判なのか等々)がどのように勘案されるのか見当がつきません。
(条例全文は以下のサイトで確認できます)
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000339043.html

ヘイトスピーチの認定に当たっては「審査会」なる組織が当たることになっていますが、委員は5人以内で、市長が〈学識経験者その他適当と認める者のうちから市会の同意を得て委嘱する〉となっています。

さて、審査会委員の思想傾向や政治的主張は、選任に当たって市民に開示されるのでしょうか。また審査の公平性はどうやって担保するのか。審査会の意見は公表するとなっていますが、被害者のプライバシー保護を名目に肝心の部分がぼやかされる可能性もあります。

一方、「反ヘイト」を掲げる団体の暴力的言辞については、この条例を推進した人たちはどう考えているのでしょう。
たとえば慰安婦問題の検証作業を求める人々や、特別永住許可制度に疑問を抱く人々に対する反ヘイト団体の糾弾行動は問題にされないのか。反ヘイトという逆差別、言論封殺は存在しないのか…。
「朝鮮人は出て行け」は問題にするが、日本人に向けられた「死ね!ヘイト豚」は問題にならないのか。

私は、民主制における政治の基本的な役割は、共同体の構成員に対し、異なる意見の表明や相互に批判できる場と機会の提供及び維持にあると考えます。

ヘイトスピーチ規制という新たな法をつくらなくても、著しい憎悪表現は名誉毀損や威力業務妨害などの現行法で取り締まれるはずです。「人権擁護」の名のもとに発動される公権力が新たな「人権無視」を生む――という逆説は杞憂でしょうか。

ちなみに、以下は『日本と韓国は和解できない』(渡部昇一・呉善花著/PHP研究所)という対談本に出てくる渡部さんの発言ですが、これを大阪市内で講演の話柄の一つとして語ったら、渡部さんはこの条例の適用対象者となるのでしょうか。

《哲学者の木田元氏は終戦後に闇屋をやった経験を語っています。氏が江田島の海軍兵学校で終戦を迎えたとき、家族は満洲にいて引き揚げることができなかった。帰るべき家のなかった氏は知人を頼って佐賀、東京と転々としながら闇屋の手伝いをして食いつなぎ、最終的にご母堂の故郷である山形・鶴岡に落ち着いた。

その後、代用教員の職を見つけたものの、シベリアに抑留された父親以外の家族六人が帰郷し、その食いぶちを確保するために再び闇屋をやったのですが、闇屋が乗り込む汽車のなかで、朝鮮人に度々「敗戦国民ナニユウカ」などと言われて殴られ、蹴り飛ばされたそうです。

〈人が山のように群がっていて、入口から入り込む余地などなく、荷物を抱えて窓から乗り込むといった状況でしたが、みるとガラガラの車両があるんです。それが朝鮮人や中国人、台湾人が占拠した車両でした。

 そう分かっていても、とにかく乗るところがないので、その車両の窓から米を投げ入れて、続いて自分も乗り込む。すると、中で半殺しにされた。僕は若くて体格が良かったもんですから、「殴るんだったら、乗ってから殴ってくれ」なんて言いながら、無理矢理乗り込んだ。

 で、実際殴られるんですが、毎週、定期的にやっていると、顔見知りになって、「こいつは乗せてやれ」なんて言ってくれる人も現れるんですよ。〉(木田元・徳岡孝夫「わしらを育てた闇市の流儀」『文藝春秋』平成二十六年九月号)

 対談相手の徳岡氏は、〈木田さんは朝鮮人とうまくやったようだけれど(笑)、大阪の闇市などでは、朝鮮人が幅をきかせていて、怖くて行けなかったですね。〉と応じるのですが、とにかく日本人は肩身を狭くして彼らの横暴に耐えるしかなかった。》

これは問題ないよ。歴史の事実だもの、となりますか…。
大阪市の“社会実験”は、他の自治体の明日の姿かも知れません。

〈上島嘉郎からのお知らせ〉
『韓国には言うべきことをキッチリ言おう!』
(ワニブックスPLUS新書)
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『優位戦思考に学ぶ―大東亜戦争「失敗の本質」』
(PHP研究所)
http://www.amazon.co.jp/dp/4569827268

↓↓発行者より↓↓

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【上島嘉郎】ヘイトスピーチ規制という大阪市の“実験”への5件のコメント

  1. 日本晴れ より

    今の大阪市長も前の大阪市長も弁護士ですからね弁護士的な発想でしかないと思います。愚かな法律だと思います大阪は大阪都構想もそうですが、この法案で益々住みにくい街になりどんどん衰退していくんじゃないでしょうか?

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  2. yori-hey より

     低所得者向け公営住宅に、一人暮らししている前期高齢者です。ここの常識にビックリしています。スウェーデンにおいて、イスラム人の人口がスウェーデン人より増えたエリアで、スウェーデン人が虐められた、と言う話はよその国の話ではなさそうです。日本にもあるのか??と思いました。でも、日本語を話すし、見た目は見分けがつきませんので、なお難しいです。 10年程前、ある学会に所属していた時の話です。ある時、その学会の総会・セミナーに参加したら開会式の前に アリラン の曲が流されました。その時は、その意味がよく分かりませんでした。学会で国家資格化の話が出始めた頃から、急に騒がしくなり、新しく参入してきた人達からの、古くからいた者への攻撃が始まり、学会を席捲してゆきました。藤井先生の言う詭弁のような、攻撃です。大勢で一人をターゲットにして攻撃してゆく。周りで人も死にました。幸い私は、評判を落とされるという被害を受けましたが、命まで狙われるほどではありませんでした。 これが、彼らの常套手段のようです。その攻撃は今も続いています。共益費を払ってないとか、店で万引きしたとか、反論の苦手な相手には、言いたい放題で、自分達のストレス発散の対象にしてきます。 私は、「根拠もなく集団で一人をターゲットにして人の悪口を言う人達は、普通のモラルを持った人間では無く、ヤクザの息のかかった人間にちがいない」と言って反撃するので精一杯です。下手に名誉毀損だなどと訴えようものなら・・相手は法律に縛られるような人達ではありません。 ちなみに、今年のアムネスティーインターナショナルの3月の総会が、東京の猿楽町韓国のYWCAで開催されるそうです。

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  3. kanata より

    日本を貶める嘘は推奨され、それに抵抗しようとする言論は封殺される。人は中国・韓国のプロパガンダと言うが、その後ろには欧米をはじめ連合国が控える。何のことはない。70年経っても戦後レジームは揺るぎなく、日本人はウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムの中に閉じ込められているのです。そうした現実を見ないで、工作員ばかりでなく日本人までもが安倍叩きに狂奔している。その姿は、愚かであり、哀れであり、滑稽ですらありますね。

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  4. 天鳥船 より

    国会でも、以前に有田芳生をはじめ民主党議員が在特会を批判していました。確かに私も「朝鮮人は息をするな」とか「ゴキブリは巣に帰れ」とかは言い過ぎだとは思います(もっとも、韓国人はそれ以上のことを日本人に言ってますが)。しかし、そんなに日本が嫌いなら、どうぞ自分の国にお帰りください、というのは極自然な意見では無いでしょうか。在日の連中は帰るべき国の無い難民ではありません。ウリナラNo.1の誇りある祖国があるではありませんか。そもそも、ヘイトスピーチを批判する前に、彼らは何故そこまで怒っているのか。それを考える必要があります。日本の政治家は日本人には遠慮無く痛みを押しつけますが、外国(別に特アに限りません)が相手だと、いつも腰が引けたような対応で、奥歯に物が挟まったようなことしか言いません。一見平和に見える戦後の我が国も、国境の領土は蹂躙され、国民は拉致され、南太平洋では捕鯨調査船が環境テロリストに攻撃されています。(ちなみに在特会は在日韓国・朝鮮人だけでなく、シーシェパード等日本に仇なすあらゆる団体を攻撃対象にしています。)海の向こうでは日本人の子供達が、従軍慰安婦や南京大虐殺を行った国民の子孫であるとの濡れ衣を着せられ、虐めや差別を受けています。これら一国の主権を脅かすような事象に対して、この国の政治家達は何も対応をしないか、せいぜいお得意の「遺憾の意」の表明でお茶を濁す程度です。在特会は、ふがいない政治家に代わって怒っているわけです。国会議員が、主権国家の政治家としてやるべきこと、つまり日本の国益、日本人の名誉と誇りを守る行動をしっかりと行っていれば、在特会は世に出ることも無かったことでしょう。そもそも存在する余地がありませんから。一部やり方に確かに問題があるとは言え、私は在特会を批判する気にはなりません。まして、政治家に在特会を批判する資格は有りません(その前に、まず主権国家の国会議員として、やるべきことをやってこなかった自分たち自身を恥じよと言いたい)。そして、このヘイトスピーチ規制は、人権擁護法案が名称を変えて出てきたものだと危惧しています。

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  5. 拓三 より

    わたくし幼き頃、朝鮮学校と喧嘩をし担任の先生に理由はともかく反省文を書かされた経験があり、なぜかその担任から朝日新聞を進められた記憶が御座います。(その文章は「じんけん」という本に載りました)まず、喧嘩の理由は友達が(1人)が数人の朝鮮学校の生徒に罵られていた事で私が中に入り口論となり喧嘩に至った訳であります。これはどこにでもある喧嘩の理由なのですが、なぜか朝鮮学校が相手だと問題が大きくなります。これは朝鮮学校からの圧力なのか、それとも左翼思想の強い担任の自己判断なのか解りませんが(子供だったので)子供ながらに「朝鮮学校は特別なんか?」と思った次第で御座います。ヘイトスピーチ規制は反対です。そもそもヘイトスピーチ規制するならば日本人も対称に入れるべきです。日本人を傷つける事は問題なく、特定の人種、民族を傷つける事は問題であると言うのはおかしな話であり差別です。しかしながら、そうなる事で言論の自由と言うよりも言論自体、無くなる様に思います。私はヘイトスピーチを規制するよりも、嘘スピーチを規制する事を推進します。嘘で人を貶める事こそ邪悪極まり無い事は在りません。戦後教育しかり、財政しかり、大阪維新しかり………そして英霊を貶めた安倍しかり。真実は受け入れる事は出来ますが、嘘は受け入れる事は出来ません。

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