From 佐藤健志
2017年秋の解散・総選挙は
「どう転んでもロクなことにならない解散」とか
「希望なき選択の選挙」とか
「増税解散・絶望選挙」とか言われましたが、
フタを開けてみれば、
自民党が大勝、立憲民主党が躍進、希望の党が大敗、という線に落ち着きました。
自民党と公明党で、全議席の2/3をしっかりキープしましたので、憲法改正もあらためて現実味を帯びています。
7月の都議選で歴史的大惨敗を喫したときは、内閣支持率が急落したこともあって、
〈これで憲法改正も封印せざるをえなくなるのでは?〉
と思われたもの。
にもかかわらず、かなり議席を減らすことを覚悟で臨んだ選挙戦すら、野党側のオウンゴールによって大勝してしまうのですから、
安倍総理の強運ぶりには驚嘆のほかありません。
それはともかく、今回の選挙結果について、こんな記事が出ていました。
希望の党 離党者続出で崩壊し“55年体制”復活か
(NEWSポストセブン、10月23日配信)
書き出しは以下の通り。
安倍晋三・首相と小池百合子・希望の党代表は総選挙前、口を揃えてこう語った。「政権選択選挙になる」──。
しかし、これから出現するのは、国会に圧倒的勢力を持つ万年与党と絶対に過半数を持てない万年野党が定着し、
有権者が政権を選択することができない政治システムだ。
要約すれば
(1)希望の党は今後、崩壊状態に陥る恐れが強い。離党者は立憲民主党への合流をめざす可能性がある。
(2)しかし左翼・リベラル色の強い立憲民主党では、政権獲得を狙うのは難しい。
(3)ゆえに「保守」の万年与党(=自民党)と、リベラルの万年野党(=立憲民主党)が対立する、55年体制の再来のような事態になるのではないか。
という次第です。
https://www.news-postseven.com/archives/20171023_623040.html?PAGE=1#container
今の自民党は、本当のところ急進的改革主義政党なので、保守という言葉にはカギカッコをつけましたが、この点は脇に置きましょう。
希望の党が崩壊状態に陥るというのは、何ともありそうな話。
「小池劇場」は今回、まったく不発だったわけですからね。
大コケした芝居の楽屋では、内輪もめが始まるものです。
これも炎上の一形態。
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とはいえ、仰天したのはその先。
こう書いてあるのですよ。
「55年体制」とは、自民党とその半数の議席しかない社会党の2大政党中心の政治体制を示す言葉で、
1955年の自民党結党(保守合同)から、小池氏が衆院初当選した1993年の政権交代まで続いた。
38年間もの間、自民党が長期政権を維持した。
政権に不満があっても、有権者は選挙で自民党の議席を減らすくらいで、事実上、自民以外の選択肢がなかった不毛の時代だ。
55年体制が不毛の時代!(エエッ)
55年体制が不毛の時代!!(ギョェ)
55年体制が不毛の時代!!!(ガーン)
この認識にも驚嘆のほかありません。
1955年から1993年までの間に、日本は貧しい小国から、世界屈指の経済大国へと飛躍したのです。
自民党政治が最も良く機能し、経世済民が立派に達成されていた時期。
政権交代が望めなかったというだけで、それが不毛の時代なんだってさ。
ただし問題の記事は、見方次第では良い点を突いている。
2010年代の有権者は、祖国の衰退・没落を目の当たりにして、
「ふたたび経世済民をちゃんと達成してほしい!」
と願っているのではないか。
だからこそ、55年体制の立役者だった自民党を、選挙で勝たせ続けているのではないのか?
10代・20代の若い有権者の間で、自民党や安倍内閣の支持が高いのも、この分析を裏付けるものと言えます。
彼らは「経世済民ができなくなった日本」しか知らない。
しかも人生、まだまだ先が長い。
切実ですよ、これは。
・・・けれども問題は、今や自民党にも経世済民を達成する力がなくなっているとしか思えないこと。
安全保障といい、デフレ脱却といい、十分な成果をあげていないのは明らかですからね。
そしてここには、「55年体制がもたらした負の遺産」という側面が見られる。
つまりですな。
55年体制、わけても高度成長期の経世済民は
〈富国弱兵〉
という特徴を持っていた。
1970年代半ばから1980年代初頭ぐらいにかけては、「保守(派)」と目される学者たちまで、
「日本は軍事力に頼らず、それどころか軍事力を(大して)持たないまま、世界的な大国となりえた希有な国である」
と主張、ないし自慢していたのですぞ。
おまけに1980年代、日本はアメリカを脅かしかねないほどの繁栄を達成する。
「富国弱兵の路線は持続可能だ」という発想が定着しても、まったく不思議はありません。
しかし中野剛志さんが再三、力説しているように、富国弱兵路線のもとでの長期的な経世済民はありえない。
ニコロ・マキャヴェリの発想にならえば、
「金の力で平和を勝ち取ろうとする姑息な国家は、いずれ破滅する運命にあることは歴史が証明している」(※)
のであります。
(※)これはマキャヴェリの議論を、中野さんが要約したものです。
エドマンド・バークも言いました。
「金銭の扱いに強いのは良いことである。ただし、しっかりした秩序が基盤になければ話にならない」
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こう考えるとき、過去25年間のわが国が、低迷から衰退・没落にいたる道をたどっているのは、必然の帰結にすぎません。
にもかかわらず、保守もリベラルも、この点に直面したがらない!
(1)対米従属を前提とした富国弱兵路線(親米保守)か、
(2)対米従属を表向き拒否するものの、富国にも関心の薄い弱兵、ないし無兵路線(リベラル)か、
(3)富国に関心の薄い強兵路線(いわゆる「保守派」)か。
わが国の政治には、基本的にこれしか存在しないのです。
上記三派が「経世済民がうまく行かないのはあいつらのせいだ!!」と、互いに罵りあっているのが実情ではありませんか。
富国「と」強兵をともにめざすことこそ、長期にわたる経世済民の必要条件である点が、みごとに無視されている。
だ・か・ら、
『右の売国、左の亡国』と言うのですよ!
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経世済民が達成できた良き時代として、55年体制に憧れるのは大いに結構。
しかし、
「55年体制型の経世済民は、本質的に持続しえないものであり、40年近く続いたことのほうが幸運な偶然だった」
という点を自覚しないことには、
わが国がふたたび経世済民を達成する日は訪れないでありましょう。
ついでに、「富国(つまり経済発展)に裏打ちされない強兵志向は挫折を運命づけられている」ことも自覚しなければいけませんね。
なお次週、11/8はお休みします。
11/15にまたお会いしましょう。
ではでは♪
<佐藤健志からのお知らせ>
1)11月3日、BSフジ「プライムニュース」(20:00~21:55)に出演します。
テーマ:若者と政治
http://www.bsfuji.tv/primenews/(番組サイト)
2)11月24日、赤坂CHANCEシアター(東京都港区赤坂2-6-22 デュオ・スカーラ2B1F)でトークライブをやります。
題して・・・
「勝手にしやがれ! 天下国家VOL.2
天高く総崩れの秋~希望も足りない! 絶望も足りない!」
18:00オープン、19:00スタート。
司会はSayaさんで、チケットはワンドリンク付3500円です。
参加のお申し込みや問い合わせは、主催団体「カルティベイトの会」までどうぞ。
http://peatix.com/group/52292
または
cultivate1group@gmail.com
3)産経新聞の総合オピニオンサイト「iRONNA」に寄稿しました。
「小池百合子の『リベラル潰し』はなぜ失敗したのか」
http://ironna.jp/article/7964
4)10月16日発売の『表現者』75号(MXエンターテインメント)に、評論「日本よ、汝は何処にも行けぬ」が掲載されました。
5)経世済民ができた時代への憧れと、「当時のような経世済民はありえない」という現実に、どう折り合いをつけるのか? これこそ、戦後脱却の成否を決定的に左右する事柄です。
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6)経世済民をいったんは達成できた戦後日本が、富国弱兵へのこだわりから衰退・没落の道をたどった過程の記録です。
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7)「富国弱兵路線の経世済民は続かない」という真実から目を背けようとした結果、保守もリベラルもすっかり自己矛盾に陥ってしまいました。詳細はこちら。
『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
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8)「バカげた理念を、行き当たりばったりの実践でどうにか埋め合わせようとする過程について、いちいち追いかけて何になろう」(エドマンド・バーク)
政治の目的は経世済民の達成です。事態が総崩れの様相を呈しているときこそ、この基本に立ち返りましょう。
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9)「独立の偉業さえ達成できれば、負債など物の数には入らない。そもそも、国は負債を持つべきなのだ」(176ページ)
「独立」を「経世済民」に置きかえても同じです。だ・か・ら、プライマリーバランス黒字化目標を破棄せよと言うのですよ!
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