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2024年12月12日

【藤井聡】【韓国戒厳令報道が証明】「日本のオールドメディア」の「英米メディア」に比べた圧倒的なレベルの低さ…なぜそんなにレベルが低いのか?

経済・財政に関する報道のダメっぷりはもちろんのこと,最近では兵庫県知事で話題になったオールドメディア問題.

しかし,「日本の全国ネットのテレビや全国紙のレベルの低さ」を「誰もが納得できるかたちで証明する」ことはなかなか容易ではありません.

例えば「経済・財政報道のダメさ」は,経済理論やマクロ経済データという「専門的内容」と「報道内容」とが「どう違うのか?」で明らかになるものです.ですが,その「専門的内容」を理解することは,どれだけ分かり易く記述しても(経済や財政にさして興味の無い)一般の方々には,必ずしも容易ではありません.

だから「経済・財政報道のダメさ」を理解することは,多くの国民にとって必ずしも容易ではないのです.

また,兵庫県知事で話題になったオールドメディア問題は,「SNS」との対比で指摘されていたものですが,そのSNS情報自体が,誰もが納得できる程に明らかに正しいかどうかと言うと勿論,そうでは有りません.

その結果,オールドメディア情報がSNS情報と異なるからといって,万人が「オールドメディアはやっぱりダメだ」ということに賛同するかといえば必ずしもそうでは有りません.

しかし,今回の「韓国の戒厳令」は,世界を震撼させた「日本でも欧米でもないスーパービッグニュース」でしたのでので,日本と欧米各国が同時に同じテーマを一斉に報道する,という希有な機会となったのであり,したがって,日本のオールドメディアのダメさを「証明」する絶好の機会となっているのです.

そもそももしもそれが日本国内の事案ならその報道が日本と欧米で違っていても,同様に欧米関連の事案なら欧米と日本の報道が違っていても,それは当たり前だということになります.

さらに言うなら,日米欧以外のニュースでもそれがさして大きなニュースでなければ,そのニュースの重要度が各国で異なることから,日本と欧米の報道が違っても不思議なことではありません.

ところが,今回の「韓国の戒厳令」というニュースは,それが民主主義の根幹を揺るがす恐るべき内容であることから,日本や欧米といったあらゆる民主国家にとっての「スーパービッグニュース」.だから,各国の各メディアが総力をあげて報道することとなったのです.

しかも,それが「韓国」であり,日本でも欧米でもない国のニュースですから,それはいわば「第三者」の視点で客観的に報道できる,というものでもありました.

ですから,この韓国戒厳令は,日本のメディアも欧米のメディアも,同じ条件で「精一杯」報道する,希有なケースとなったわけです.

…で,日本のメディアと欧米のメディアが,この韓国戒厳令をどう報じたのかを12月5日の時点で確認すると,両者の間に驚くべき相違があったのです.

詳しくは,

『韓国「戒厳令」報道で露呈…日本メディアは英米より「圧倒的にレベルが低かった」!「隣国の暴挙」でさえ、まともに報じることができないのか』
https://gendai.media/articles/-/142824

で解説しましたが,煎じ詰めて言うなら,多くの人々が最も関心を抱く情報である「なぜユン大統領は,失敗することはほぼ確実であった無理筋でしかない『クーデター』に踏み切ったのか?」という一点についての重要情報が,日本の大手メディア(NHK,テレビ朝日,毎日新聞,読売新聞)には殆ど全く報じられていない一方で,欧米の大手メディア(New York Times, BBC)ではしっかりと報じられていたのです.

日本の大手メディアには,どの記事を見ても「最小限の情報」と,妻のスキャンダルや大統領の側近の情報等の「断片的情報」が散発的に掲載されているだけ.したがって,それらをどれだけ読み込んでみても,ユン大統領が戒厳令に踏み切った「必然性」が全く見えてきません.

ところが,欧米メディアのNew Youk TimesにしろBBCにしろ,それぞれの単一の報道の中には…
ユン大統領誕生前夜の状況や大統領誕生から今日に至る経緯,そして,現在の韓国の政治状況といった背景情報が説明され,ユン大統領の国会運営が如何に行き詰まっていたか,したがってそれ故に,「戒厳令」という民主国家にとって余程の例外中の例外的対応を図る以外に,現状打開はできないとユン大統領が主観的に認識するに至ったのだろうと思わしめる十分な内容が報じられているのです.したがって,読者に最低限の国語能力さえあれば,戒厳令にいたる「必然性」を理解できる(それは勿論,賛同できる,ということでは断じてありません)内容がしっかりと報道されていたのです.

しかも重要なのは,アメリカのNew York TimesにしろイギリスのBBCにしろ,記述方式は全く異なるものの(大西洋を挟んだ西と東の国ですから違っていて当たり前です),それぞれを読了した上で読者が主観的に形成する「必然性についての理解」が驚く程に一致しているのです.

当方は上述のように,日本のニュースにどれだけ目を通しても,ユン大統領の判断の必然性が見当たらなかったが故に,戒厳令が出されたのか理由が全く分からず,単なる「謎」でしかなかった一方で,New York TimesやBBCの報道に目を通したとき,その「謎」が一気に氷塊し,その理由がいとも容易く理解できるようになったのです.

これでは日本の世論において,目の前で起こっている様々な事案についての<正しい解釈>が共有できない一方で,イギリスや米国の国民は,一定の国語力さえあれば,それなりに<正しい解釈>が共有認識あれるのも「当たり前だ」,と言うこともできるでしょう.

…ではなぜ,日本と欧米でそれだけのメディア格差があるのでしょうか?

その理由は至って簡単です.

欧米メディアは,メディア自身が「なぜ,戒厳令が発出されたのか?」という,国民が最も重大な関心を抱く当たり前の疑問に答えようと努力をして,記事が構成されている一方で,日本のメディアは,そういう疑問に答えることよりも,「報道したことで,後で一部の国民や何らかの圧力団体に批難されたり訴えられたりしないことを<真実>の報道よりも優先している」からです.

そもそも,「なぜ,戒厳令が発出されたのか?」の「物語」(あるいは解釈)には,理論的には無数の答えがあります.ですからメディアが提示した「物語」(解釈)がどれだけ読者にとって有用であろうと<真実>であろうと,

「それは違う!」

と反論される可能性が常に存在するのです.

そしてとりわけ,その「物語」(解釈)が,特定個人(政治家や有力財界人等の)や何らかの圧力団体(政党や政府,特定省庁,外国政府,財界,企業等)にとって不都合なものであったのなら,その報道機関が何らかの「不利益」を被ることもあり得ることになります.そして場合によってはスポンサーが離れることや訴訟を起こされることともなり得ます.

一方で,「事実だけを報じて」いれば,あるいは,有識者や専門家が「こういう要素も原因の一つだ」という程度のコメントを「紹介」するだけなら,読者にとってはさして有用な情報でないとしても,スポンサー離れや訴訟等の「リスク」を全て回避することができます.

日本の大手メディアは結局全て,欧米メディアが当たり前に掲載している読者にとって有用な情報としての「物語」や「解釈」を掲載することを,「リスク回避」というだけの理由で,徹底的に回避しているわけです.そしてその結果,日本国民は,欧米人があたりまえに理解している「韓国で戒厳令が敷かれた理由」を全く理解できなくなっているのです.

同様のことが,トランプ大統領誕生の歴史的必然性についても,プーチンがウクライナ侵攻に踏み切った必然性についても,そして,デフレ不況の時の大型財政政策の理論的必然性についても生じており,その結果,日本人だけがそれらの理由を全く理解することが出来ず,全て「ちんぷんかんぷん」な状態になっているのです.

それ故,トランプ大統領もプーチン大統領も,そして,ユン大統領も皆,「頭がおかしくなって」しまったある種の「狂人」達であり,その結果,常軌を逸した政治判断を繰り返しているのだ,と考える他なくなってしまっているのが今の日本人です.

そんな状況ですから,奇をてらったトンデモ説や特殊な陰謀論を主張する人々が後を絶たないのです(それが所謂「石丸現象」や「斎藤現象」の実態です).

つまり一言で言って,欧米のメディアはまだ<真実を伝える>というジャーナリズム精神が残されている一方,我が国日本のメディアにはそうしたジャーナリズム精神があらかた消失してしまっており,単なる「事なかれ主義」にあらかた支配されてしまっているわけです.

今の日本は,首相官邸や自民党をはじめとしたあらゆる領域・側面において腐敗しているわけですが,マスメディアもまた,その例外ではない,という次第です.(ただし,だからといってSNSの世界だけが聖域として残されており,全く腐敗していない,なんてことは断じてない点も,ここに改めて明記しておきたいと思います).

…ということで,当方含めた我々が属している何らかの組織や業界も決して例外ではないでしょうから,そこに「本分」を忘れた「事なかれ主義」が蔓延していないかどうか…それぞれのお立場で自他共に四六時中,チェックし警戒し続けて参りましょう.

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【藤井聡】【韓国戒厳令報道が証明】「日本のオールドメディア」の「英米メディア」に比べた圧倒的なレベルの低さ…なぜそんなにレベルが低いのか?への1件のコメント

  1. 利根川 より

     欧米メディアの方がまだマシというお話ですが、どこの国もたいして変わりないんじゃないでしょうか。
     ちなみに、先日の報道ステーションでは畜産業の危機について詳しく報道がなされていましたし、番組の中では

    有識者「欧米では農業畜産コストの半分を政府が担っているのに対し、日本では価格転嫁(事業者と消費者)に全ての負担を押し付けている」

    と、至極まっとうな解説がされていました。リポーターの方のバルクもなかなか良かったです。
     鈴木宣弘教授によると、人類は食糧自給率の維持方法について

    ・アメリカ方式(輸出補助金

    ・ヨーロッパ方式(戸別補償

    この2つしか今のところ発明できていないそうで、食糧自給率を上げたいということであれば政府が支出を増やすしかないわけですが、日本では財務省が「どっちも嫌」ということで、全ての負担を事業者と消費者に負わせてしまっているわけですね。

    菅総理「もたない企業は潰すから」

    デービット・アトキンソン氏「企業の新陳代謝でゾンビ企業をつぶせ!スタートアップ企業を増やして経済成長だ!」

    ということで、自公政権は「つぶれるような弱い企業を淘汰し、スタートアップ企業を増やせば経済成長する」という方針のもと、畜産をはじめ多くの中小企業を廃業に追い込んでいるようです。

    イノベーション理論の元祖シュンペーター
    「いいかい、企業の淘汰にはいい淘汰と悪い淘汰があるんだ」

    「手織り機による手工業が力織機による機械産業に取って代わられる」

    「つまり、イノベーションによって企業の淘汰が進むというのは成長する経済においては生じてしまうものだし、それが正常」

    「一方で、戦争やパンデミック、あるいは金融ショックやそれに続くデフレによる企業淘汰というのは悪い淘汰であり避けるべきだ。起きてしまった場合は政府がこれを助けるべき」

    「君たちは『もたない企業をつぶして』企業淘汰を進めているのにスタートアップ企業が増えないことを疑問に思っているそうだが、

    「不況をほったらかしにすることによる淘汰(悪い淘汰)で淘汰されるのは古い企業ではなく、新しい企業(スタートアップ企業)なんだよ」

    「不況時は人々は安定を求める。おいしいかどうか分からない新商品より確実に美味しいことがわかってるいつもの商品を買う」

    「つまり、古い企業の方が残りやすいんだよ」

    「加えていえば、スタートアップ企業が増えるから経済成長するのではなく、経済成長しているからスタートアップ企業が増えるんだよ」

    ということでして、基本的に日本のエリートもデービット・アトキンソン氏のような海外のエリートもたいして変わりがないアレなんじゃないかなと、、、
     上で紹介したように、最近はTVメディアもけっこう頑張ってくれている人も増えてきたように私は感じていますが、藤井教授はいかがでしょうか。このことは教授の成果でもあると思いますが

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