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2024年1月9日

【室伏謙一】能登半島地震ショックドクトリンに要注意

 皆さん新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 まず、元旦に石川県の能登半島を中心に発生した令和6年能登半島地震により亡くなられた方々、そしてその親族の方々に心からお悔やみを申し上げるとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げます。

 さて、今回の地震は緊縮財政による地方への過少投資、端的に言って地方切捨ての弊害がもろに出たものと言っていいでしょう。もちろんそれによって地震が起きたなどと言っているわけではありません。(そんなこと当たり前なんですが、ネットではこの手の意味不明な幼稚なツッコミが、それ相応に知識や経歴もありそうな人からも行われることがあるので、念の為。)

 具体的に言えば、この地域における国土強靭化が十分に行われていなかったということ。特に、半島という特異な地理的条件において、災害が発生した際に物資や被災者救出のためのインフラの整備が不十分であること。のと里山海道はまだまだ多くの区間が片側1車線の「なんちゃって高速道路モドキ」であるのみならず、今回の被災地への主要な道路としてはこれしかありません。(富山方面からの能越道もありますが、これは途中からのと里山海道に合流するため、結局は同じです。)加えて、この高速道路モドキも、大きな被害を受けた輪島や珠州にまで達してはいません。確かに半島の真ん中あたりを幅の広い道路が通っていますが、あくまでも一般道です。

 こうしたことが、被災者への支援や救出を遅くしている大きな原因の一つとなっていると言っていいでしょう。そして、地方交付税交付金の大幅減額等を通じて公共事業が減ったことで、地域の建設会社も減ってしまいました。その結果、救出や復旧において活躍するはずの作業員や重機が足りないという状況にもなっています。

 これらは全て緊縮財政の結果です。

 しかし、今回の地震で我々が警戒し、注意しなければいけないのは、震災につけ込んだショックドクトリンです。

 例えば、水道管が被災したが復旧には時間とお金がかかる、それならば、今こそ水道コンセッション(岸田政権ではウォーターPPPという摩訶不思議なカタカナ語で誤魔化そうとしていますが)だ、とか、耐震化が必要だが、一軒一軒やっていたら時間とお金もかかるから、今こそコンパクトシティだ、集合住宅を作ってそこに集住させよう、ただしその建物はPFIで民間が建設して賃料で回収しよう、とか。いずれも県外の民間企業(大企業や外資)は儲かりますが、地域は破壊され、地域住民への負担は増えるばかり。加えて「空いた」土地は中国資本なり大資本なりに廉価で買収されて、観光施設にでもなっていくでしょう。まるで地震による津波被害の後、外国資本によって海岸を奪われたスリランカの漁村のように。

 さらに、今回の震災被害への予備費の執行、第一段階でたったの50億円未満。日頃から財務省が強調してきた「財政余力」なるものとはこの程度だったのかと、奴らのトチ狂った頭にはホトホト呆れ返ります。しかし、それでも財務省は「被災地を支援するのはいいし、復旧・復興に予算を出すのはいいが、財源はどうするのか?」という話を必ずこれから出してくるでしょう。皆さんは「財源、国債、以上」となりますが、多くの国民はまだ金貨銀貨の世界から抜け出せていません。それをいいことに、大手メディアや御用学者、御用言論人を使って「財源論」を喧伝し、必ず復興増税を主張してくるでしょう。既存の復興税を増額する形で実質的な恒久的な増税を、財務省は必ず画策してくるはずです。

 しかし、「被災地の復興のためにはやむなし」なんて思ってはいけません。増税は国民経済から貨幣を消すものでしかなく、お金を出して地域経済を回していかなければいけない時に、むしろ経済を冷え込ませる方向にしか機能しません。それになんと言っても復興増税の仕組みは、被災地の人たちや企業も増税されるものです。

 被災地は打ちひしがれ、被災地以外では被災地を支援しよう、復興を助けようという機運が高まっている時は、財務省にとっては絶好の機会です。

 正しい貨幣観、財政観、そして税の役割についての理解を一緒に広めて、震災を悪用した財務省、そして私利私欲に塗れた外資や大企業の横暴を阻止しましょう。

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【室伏謙一】能登半島地震ショックドクトリンに要注意への2件のコメント

  1. 利根川 より

     私は正義の味方ではございません。その私が正義の話をするのもおかしな感じがしますが、被災地支援をするのが正義であるなら、被災地支援を邪魔するのは悪ということになりますね。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    「被災地の復興のためには(増税も)やむなし」なんて思ってはいけません。増税は国民経済から貨幣を消すものでしかなく、お金を出して地域経済を回していかなければいけない時に、むしろ経済を冷え込ませる方向にしか機能しません。それになんと言っても復興増税の仕組みは、被災地の人たちや企業も増税されるものです。
     被災地は打ちひしがれ、被災地以外では被災地を支援しよう、復興を助けようという機運が高まっている時は、財務省にとっては絶好の機会です。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

     東日本大震災の際には、財務省の御用学者たちが、

    財務省の御用学者「今なら『復興のために』と言っておけば国民は増税に反対しないだろう」

    などと言って、復興増税を行い、被災者からも容赦なくとっていったわけです。当然、経済がガタガタの時に増税をするなどということは、どのような経済理論をもってしても正当化できないほど異常な政策です。ましてや被災者からもむしり取るとか被災地に何か恨みでもあるのかと…被災地支援の邪魔をするのが悪だというのであれば、まさに彼らは悪そのものだったのではないでしょうか。
     財務省界隈では増税に貢献したものが出世をするというルールがあるそうなので、被災地のことなど知ったことではなかったのでしょうね。
     あまりにも日本の財政政策が異常なので、ノーベル経済学者のポール・クルーグマンがわざわざ日本にやってきて「消費税を増税してはいけない」と安倍晋三総理に提言書を渡したり、自民党の勉強会に同じくノーベル経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授教授がやってきて、まっとうな経済政策について話をしたりしたわけです。

    スティグリッツ教授
    「最後に、緊縮財政は正しい政策ではありません」

    「緊縮財政は、経済成長をもたらす方法ではありません。緊縮財政がうまくいったことはありません。」

    「『経済政策の第一の目的は完全雇用を維持することであり労働や資本を含むすべての資源が使われるようにすることです』」

    「『第二の目的は、将来の持続可能性を確保する方法で政策を行うことです。将来のための持続可能性とは投資を行うことです』」

    「今こそ投資を行う上で特に重要な時期だと思います」

    「というのも、今は転換期であり未来の基礎になるからです」

    まあ、自公政権は全部無視して今でも緊縮政策を続けているんですけどね。
     野党にしても、財務省に喧嘩を売ってスキャンダルをリークされると困るからか、早々に白旗をあげてしまいましたしね。野党の議員だって裏金とは言わないまでも似たようなことはやっているのでしょうしね。

    記者「自民党は次の選挙では公約に消費税減税は掲げないそうですが、対抗する野党は消費税減税を公約に入れるのでしょうか?」

    立憲・泉代表「責任ある野党として消費税減税は掲げません」

    これには積極財政をうったえてきた原口議員も激オコな様子でした(苦笑い
     現在、最後の大物官僚・斎藤次郎大先生を怒らせた安倍派(の下の方)が見せしめに粛清されているようですが、これを見てもわかるように懸命に財務官僚のケツを舐めてきた自民党ですらやられるときはやられるのだから、もう、財務省とは戦う以外ないんですよ。これは、与党の議員だけでなく、野党の議員にも言っています。
     少なくとも、今回の災害に関して「復興の財源はどうするんだ」「もちろん増税だ」という財務省に媚びた議論はしないでいただきたい。
     財源がなければ何なのでしょうか。復興支援しないのでしょうか。識者・技術者が足りないという話であればまだわかりますが、日本円を発行できる日本政府が日本円が足りない(財源が足りない)など臍が茶を沸かすって話です。こんな時までやってんじゃねーよ。

    話は変わりますが、財務省が相手でも言うべきことは言う森永卓郎さん。先ごろ膵臓癌を公表されていましたが、無事に体に合う薬が見つかったそうでだいぶ楽になったとのこと。
    室伏さんにも森永卓郎さんにもまだまだ頑張って頂かないといけないので体を労わってあげてください。

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  2. 利根川 より

    「能登半島地震であえて問う、20年後に消滅する地域に多額の税金を投入すべきか」

    ネットではこのような議論がでているそうで…クズなのかバカなのか知りませんが、よもやこれほどとは。
     以前、室伏さんがおっしゃっていましたが、

    室伏さん「道というのは人が住んでいない土地、住みにくい土地に向かって伸ばしていって、そこに人や物を運ぶことで人が住みやすい土地にしていくもの」

    とのことで、20年後に消滅しないように「今」しっかり投資をしておくべきなのですが、自称・有識者界隈では真逆のことを言っているようですね。
     まず、「税は財源ではない」わけですが、そこは一旦おいておくとして、財務省の意向に従って被災地支援を出し渋りしたとしましょう。そうすると、人口流出が起こるわけですが、流出した人口がどこに向かうのかというと、まあ、関東圏内、もっと言えば首都圏にも向かうわけです。
     首都圏といえば、タワーマンションにみるように人が住めるスペースが確保できないせいで空に向かって伸ばすしかない「超人口過密地域」と化しています。その人口過密がさらに進めばどうなるのか。
     ご指摘のように比較的人口の少ない日本海側で起こった能登半島地震ですら

    簡易トイレ(トイレ・トレーラー)が足りない

    仮設住宅がない

    生活用水の十分な確保ができない

    という有り様なのに、人口が密集している関東で首都直下地震が起きたら…まあ、確実にトイレも生活用水の分配も間に合わないでしょうね。
     国会でも東京一極集中が問題視されていますが、普通は広い国土に分散して暮らせるようにするものなんですよ。(防災的にも国防的にも)
     東京・首都圏は1950年には総人口の15%を占める都市圏だったわけですが2012年には30%を占めるまでになりました。パリやロンドンが今でも全人口の15%程度のままで、人口比を増価させてこなかったことと著しい対照をなしています。どうしてこんなことになったのか。

    地方自治体の予算(地方交付税交付金)を減らし続けてきたせい

    なんじゃないでしょうか。
     日本は小泉政権の「三位一体の改革」以降、地方交付税交付金を減らし続けてきました。元々は20兆円を超える予算が出ていたわけですが、今は17兆円程度となっています。小泉政権以降の一連の流れは、

    「デフレで地方税収が減少する中、地方交付税交付金を減らし、自治体の財政を悪化させ、水道民営化や公務員の派遣化など民間ビジネスの利益を増やす」
     
    というものでした。ここで、人口千人当たりの公的部門における職員数を見てみましょう。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較(出典:人事院

    フランス 89.5人

    ・中央政府職員 24.6
    ・政府企業職員 19.2
    ・地方政府職員 41.6
    ・軍人・国防職員 4.1

    イギリス 69.2人

    ・中央政府職員 5.1
    ・政府企業職員 36.1
    ・地方政府職員 24.8
    ・軍人・国防職員 3.2

    アメリカ 64.1人

    ・中央政府職員 4.4
    ・政府企業職員 2.0
    ・地方政府職員 51.0
    ・軍人・国防職員 6.7

    ドイツ 59.7人

    ・中央政府職員 2.8
    ・政府企業職員 7.5
    ・地方政府職員 46.5
    ・軍人・国防職員 2.9

    日本 36.7人

    ・中央政府職員 2.7
    ・政府企業職員 5.3
    ・地方政府職員 26.6
    ・軍人・国防職員 2.1

    ※日本の「政府企業職員」には、独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人、特殊法人の職員を計上している。
    ※日本の数値において、国立大学法人、大学共同利用機関法人、特殊法人及び軍人・国防職員以外は、非常勤職員を含む。

    特に、日本の2000年以降の減らし方は異常 2001年には 防衛省職員、裁判官、裁判所職員、国会職員を除く一般公務員数は80万人いたが、今は30万人しかいない
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

     被災地ということで一括りにせず、被害状況に応じて適切な支援をしてほしいとの声もありますが、そもそも、行政の人手が足りておらず、物資の分配も「自分で取りに来てもらうしかない」状況とのことで…
     防災以外にも食料自給率の問題や防衛・科学技術研究など、近年の日本は様々な課題を抱えていますが、原因をたどっていくと全て財務省による緊縮財政にぶち当たるわけでね…ここをどうにかしない限り事態は好転しないのだろうなと。

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