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2024年1月10日

【藤井聡】【能登半島地震と『命の道』】道路寸断のため救援ままならず。道路復旧が被災地救援の第一歩。「道路強靱化」こそ災害対策の「要」である。

能登半島地震から5日が経過し、その被害の深刻さが日に日に明らかになってきています。

既に多くの方々の命が失われてしまうと同時に、生き残った多くの被災者の方々に未だ、救護、救援が届いておらず、その結果、折角助かった命が失われてしまうという事例が様々に報告されてきています。

なぜ今、多くの被災者が孤立しているのかと言えば…半島各地の道路が被災し、通行不能となっているからです。

そもそも「半島」という地形は、それぞれの地が一方向からしかアクセスできない、という弱点を抱えています。

その結果、内陸部と違って一部の道路の破断で、全く到達不能となり、孤立無援となる地域があちこちに生じてしまいがちとなるのです。

では、今、どれだけの道路が破断し、通行不能となっているのかといえば、少なくとも国土交通省の公表資料(https://www.mlit.go.jp/saigai/saigai_240101.html)によりますと、1月6日午後3時時点で、以下の道路区間が通行止めとなっています。

○高速道路 1 路線 3 区間で通行止め
○直轄国道 1 路線 1 区間で通行止め(国直轄の国道)
○補助国道 3 路線 29 区間で通行止め(都道府県管轄の国道)
○都道府県道等 3 県 69 区間で通行止め

このように、高速道路や直轄国道という、道路の中でもとりわけ「強靱」な構造物で作られた道路は、通行不能となっている区間はごく一部なのですが、都道府県管轄の補助国道や都道府県道は、あわせて100区間程度で通行止めとなっています。

その結果、少なくとも昨日夕刻時点で、能登半島の23地区(輪島市で14地区、能登町で5地区、珠洲市で3地区、穴水町で1地区)が、外部からの救護救援が全くできない「孤立」状況に置かれていると報道されています。

ただし、これらの孤立地区数は「分かっている範囲」での数字ですから、実際にはこれよりももっと多くの地区が孤立無援の状況となっていると危惧されています。

さて、道路の破断状況もまた、少なくとも都道府県道や補助国道(都道府県管轄の国道)では情報がスグには集まらず、日に日に破断数が拡大してきていきました。

補助国道 通行止め区間数
   2日(16:00)   3日(14:30)   4日(14:30)   5日(14:15)  6日(15:00)
    7区間  ⇒ 28区間  ⇒  29区間  ⇒  29区間 ⇒  29区間

■都道府県道 通行止め区間数
   2日(16:00)   3日(14:30)   4日(14:30)   5日(14:15)  6日(15:00)
    24区間  ⇒ 56区間   ⇒ 71区間 ⇒  76区間 ⇒  69区間

都道府県道は地震6日目になって初めて一部、通行止めが解除され、通行止め区間が減少する現象が起こっていますが、殆ど復旧されていない様子がよく分かります。

その理由は第一に、受けた被害が激甚であったことと、第二に、そこまで復旧の手が回っていないから、という理由があります。

詳しくデータを見ると、こうした地方管轄道路の被害状況は「土砂崩れ」や「法面崩壊」「盛土崩壊」「道路損壊」「道路沈下」といった抜本的な道路破壊が生じていたことがわかります。

一方で、高速道路や国直轄の国道という「レベルの高い」道路では、情報が迅速に集められていると同時に、日に日に開通していく様子がハッキリと示されています。

■高速道路 通行止め区間数
   2日(16:00)   3日(14:30)   4日(14:30)   5日(14:15)  6日(15:00)
    20区間  ⇒  10区間  ⇒  10区間  ⇒  3区間 ⇒  3区間

■直轄国道 通行止め区間数
   2日(16:00)   3日(14:30)   4日(14:30)   5日(14:15)  6日(15:00)
    2 区間  ⇒ 1 区間  ⇒ 1 区間  ⇒  1 区間 ⇒  1区間

高速道路が直轄国道よりも当初の通行止め数が多くなっていますが、これは軽微なクラックでも、大事をとって通行止めにするという丁寧な対応を取っているからです。

いずれにしても、今日の時点で高速道路で通行止め区間は3区間、直轄国道では1区間に留まっています。

これは第一に、これらの道路の耐震強度は、地方管轄の同よりもより高いレベルとなっており、地震被害の程度が、地方管轄の道路よりも圧倒的に小さいことが原因です。そして第二に、概ね道路それ自身が大きな被害を受けていないため、被った被害に対する復旧も早期に完了可能であったことも重要な理由です。

激甚な被害を受けた地方管轄の道路は、破壊箇所の一つ一つに復旧部隊が到達することが困難であり、したがって、復旧が全く進んでいないのです。

その結果、直轄国道や高速道路が整備されている地区は、「孤立」することなく、迅速に救援、救護の部隊が入ることが可能となったのです。結果、生き埋めにされた多くの人々の命が、その命が絶えるまでの間に救出することができたのです。

ところが、直轄国道や高速道路が整備されていなかった地区は、「孤立」してしまったわけです。その結果、救援部隊さえ到着すれば救われたであろう方々が、72時間以上放置されてしまい、その結果、命を落とすというケースが様々に拡大してしまっているのです…。

誠に無念という他ありません…。

ちなみに、高速道路は能登半島の真ん中の七尾市あたりまでしか北陸道と接続していませんでした。

七尾市と輪島市までの間も計画はされており、その一部が開通していましたが、輪島までの区間は事業化中で、整備は全く完了していなかったのです。

これが、輪島市において、14地区もの孤立地区が発生してしまった最大の原因となっているのであり、輪島市においてとりわけ大きな被害が生じてしまった最大の原因なのです。

もしも、輪島地区までの高速道路が完備されていれば、そして、この輪島地区から半島の先端の珠洲市まで高速道路の計画があり、その整備が完了していたなら、珠洲市の被害もさらに縮小させることができた筈なのです。

なお、土木学会の当方が委員長を務める「国土強靱化定量的脆弱性評価委員会」(https://x.gd/0sKUo)では昨年度、高速道路の整備や緊急輸送道路の強靱化(橋梁の耐震かや、沿線の電柱の地中化等)を進めることの、減災効果を、マクロ経済モデルを用いて推計しました。

このモデルでは、道路ネットワークの強靱化対策を地震前に完了させておけば、第一に震災直後に迅速な救護、救援に入ることができるが故に「初期被害」が大きく軽減され、第二に、迅速な復旧、復興が可能となるが故に「早期回復」が可能となるという二重の効果故に、トータルとしての震災被害を軽減できるというメカニズムを統計数理的に表現したものとなっています。

そして、その評価の結果、例えば、南海トラフ地震では20年間累計で一千兆円を越える経済被害が生ずるのですが、十分な道路強靱化対策(高速道路整備と耐震補強、電柱地中化)を量っておけば、おおよそ15%~20%も、その被害を減ずることができることを学術的に明らかにしています。

逆に言うなら…この度の地震の被害状況は、奇しくも、この土木学会のシミュレーション分析の正当性を客観的に示すものとなっているようです…

つまり、「道路強靱化」こそが、災害対策の「要」なのです。

追伸1:道路強靱化ができない根本的原因は、偏に、日本の政界から「宗教性」が蒸発してしまったが故…是非、下記クライテリオン最新号『「政治と宗教」を問う』をご一読下さい。


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  定期購読:https://the-criterion.jp/subscription/

追伸2:本記事は「藤井聡・表現者クライテリオン編集長日記」(https://foomii.com/00178)の抜粋です。このメルマガでは、下記記事を昨日、一昨日と配信しました。

【批評・松本人志スキャンダル】裁判の判決とは別に、ハリウッドMe Too問題と同様の「芸能界の優越的地位を活用した強制的集団的性加害」の有無に重大な焦点あり(前半)
https://foomii.com/00178/20240110055723118889

デフレになると貧困化するだけじゃない。産業力も外交力も防災力も皆ダメになり、規範が溶解し人間の畜生化が進行し、財務省の権力が拡大し、国家が滅んでいくのです…
https://foomii.com/00178/20240108135555118831

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