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2024年1月12日

【竹村公太郎】地形と気象が産んだ日本語(その2)―日本語は人類の起源―

 日本語は異常に発生音が少ない。
その代わり、異常に語彙が多い。
世界の言語と比較して
とても不思議な言語である。
未来の生成AIのチャットGPTの
時代が迫ってくる今、
過去を振り返り
日本語とはいったい何者なのか?
日本語の源流とは何か?
の疑問が迫ってくる。

 

人類の言語の源流

ホモ・サピエンスの登場は
20万年前に遡る。
もちろん文字が登場する以前から
人類は会話をしていた。
文字が登場するのは
せいぜい5千年前である。
言語の進化は、
音声が先で文字は後である。

では、人類言語の発声の源流は
どのようなものか?
言語の発声で具体的で確実な
手掛かりなど残っていない。
石器時代の人骨化石をいくら調べても、
言語の発声分析はできない。
言語を司る脳の左脳と右脳の機能分担など
調べようがない。

人類言語の発声音の
源流へのアクセスは
推定のみとなる。
推定の根拠を何にするか?

私は地形を鍵として推論を進める。
日本とユーラシア大陸は
明らかに地理と地形が異なる。
日本人とユーラシア大陸人の言語比較を
「地形」を拠り所としていく。

 

日本人と西欧人の言語の脳

半世紀も前、
東京医科歯科大学の角田忠信教授(当時)が、
「日本人の脳」(大修館書店‘78)で
日本人の脳と西欧人の脳に
相違があることを明らかにしてくれた。
その後の半世紀間、脳の研究装置も
格段に高度化し、
脳研究レベルは遥かに進歩した。
その点を考慮しても
角田先生の研究は
「脳と言語」を俯瞰していて分かりやすい。
地形と気象で文明を見ていく
インフラ屋の私にとって
役に立つ一冊となった。

角田教授の研究成果のポイントは、
次のようになる。
① 西欧の言語は『子音』が優性。
② 西欧人は、自然界の虫の音や
赤ん坊のギャーギャー鳴声や
ワーと叫ぶ怒鳴り声の感情音は
『雑音』として右脳で収納されている。
③ 論理は左脳で処理している。
つまり、西欧人の論理は
計算を組み込んで
子音中心で構成されている。
④ 日本の言語は『母音』が優性する。
⑤ 日本人は、
「虫の音の自然音や
人の感情音声そして母音、子音」
は左脳に収納されている。
⑥ 論理は左脳で処理している。
つまり、日本人の論理は自然音、
感情音も組み込んで
母音中心で構成されていく。

西欧人は論理的で、
日本人は論理的でないと
言われることが多い。
その原因は、
左脳と右脳の機能差に起因していた。
日本人の論理の情緒性の理由が
胸にストンと落ちていく。

なお、これは遺伝ではない、
生まれ育った環境による。
つまり、アメリカで生まれ育った
日本人の脳は、西欧人と同じ機能であった。
言語は子音中心であり、
虫の音や感情音声は
雑音として右脳で処理されていた。

逆に、日本で生まれ育ったアメリカ人は、
日本人と同じ脳の機能であった。
言語は母音中心であり、
虫の音も感情音声も左脳で処理されていた。

言語を司る脳の機能は、
人種の違いではない。
遺伝子の違いでもない。
人が生まれた環境によって決定されている。

 

なぜ、日本人の言語は孤立

角谷先生はその後、
日本人と同じ脳機能の民族を探し廻った。
母音優性の言語をしゃべる民族、
左脳で自然音や感情音を
処理している民族を探した。

その結果、隣の中国も、台湾、朝鮮半島、
東南アジア、中央アジアの人々も全て
西欧人と同じパターンであった。
日本語は世界の中で孤独な存在となった。

しかし、遂に、
角田教授は母音が優性で、
虫の音や人の感情を
左脳で処理している人々を見つけた。
赤道直下の南海に浮かぶ
ポリネシア諸島の「トンガ」と
「サモア」であった。

日本語は孤立を免れた。
なお、同じポリネシア諸島でも
オーストラリア大陸に近い
ニュージーランドは、
西欧型のパターンであった。
角谷先生の研究は、
ここで終わっている。

この事実は
実に大きなヒントを残してくれている。 

世界地図を見ればわかる。
トンガとサモアは、
南海の孤島である。
地球上でこの南海の孤島
トンガとサモアだけが、
日本と共通の母音優勢で、
自然音を左脳で処理する言語を有していた。

なぜ、日本とトンガ・サモアが?

 

文明は自然を排除

紀元前、人類は文明を創りだした。
特に、ユーラシア大陸の文明は
必ず都市を建設した。
メソポタミヤ文明、エジプト文明、
インダス文明、中国文明で都市が誕生した。
「文明」は「都市」と同義語であった。
なぜ、ユーラシア大陸の文明は
都市を造ったのか。
答えは明快である。
敵から守るためであった。
だから都市には必ず城壁があった。
都市は城であった。
東京都中央区麹町にあるホテル
「都市センター」の看板には
中国語で「城市中心」とある。

(写真ー1)日本都市センター会館 
「日本城市中心会館」と読める

(写真―1)は麹町の都市センターの看板で
「城市中心会館」と読める。

「都市で自然は排除された。
人間は予測し、計画し、制御していく。
人間は予測できないもの、
制御できないものが大嫌いだ。
予測できず、計画できず、
制御できないもの。
それは自然である。
だから人間は自然が嫌いで、
都市から排除していった
」これは養老孟子氏の
唯脳論での言葉である。

都市に木や生物があっても、
それは制御された人工自然である。
文明の進展とともに人々は
人工の都市空間で生き、
都市では自然の音は
情報として価値を失っていった。

文明の暴力的な交流

文明は交流を繰り返した。
文明の交流というがそれは、
征服と被征服の交流であった。
ユーラシア大陸には大帝国と蛮族が
何度も出現した。
異部族が異部族に襲いかかり、
征服と被征服が繰り返し行われた。
「文明は城」であったことが、
文明の交流は
暴力の繰り返しであった証左である。

征服と被征服の繰り返しで、
人々は交じりあった。
会話が通じない異言語が
重なり合っていった。
敵か味方が入り混じる出会いでは、
様子をうかがう会話となる。
異言語の出会いの会話の発生は
複雑さを増した。

医学的に人は恐怖に襲われると
気孔が狭くなるという。
気孔が狭くなれば
発声は子音が多くなる。
恐れを隠し、複雑な意思を伝えるには、
あいまいな発声の子音で行われた。
敵か味方かを
簡単に分からせないためである。
時代劇テレビの監督は、
朝廷の貴族には分かりにくい、
くぐもった子音で話をさせている。

それに対して、
母音は発音がはっきりしていて、
声も大きめで感情が入りやすい。
母音はどうしても
敵か味方か簡単に分かってしまう。
征服、被征服の世界では、
敵か味方か簡単にわかっては
命の危険をもたらす。
テレビドラマの海の男は
大きな声で母音を話していて、
小さな声でくぐもった子音を発音しているなど
見たことがない。

(写真ー2)海の男たち 
出典:おいしい山形推進機構

(写真―2)は威勢の良い海の男たち。

 民族の征服、被征服が繰り返すユーラシア大陸で、
あいまいさの塊の子音は爆発的に増大していった。

 

脳の交換

子音が爆発的に増大するにつれ、
左脳の容量は右脳に比べ
ゆとりを失っていった。
文明の都市空間に住む人々にとって、
自然の虫の音、動物の鳴き声、
人間の感情音などは不必要になった。
自然の音や人間の感情は、
左脳の論理と関係のない
無意味な雑音と見なされた。

自然の音と感情音は、
子音で一杯になった左脳から
雑音処理の右脳へ押し出された。
都市文明の人々の論理は
子音と計算で構成されていくこととなった。

世界史の中心だった
ユーラシア大陸の文明で、
人々の左脳と右脳の
機能分担が変化していった。
しかし、日本列島とトンガ、サモアだけは
脳機能の交換が行われなかった。

なぜ、日本人とトンガ、サモア人だけで、
左右脳の機能の交換が行われなかったのか?
言語の源流が保存されたのか?
日本とトンガ、サモアの共通点は何か?

 

地理が脳を支配した

日本とトンガ、サモアの共通点は、
はっきりしている。
両者とも異民族に侵略されなかった。
異民族の征服がなく、
子音による微妙な言い回しを
する必要がなかった。
おおらかで無防備な母音言語は
そのまま存続した。

日本の場合、
日本列島とユーラシア大陸の間には、
流れの強い100㎞以上の対馬海流の壁が
立ちはだかっていた。
13世紀にモンゴル軍が襲ってきたが、
どうにか撃退した。

(図ー1)日本列島周辺の海流

(図―1)は日本周辺の海流である。

トンガ、サモアは南半球の
ポリネシア諸島に位置している。
オーストラリア大陸から離れた南海の孤島郡である。

この両島に流れてくる海流は、
南アメリカ大陸からの南赤道海流である。
南赤道海流は南回りで
再び南アメリカ大陸へ戻っていく。
南アメリカ大陸には
狂暴な暴力は生まれなかった。

(図ー2)南太平洋海流とトンガ・サモア 

(図―2)で世界の海流と
トンガ・サモアの位置を示した。

17世紀、帆船の大航海時代が開始された。
東南アジアと太平洋に浮かぶ諸島は、
1600年代から植民地時代の主役である
スペイン、ポルトガル、オランダ
そして英国が入り乱れ、
これらの諸島を奪い合っていた。

18世紀、ワットが蒸気機関を発明し、
19世紀に蒸気船が登場した。
20世紀、蒸気船で海流を乗り越えてきた英国が
トンガ、サモアに来た。
20世紀の英国は
トンガ・サモアを英国領にしたが
暴力で征服はしなかった。

日本とトンガ、サモアは
異文明の暴力で侵略されなかった。
日本とトンガ、サモアは、
複雑で微妙な言い回しで
異民族と生死をかけた交流を
する必要がなかった。
相手を窺い、言葉を濁し、
意思を惑わす子音を発達させる
必要がなかった。
左脳に自然界の虫、鳥、動物
そして人間の感情音を収納したまま、
無防備な母音中心の言語で
会話をし続けた。

日本とトンガ・サモアは
確かに暴力に襲われなかった。
しかし、重大な疑問がある。

12万年前から始まった
約10万年間の大氷河期である。
トンガ、サモアは赤道下に位置するので
簡単に生き残れた。
日本列島はそうはいかない。

北緯30度以上の日本列島の人々は
大氷河期をどうやって生き抜いたのか?

なぜ、生き抜いた日本人の会話は
発生音が異常に少ないくせに、
語彙が異常に多くなったのか。
(次号に続く)

 

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