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日本経済

2023年10月18日

【藤井聡】『「過剰医療」の構造~病院文明のニヒリズム~』が出版となりました。是非、ご一読ください!

みなさんこんにちは。表現者クライテリオン編集長、京都大学の藤井聡です。

昨日(10/16)、『表現者クライテリオン』の最新号が出版いたしました!今回の特集テーマは

「過剰医療」の構造
~病院文明のニヒリズム~


   アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CKBSHQC7
   定期購読:https://the-criterion.jp/subscription/

この特集テーマは文字通り、今の医療業界では、過剰な医療が横行しており、それによってかえって人々・公衆の健康が毀損する、という深刻な問題が生じています。

それどころか、過剰な健康志向によって、人々の社会生活も破壊されると同時に、財政が超絶に悪化し、それによって、政府・財務省による「過剰な緊縮財政」を惹起し、それを通して、日本の経済産業社会が根底から破壊されるという、恐るべき帰結をもたらしてもいます。

なぜこのような不条理が横行しているのかといえば、医療とビジネス主義が完全結託し、生命至上主義を笠に着て人の命と健康を出汁にして金儲けを企む、むき出しの拝金主義が、医療業界において横行してしまっているからです。

ついてはここでは、本特集にあたって当方がまとめた「特集に寄せて」の文章を下記に紹介さしあげます。

「金に目がくらんだ医師や病院経営者の横暴」を食い止めるためにも…是非ともご一読いただきたいと思います。

どうぞ、よろしくお願い致します。

追伸1: 京都大学レジリエンスユニットでは、こうした問題を含めた多様な問題を徹底的に議論すべく、今年もまた「レジリエンス・フェスティバル2023」を開催します。是非、ご参加下さい!
https://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/festival2023.html

追伸2: このフェスティバルに先立って、今年も当方、「三沢カヅチカ」として京都のライブハウス拾得で、ミッチェルさんゲストにライブを行います。ライブ後には夜中近くまで、同ライブハウスでアフター飲み会も行いますw 是非、遊びに来て下さい!
https://the-criterion.jp/mail-magazine/231012/

―――――――――――――――――――――
『特集によせて』

いうまでもなく、人類、そして国家や社会の存続と発展・繁栄の為に「医療」は極めて重大な役割を 担う。しかし、だからといって医療水準を無限に上昇させていく事が掛け値なしに是認されるべきな のかと言えば、決してそうではない。それによって「失われる」ものが生ずるからだ。

その代表的なものが、逆説的にも人々の「健康」だ。

「薬の過剰摂取は体に毒」がその典型だが、特定医療行為の「副反応」によって「トータル」として人々の健康を毀損するという事態は常に起こり得る。例えばコロナ感染症をロックダウンによって抑え込もうとした時、それによる経済的社会的被害がそのロックダウンの「効果」を上回る事もあり得る。

とりわけ今日では、政府支出の増大を忌み嫌う政府(財務省)が、支出拡大を最小限に食い止めつつ医療財源を「確保」するために、医療以外のあらゆる支出を削減し、各種増税を図り続けている。政府(財務省)はそれを実現するために「プライマリーバランス(PB)規律」と呼ばれる財政規律を導入するに至っている。そして、そうした支出カットや各種増税でデフレが加速し、貧困格差が拡大し、国力衰退が導かれる、という深刻な社会的副作用が生み出されてしまっているのである。

無論、貨幣論的に考えればそうした緊縮的態度は不合理極まりないものではある。

しかし、「過剰医療が政府の緊縮財政を導いている」という事が厳然と存在してしまっているのであり──いわば「過剰医療こそがPB規律の母」だったのだ──、それが現代日本の悲しき実態なのである。

しかも仮に現代貨幣理論に基づいて医療費の支出額の上限をインフレになれば引き下げ、デフレになれば引き上げるという、いわゆる「帰納的財政論」と呼ばれる財政態度が倫理的に許容されるかと言えば、甚だ疑問でもある。短期的な経済状況にあわせて人間の命の価値を決める様な財政運営が倫理的に許容されるとは考え難いからだ。しかも、過剰なインフレが導かれて「経済」自体が破綻してしまう程の巨額医療支出を継続し続ける事もまた、やはり許容され得ない。

つまり、積極財政を理論的に強力にサポートするあの現代貨幣理論ですら「過剰医療は不条理なり」という命題を否定する事ができないのである。

では、なぜ我々の医療は不条理な「過剰」と言い得る水準に達したのか──その背後にあるのは「生命至上主義」という名のニヒリズム(虛無主義)だ。あらゆるものの価値を虛無に帰すニヒリズムでは、どんな者でも容易くその重要性を理解できる「生命の価値」が逆説的に肥大化し、その重量は地球をすら超越する。こうして「命は地球よりも重い」という台詞を口にし続ければ、それを守る医療以上に重大な事など何も無くなってしまい、医療の為にあらゆる犠牲が払われる事になる。そしてその「巨大な犠牲」故に我々の文明は今、滅びつつあるのだ。

しかもそこにビジネス主義者や拝金主義者が混入すれば、彼らはホンネでは全く信じてなどいない生命至上主義の衣を身にまとう事を通して過剰医療を強烈に加速させる事に成功し、効率的に患者達と政府から大量のマネーを吸い上げ続けるビッグ・ビジネスを完成させる事になる。それは合法的大規模詐取と呼ぶべき事態であるが、残念ながら今日の日本の医療界には、そうした事態が徐々に拡大しつつあるのである。

本誌では、日本においてとりわけ顕著なものとなりつつある、ニヒリズムに裏打ちされた生命至上主義に貫かれた現代の文明はもはや「病院文明」と呼ぶに相応しいものに「堕落」してしまっている事を描写する。そしてそこで横行する過剰医療の恐るべき不条理を明らかにすると共に、その超克の術を考える特集をここに企画した次第である。

表現者クライテリオン編集長 藤井聡

            アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/B0CKBSHQC7
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【藤井聡】『「過剰医療」の構造~病院文明のニヒリズム~』が出版となりました。是非、ご一読ください!への2件のコメント

  1. 利根川 より

    >>医療とビジネス主義が完全結託し、生命至上主義を笠に着て人の命と健康を出汁にして金儲けを企む、むき出しの拝金主義が、医療業界において横行してしまっているから>>

     まあ、過剰な金儲けに流れていく人は”医療に限らずどこの業界にもいる”でしょう。自称保守界隈にも「虎ノ門ニュース」とか「チャンネル桜」とかに保守とか愛国を標榜して仕事をもらっている出演者がたくさんいましたしね。
     日本は20年以上も需要不足が続いています。不況でお客さんが足りていないんですね。お客さんが足りていない中で自分だけが安定してお客さんを確保しようとすると

    テクニック

    が必要になってくるわけだ(苦笑い
     普通はお客さんも苦笑いで済ます程度のテクニックで売り上げをあげるわけですが、需要不足が進むほどにそれだけでは済まなくなってくるので、生き残りをかけてテクニックでは済まない手段にも手を染めざるを得なくなってくる。

    ・車両修理代を水増し請求(ビッグモーター)

    ・高額歯科矯正(「THE GRANSHIELD」集団訴訟)

    ・認知症患者への二重保険契約(かんぽ生命不正契約問題)

     これ以外にも、実体験として「どう考えても骨の厚みが足りていない」「密度も足りていない」患者に無理やりインプラントを入れようとして、案の定、生着せずに大学病院まで基部の除去にくる患者をけっこう目撃していた時期もあったので、医療とビジネス主義が完全結託という藤井教授のお話も分かります。
     ただ、「俺はそんなことはしない」そう断言できる者がいるとすれば、その人は”まだ”そういった状況になっていないラッキーな人なのではないでしょうか。緊縮増税が続き、需要不足がひどくなれば、いずれはあなたの番がやってきますよ。
     
    「認知症の人をだまして契約を取るくらいならこんな仕事をやめる」

    「わざと車を傷つけて車両修理代を水増し請求するくらいなら仕事をやめる」

    そういう立派な人も少なからずいたとは思いますが、大半の人は自分の生活(利益)のためにそれらに手を染めるか見て見ぬふりをして仕事を続けていたわけでね。自分の番が来た時に職を辞して「無職の者」とさげずまれ、ひもじい思いをする覚悟がある者だけが石を投げればいい。
     私は、そういった状況に追い込まれてしまった者たちを糾弾するよりも、そういった状況を作っている下衆(財務官僚)を掃除したいですね。
     それから、藤井教授は日本は医療には潤沢に資本を投じているかのように言っておられますが、日本の現状はコレですよ。⇓

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    順位 国名 人口1,000人あたりの医師数
    第1位 ギリシャ 6.1人
    第2位 オーストリア 5.2人
    第3位 ポルトガル 5.0人
    第4位 ノルウェー 4.7人
    第5位 リトアニア 4.6人
    第6位 スイス 4.3人
    第7位 ドイツ 4.3人
    第8位 スウェーデン 4.1人
    第9位 デンマーク 4.0人
    第10位 イタリア 4.0人
    第11位 スペイン 3.9人
    第12位 アイスランド 3.9人
    第13位 チェコ 3.7人
    第14位 オーストラリア 3.7人
    第15位 オランダ 3.6人
    第16位 エストニア 3.5人
    第17位 スロバキア 3.4人
    第18位 ハンガリー 3.3人
    第19位 ニュージーランド 3.3人
    第20位 フィンランド 3.2人
    第21位 ラトビア 3.2人
    第22位 フランス 3.2人
    第23位 イスラエル 3.1人
    第24位 スロベニア 3.1人
    第25位 ベルギー 3.1人
    第26位 アイルランド 3.1人
    第27位 ルクセンブルグ 3.0人
    第28位 イギリス 2.8人
    第29位 カナダ 2.7人
    第30位 アメリカ 2.6人
    第31位 チリ 2.5人
    第32位 日本 2.4人
    第33位 メキシコ 2.4人
    第34位 ポーランド 2.4人
    第35位 韓国 2.3人
    第36位 トルコ 1.9人

    医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    しかも、少ない医師数に合わせて病院まで減らした。

    <日本の公立病院(国・公的医療機関)の推移 出典:統計局>

           国    公的医療機関       
    1999年 370   1368

    2002年 336   1377

    2005年 294   1362

    2008年 276   1320

    2011年 274   1258

    2014年 329   1231

    2017年 327   1211

    2018年 324   1207

    2019年 322   1202

    くわえて、保健所の数も減らしてきましたね。

    <日本国内の保健所数(合計 情報ソース:全国保健所長会)>

    1996年 全国に800以上存在

    1997年 全国に700に削減

    2019年 全国に500以下

    財務省は「医療支出を増やしたくない」、だから、規制緩和してやるから保険外医療で何とかやってくれ(混合診療)というところからくるってきているのですよ。100万円の高額インプラントをぶち込んでみたりね。そういうのを嫌って保険内でやろうとするから回転数をあげたり薬漬け医療になったりするんじゃないんでしょうか。こういった状況を見るに、日本が医療に潤沢な資本投資をしているのかは疑問なところです。
     医療への過剰投資がよくないのは確かですが、過少投資もまずいと思います。現在の日本ははたして過剰投資を心配しないといけない状況なのでしょうか?

    追伸:薬の過剰摂取はよくないですが、北朝鮮のようにコロナウイルスに薬草で対応しないといけない状況なのも辛いと思います

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  2. 利根川 より

     日本は需要不足だと言いましたが、2023年Q2の日本の需給ギャップ(対GDP比%)はプラス化している。

    これをもって、日本の需要不足は解消されたと言い張っている者たちがいる

    これにはカラクリがあって、本来の需給ギャップの計算式は下記のような計算式なのだが、

    <本来の計算式>

    全ての工場、全ての労働者が全力でモノやサービスを生産した時の供給能力(潜在GDP)-お客さんが欲しがっているモノやサービスの量(総需要:名目GDP)

    内閣府は1999年、日銀は2004年、この潜在GDPの定義を変えました。変更後の計算式がコチラ?

    <変更後の計算式>

    過去の生産能力の平均値(平均概念の潜在GDP)-お客さんが欲しがっているモノやサービスの量(総需要:名目GDP)

    どうしてこのような計算式の変更を行ったのかというと、日本は1997年からデフレ不況(需要不足)に陥ったわけだが、そうなると当然「景気対策をせよ」という声があがってくる。
    しかし、財務省は本格的な景気対策はしたくない。なので、計算式を変更して需要不足が小さくみえるような計算式にしたわけだ。
    この計算式だと数値上は需要不足が小さく見えるので

    財務官僚「日本の需要不足は解消されたので、これ以上の景気対策は不要」

    ということになったわけだ。
     さて、2023年Q2の需給ギャップがプラス化しているという話だが、本来の計算式を見ればわかるように、インフレギャップは最大で0のはずなのだ。次の例を見てもらいたい。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    <インフレギャップ>

    潜在GDP:90

    総需要:100

    インフレギャップ10

    インフレギャップが10という事は、全力で生産した商品が90個(潜在GDP)、売れた商品が100個(総需要)という事になるのだが、
    これでは存在していない物、作っていない物を買った事になってしまっておかしな事になってしまう。
    だから、本来はインフレギャップは”最大で0”なのだ。

    ところが、日本政府が発表している日本の需給ギャップ(対GDP比%)では、インフレギャップがプラスで計算されてしまっている。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    需給ギャップがプラスということは生産してもいない商品が売れていることになるわけだが、どうしてこんなことが起きてしまうのかというと変更後の計算式の「過去の生産能力の平均値」に注目していただきたい。
     コロナ禍の際、政府が休業要請をしていたので、コロナ禍3年間は日本の生産は最低に落ち込んでいた。「過去の生産能力の平均値」には、この最低に落ち込んでいた時の数値も含まれているのである。要するに、最高タイムではなく平均タイムなのだから、当然、最高タイムより数値は低くなるというわけだ。
     くわえて、コロナ禍の時の失業者を「もう労働市場に戻らない者」として労働力のカウントから除外もしている。

    つまり、需給ギャップ=潜在GDP-総需要、この式の内の潜在GDP(生産能力)が意図的に小さくなるようにイジられていたということ

    これで需要の方が大きくなって「日本の需要不足は解消された」とか言っているわけで、鉛筆なめなめの中華人民共和国もびっくりの統計詐欺である。これをやっているのが中韓を批判している保守政権なのだからもう訳が分かりませんよ。

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