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2023年6月16日

【藤井聡】本日発売!『進化する〝コスパ〟至上主義~タイパ管理された家畜たち~』表現者クライテリオン特集号。是非、ご一読下さい!

本日6月16日発売の表現者クライテリオンの最新号(7月号)は、
 『進化する〝コスパ〟至上主義~タイパ管理された家畜たち~』
の特集号。

 (アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/B0C5BMVPRP
  定期購読(1割引き):https://the-criterion.jp/subscription/

「コスパ」というのはもちろん、費用対効果という趣旨の「コスト・パフォーマンス」の略語です。例えば消費者として商品やサービスを購入する際、値段の割に満足度が高い商品はコスパが高いと評価され好まれるわけですが、この「コスパ」は消費以外の実に多くの行為において重視されるに至っています。

つまり今やもう、娯楽や社交においてすらコスパを気にする「コスパ至上主義」が蔓延しつつあるのです。

しかし、一見合理的であるかのように見える「コスパ至上主義」は、社会に巨大な害悪をもたらす不合理な代物なのです。

なぜなら、認知心理学が明らかにしているように、人間の行為は元来「行為の帰結」のみならず「規範」を基準としたものだからです。

例えば、私たちが泥棒したり友達のおカネをネコババしたりしないのは、コスパが良いとか悪いとかとは無関係に、やっちゃいけないことだからやっちゃいけない、という当たり前の「規範」(あるいは、モラルやルール)に従っているからです。

それにもかかわらずコスパ至上主義では、行為の帰結のみが重視され、あらゆる「規範」が無視されていくことになります。

その結果、コスパ至上主義が横行する社会では、あらゆる規範、ルールが無視され、不埒な不道徳がまかり通るようになっていきます。そして、「社会の秩序」が、あらゆる領域において喪失されていくことになります。

そうなれば、社会的な「善」や「美徳」なるものは全て、そうした「社会の秩序」によって支えられているわけですから、コスパ至上主義が横行すれば横行するほど、我々の善や美徳を根本的に溶解・解体していく事になります。つまり、この世にあるあらゆる美しいものや、素晴らしいことや、あらゆる良いものが全て、コスパ至上主義によって失われていくことになるのです。

しかも人間の考える能力や予想する能力には自ずと「限界」があります。ですから、コスパばかりを考える人においても、結局、検討されたり考慮されたりする要素は世の中のあらゆる要素のごく一部に過ぎない、ということになります。したがってコスパ至上主義者達は皆、必然的に「真のコスパの最適化」にすら、確実に失敗していくことになるわけです。

つまり、全知全能の神様ならいざ知らず、人間は神様に比べて驚く程に愚かな「馬鹿者」達に過ぎないわけですから、意図的にコスパを最大化しようとするコスパ至上主義者達は、結果的に「神様の目から見たコスパ」の観点から、超絶に「コスパの悪い」振る舞いを四六時中続ける事になるのです。

以上のお話をまとめると、コスパ至上主義者達は必然的に、善を見失って「悪」に堕ち、美を失って「醜」となるのみならず、コスパの最適化すら失敗する「愚」者にすらなってしまうのです。

 ところが誠に遺憾なことに今、このコスパ至上主義はさらなる進化を遂げ、「おカネ」だけでなく「時間」にも配慮すべきだという「タイパ」(タイムパフォーマンス)を気にする新種のミュータントを生み出しつつあるのが現状です。

「タイパ」を気にする彼らは、じっくり楽しむこと解釈すること鑑賞することの一切を取りやめ、あらゆるものを迅速に「処理」せんと試みます。かくして彼らは、観光地や美術館ですら足早に走り去り、映画やドラマを「早送り」で高速に「処理」するようになっていきます。

つまりコスパ、さらにはタイパの理念の蔓延は、人間とサルを分かつ「人間精神」の溶解を必然的にもたらすことになるのであり、「社会的病理」そのものとなるわけです。というよりもむしろ、今日の社会における様々な問題の根底には、人間が人間でなくなり、コスパやタイパのみを気にするような存在に堕落してしまったという根本的問題が横たわっているわけなのです。

例えば、今の岸田政権の政権運営の根本に、『政権延命のためなら何でもやる』というコスパ至上主義が横たわっているが故に、岸田政権そのものが根本的に腐敗しているのであり、マスメディア各社も「我が社の利益のためなら何でもやる」というコスパ至上主義故に、ジャニーズ事件について何も報道せず、財務省の横暴を許すという帰結をもたらしているわけです。

本特集では、この病理の深刻さは、

 『文明としてのコスパ社会?――「見返り」の人類史・素描』

において歴史学者の與那覇 潤氏によって明らかに論じられるとともに、社会学者の土井隆義氏によって

 『時代精神としてのコスパ志向――未来が外部性を喪失した時代』

において明らかにされています。

…ではこうした社会的病理はなぜ蔓延したのかと言えば…動物行動学者の上野先生が『コスパ/タイパの追求がもたらす自己家畜化状態』の原稿の中で明らかにしたように、近代社会ではあらゆる物事が安定化し、効率化されてしまい、人間そのものが「飼育される家畜」の様な存在になっているからです。

この指摘は、マーケティングリサーチャーの三浦 展氏と、クライテリオン編集委員による座談会『コスパ主義は「家畜化」への道である』の中でも繰り返し確認されました。

最後に、こうしたコスパ至上主義の対極にある「古典芸能」の世界は、如何にして成立しているのかについて「結城座・両川船遊氏」に対する、浜崎氏・小幡氏によるインタビューによって明らかにされます。

さらには、音楽家の野口剛夫氏は『自分らしく生きる――音楽の「幸せなコスパ」を目指して』という記事において、音楽というものはその本質からして、コスパやタイパとは無関係になものであるのか、逆に言うなら、音楽はコスパやタイパを排除した精神からしか生まれ得ないという本質的構造を議論いただいています。

こうした音楽やかつての古典的なあり方が、今日のコスパ至上主義的社会から、如何に脱却できるのかについての大きなヒントになることが期待されます。

表現者クライテリオンではこうした趣旨、内容にて『進化する〝コスパ〟至上主義~タイパ管理された家畜たち~』の特集号を企画した訳ですが、そうした時代のおぞましさのみならず、それを導いた根本的な社会構造、さらには、そこからの脱却するためには何が必要なのかを是非、本特集をご一読頂くことを通して、じっくりと考えてみていただきたいと思います。


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    ミヒャエル・アンドレアス・ヘルムート・エンデの小説
    『モモ』

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