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日本経済

2022年4月4日

【施 光恒】「ジョブ型」雇用拡大でますます壊れる日本社会

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

こんにちは~(^_^)/(遅くなりますた…)

4月が始まりましたね。新年度でいろいろと制度が変わるというニュースを目にしました。例えば、以下の「ジョブ型」雇用が増えるというものです。

「チャンスが広がる若手、賃下げリスクの中高年…ジョブ型雇用の影響は」(『朝日新聞』2022年3月31日付)
https://www.asahi.com/articles/ASQ3Z6W1YQ3ZULFA01D.html

「年齢より職務で賃金が決まる ジョブ型雇用、大企業で導入広がる」(『朝日新聞』2022年3月31日付)
https://www.asahi.com/articles/ASQ3Z6TX2Q3ZULFA019.html

「ジョブ型」雇用とは、特定の職務(ジョブ)をすることを前提に人を雇う制度のことです。米国など欧米諸国では一般的だとされています。

雇用期間中は、基本的にその職務のみをしてもらい、職務が大きく変わらない限り、賃金も大きく変わりません。社内でその職務が必要なくなれば解雇されることもあり得ます。

それに対して、これまでの日本の大企業の多くは、「メンバーシップ型」雇用を主な制度としてきました。新卒者を一括で採用し、会社の構成員(メンバー)として様々な経験をさせていく制度です。

仕事内容は、会社のそのときどきの業務内容によって変わることが多く、社員(被雇用者)は、様々な仕事ができるジェネラリスト(あまり専門的でないとしても柔軟に幅広い職務をこなせる人材)であることが望まれます。

数年前から、経団連などの財界団体は「ジョブ型」雇用への切り替えを主張してきました。財界からの要望を受けたのでしょうが、政府も、昨年の骨太方針(「経済財政運営と改革の基本方針 2021」)などでそれを後押ししてきました。

「ジョブ型」雇用の拡大は、財界側からみれば、人件費の削減につながりやすく利点が多いのです。

しかし、普通の働く人々からすれば、残念ながらデメリットのほうが多い制度です。

確かに、「ジョブ型」になれば、望まぬ職務への配置換えや転勤などを命ぜられることはなくなりますので、そういう点では、働く側からしてもメリットがないわけではありません。

また、すでに高度の専門的能力を身に付けている人、あるいはそれを伸ばしたいという強い意欲を持つ意思堅固な人にとっても良いかもしれません。

ですが、あまり高度の専門的能力を持っているわけではない多数の普通の人々にとっては、不利な望ましくない社会ができ上がってしまう可能性が高いのです。

いくつか理由を挙げてみましょう。

(1)自己の適正発見や能力開発が難しくなる

これまでの「メンバーシップ型」雇用の下では、企業は、社員に組織のお荷物になってもらいたくないので、なんらかのかたちで社員の適性の発見や能力の開発を行おうと努めてきました。

余裕があったころのかつての日本企業では、社員研修の機会が多く充実していました。

近年の不況で研修の余裕がなくなってきたとしても、日本企業は、先輩社員によるOJT(職場内訓練)や、若年社員に多様な職務を経験させる「ジョブ・ローテーション」(計画的・教育的人事異動)などのあまりカネがかからない形を通じて、社員の適性を見出し、能力を開発しようとしてきました。

いわば、ある社員の適性や能力を、多くの人々の手で組織的に発見し伸ばしていこうとしてきたのです。

「ジョブ型」雇用では、企業側にこういう動機づけが少なくなります。

ですので、人々は、個人ベースで自分の適性を人生の早い段階で発見し、それを基本的に独
力で磨いていかなければならなくなります。

これは結構、大変です。

若いときは、自分が何に向いているか、どういう職務に適性があるかなどなかなかわかりません。また、特に働き始めてから、勤務時間外で自分の能力開発を継続的に行えるのは、よほど意思が強い一握りの人だけでしょう。

その結果、多くの平均的人々は、自分の適性を発見できず、また潜在的能力の向上も果たせず年齢を重ねていくことになるのではないかと思います。

また、当然ながら、そうした普通の人々の賃金は上がらないでしょう。

(2)日本経済の活力の低下

そうなると、当たり前ですが日本社会の活力も低下します。

経済成長の要因はさまざまに考えられますが、米国の経済学者スティグリッツが強調するところによると、多数の普通の人々に対する教育や訓練、その結果としての能力の伸展こそが、もっとも重要です(『スティグリッツのラーニング・ソサエティ』東洋経済新報社、2017年など)。

自分の適性を発見できず、能力を磨けない人々が多数になれば、その社会の活力は低下し、経済も停滞してしまいます。

おまけに、多くの人々の賃金上昇があまり見込めないので、デフレ脱却も難しくなります。

(3)外国人労働者の流入加速

「ジョブ型」雇用の制度は、企業が欲する職務上の能力をもった人材を労働市場で比較的容易に確保できることを前提としています。つまり、人手不足ではなく、労働市場に人材がある程度豊富に存在することが前提です。

他方、「メンバーシップ型」雇用は人手不足への対処から始まっています。「メンバーシップ型」雇用が日本で戦後、徐々に確立していったのは、高度経済成長に伴う人手不足に対処するため、企業が人材の囲い込みを行ったのが一因です。

したがって、財界やその後押しを受けた政府が「ジョブ型」雇用を促進するということは、少子化の進む今の日本では外国人労働者への一層の門戸開放が伴うことになるでしょう。

コロナ禍のためこれまであまり進んでいませんが、2019年4月から始まった改正入管法の下、単純労働者を含む外国人労働者の業種別受け入れが可能となっています。

コロナ禍が収束に向かえば、財界や政府は、本格的に外国人労働者の受け入れ増加の様々な手を打ってくるでしょう。「ジョブ型」雇用の拡大は、それとセットなのです。

ですので、ますます賃金は上がらず、デフレからの脱却は難しくなります。

(4)労働組合の機能低下

労働組合の機能の低下も生じるでしょう。

職務別に人々の雇用形態が異なってくれば、当然ながら被雇用者の団結は難しくなります。

いまでも正社員、派遣社員、アルバイトなど、多くの職場には多種多様な雇用形態の人がいますが、「ジョブ型」が一般的になれば、ますます働く人々の利害や意識はバラバラになります。加えて、前述のように外国人も増えるので、いっそう団結は難しくなります。

経営者側(投資家側)にとっては、労働者の団結が難しくなれば、賃上げとか待遇改善に配慮しなくてもいいので楽です。しかし、働く側にとっては、困ることが増えるでしょう。

(5)働く意欲(動機づけ)の低下

これは拙著『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書、2018年)でも書いたことですが、日本人の働く意欲(動機づけ)は、米国人などとは違う傾向があると社会心理学の研究から推測できます。

日本人の多くは、組織のなかで他者に信頼され、感謝されることで働く意欲が湧く傾向を持っています。つまり「君こそ、うちの大黒柱だ!」と上司や同僚に言われたり、頼りにされ、さらに大きな仕事を任されるようになったりすることこそ、一番の動機付けである場合が多いのです。

「いかにも昭和的だ」と思うかもしれませんが、いまの若い日本人でも基本は変わっていないのではないでしょうか。

個人の能力が問題となるマラソンよりも、個々の力が合わさって組織間で競争する駅伝のほうが好きなのは、若い世代でもあまり変わりません。

自分や他者の成長とは、ある組織のなかで多様な人々と相互作用してはじめて生じるものだと考える人が昔も今も多いのです。個々人の力が伸び成長するとともに、組織もそれに伴って発展していく。そういう物語が、日本人は好きなのです。

AKBや乃木坂とかのアイドルでも、グループに所属している間は人気者でも、グループを脱退してしまうとあまり注目を集めなくなるのが普通です。

有能な個人に焦点を当てるNHK番組「プロフェッショナル――仕事の流儀」は、長寿番組となりましたが、平凡な人々が協力して組織的に大きな仕事を成し遂げる過程を描いた「プロジェクトX」ほどの人気はやはり得られていません。

「メンバーシップ型」雇用は、戦後の日本人が試行錯誤しつつ、一般的日本人のやる気を引き出す仕組みとして徐々にでき上ったものです。

国民性の特徴は決して不変ではないですが、短期間に大きく変わるものでもありません。

「ジョブ型」を導入した、一体感のない職場で、多くの平均的日本人の動機づけ(働く意欲)が本当に確保できるのか疑問です。

このように、「ジョブ型」の導入は、一部企業の経営者や投資家にはメリットがありますが、日本社会全体、特に平均的な働く人々からすれば、あまり望ましくないものではないでしょうか。

むろん、雇用形態も時代状況に合わせて改善されていくべきです。昭和時代の「メンバーシップ型」からの改善も必要でしょう。

ただ、現在の「ジョブ型」拡大をめぐる議論は、「経世済民」、つまり普通の日本人の幸福や生活の安寧を第一の目標に定めたものではないのが問題です。

普通の日本人が、やる気を持って働き、充実感や安心が得られ、また自己の能力を見出しやすく伸ばしやすい経済の仕組みを作っていくことを、政治はもっと重視すべきなのです。

長々と失礼しますた…
<(_ _)>

 

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【施 光恒】「ジョブ型」雇用拡大でますます壊れる日本社会への11件のコメント

  1. この世は既にあの世 より

    今更ですか?

    何年前の話をされてます?

    終わった議論です。終わったこと、失ったことを嘆いても仕方ないので雇用の流動性がスタンダードなので所得を増やす為、セーフティネットの為のベーシックインカムです。

    1つの会社しか知らないとボンクラになりますし、正社員に意味は無いですね。

    馴れ合いやベタベタは好ましくありません。1人孤独に自立してやって行くのが独立国家への第一歩。言いたいことを言って次の職場へ行く。

    コロナも同じ。コロナ脳のお前に体質が弱かったり運が無いのが悪いわけであって自粛したけりゃ個人的に永久に自粛しろで突き放せばOK。

    いちいちアホな他人のことなど知らないと、突き放す、切り捨てる、置いて行く、ベーシックインカムでやらせとけばいい。

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      1. この世は既にあの世 より

        金です、給与。

        団塊世代の給与や待遇を守る為に氷河期世代やロスジェネ世代が生まれた。

        兄弟は他人の始まりという様に、同僚、上司、部下も他人。会社とは利害関係のみで繋がっているだけ。

        スキルは大抵同じ会社内でしか通用しない。転職の手土産に顧客は転職先に持ち出せるが。

        自分探しだの自己の適性だのは甘え。

        家族だの村だの故郷だのチームワークだの左翼と似た様な保守思想は邪魔。

        整合性が取れてればいいわけだから新自由主義、雇用の流動性にはベーシックインカム。

        今の高齢者はダメ世代。ダメ世代に以下の世代が高い年金を払う必要は無い。

        ボンクラ政治家、官僚がいつまでも続けられたら迷惑な様に、自己保身と退職金にしか意識が行っていなかった大企業正社員だった今の高齢者は淘汰が正。

        日本人は世界一、つめたい民族なのだから金でしかやりとりは生まれない。

        建前やフリ、太ってしまう様な似非愛国運動は要らない。忙しく懸命に毎日を生き、今日明日を考えるのが筋。

        今がなければ当然未来はないから妄想は止めるべし。

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  2. 地図をつくる より

    amazon quicksight なるものは、BIツールだそうで、
    地図上に表示されているのでそのデータを見ようと、
    CSVでダウンロードしたらその時系列データなし。
    ブラウザぽいので、ソースを見ても、見れない。

    quicksight経験者も、JOB型になりえる。

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  3. 養生訓に卵酒とか、あったりしてな、日本医師会の中川俊男会長! より

    開業自営業、自由業の医者も恒久、高級、高給、ジョブ型であり、日本を壊していないかな、わらわら

    現在「2類相当」とされている新型コロナの感染症法上の位置づけについては「(季節性インフルエンザ相当の5類にすると)医療費の自己負担が生じ、(感染者が)医療機関を受診せずに感染がさらに拡大する懸念もある」と語った。

    デルタ株で死して屍、拾う者なし
    面倒なのは、見たくないんでしょ、もう、ばれているのサ!

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  4. 丸椅子 より

    患者を丸椅子に座らせて、2,3分じゃ、診察、終わらないからな、
    薄情、白状せい!
    確信犯、中川俊男、ボケ!

    子泣き爺にバトンでも渡されたか、ゴラ!
    日本を壊していないかな!

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  5. ルート3、中川俊男! より

    データサイエンスで、
    ラグランジュの未定乗数法の前に、ニュートン・ラプソン法とか、ある。
    動画だ、動画

    ニュートン法【数値計算】
    式変形チャンネル、動画
    たいへんよくわかりました、日本を壊さない、笑笑

    2回やって、精度いいな、感動した、だがしかし、
    y=x^2 – 2
    なんでだろなと
    √2を計算したいわけだ、ふむむふ
    だが、経理用の電卓は、イカンな~、関数電卓じゃないとな

     「一夜一夜に人見ごろ(ひとよひとよにひとみごろ)」「人並みにおごれや(ひとなみにおごれや)」「富士山麓にオーム鳴く(ふじさんろくにおーむなく)」。
     それぞれ√2、√3、√5の語呂合わせによる覚え方です。
     √2=1.41421356…
     √3=1.7320508…
     √5=2.2360679…

    「人並みにおごれや(ひとなみにおごれや)中川俊男!

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  6. 日本を壊すかもしれないAIの基礎、式イメージ記憶用 より

    日本を壊すかもしれないAIの基礎

    ラグランジュの未定乗数法
    F(x,y,λ)=f(x,y)−λg(x,y)・・・①
    ∂F/∂x=∂F/∂y=∂F/∂λ=0

    偏微分で連立3式を解いて、候補を見つけ、吟味する。
    ∂F/∂x=0
    ∂F/∂y=0
    ∂F/∂λ=0

    ∂F/∂x=Fx(x,y,λ)とも、表記するニダ。

    「ラグランジュの未定乗数法」7-4【7章 高度な微積分、数学大百科事典】
    動画であす、たしかに、面食らうニダ、まずは、①の形だね。

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  7. 日本を壊すかもしれない尾身クロン より

    座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は6日夜の記者会見で「リバウンドの可能性も懸念される」と述べた。

    尾身クロン
    リバウンドして
    飛んでケロ

    痛いの痛いの飛んでけ
    鬼は外
    とか

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  8. 利根川 より

     国際競争力とはなにか。その問いに対して三橋さんは「価格競争力」と解説していたように思います。まあ、安い方が売れるよねという話なんですが、冷戦終了後から今に至るまで

    ”グローバル化、すなわち、関税を無くし、人の移動もモノの移動も自由にすることが絶対的に正しい”

    ということで、主としてアメリカを中心に自由貿易をやってきたわけですが、関税を無くしてしまうと

    「製品の製造は人件費の安い国でやった方がお得だよね」

    という話になるわけで、人件費の安い国である中国が急成長をしていくことになったわけですね。今では中国は「製造大国」ですよ。で、このようなグローバル化によって第二次大戦以降の覇権国家であったアメリカの力は相対的に弱まり、代わりに中国が力を持つようになっていきました。
     今回のウクライナ戦争で、東部ドンバス地方の独立をオヌヌメしたのは中国共産党と関係が深いロシア共産党と言う話もありますし、プーチンさんが強気な姿勢で戦争に望めたのも新たな挑戦国と成った中国との連携があったからだとも言えます。グローバル化は新たな覇権戦争を呼ぶ。
     第一次覇権国家はイギリスでしたが、そのイギリスもグローバリズムと自由貿易に固執して自らの力を弱めていくと共に、アメリカやドイツといった挑戦国を自ら育て、第二次大戦を経て覇権国の座を完全にアメリカに譲りましたが、新たな覇権国家となったアメリカもイギリスと全く同じ凋落の仕方をしているところが面白いですね。
     次の覇権国がどこになるのかは分かりませんが、金融ヤクザにそそのかされてグローバリズムなどやると覇権国の座をおわれることになると教科書に書いておいた方がいいと思います。
     そういえば、ゴールドマン・サックスは中国の金融システムの開放を政治にしつこく要求していたようですがジェイク・サリバン大統領補佐官に

    ジェイクサリバン大統領補佐官
    「どうしてゴールドマン・サックスのために中国の金融システムを開放することを優先しなければならないのか。貿易政策は、企業の投資のために世界を安全にすることではなく、米国内の賃金の上昇と高収入雇用の創出に焦点をあてるべきだ」

    と釘を刺されていましたね。あれでしょうか、覇権国の座をおわれつつあった当時のイギリスからアメリカに乗り換えた時のように、今度は中国にでも乗り換えるつもりだったんでしょうかね。
     まあ、こんなことを言っていると「鎖国主義者」とか言われてしまいそうですが、配当金や自社株買いのための金を捻出するために人材を使い捨てにしたり、外国から安い労働力を大量に引っ張ってきて劣悪な条件で働かせたり、

    「そういったグローバリズムなどしなくても国際交流はできるだろ、いい加減にしろ」

    って話なんですよ。藤井聡教授の言うインターナショナルな国際交流でお願いしたいですね。
     さて、配当金や自社株買いのために企業は人材を使い捨てにできる「ジョブ型」を導入しようとしているようですが、まあ、企業がそうしたことをやろうとするのも分からないでもないわけです。
     ここ20年の世界の政治を見ると「グローバル化」だ「自由貿易だ」と言っては「関税自主権」をほっぽり出すようなまねを政府はやってきたわけで、なんと世界の企業や労働者たちは途上国の低賃金労働者たちと賃金切り下げ競争をやらされる羽目になってしまったわけだ。政治のせいでね。
     このような状況下では、企業としては生き残るために自国の労働者たちの賃金をどうにかして引き下げようとするのは当然だと思いますし、賃上げ要求などされないように労働者が組合を作りにくいように(団結しにくいように)様々な雇用形態で労働者をバラバラにしておきたいというのも自然な流れだと思います。
     詳しくは公認会計士の森井じゅんさんの話(三橋TV第362回、363回、室伏謙一の霞が関リークス)を聞いていただくのが早いと思いますが、要は政府の政策が悪いせいで企業は”そうせざるを得ない”という話なのですよ。
     さて、こんなことを続けていくと当然、労働者の賃金は上がらなくなっていきますし(実際、日本は下がり続けている)2008年の世界金融危機後の世界経済も「長期停滞」に陥っていきました。最終的には労働者だけでなく、企業としても損なわけですが、金融投機家”だけ”は得なんですよね。人件費さげて、設備投資費も抑えて浮いたお金は配当金としてもらえるわけですから。
     西側諸国が金融投機家の都合でこういったグローバリズムをやらされていたせいで「長期停滞」に陥り、それを尻目に保護貿易をやっていた中国は超成長。そして、西側と中国の力関係が崩れたせいで新たな覇権戦争が勃発してしまったわけだ。金融屋の皆さんの罪は重いですね。
     今更あわてて「経済安全保障」だとか言っていますが、グローバリズムだとか自由貿易だとか言っていた者達が有事(戦争)を全く想定していないお花畑脳であったことがよくわかります。
     
    「大人とは戦争を経験した者のことをいう」

    誰の言葉だったかわすれましたが、大石久和さんの「新版 国土が日本人の謎を解く 産経セレクト」を読んでよくわかりました。
     日本は災害大国であり、頻繁に災害で多くの人が亡くなります。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~
    <地震津波噴火>

    関東大震災 死者10万5千人
    明応地震 死者4万1千人
    鎌倉大地震 死者2万3千人
    明治三陸地震津波 死者2万2千人
    東日本大震災 死者2万1565人

    <風水害>

    安政3年の大風災 死者10万人余
    シーボルト台風 死者1万人以上
    寛保の洪水 死者6千人
    伊勢湾台風 死者5千98人

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    全部は書きませんが、多くの方が亡くなっているのが分かります。(興味のある方は大石久和さんの本を是非読んでみてください)
     これらの死は自然災害のよってもたらされるもので、自然災害は、減災はできても完全に防ぐ手立てはありません。くわえて、人災とは違って恨む相手も居ないとなれば、その痛みは時間に癒してもらうほかないわけです。だから、

    ”日本人は忘れてしまうし、忘れるから次に備えない”

    ということでした。

    「いやいや、忘れてないし備えも怠ってない」

    そういう方もおられるかもしれませんが、思い出していただきたい。東日本大震災が起こった後、政治家達は「災害に対する備えを進めなければならない」と口々に言っていましたが、東日本の後も、大阪で起きた地震でブロック塀が倒れて亡くなった子もいました、球磨川の氾濫で亡くなった方も大勢いました。特に、球磨川については前々からダムを建設しておけば減災できると言われていながら、洪水が起きるまでダム建設の具体的な話にこぎつけることはありませんでした。日本人は備えない。
     災害に限らず戦争についても忘れてしまっている。日本は今のところ世界で唯一の被爆国で、「この悲劇を忘れない。この悲劇を繰り返させない」そのように毎年言ってきたわけですが、この悲劇を繰り返させないということであれば、万が一に備えて避難場所くらい作っておくべきだと思いますが、NPO法人「日本核シェルター協会」によると日本のシェルター普及率はヤベー感じとなっております。因みに、世界各国の普及率は以下のようになります。
     
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    各国の核シェルター普及率

    スイス 100%
    イスラエル 100%
    ノルウェー 98%
    米国 82%
    ロシア 78%
    英国 67%
    シンガポール 54%
    韓国ソウル市 323.2%(※人口比の3倍以上)

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    ウクライナを見ていて思いますが、核を想定したものではなくても避難場所は用意しておくべきなんじゃないでしょうか。
     また、

    「自衛隊の基地が近くにあると、基地が攻撃されたとき巻き添えを食らう恐れがあるから無くなってほしい」

    そんなことを言っている人もいますが、日本もかつては市街地を無差別に焼かれたりしましたし(東京大空襲)ウクライナもまた民間人のマンションやアパートがボコボコにされているのをみればわかるように基地のあるなしなど関係ないんですよね。そうしたことも忘れてしまっている。
     上のシェルター普及率をみても分かるように、大陸の人達は「備える」ということに積極的です。というのも、彼らの歴史が戦いと虐殺の歴史だからです。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    マシュー・ホワイト殺戮の世界史:人類が犯した100の大罪

    第二次大戦 死者6600万人
    チンギス・ハーン(1206ー27)死者4000万人
    毛沢東(1949ー76)死者4000万人
    英領インドの飢餓(18世紀~20世紀)死者2700万人
    明王朝の滅亡(1635ー62)死者2500万人
    太平天国の乱(1850ー64)死者2000万人
    ヨシフ・スターリン(1928ー53) 死者2000万人
    中東奴隷貿易(7世紀~19世紀)死者1850万人
    ティムール(1370ー1405)死者1700万人
    大西洋の奴隷貿易(1452ー1807)死者1600万人
    アメリカの征服(1492年以降)死者1500万人
    第一次世界大戦(1914ー18)死者1500万人
    安史の乱(755ー63)死者1300万人

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    これもすべては書きませんが、自然災害とは桁違いの人数が亡くなっています。そして、これらは自然災害ではなく「人災」なので備えれば防げるのです。だから彼らは忘れないし備えるということをするのだそうです。
     昨今、成人年齢の引き下げに伴い「大人ってなんだろう」という議論がされていましたが

    「大人とは戦争を経験した者(有事を想定できる者)のこと」

    というのが大石久和さんの本を読ませていただいた私なりの回答となります。18歳から選挙に参加できるようになるわけですが、自分の身を護るためにも有事を想定し、有事に備えられる議員を選ぶ必要があると考えます。
     昨日、

    内閣府の世論調査で、今の社会で満足していない点を複数回答で尋ねたところ「経済的なゆとりと見通しが持てない」と答えた人が半数を超えました。

    という記事があげられていました。まあ、日本は20年以上まったく経済成長していないわけで、コロナに限らず苦しい生活を強いられている人は多いかと思います。コロナ禍では、まともな補償(事業規模に見合った補償)も最後まで行われなかったので廃業倒産に追い込まれた人も少なくないと思われます。そんな中、TVメディアでは

    TV「大人とは仕事をしてる人のこと」

    なんてやっているわけでしてね。報道関係者の血液の色を確認したくなりますね。だいたい、仕事をしていると言うことであれば泥棒は窃盗を働いているし、詐欺師は詐欺を働いている、財務官僚が何を働いちゃっているのかは知りませんが、まあ、大体の人は生きるためになんらかの「仕事」をしているわけですが、じゃあ、仕事をしているというだけで彼らがオトナかと聞かれたらそういう感じでもないでしょう。

    「いやいや、そういう仕事(犯罪)じゃなくてまともな仕事をしろって話だよ」

    そうおっしゃる方もおられるかと思いますが、制度的に全員がまともな仕事に就くのは今の日本は無理なんですよ。
     GDPとは全国民の所得(収入)の合計でもあるわけですが、2000年の名目GDPが約535兆円、2020年の名目GDPが約538兆円。長らく続いた緊縮増税政策のせいで国民の収入は550兆円程度で頭打ちになっているわけです。というか、550兆円前後が上限になるようにわざと調整してるのかな(笑)
    この550兆円を6680万人の労働者で分けているという見方もできるわけですが、20年前のGDPと20年後のGDPがほとんど変わっていないのだから、一人当たりの収入も変わっていないはずなんですよね。しかし、

    「俺は儲かってる。収入が低い連中は努力が足りない」

    そう主張する方もいらっしゃるわけじゃないですか。

    全員の稼ぎの合計が550兆円前後で変わっていないのに、より多く稼いでいる人が居る

    それって、他の人の取り分を奪っちゃってるんじゃないの?という話なんですよ。実際、政商とそのシンパの政治家によって派遣やギグワーカーが導入されたことで低賃金労働が常態化しているのが今の日本ですしね。人の努力は安く買いたたけってことなんでしょうか。
     で、財務省の緊縮増税政策によって550兆円前後を上限とされた状態で、「俺が儲かっちゃう」と他の人の収入がどんどん減っていってしまうわけだ。極限まで取り分が減ってしまった人はもう「そういう仕事」をやるしかなくなっちゃうんですよね。
     「そういう仕事」をやるしかなくなっちゃう状況に追い込んでおいて、将来不安から、あるいは今日明日の生活のために犯罪に手を出すと「ここに悪いやつがいるぞ、みんなでぶっ叩こうぜ」というのは性格悪すぎでは?
     保守を自称する人たちは韓国のことを色々言っていますが、「鏡を見なさいな」と。貧すれば鈍する、日本も相当ヤベーことになっているぞ、と。
     ジョブ型雇用でしたっけ。余計な仕事してくれるくらいなら寝ててくれた方がありがたいくらいなんですけどね。いらんことばっかりする人にかぎって働き者っていう(苦笑い

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  9. 偏微分じゃなく偏積分あるか? より

    微積にあったよ、
    ガンマ関数の定義が広義積分
    2変数だが、1変数で積分し、
    残りでガンマ(s)

    階乗の一般化なんて、ぶーん、
    つうか、統計学ででてくるが、深入りするな!

    このパターン、他にもあったような。

    日本を壊す、微積?

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  10. 走りながら思い出す より

    合成積、でした

    このパターン、他にもあったような。

    cnnで使うか?

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