日本経済

2019年5月29日

【藤井聡】近い将来、リーマンショック級の危機が「絶対」起こる

From 藤井聡(京都大学大学院教授)

 

政府が、消費増税を取りやめる唯一の条件、
としてあげている「リーマンショック級の危機」。

これが起これば消費増税はとりやめます、
と安倍総理も菅官房長官も
繰り返し口にしておられます。

多くの人は、まぁ、そんなことは起こらないだろう――
と漠然と思っておられると思いますが、実を言うと、
(それが10月1日までなのかどうかは分かりませんが)
近い将来、リーマンショック級の危機は、「絶対に」起こります。

そもそも「リーマンショック」とはいわゆる「バブル崩壊」。

そして、その「バブル」の実態は「民間負債」です。

皆がカネを借りまくって投機しまくって、
地価や株価が急騰していく現象です。

で、そんな「民間負債」が超絶に拡大していった時、
何かのきっかけで「借金の焦げ付き」
(つまり、「貸した金が返ってこなくなる」と言う現象が)
急速に連鎖し、皆が一気に“破産”していく現象が
「バブル崩壊」です。

こういった「バブル崩壊」は、
(MMTの主唱者の一人であるレイの師匠である)
経済学者のハイマン・ミンスキーがそのプロセスを理論化しており、
しばしば「ミンスキーモーメント」とも呼ばれています。

バブル崩壊=ミンスキーモーメントの
過去の代表例として挙げられるのが、

・1990年 日本のバブル崩壊
・1997年 タイや韓国等のアジア通貨危機
・2007~9年 アメリカのリーマンショック(サブプライム住宅ローン危機)

です。

「この時、一体、何が起こったのか」
を見てみたのが、こちらのグラフ。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1826739577426977&set=a.236228089811475&type=3&theater

これらのグラフは、
「民間債務」の対GDP比の推移を示しています。

まず、日本は、80年代のバブル景気の時、
民間債務が年率でGDPの9.2%ずつ拡大していき、
(つまり、年間40兆円~50兆円程度ずつ!)
GDPの210%にまで膨らみきった1990年、
(金融引き締めや、土地取引の総量規制をきっかけとして)
その「バブル」が崩壊しました。

タイや韓国も、
民間債務がGDP比で
年率8~10%ずつ拡大していき、
GDPの140~160%程度にまで膨らんだ時に
(ヘッジファンドの通貨の空売り攻勢がきっかけで)
そのバブルが崩壊しました。

アメリカも、民間債務が、
GDPに対して年率4.3%ずつ拡大していき、
170%に達した時に、バブルが崩壊しました。

こう見てみますと、
バブル崩壊には次のような共通のパターンがある
ことが見えてきます。

すなわち、民間の借金が、
GDPに対して年率で5~10%ずつ拡大していき、
GDPの150~200%程度に至った時に、
何かのきっかけで、バブル崩壊
が起こるわけです。

(※ なお、新興国は、概して、債務の拡大率が大きく、
破裂水準は低いようですね。)

こう考えると、
「民間債務の膨らみ」
は、地震の岩盤の破壊エネルギーの様なもので、
ある程度溜まると岩盤が破壊して地震が起こるように、
その内「バブル崩壊」してしまうのです。

・・・では、今の世界を見回したところ、
一番ヤバそうなのが、中国!

こちらのグラフに、今、バブル崩壊が、
ヤバそうな国を並べてみました。

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1826741800760088&set=a.236228089811475&type=3&theater

ご覧の様に中国は、かつての日本と同様、
対GDP比で年率10.2%もの割合で、
民間債務が拡大
していき、
もはやGDPの207%にまで達しています。

もうこうなれば、何かのきっかけがあれば、
スグにでも、この中国バブルは崩壊することになるでしょう。

実際、こんな報道もなされるようになってきています。
https://www.excite.co.jp/news/article/TokyoSports_1410636/

そんな中国の中でも特にヤバイのは、香港。

債務が年率12.1%という未曾有のスピードで拡大し、
何とGDP比で300%を超えてしまっているのです!

こんな債務拡大が、いつまでも続く筈がありません。

実際、UBS証券は香港の不動産バブルが「世界最悪」だ、
という分析結果を公表しています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-10-01/PFWA786K50XX01

中国・香港のバブル崩壊は、
もはや秒読み段階にあると見ていいでしょう。

これから始まる米中経済戦争が、
その引き金を引くことになるかもしれません。

あるいは、「日本の消費増税」に伴う日本の大不況が、
中国のバブルをはじけさせるきっかけになるかも
しれません。

何と言っても、日本経済はまだまだ巨大な存在であり、
それが不況になってしまうのは、
世界に大迷惑をかけるのです。

なお、民間債務対GDP比が200%を超えたカナダや、
新興国の危険水域である140~150%に
近づきつつあるベトナムも要注意です。

人類は、リーマンショックで
過剰なグローバル化や過剰投機が
どれだけヤバいモノなのかを学んだ筈なのですが―――
何度も何度も、過ちを繰り返すようです。

いずれにしても、
この恐ろしい世界の現実を知れば、
「消費増税はもう、待ったなしだ!」
なんてノー天気な事を言えるような状況じゃないことくらい、
誰でも分かりそうなものですが・・・
本当に現代ニホンジンは、
どうしようも無く阿呆なのではないかと、
思えてしまいますよね。

現代日本人がそんな愚か者でないことを、
心から祈念したいと思います。

追伸1:
このどうしようも無い日本をどう再生できるのか―――ご関心の方は是非、当方の新著『令和日本・再生計画』をご一読ください!
https://www.amazon.co.jp/dp/409825350X

追伸2:
令和ピボット(転換)を論じてきた表現者クライテリオンでは、6月29日(土)に、福岡でシンポジウムを開催することとなりました。柴山さん、浜崎さん、川端さんに加えて、施さんにもご登壇頂く予定です。九州・中国地方の皆さんは是非、ご参加ください!
https://the-criterion.jp/fukuoka_symposium_2019/

関連記事

日本経済

【青木泰樹】安倍総理の三つの誤算

日本経済

【三橋貴明】実質消費の四年連続減少が意味するもの

日本経済

【藤井聡】「消費増税と緊縮」で日本経済は最悪「ミャンマー級」に凋落する

日本経済

【藤井聡】政府の消費増税対策は、残念ながら「全く不十分」である。

日本経済

【佐藤健志】熊本地震発生にかんがみ、消費税率の引き下げを!

【藤井聡】近い将来、リーマンショック級の危機が「絶対」起こるへの7件のコメント

  1. たかゆき より

    米国にとっては

    日本なんぞ 所詮は 弾
    便利な 消耗品

    生意気なシナを 潰すためなら

    日本が どれほど不況になろうが
    日本人が 何人死のうが

    「弾」を打ち尽くす。。。

    核を 日本だけに二発も 落とし

    非戦闘員を 生きたまま 焼き殺した
    米国の
    悪行は 一生モンだべ。。

    小生は 小心者ですから
    必ず 倍返し してやる
    なんて これっぽっちも
    思っては おりません ♪

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. デカメロン より

    吉川洋氏は「大規模災害に備えて財政健全化が必要」のようなことを述べておられますが、それより経済規模を拡大し国力の充実を図って、大規模災害時復興の余力を涵養しておくことの方が重要のような気がします。財政の余力なんて大災害が来ればひとたまりもなく吹き飛んで、復興のための増税で国民経済は立ち直る余力すら総室数可能性大です。ポピュリズムに負けたくないというつまらないプライドは早く捨て去ってほしいものです。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

      1. デカメロン より

        「総室数可能性大です。」→「喪失する可能性大です。」に訂正。

        返信

        コメントに返信する

        メールアドレスが公開されることはありません。
        * が付いている欄は必須項目です

  3. リグス より

    中国のバブル崩壊は結構前から言われてますが、なかなか破裂しませんね。統制経済だから債務処理をかなり延長出来るんですかね?

    しかし、経済理論ってもうちょっと精度が上がらないのかなとか思います。シミュレーション上でもいいのですが、いつ頃国債超絶崩壊になるとか、ハイパーインフレになるとか、バブル崩壊とか。

    この記事では香港など待ったなしですが、はてさて。一般向きに予測の難しさも解説していただけるとありがたいです。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】パズルを解く選挙

  2. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】立民・維新の「食料品だけの消費減税」は,まっ...

  3. 日本経済

    【三橋貴明】日本人はどこから来たのか?

  4. 日本経済

    【三橋貴明】「低所得者 対 高所得者」のルサンチマン・...

  5. 日本経済

    【三橋貴明】付加価値税という世界的詐欺

  6. 日本経済

    【三橋貴明】鳥は三匹しかいないわけではない

  7. 日本経済

    【三橋貴明】混迷の政局

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】小泉八雲『日本の面影』の読書ゼミを本日開催....

  9. 日本経済

    【三橋貴明】石破を引きずりおろす手法がない

  10. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】なぜ,『石破茂という恥辱』という特集号を編纂...

MORE

タグクラウド