「新」経世済民新聞

From 室伏謙一＠政策コンサルタント/室伏政策研究室代表

ウクライナへのロシアの侵攻をきっかけに、ウクライナ情勢への関心は一気に高まり、日本では「戦争反対」や、「ロシアの侵略が〜」とか、「ロシアはウクライナから出ていけ」といった声がよく聞かれるようになりました。各地でロシアの侵攻反対、というより「戦争反対」デモが行われ、ウクライナ云々よりも、単なる脊髄反射的な「戦争反対」の動きになってきているように思います。（無論、在日ウクライナ人による、祖国の窮状を訴えるデモはそれらとは全く別物です。祖国のために大いにやっていただければと思います。）

　しかも、連日メディアを通じて報じられるのは、反ロシア側、あえて言うなら旧西側視点の情報ばかり。そんな状況では、この事案をマトモに考えるのは容易ではないかもしれません。まして、日本にとっての意味を考えるなんて、望むべくもないかもしれません。（日本にとっての意味については動画を作成し、「霞が関リークス」チャンネルで近日公開予定です。）

　そうした中で、今回の事案をきっかけとして、「ニュークリア・シェアリング」（核共有）の話が急に浮上してきました。きっかけを作ったのは安倍元総理。（そう言えば、かつて石破議員もそんなことを言っていたような気がしますが。）

　この話、簡単に言えばアメリカの核兵器を日本も共有しようというもの。日本が独自で開発しなくてもいいし、アメリカのものが共有できれば一石二鳥、と考えている人が多いのではないでしょうか。しかし、結論から言えば、この「ニュークリア・シェアリング」の目的は、共有しているとする先の国に、核兵器を持たせない、開発させないための方便であり、ある種の封じ込めの手法なのです。

　単純に考えても、核兵器はアメリカのものであって日本に譲渡してくれるわけではないので、あくまでもその使用如何はアメリカの判断次第です。日本が協力なり関与するなりと言っても、やはり主体的に関わることはできません。勿論共有物にしてくれるわけでもありません。つまり「共有」とは名ばかり。気分だけ「共有」で、実は何も変わらないどころか、日本による今後の将来的な核兵器開発の機会も失うことになりかねない、むしろ日本の立場を危うくしかねないものなのです。

　まあ、安倍元総理は核兵器についての議論をタブー視するなという意図で、衝撃を弱めるために「ニュークリア・シェアリング」という言葉をあえて使ったという可能性もゼロではないので、そうであればまだいいですが、「シェアリング」という言葉が流行っている昨今、「なんかシェアっていいよね」なんてその延長線上で考えられたらたまったものではありません。そもそも「シェアリングエコノミー」も、デフレや新自由主義の推進を前提とした、貧困化を進めるものでしかないですから、危険性という意味では同じですし。

　かつて米国からこの「ニュークリア・シェアリング」を持ちかけられた時に、それが独自の核開発をさせないためだと見抜いたフランスのド・ゴール大統領は、これを毅然と拒否したそうです。しっかりした国家観を持ち、現実の国際政治を熟知したド・ゴール大統領ならではの対応だと思いますが、同じとは言わないまでも、現実の国際政治を理解し、日本の将来を考えられる政治家や専門家がどのくらいいるかと考えると、少々悲観的にならざるをえません。

　ですから、今回のウクライナ危機をきっかけに、明日とは言わないまでも明々後日は我が身と肝に銘じて、まずは自主防衛力の強化の議論、そのためにも積極財政への転換が必要であるとの議論、国力を毀損する構造改革をやめさせるための議論を、直ぐにでも始めて、機運を高めていきましょう。