日本経済

2019年6月27日

【小浜逸郎】アメリカの「安保破棄」に備えよ!

From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授

ブルームバーグ6月25日の記事によると、トランプ米大統領が最近、日本との安全保障条約を破棄する可能性についての考えを側近に漏らしていたそうです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-25/PTMUOE6TTDS801
これは予想されたことでした。

トランプ大統領は、以前から日米安保条約の片務性(日本が攻撃されれば米国が援助することを約束しているが、米国が攻撃された場合に日本が支援することは義務付けられていない)について不満を漏らしていました。
また、NATO加盟諸国に対しても、経費負担が不公平であると言い続けていますね。
大統領当選直前にもトランプ氏は、在日米軍駐留経費について、日本が全額負担すべきだと主張していましたが、さすがに最近では言わなくなりました。
日本が75%(2014年時点で約6700億円)も負担していることを知ったからでしょう。

経費の問題はともかくとして、今回、トランプ氏が側近に「安保破棄の可能性」を語ったとすれば、それは、アメリカン・ファーストを徹底させようという、ビジネスマンらしいそれなりのロジックに基づいています。
もちろん、事実だとしても、側近に漏らしたレベルの問題ですから、これが直ちに実際の破棄に結びつくかどうかはわかりません。
言葉をあまりに過大に受け取って、大騒ぎすることには慎重でなければなりません。
しかし、これがトランプ氏の本音であることはたしかです。
彼は来日した折、日米同盟はかつてなく確固たるものになったといった意味の発言をしていますが、単なる公式的なリップサービスと見るべきです。
なぜなら、自国の安全保障は自国が担うべきであるというのは、世界の常識ですし、アメリカは中国との覇権戦争には勝たなくてはならない必然性を持っていますが、日本のために多くの米兵の命を危険にさらし多額の軍事費を費やすだけの必然性などは持っていないからです。

たとえばアメリカは、北朝鮮が核弾頭を積んだICBMを持つことは断じて許さないでしょうが、中距離核を持つことを阻止するだけの理由が格別にあるわけではありません。
現にトランプ氏来日前の5月4日、北朝鮮は複数の飛翔体を発射したと韓国が発表しましたが、トランプ氏はその報道を問題にしませんでした。
そしてよく知られているように、中距離核は日本になら簡単に届きます。

もともとこのトランプ大統領の側近への発言は、事実だとしてもびっくりするようなことではなく、前大統領のオバマ氏が東アジアに対して取っていた姿勢の延長上にあります。

さて、この発言を知って、すわ日米同盟の危機だ、と慌てる向きもあるかもしれません。
もっとも、トランプ発言に本気かつ真剣に立ち向かい、それを奇貨とする手も考えられないではありません。
しかし、もし今頃慌てるなら、遅きに失すというべきで、じつは私たちは、とっくに独自の国防体制を充実させておかなくてはならなかったのです。
中国の露骨な膨張主義に対して、それに見合うだけの計画も予算も組まず、いざとなればアメリカ様が守ってくれるという空しい期待に長年依存してきた歴代政府の怠慢と国民の油断こそ、責められるべきです。

さらにブルームバーグの記事を引きましょう。

関係者によれば、トランプ大統領は沖縄の米軍基地を移転させる日本の取り組みについて、土地の収奪だと考えており、米軍移転について金銭的補償を求める考えにも言及したという。また、トランプ氏が日米条約に注目したことは、世界の他の国々との条約においても米国の義務を見直そうという広範な検討の端緒である可能性もあると関係者2人が述べている。(中略)
大統領が米議会の承認なしにいったん批准された条約を破棄できるかどうか、
米国の法律では決着していない。

こうして、日米安保は、いつ破棄されてもおかしくないのです。
いまの日本政府に、それに対する心構えができているか。
答えは否定的たらざるを得ません。
この場合、単に、中国の軍事力に拮抗しうるだけの自主防衛力の準備がまるで整っていないことだけが危惧されるのではありません。
二つの点に注意を促しておきたいと思います。

①いまの緊縮病に冒された財務省、政治家、学者、マスメディアに、自主防衛力増強、国防予算大幅拡大の必要性を説いても、とうてい聞き入れるとは思えないこと。
②8月以降に予定された日米通商交渉において、トランプ政権は、「条件次第では安保破棄も辞さない」というカードを切って迫ってくる可能性が考えられること。

ちなみに自主防衛力増強と言うと、すぐ「日本も核武装すべきだ」といった極端な「べき論」が飛び出しますが、ネトウヨ諸君、ここは少し冷静に。
日本の核武装など現実的ではないことは、次のいくつもの点によって明らかです。
①アメリカがこれ以上核拡散を許すはずがありません。これは、北朝鮮やイランの例によってわかります。それとも、アメリカをも敵に回す覚悟でそれに踏み切りますか?
②国際社会に逆らって核拡散防止条約(NPT)からの離脱を決断する必要があります。
③たとえ核兵器の生産が技術的に可能だとしても、実用化に当たっては、陸上基地や車両や爆撃機からの発射などは種々の理由から問題点をクリアすることがきわめて困難。唯一可能性があるのは、原子力潜水艦への搭載ですが、これにも現状では時間やコストや技術面で数々の困難が伴います。
http://dpweb.jp/nihonnkakubusouron
④唯一の被爆国である日本が核保有国になるには、国内の反対のみならず、国際的評判を一気に落とすことを覚悟しなければなりません。

自国核武装論などしなくても、他の軍事技術や兵力の増強によって、防衛体制を固めることは可能です。
もともと軍備拡張は、必ずしも戦争のためにするのではなく、相手国に脅威を示して相手のやる気を殺ぎ、外交を有利に進めるためにあります。
その場合、核が唯一の手段というわけでもありません。
万が一、敵国が核の使用に訴える気配を見せたら、たとえば、ドイツやイタリアのように、アメリカとの間で核シェアリングの合意を取り付けることも一つの手でしょう。

いずれにしても、もはや日米安保に頼れる情勢ではありません。
沖縄始め世界に類のない広大な面積比を占める在日米軍基地には、徐々に撤退してもらうべきです。
アメリカもそれを拒否しないでしょう。
代わりに一刻も早く自衛隊を拡充させ、国防体制を固める必要があります。
しかし、その大きな障害になっているのが、財務省の緊縮路線です。
観念的な核武装論などに耽るよりは、まずはこの緊縮病をどうやって打ち破るかに国民の力を結集させるべきでしょう。

また、いまの日本政府に、アメリカの通商交渉のシビアな攻勢に対等に立ち向かえるだけの力があるとも思えません。
とりあえず、日本の交渉当事者たちが、「安保破棄」の脅しなどでおたおたしないように、腹をくくって臨んでもらうよう、祈るしかないでしょう。
アメリカは仲良し同盟の相手などではなく、国益のためなら何でも打ち出してくる国だということを再確認しましょう。

以上述べてきたことの一部は、筆者も呼びかけ人として名を連ねている、政策集団「令和の政策ピボット」の政策にも書かれています。
https://reiwapivot.jp/

【小浜逸郎からのお知らせ】
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80%AB%E7%90%86%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90&qid=1554280459&s=gateway&sr=8-1
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https://ameblo.jp/comikot/

●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo

—発行者より—
総理「政権中にこれを破棄できなければ、日本はオシマイ」

三橋貴明と総理との会談時で明かされた真実。

●総理が、三橋との会食をオープンに
(世に公開)してまで国民に伝えたかった事とは…?

●この会食で明らかになった、
私たちの邪魔をする”3つの敵の正体”とは?

●2020年に訪れるかもしれない
日本の危機的状況とは一体何なのか?

日本が発端となり、
2008年のリーマンショックが再来する?

などなどメディアが決して報道しない
「安倍総理の告白」と「日本経済2020年危機」
について解説した書籍を出版致しました。

こちらから詳しい内容をご覧ください。
https://keieikagakupub.com/38JPEC/1980/

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【小浜逸郎】アメリカの「安保破棄」に備えよ!への7件のコメント

  1. たかゆき より

    二度あることは 三度ある (たぶん)

    どこの国でも構いません

    もちろん 二度も落としていただいた

    アメリカ様からでも、、

    三度目を経験させてもらっては 

    どうかしら??

    人も国も 死を経験しなければ

    永遠の生命は 得られない と

    新約聖書にあります
    (嘘です 念のため)

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      1. たかゆき より

        核武装

        出来る理由も 出来ない理由も

        山ほど あるかと、、

        要は する気があるか 否か、、、

        小生は

        核武装した原潜を 日本海 東シナ海

        そして 東太平洋に配備すべき という意見に

        与する え〜〜と なんでしたっけ

        そうそう 寝とうよ ボケ で

        ございます ♪

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  2. 日本晴れ より

    小浜先生 核武装論もアメリカとのディールですよ
    トランプは日本との貿易交渉で有利に進めたいから日米安保破棄で
    脅しを掛けてるつもりなんでしょうが
    こっちもアメリカを困らせる脅す為にもだったら日本も核武装するぞくらいに言わないとアメリカとの交渉も上手くいかないでしょう
    収奪されるだけで。日本もふっかけることも大事だと思います

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  3. 神奈川県skatou より

    数年来、防衛省の概算要求を興味本位で見てますが、31年度からは若干毛色が変わったように感じられます。

    今まではどちらかといえば未来志向というノリでしたが、31年度は、今さらかもしれませんが、継戦能力・抗たん性強化といった、数年以内のある程度の具体的姿勢確保という空気を感じました。

    核武装については、本筋もありますが、本当に必要な時は躊躇なくワンオフでも保持するべきで、現時点での「核武装議論」は、その準備の意味がありそうに思われます。
    もっともその前に「片務的(=支配的)日米安保の克服」がありそうで、今は数十年ぶりのチャンスなのかもしれませんですね。

    防衛政策について、現場は現実をよく分かっていると思いますが、局所解の政策にならたないためには、国家戦略の共有、つまり未来の我が国の在り方のイメージのすり合わせが肝心なのかもしれません。
    そのビジョンから始めなければ、優秀な官僚も使えませんですね。

    ただ、ビジョンとは、(すでにある)言葉ではない、ので、今世なかなか打ち立てにくそうとは思いますが。

    De+Sign

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  4. 天鳥船 より

    軍事同盟があろうが無かろうが、独立国として、主権国家として、最低限自分の国は自分で守れるだけの備えは必要だということは、私も以前から思っておりました。
    ただ、日米安全保障条約について、「米国が日本を守るためだけの一方的な条約」であるとトランプが誤解しているとすれば、これは誰かがきちんと説明する必要がある。
    もし、日本が中国の手に落ちたら?米国は公海を隔てて太平洋上で直接中国と国境を接することになります。これは、米国の安全保障上決して好ましいことではありません。
    もちろん中国だけでなく(冷戦時代のソ連ほどでは無いとは言え)ロシアの脅威もあります。
    かつて日本列島のことを「不沈空母」と表現した総理大臣もいましたが、米国の立場から地政学的に見て、日本列島は(日本人の立場としては甚だ不快ですが)共産圏から米国を守る防波堤の位置にあり、重要な砦である訳です。つまり、日本を守ることは、そのまま米国を守ることに直結しており、安保条約は米国の国益にも適っている訳です。
    ですが、私の想像ですが、恐らくトランプもこの辺りについては、本当は理解しているのではないでしょうか。彼は商売人です。安保破棄をチラつかせながら、本音はそれをネタに貿易交渉で日本に譲歩を迫る狙いでしょう。だから、直ちに日米同盟に現実的な危機が訪れるとは考えにくいです。
    それよりも、今回の記事で気になった点があります。
    >・・・ネトウヨ諸君、ここは少し冷静に。
    少し前まで日本では、「核武装すべき」どころか、「核武装について検討すべき」かどうかすら意見が言えない空気がありました。国会議員が「核武装」の言葉を出そうものなら、たちまちマスゴミに袋叩きにあい、役職を罷免された上に議員辞職をせまられる程でした。最近でこそ少し空気が変わってきましたが、本来、国の守りという重要な事柄においては、一切のタブーを排除し、あらゆる可能性について検討がなされねばなりません。「唯一の被爆国として核武装は許されない」という意見はあるでしょうが「唯一の被爆国だからこそ、二度と核を落とされないよう自前の核抑止力を持たねばならない」と言う意見も当然ありです。以前、別の方の記事に対するコメントでも書きましたが、そもそも軍事・軍備というものは周辺国・同盟国・仮想敵国の状況に左右される相対的なものであり、絶対的なものではありません。だからこそ、核武装も含めあらゆるオプションについて検討することが重要なのです。
    それをネトウヨなどと低俗なネットスラングを使って揶揄する幼稚なやり方は、はっきり言って呆れるしかありません。冷静になるべきは、貴殿ではないですか、小浜さん。とても大学の客員教授の肩書きを持つ人間が使うべき表現とは思えませんが、今回ばかりは見損ないました。

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      1. ぬこ より

        こういう知識人づらしたのに限って、ネトウヨとかって人を見下す事を吐くんですよね。
        見下されてんのはお前だっていうのにね(笑)

        米国の日米安保破棄宣言なんて冷戦終了の時点で普通解るだろうに。

        欧州の大金持ちの為に正義のヒーロー気取りで世界中で戦争やるのがアメリカの仕事。

        中東でその実態に馬鹿なアメリカ国民も気付いてきたから、次のターゲットは東アジア。
        そのための、反日・嫌韓活動や、中国尖閣諸島侵略。
        尖閣諸島のケースは英サッスーンが日米活動家に金を出したって話。

        日本に移民入れてるのも、日本列島で低賃金のシ●系移民に火を噴かせようとする腹かもね。
        日本の内需(笑)で武器も売れるし、MMTやデフレ脱却で煩い日本の経済も潰せるし。

        日本やドイツやロシアの様に、アングロサクソンや漢人やアシュケナージと違う、集団主義の民族が、反グローバルで欧州庶民に火を点けるのを恐れてるんでしょ?

        日本のアニメやゲームコンテンツに欧米の若者が吸い寄せられるのも、日本側に仕掛人が居ますよね。

        とあるゲームでは、日本列島そっくりのスメリアっていう国と国宝アークを守るのが巫女さんそっくりのヒロインで、敵はロマリアってそのまんま。
        アメリカらしき国も実はロマリアに洗脳されてる道具のようなもの。

        また別のゲームでは、外来の魔物らしき一族に追われた鬼の一族が使う文字が、神代文字のヲシテにそっくり。

        なんでアジア系サイヤ人が覚醒すると金髪で緑の目になるのか?、アーリア人信仰のヒトラーが、日本の緑龍会となんで手を組んだのか。

        とかとか。
        分かってる人は分かってコンテンツ作ってますよね。

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