日本経済
2020年6月4日
【藤井聡】「8割自粛」は「副作用の超強烈な劇薬」であり、その投与には「十分な慎重さ」が必要と考えます。~藤井からの政府・専門家会議批判の基本的理由~
From 藤井聡@京都大学大学院教授
当方が5月21日に配信した記事『【藤井聡】【正式の回答を要請します】わたしは、西浦・尾身氏らによる「GW空けの緊急事態延長」支持は「大罪」であると考えます。』は、各方面に波紋を投げかけているようです。
https://38news.jp/economy/15951
当方が直接呼びかけた西浦・尾身両氏からの回答は未だ頂けていませんが、両氏に変わって別の「専門家」の方等から、藤井批判に対する「批判」が相次いで公表されています。
例えば、「感染症専門医の第一人者」であられる岩田健太郎氏が、藤井批判を批判的に論ずる「連載」(計四回)を配信されたり、
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/517429/
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/518809/
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/520357/
https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/521889/
週刊文春で、作家の山本一郎氏が、当方の記事を後講釈的なものとして厳しく批判されています(https://bunshun.jp/articles/-/38122?page=3)。
筆者の意図は、こうした議論を国民的に展開し、拡大していくことそのものでしたから、こうした岩田氏、山本氏には、心からの感謝の意を表したいと思います。もちろん、こうした批判については別途、一つ一つ再批判して参る予定にしていますが、ここでは筆者がなぜ西浦・尾身氏を批判しているのかについて、その基本的な理由を簡潔に説明しておきたいと思います。
まず、山本氏に代表される「藤井は、過剰自粛だと結果論で批判しているがそれは、後講釈的、つまり、『後出しじゃんけん』な卑怯な振る舞いだ」という批判ですが、これは多分に誤解に基づくものと筆者は感じました。
そもそも筆者は、「5月上旬の時点で、8割自粛の効果が疑わしいというデータを専門家達は持っていたにも拘わらず、それを参考にしなかったのではないですか?それで、ものすごく経済被害が出てるのですが、それって問題じゃありませんか?」と、専門家の先生方に質問しているだけであって、後出しじゃんけんだと言われる要素は皆無だと考えます。
というか印象論だけで言っても、山本氏をはじめとした「後出しじゃんけん批判」の方々は、どうやら筆者が収束を確認してからいきなり過剰自粛を言い出したかのような批判をされている様に思いますが、少々事実認識が間違っているように思います。なぜなら、筆者はこれまで一貫して「過剰自粛批判」を展開して参ったからです。
例えば、第一波が本格化する遙か以前の3月3日の時点から「過剰自粛という集団ヒステリー」(https://38news.jp/economy/15456)という記事にて「過剰自粛」を批判し、「コロナを「過剰」に恐れてはならない」(https://www.youtube.com/watch?v=qYvoBBFLLAo)というラジオ番組(収録3月23日)でも、各国のロックダウンが「過剰」な反応だと批判するなど、一貫して「過剰自粛違批判を展開して参りました。
当時、「未知なるウイルスに対してそんな無責任な事を言うなんてなんて不道徳なんだ!」というタイプの批判/バッシングをそれなりに受けましたが、筆者はそうした主張を基本的には変えずに、過剰自粛を回避するために如何なる対策が必要かを発進し続けました(「半自粛のススメ」等も勿論その一貫です)。
https://news.yahoo.co.jp/articles/74dffdcc9a1170e4270f240211f013e8a22ad0fa?page=2
そして今回、一体なぜ、どういう主旨で藤井が西浦・尾身両氏に対して批判しているのかについては、次のような「激しい副作用のある特効薬の例」を考えて頂けると分かりやすいのではないかと考えています。
・・・今ここに、おそらくはとても効果があるだろうが、実際には効果の程が不確実な「特効薬」があったとしましょう。ただし、その特効薬には「極めて激しい副作用」があることが明らかだったとしましょう。
例えば、「抗がん剤」は、「貧血・出血・吐き気・口内炎・下痢・味覚の変化・脱毛・皮膚の障害・爪の変化」などの激しい副作用が伴う事が知られています。
こうした治療を使う時は、医者には当然、それなりの「慎重さ」が求められます。
なぜなら万一、さして効果も無いのに使用を続ければ、ただ単に副作用だけがもたらされるからです。そうなればそれは薬では無く単なる「毒」になってしまいます。
そして今回筆者が問うているのは、医師が持つべきそういう「慎重さ」が、西浦・尾身氏にあったかどうかという点です。
もちろん、「十分あった」という回答はあり得ると思います。念には念をいれた治療(感染症対策)が必要だったという方は居るかも知れません。
しかし、西浦氏ご本人が公開しているデータを見る限り、そうした慎重さがあったとはどうしても思えない、というのが、筆者の指摘の根幹です。
(そうした当方の判断の詳細は、当方の記事を改めてご確認ください。https://38news.jp/economy/15951)
もちろんお医者様には敬意を払い、信頼するのは患者として当然あるべき姿です。しかしだからといって、患者は全てを一任してはなりません。
なんと言っても、自分の命がかかっているのですから、当然のことです。
そして今回の場合は、一人の患者の生命の問題だけなのではなく、日本の国民国家全体の経済と社会に関わる問題です。ですから(西浦・尾身氏両氏も重々ご存じのことと思いますが)そこで求められる「慎重さ」は極めて大きなものなのです。したがって万一あるべき慎重さがそこで欠けていたとすれば、その被害は恐るべき水準になるのです。
折りしも、これから第二波、第三波がやってくるとも言われています。その時に、「あるべき慎重さ」を欠いた対応が繰り返されれば、その被害は二倍にも三倍にもなってしまいます。すなわち、感染抑止についてあまり効果が上がらないばかりでなく、いたずらに経済が疲弊し、副作用ばかりが顕著なものとなってしまうことが危惧されるのです。
ついては、第一波が小康状態となった今こそ、緊急事態中にはなかなか議論しづらい、「8割自粛の有効性と副作用についての冷静な評価と、それに基づく判断」の問題を、しっかりと議論しておく必要があると考えます。
そうした議論の果てに、「第二波」における「より適切な感染症対策」を実現することができるものと期待しています。
(なお、筆者の京都大学レジリエンス実践ユニットからの「8割自粛」に対する代替案はもちろん「半自粛」です。詳細は例えば、こちらをご参照下さい。
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/corona_slides_5.pdf
https://www.youtube.com/watch?v=3VAiuNFuzJM)
ついては本議論にご関心を寄せて頂いた皆様方、そして当方の批判文に意見を公表されたあらゆる論者に改めて、心から感謝の意を表すと共に、さらなる適切な議論の展開を祈念したいと思います。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
追申1:
ここでお話しした内容については、下記記事でさらに詳しく論じています。是非、ご一読下さい。
『公共政策とりわけ感染症対策においては「科学者倫理」の確保が極めて重要である ~尾身氏・西浦氏ら専門家会議の倫理問題を考える~』
https://foomii.com/00178/2020052301264166737
追申2:
当方は新型コロナ対策について、公共政策、リスクマネジメントの視点から様々に情報を発信していますが、その背後には下記記事で論じたリスク認知があります。こちらも是非、ご覧下さい。
『小林よしのり先生の「新型コロナで死ぬのは寿命だ」説を考える』
https://foomii.com/00178/2020053022394966983
【藤井聡】「8割自粛」は「副作用の超強烈な劇薬」であり、その投与には「十分な慎重さ」が必要と考えます。~藤井からの政府・専門家会議批判の基本的理由~への9件のコメント
2020年6月4日 3:10 PM
議論が大いに広がることを一読者として期待します。
些細なことだが、気になった点を。
同じ専門分野に身を置く人ならまだしも「感染症専門医の第一人者」とわざわざかぎカッコつけて底意をちらつかせるのは、高坂正堯じゃないけど「あんまりかわいらしないわなあ」と思う。岩田健太郎氏の連載では「第一人者」らしくこの手の「かわいらしない」棘がなかった。中野剛志氏の反論でいきなり「日本に経済の専門家はいない」とぶたれた意趣返しを被ったとすれば岩田氏がお気の毒だ。
ド庶民なので、普段から藤井氏が発する義憤には大いにかられるところがある。しかし今回「大罪」と掲げられたのを見たとき、もちろん藤井さんの意にないことだろうが、マキャベリの有名な「弓矢のたとえ」を思い出してしまった。
庶民はどうでもいいことにこだわるよくない癖があります。どうかお聞き流しを。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月4日 7:20 PM
わたくしからしても、専門家会議を含めた政府や与野党の考え方には疑念しかありません。とにかく特別に難しく考える必要はなく根本的にシンプルな思考で単純な政策でよいと思うからです。なぜなら現状は非常時だからで、戦時の考え方と同じく第一に補給ありきだからです。それを大学生だけの給付だとかGOTOOキャンペーンとかアフターコロナとかズレ過ぎて残念この上なしに呆れるばかりです。なので早急にやるべきは患者の治療と予防の徹底を促すと同時に国民と企業の保証しかあり得ない筈です。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月4日 11:16 PM
藤井先生の仰ることはわかりますし、コロナ対策は全面的に賛同します。
しかし、僕には先生かあまりにも過激な言葉で批判している姿を見て、悲しく思う時が多々あります。
過激な言葉で先生の品位が下がってしますのでという心配です。
ただ先生としては、一生懸命国民の幸福のために活動されていて、それでもなかなか世間一般の論調が変わらないこと、相手が変わらなくてもいいけど(?!)、藤井先生の主張をまずは聞いた上での総合的に判断した上での反論される人が少なくてしんどいはずです。
そのストレスのせいで厳しい言葉で批判するようになっているとも思います。
藤井先生の主張は、状況に、応じて対策を変える。
例えば、コロナがより強力になった(若年層の致死率やR0上昇、)が場合はより強い自粛に変更するモデルも示すこと、現在の主張がより伝わりやすくならないでしょうか?
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月5日 1:33 AM
事実上の敗北宣言だね。
ちなみに、少なくとも未知の敵に対しては、攻撃は強めに、そして、あと少しというところで手を緩めない、というのは、戦いの鉄則ですからね。
次は、もっと賢く効率的にできるんじゃないかな。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月5日 7:29 PM
藤井さん、
医療専門家はともかく、Y某、等の有象無象は、
この際、反応するだけ無駄かと・・・。
彼らは、
現代、このネット社会において、自ら何らリスク・コストを賭けず、
有名?人に絡む事、タグ付け?する事において(=要は、他人にレバレッジを掛けて)のみ
自己のアイデンティティーを発露することができる輩であって、
そもそも医療以外においてすら何の専門性もない(=全くアカデミックでは無い)ただ、空気=気=機を見るに便のみの存在ではないでしょうか。
彼らの散文・三文は、
少なくとも、一生懸命、汗をかいて分析・検証をしてきたものではなく、
その時々の風に乗ることのみに腐心してきた、卑しい行動原理による発言だと思います。
藤井さん!
陰ながらでも、見る者、理解する者、同調する者、応援する者、
まだまだ沢山、存在していると思います。
頑張ってください。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月6日 1:49 AM
専門家会議が「経済の専門家」の追加を要請した時点で、
私は以下の2つの理由を考えました
1) 経済のことも考慮すべきと反省した
2) あまりの経済被害を見て責任を回避したいと考えた
しかし、専門家会議が緊急事態宣言延長を支持したことから、
(2) だったのだな、と思いました。
なぜなら、この時点ではまだ経済の専門家の意見は聞いていなかったはずだからです。
(その後に集められた経済の専門家は碌でもない連中ばかりでしたが)
「自分たちは経済被害の責任から解放された」という認識から緊急事態宣言延長を支持したのなら、
彼らは、行政に影響を与える立場の人間として不誠実だと言わざるを得ません。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月7日 12:17 PM
大規模イベントの自粛や学校の一斉休校が取りざたされた際に、藤井教授はラジオ番組で、「新型コロナなどただの風邪だ、しかも子供がかかっても重症化しないことがわかっている、おたふく風邪はわざと近所の友達から移してもらったりするでしょうが、そうやって子供に免疫をつけてやる方が正しい、そもそも国民がみんな免疫を持たない限り解決はしない、自粛なんかしたら経済を止めることによる自殺者の方がコロナの死者よりずっと多くなる」という意味のことを言っておられた。
そのとき同時に「高齢者や疾患を持った、コロナに感染すると重症化や死亡のリスクが大きい人を徹底的に保護する」とか、「どうすれば感染を防げるか」についての対策は言っておられず、全国民に積極的に蔓延させた方がいいとすら受け取れる言い方をしていた。
もし一斉休校も社会的自粛もせず、子供にウイルスを積極的に移して免疫をつけさせるようなことを実行していたらどうなっていたか、今よりずっと悲惨な状態になっていただろうと私には想像されます。
藤井教授がこれが最も正しかったと信念を持っておられるとするなら、いま「正しいウイルス感染対策」を言っておられるのと矛盾します。
それより少し後だと思いますが、「自粛をしても安倍政権は絶対に経済的補償などしない、自分は内閣参与だったからどう行動するかわかる、だから自粛などしたら自殺者が大量発生する」と言い切っていました。
藤井教授が他者を批判するなら、自分がラジオで発言したことは軽率で間違っていたとか、言い過ぎだったと訂正するなり謝罪するなりしてからでないと筋が通らないのではないでしょうか。
そもそもウイルスが日本国内に蔓延したらどうなるのかわかっていない時点で適当な思いつきを言っていたとしか感じられない人が、訂正も謝罪もせずに後から何を言おうが説得力を持ちません。
そんな人が他者に対して「こいつらみんな間違ってる」と言っていれば尚更です。
藤井教授は国民のためになるのを最大限に優先して発言されているように見えて、実は自分で自分に辻褄を合わせることの方が本当の動機なのではないかと思えます。
あらかじめわかっていたことと、後からわかったことをごちゃ混ぜにし、しかも自分に都合の悪いことはなかったことにする。
だから「後出しジャンケン」と言われても仕方がないと思えます。
生真面目にボソボソ言っていても人は注目しないし、藤井教授は教員なので学生を引きつけるためのテクニックなのかもしれませんが、変人のようにエキセントリックに感情的な言い方をする。
「後出しジャンケン」、「ゲスの後知恵」であっても真相に近づいていけばいいのでしょうが、「自分は最初から真相がわかっていた、わからなかったこいつらは愚かだ」のような言い方が反発を受ける面もあるでしょう。
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
2020年6月9日 1:30 AM
こんな記事があったんですね。
ニューズウィーク
西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」
コメントに返信する
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です
コメントを残す
メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です