日本経済

2019年12月11日

【藤井聡】景気指数が浮き彫りにする、安倍内閣の「スーサイド・アタック」

From 藤井聡@京都大学大学院教授

 

いわずもがなですが、消費税を今、10%にすればトンデモナイことになる・・・ということは、かねてから繰り返し繰り返し、主張して参ったことです。

ですが、今年の10月1日に近づくにつれて、増税する空気がどんどんと濃厚になっていきました。そんな中で、発行したのがこちらの記事です。

『10%消費増税は戦艦大和特攻に等しき恐るべき不条理』
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/257604

大東亜戦争末期の沖縄戦の折り、大本営が日本海軍の「最後の虎の子」、戦艦大和を沖縄に派遣することを決定します。

しかし如何に大和と言えど、完全に制空権を握られた状況で、丸腰で九州から沖縄に向かっても、100%間違いなく、米軍機の猛攻に会って沈没してしまいます。ついては関係者は全員、この特攻に激しく反対しました。

しかし、「海軍のメンツ」なる、どうしようもない下らない理由によって、大和特攻が撤回されることはありませんでした。そして大和は出撃したわけですが、僅か数時間で何百何千というアメリカの雷撃機・攻撃機の猛攻を受け、案の定、轟沈しまいます。

・・・

筆者にとって、今回の消費増税はまさに、この戦艦大和の特攻に匹敵する、不条理中の不条理とも言うべき政治決定でした。。

なぜなら、内需が伸びず、外需も縮小しつつあるこの状況で、消費税を10%に上げてしまえば、経済が冷え込むことは、絶対に間違いのないことだったからです。

果たして結果がどうなったのかと言えば・・・実質消費は14年増税よりもさらに酷い5・1%の下落を示し、小売りは9・1%も縮小しました。

そしてこの度、景気動向指数(CI)が発表されたのですが、これもまた惨憺たる結果を明らかに示しています。

こちらのグラフをご覧ください。

このCIという尺度は、国内の様々な経済指数を統合したもので、景気判断において最も重要な尺度の一つなのですが、これが今回の増税を通して激しく下落している様子がクッキリと示されています。

この激しい落ち込みは、やはり、14年増税のショックを上回る、2011年の東日本大震災以来というトンデモナイ水準に至っています。つまり今回の消費増税は、かの東日本大震災に匹敵するダメージを日本経済に与えたわけです。

14年は増税率は3%であったところ今回は2%だったにも拘わらず・・・

14年は軽減税率がなく今回は軽減税率があったにも関わらず・・・

14年はたいして対策しなかったのに今回は増税で吸い上げた金額以上に政府支出を図ったにも関わらず・・・

この惨憺たる状況になったわけですから、如何に今回の増税が日本経済に激しいダメージを与えたのかをお分かりいただけるものと思います。

・・・

ところで、このCIの推移をじっくり見ますと、様々な真実が見えてきます。

まず第一に、今回の消費増税は、14年増税時よりも激しいダメージを経済に与えることは、あらかじめわかっていた、という事が改めて見て取れます。

14年時の様に景気が「良くなる」プロセスでの増税はその被害が幾分和らげられるのですが、今回の様に「悪化」していくプロセス下での増税は、その景気悪化を後押しするものとなりますから、不可避的にその被害が大きくなるのです。

普通に考えれば、昨年秋から悪化し続けていた状況を目にすれば、増税を延期、凍結する筈なのですが・・・まさに大和出撃に匹敵する、恐るべき「思考停止」が安倍内閣を支配していたことをお分かりいただけると思います。

第二に、筆者が内閣官房参与を辞任した昨年の秋ごろまでは、まだ辛うじて「デフレ脱却」する可能性が残されていたこともまた、見て取れます。

14年増税で日本経済はダメになっていたわけですが、16年頃に底をうち、景気が回復してきます。

これは、14年増税にも拘わらず、その増税の前後から「外需が活性化」してきたことを受けて、日本経済が何とか持ちこたえ、僅かずつですが回復していった様子を反映してのものです。

筆者は、この「外需が暖かい」というラッキーな状況を何とか使って、この外需が冷え込む前に、10~15兆円規模の補正予算を組んで政府支出を拡大し、一気にデフレ脱却を果たすべきだと考えていました。そしてそのために必要な努力を、当方ができる範囲で重ねていたのですが・・・誠に残念ながら、それが功を奏することはなく、大型景気対策は遂に一度も実施されはしなかったのです。

そしてそうこうしている内に、筆者が内閣官房を辞任する前後から、米中経済戦争のあおりを受けて外需が冷え込んでいきます。

そうなると必然的に、景気は悪化していくわけで、この様な状況での消費増税はまさに、大和特攻に匹敵する自殺行為だったことは火を見るよりも明らかにだった、というのは、先に指摘した通りです。

結果今回、まさに「言わんこっちゃない」という状況になったわけですが、今更それを叫んだとて、後の祭りです。

遺憾の極み、という他ありません。

・・・ただし、遺憾といえばやはり、14年増税もまた、日本国家の命運を分ける極めて深刻な「経済破壊行為」であったことが、見て取れます。

2008年~2009年にかけて生じたリーマンショックによって日本経済は激しく冷え込んだのですが、このグラフに示されている通り、それ以後、経済は上向いていくのです。

途中、東日本大震災等で景気が下落することもありましたが、それでもやはり、経済動向の基調は回復方向にあり、2014年4月までは力強く景気が上向いていったのです。

この勢いを使い、消費増税をしないままで10~15兆円規模の補正予算をあと1、2回繰り返せば、日本のデフレは確実に終了していた筈なのですが・・・本当に残念な事に、我々の再三の警告にも拘わらず、安倍総理は増税を断行してしまったのです。

結果、ご覧の様に、14年以降、景気は再び低迷してしまうわけです。

・・・

このように考えますと、安倍内閣は、デフレ脱却を一貫して叫びながら、一度ならず二度までも、デフレ脱却の機運に冷や水を浴びせかけ、この二度目の増税を通して、安倍内閣におけるデフレ脱却など「100%無理」な状況を仕立て上げ、日本経済を「奈落の底」に叩き落すことになったわけです。

・・・しかし、ここで我々日本国民は、全てをあきらめてしまう必要はありません。

増税によって地獄に叩き落されたのなら、減税によって、地獄から這い上がればそれでよいのです。

まずは、以上に指摘した安倍内閣の自殺行為たる「スーサイドアタック」の実情を過不足なくご認識頂いた上で、減税に向けた世論状況およびそれに基づく政局を作っていくことの他に、日本人の未来は訪れ得ないのです。

追伸:
・・・そのためにも是非、『「代わりが居ないから・・・」と言うだけの理由で安倍政権を長期化させている日本国民もそろそろ、「熟年離婚」という立派な決断を下した熟年女性達に見習って腹を括るべきではないか、というお話。』をご一読下さい。
https://foomii.com/00178/2019120511175861404

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【藤井聡】景気指数が浮き彫りにする、安倍内閣の「スーサイド・アタック」への6件のコメント

  1. たかゆき より

    日本殺すにゃ 刃物は要らぬ

    消費増税すれば よい

    ってか、、

    まさか10%で 終わりじゃあないですよね、、、

    20% とか 30% とか

    景気の良いハナシも囁かれていますから

    文字通りに ヤマトの最期は

    マジか もとい 真近か だ。。。

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  2. 日本殺すにゃ より

    刃物は要らぬ
    雨の 三日も降ればいい、、

    日本の景気動向指数の悪化 は
    台風による もの

    けっして 消費増税によるもの
    では ありませぬ。。。

    おろかな煽動に惑わされぬよう
    皆のモノ 油断めさるな ♪ 

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  3. 博史 より

    残念ながら、政権与党の連中は失敗を認めて政策を改める気などさらさらないと思われます(これは、安倍政権に限った話ではありません。仮に首相だけ変わっても緊縮脳に汚染された連中が党内にゴロゴロいるため)。自らの失敗を認めず(否認して)
    「増税の影響は軽微である」、「今は一時的に落ち込んでいるが、V時回復する」、さらには「景気は悪化してなどいない(景気悪化の定義は恣意的に決める)」などという自己欺瞞と強弁が次々と繰り広げられることでしょう。
     同状況を改めさせるためには、国民として地元の政治家に意見を述べていくしかないと考えています。結局のところ政治家は有権者の奉仕者ですから、有権者から、「このような政策を行って貰いたい」「この政策は行うべきではない」という(理路整然とした形で)要望書が送付されれば、政治家も変わるのではないでしょうか。
    インターネット上の意見具申フォームや、掲示板で書き込んでいるよりも、地元の消印が付いた郵便物で送る方が、よほど効果があると思います(郵便代を払ってでも伝えたい意見がある ということであるため。 現に私は昨年から、この方法で政治家に意見を届けています)。意見を伝える際に心がけていることとしては
    1 要望内容(論点)を意見書あたり1つに絞ること
    2 要望内容を最初に書き、意見送付先の政治家(党内の役職等を考慮しつつ)に期待する行動を具体的に、かつ実行してもらいたい期限を区切って述べること
    3 自らの要望の正しさを裏打ちする根拠を簡潔に示すこと(インパクトのあるグラフや写真を2枚以内で使用すると良い 視覚に訴える第一印象は重要)

    こんなところです。

    国民が「現状を変えなければならない」と本気になって(本気とは、政治家に対してどのような要望をすればきちんと伝わるか、実行に移してもらえるか ということまで考慮することを含める)行動すれば政治家も変わるでしょう。
     
     

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  5. なかやま より

    財務省の幹部から情報リーク
    高級官僚は税関法の4条5条に従い税率を上げたら評価される。
    国民のことなどみじんも頭にない。
    左翼思想の主流経済人を傘にかぶり、
    得点稼ぎで増税ばかりを行う。
    そして特別予算からIMFに多額出資して、財務省定年後の天下り先を確保。
    更に数年務めてもらう数千万の退職金をも特別予算からIMFに

    一度財務省は再構築が必要だと思う。

    更に思想チェックの必要性を強く感じます。

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