日本経済

2018年8月31日

【三宅隆介】[特別寄稿]「外国人向け医療ツーリズム病院」に異議あり

From 三宅隆介@川崎市議会議員

近年、首都圏では
「行き場のない高齢患者さん」
が増えています。

ここでいう「高齢患者さん」とは
数カ月以上の長期入院を要し
療養病床に入院する
患者さんのことであり、
「行き場のない」というのは
受け入れてくれる病院がない、
ということです。

具合が悪くなって
急性期の病院に入院できたとしても、
1~2週間もすると病院サイドから

「どこかの療養病床のある
病院(以下、「療養病院」)か
特別養護老人ホームなどの
介護施設に移って頂けませんか…」

などと言われます。

とはいえ首都圏では
療養病床も特別養護老人ホームも
圧倒的に不足しているため、
高齢者の行き場がありません。

ときおり救命救急において
高齢患者さんがタライマワシにされる
ケースがあるのはこのためです。

(急性期の病院で
患者を長く入院させると
病院側にとってその患者は
不採算となる診療報酬体系に
なっています)

結局、川崎市の住民であるのに
転院先として千葉県や山梨県などの
遠方の療養病院を紹介される
ことになります。

患者さんご本人もお気の毒ですが、
お見舞いに行かれるご家族も大変です。

その地域(二次医療圏)の患者さんが
その地域の病院に入院できる
割合のことを一般に
「自己完結率」といいます。

例えば、川崎市には川崎南部二次医療圏
(川崎区・中原区・幸区)と
川崎北部二次医療圏
(多摩区・麻生区・高津区・宮前区)
の二つの二次医療圏があるのですが、
他の二次医療圏に比べ療養病床が
不足していることから
「療養病床の自己完結率」は
神奈川県でも
最低水準になっています。

よって私は、
自宅で医療を受けられるための
在宅医療の充実と、
病状が不安定であることなどから
在宅医療が難しい患者さんのために
療養病床そのものを増やすことの
合わせ技で「自己完結率」を
高めるよう議会で建言しています。

つまり「自己完結率」を高めないと
川崎市のみならず、
東京都をはじめ首都圏において、
この「行き場のない高齢患者さん問題」
が深刻化していきます。

その最大の理由は、
高齢化のスピードにあります。

我が国の高齢化率(65歳人口の比率)は
地方のほうが高いのですが、
高齢者の増加率(スピード)については
圧倒的に大都市のほうが高くなります。

下のグラフのとおり、
『国立社会保障・人口問題研究所』
の将来推計において
「都道府県別75歳以上人口の増加スピード」
をみますと、埼玉県、神奈川県、
千葉県、東京都の首都圏が
上位を占めています。

即ち、今後ますます各二次医療圏の
「自己完結率」の向上が
重要になってくるわけです。

これを高めることのできない
二次医療圏では、
行き場のない高齢患者さんが
続出することになります。

とはいえ、医療法によって、
その医療圏ごとに上限としての
基準病床数なるものが
設定されていますので、
病床を増やすのは実はそう
簡単なことではありません。

残念ながら川崎市は、
既存病床数が既に
基準病床数を上回っているため、
新たな病院建設を含めた
増床が困難になっています。

ところが、
「そんなものお構いなし…」
と言わんばかりに、
なんと某医療法人が川崎市内に
「外国人向け医療ツーリズム病院」
(外国人専用病床100床)
を開設しようとしています。

もしも、そのような病院を
開設されてしまうと、
この100床についても
医療法上の既存病床数に
カウントされることになりますので、
地域住民つまり日本国民のための
新たな病床の整備が
益々もって困難になります。

外国人専用病院であっても、
新たな病床を設置するには、
基準病床を超えている場合には
都道府県知事の許可を
得なければなりません。

川崎市の場合は神奈川県知事です。

神奈川県知事が当該医療法人に対して
「開設しないように…」という
「勧告」を出してくれればいいのですが、
もしも出さなかった場合、
外国人専用病院であるにもかかわらず、
健康保険が使える
(保険診療ができる)病院
となってしまいます。

とはいえ神奈川県知事が
「勧告」をしたとしても、
保険診療対象外の病院として
ならば問題なく開設される
ことになります。

くどいようですが、その場合、
地域住民つまり日本国民のための
貴重な100床が外国人によって奪われ、
病床過剰が増大することになります。

それに、もしも当該病院が
医師や看護師の引き抜きを行えば、
日本国民のための医師や看護師が
不足することにもなります。

ご承知のとおり、
民主党政権時代に
住民基本台帳法が改正され、
外国籍の住民であっても
日本国内に3カ月以上滞在すれば
「国民健康保険」に加入できる
ようになりました。

以来、日本国民のナショナリズム
によって成立している
「国民健康保険」をあきらかに
高額医療目的で来日したとしか
思えない外国人が最短期間・最小限の
保険料支払いで利用できる
という信じがたいものに
なっています。

例えば、
下のグラフのとおり川崎市では、
14,381人(平成28年8月1日現在)
の外国人が被保険者となっています。

因みに、川崎市当局は
外国人被保険者の滞在期間や
利用金額などを把握するための
統計をとっていません。

おそらくこれは全国の自治体が
同じような状況だと思うのですが、
日本国民のための「国民健康保険」
がどれだけ食い物にされるか、
ということを全く想定していない
のは問題だと思います。

経済戦略の一環と称して、
安倍政権は「医療ツーリズム」
を推進しています。

規制改革会議は、
医療滞在ビザについて、
一定の条件を充たせば
申請書類の簡素化や
最優先審査等によって
申請から発給までの期間を
大幅に短縮(できれば即日発給)
できるように提案しています。

こうした人たちが3カ月以上滞在したら
「国民健康保険」を受けられるわけです。

最初の3カ月は自費により
外国人専用病院で、
そのあとはしっかり市内の病院で
「国民健康保険」によって
高額医療を享受するという
流れが定着するかもしれません。

現在のところ当該医療法人は
「保険診療対象外の病院として開設したい」
という意向のようですが、
やがてはどうなるかわかりません。

三橋貴明先生が
常にご指摘されておられるように、
とりあえずは限定的にはじめ、
徐々に対象を拡大していくのが
規制改革会議の常套手段です。

つまり10年先に
「保険診療対象」病院に
絶対にならないと
誰が約束してくれるのでしょうか。

外国人専用病院の開設については、
来月から開会される川崎市議会において
問題点を追及していく所存です。

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【三宅隆介】[特別寄稿]「外国人向け医療ツーリズム病院」に異議ありへの4件のコメント

  1. ゆういち より

    なるほど、自費の外国人専用病院に3か月間入院して、すぐに国保申請をする。国保が下りたら、一般の病院に健康保険で入院する。そのような流れができる可能性がある。ということですね。隣に12倍の人口がある国があるから、そのうち0.1%でもそのような方法で日本に来たら、日本の公的健康保険は崩壊しますね

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  2. 神奈川県skatou より

    あ!市議の三宅さん!!
    地元民です。南武線橋上駅の記事を発端にブログを拝見するようになり、毎日楽しみにしております。地域の話から国家の話まで幅広く、また見やすいグラフ多用でわかりやすく同僚などにも「地元を知ろう」と紹介しております。

    川崎市、特に北部は保育園不足は全国最悪レベル、南北交通も改善増強ができないやらない南武線、しかも市が中心の駅の改良も予算制約とのことで1件ずつ対処で百年計画か?という牛歩行政、おまけに病院もその将来計画も駄目となれば、ますます「川崎都民」化が進むわけで、登戸再開発で北部の中核化なんて計画は焼石に水ですね。

    以前、川崎市役所の役人と仕事をする機会があったのですが、同様のテーマでも他部署ならば「関係ない話」で切ってしまうほど縦割り行政、また別の地域サービスの話では「独立採算制」ということで住民負担をしろという行政。
    おっと・・・際限ないですね。

    三宅市議の同調者が市議会に、川崎行政に増えていくことを願ってやみません。応援しております。

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  3. 河合幸人 より

    狛江市で介護事業所を行っている者です。三宅先生がご指摘の内容は全く同感です。知らない間に取り返しのつかない地域状況に着々と向かっている現実なのですが、被害を受ける当の地域住民の方々に関心や実感に乏しい印象は否めません。
    患者や被介護者の受け入れ先(つまり病院や介護施設)が、経営上の理由から患者や被介護者を選別して受入れを決定する傾向が本年に入って非常に顕著になったと思います。これでは社会保障が名ばかり制度となり、地域の課題はすべて自己責任において当事者に責任が掛かってくる理屈になってしまいます。そうなればさらにナショナリズム意識は薄れ、他を殺して自らが前へ進むことが倫理と正道となる空気や風土を形成してしまいます。
    この空気という誰かの意思で形成されるものではなく、多くの意識の統合的な結果として表れるものが、実体なき課題となってくことへの是正活動は本当に厳しいと思います。
    極めて微力な者ですが、自身の関係する地域へは働き掛けを行っていく所存です。都と県での違いはありますが、議員職に在られる方がこうした声を挙げて下さったことに深く感謝いたします。

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  4. 日本晴れ より

    川崎市でそんな事が起こってるんですね。正直怖いと思います
    日本人の患者や高齢者医療は厄介者みたいになるのは
    川崎市在住の日本人の為の医療じゃなくて外国人向けのツーリズムの為の医療というのに躍起になってる川崎市に違和感です
    日本人の患者や高齢者医療は厄介者みたいに
    三宅議員のご指摘はもっともだと思います。川崎市の自己完結率が高まること願ってます。

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