From 佐藤健志
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【特別プレゼンテーション公開中】
『BREXIT…英国EU離脱の真実
200年の時を経て、産業革命の悲劇が再び・・・』
マスコミが報じない英国EU離脱の真実をあなたにお伝えします。
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三橋貴明さんがよく述べるように、「経済」とはもともと「経世済民」(または「経国済民」)の略。
経世済民も経国済民も、「世の中を治め、人民の苦しみを救うこと」を意味します。
他方、世の中を(上手に)治め、人々が豊かで幸福に暮らせるようにすることこそ、あらゆる政治の目的のはず。
その意味で「経済」を達成できるよう努めることこそ、政治の本質と言わねばなりません。
豊かで幸福に暮らすことにたいして、イヤだという人はいないでしょうから、これは民意を満たすことでもある。
しかるに問題は、「民意を満たすこと」と「民意に従うこと」がイコールではない点です。
先週の記事「民意のツジツマ、あるいはその欠如」でも論じたように、民意はしばしば一貫性や整合性に欠ける。
最近の世論調査を見ても、経済の活性化を要求しつつ、積極財政や公共事業には反対し、片や消費税増税に賛成するなんてことが、平然となされてしまうのです。
経世済民を達成し、民意を満たすためには、民意に従うだけでは済まされないことが多い。
ただし民意を否定してばかりいれば、経世済民が達成できるかというと、これまた疑わしいものがあります。
だいたい民主主義社会の場合、民意を否定してばかりいる者は、そもそも権力の座につけません。
民意に従うだけでは経世済民を達成できず、民意を満たせないものの、民意に従わなければ権力を得られず、経世済民が追求できない!
このパラドックスを踏まえたうえで、いかに経世済民をめざすかこそ、民主主義社会の政治家が背負う課題にして、腕の見せどころなのですが・・・
中には「ええい、面倒!」とばかり、民意をめぐるパラドックスを強引に解決しようとする者が出てきます。
強力なリーダーシップさえあれば、民意にひたすら従いつつ、経世済民が達成できるはずだと構えるのですよ。
民衆の側にしてみれば、これは「自分たちの夢や希望が、どこまでも叶えられる」ことにひとしい。
そんなうますぎる話、あるわけないだろうって?
もちろん、その通りです。
うますぎる話など、しょせんファンタジーにすぎない。
そういう冷静な判断が働けば、「民意にひたすら従いつつ、経世済民が達成できる」と説く者は相手にされないでしょう。
しかし現状にたいする不満が高まると、うますぎる話をつい信じたくなる人が増える。
このため「自分には強力なリーダーシップがあるから、権力を与えてくれさえすれば、君たちの夢や希望をどこまでも叶えよう」と主張する人物が人気を博しやすくなります。
つまりポピュリズムが台頭する次第。
裏を返せば、ポピュリズムの本質とは「非現実的なファンタジーをみんなで信じる」ことにあるのです。
さて、お立ち会い。
7月に開かれたアメリカ共和党大会で、ドナルド・トランプが大統領候補として正式に指名されました。
トランプはこれを受けて、約1時間15分の受諾演説を展開。
https://www.youtube.com/watch?v=4CVTuOyZDI0&feature=youtu.be(全編収録)
なかなかの名調子でした。
イギリスの「エコノミスト」紙も、7月21日付の記事で「危険なぐらい出来が良い」と論評しています。
http://www.economist.com/blogs/democracyinamerica/2016/07/dangerously-good-speech?fsrc=scn/tw/te/bl/ed/adangerouslygoodspeechdonaldtrumppaintsavisionofachaoticanddismalamerica
いわく。
予備選挙における原稿なしのスピーチでは、トランプはしばしばトンデモな事実誤認をしでかしたり、イスラム教徒の入国禁止など、どう見ても憲法違反としか思えない政策を説いたりした。
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だがクリーブランド(注:共和党大会の開催地)での演説は違う。
今回の演説は細心の注意を払って準備されており、その構成はときに見事でさえあった。
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原稿作成には、熟練のスピーチライターや法律家たちが関わったに違いない。
彼らはトランプ主義の本質を理解したうえで、都合よく選ばれた統計データ、情に訴えるエピソード、法の支配にたいする尊重といったテクニックを巧みに駆使したのだ。
(拙訳。以下同じ)
ハイ、まったく賛成です。
とはいえ、そんな名調子を通じて、トランプは何を説いたのか?
ふたたび「エコノミスト」を引用しましょう。
トランプはアメリカの現状を、絶望的で滅亡寸前であるかのごとく描き出したあとで、自分が大統領になりさえすれば、偉大なる復活がすぐにでも達成できるだろうと説いた。
要するに、「今のままでは破滅だ! 亡国だ! 希望はない!!」とぶちかましたあとで、
「だが救われる道はある! しかも救いの訪れは近い! 希望を持て!!」とやったのです。
ならばトランプを大統領に選ぶだけで、民意もどんどん満たされることになりますが・・・
彼の論法に聞きおぼえはありませんか?
そうです。
ポップカルチャーにしばしば見られる「英雄的な救世主物語」のパターンそのものなのです!
で、自分こそが「英雄的な救世主」だという結論に持ってゆく次第。
ハッキリ言ってしまいましょう。
「都合よく選ばれた統計データ」や「情に訴えるエピソード」が巧みに駆使されていようと、これは純然たるファンタジーです。
アメリカの現状が、本当にそこまで悪いのであれば、誰が大統領になったところで、事態がたやすく好転するはずはない。
こう構えるのが冷静な判断というものでしょうに。
ついでにトランプは、自分のことを「成功した実業家としての安楽な暮らしを捨てて、国を救うべく立ち上がった人物」として位置づけたがる。
これにも聞き覚えはありませんか?
そうです。
漫画や映画でおなじみ、バットマンの設定とそっくりなのです!
バットマンの正体は、ブルース・ウェインという大富豪ですからね。
すなわちトランプ現象の本質とは、
「ドナルド・トランプはバットマンさながらの英雄的な救世主なのだから、彼を支持しさえすれば、ポップカルチャー(=虚構の物語)の中でしか起こりえないような『逆転ホームラン的世直し』が実現される」
というファンタジーを信じることにある。
民主党の副大統領候補に選ばれたティム・ケーン上院議員は、関連して面白いことを指摘しました。
いわく。
トランプはじつにたくさんの素晴らしい約束をしてみせる。
しかし、次の点に気づいた者も多いに違いない。
約束が素晴らしければ素晴らしいほど、トランプはあるフレーズを決まって口にする。
そのフレーズとは、「オレを信じてくれ」だ!
https://twitter.com/thehill/status/758489372199190532
「オレのファンタジーを信じてくれ」とすれば、いっそう完璧でしょうね。
た・だ・し。
そんなトランプ演説にも、正論としか言いようのない箇所があります。
18分50秒目から19分57秒目にかけて、彼はこう言い切りました。
さあ、アメリカ復活のプランを披露しよう。
われわれのプランと、敵どものプランの最も重要な違いは何か?
われわれのプランは、アメリカ第一に徹するのだ!
(会場の聴衆から「USA!」コールが起きる)
われわれのモットーはアメリカニズムだ!
グローバリズムではない!!
自国第一を心がけない政治家が指導者の地位にいるかぎり、他国がわれわれに敬意を払うことはない!
このことを肝に銘じてくれ!
われわれは不当に低く扱われるのだ!!
アメリカ型のグローバリズムとは、同国の価値観や経済システム(つまりアメリカニズム)を世界的に広めることなのですから、「グローバリズムではなくアメリカニズム」というくだりは、自己矛盾をきたしている感もあります。
だとしても、この箇所の結論部分(最後の3つの文)は間違っているか?
自国第一をどのような形で追求するべきか、という具体的な方法論については、議論の余地がいろいろあるでしょう。
自国第一主義をあまり露骨に打ち出すと、かえって国益に反する(=自国第一が達成できない)かも知れません。
しかし基本的に間違っていないと思います。
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非現実的なファンタジーの中にも正論がひそむ。
これが冒頭で述べた「民意をめぐるパラドックス」に通じているのは明らかでしょう。
だからこそ、ポピュリズムは厄介なのです。
ではでは♪
<佐藤健志からのお知らせ>
1)8月20日(土)、「表現者シンポジウム」の第一部に登壇します。
・時間 19:00〜21:30(18:30開場)
(※)これはシンポジウム全体の時間です。
・場所 四谷区民ホール
・会費 2000円
参加ご希望の方は、郵送ないしファックスで下記宛にお申し込み下さい。
西部邁事務所
〒157−0072 東京都世田谷区祖師谷3−17−22−303
03−5490−7576
お申し込みの際は、お名前、ご住所、電話番号、参加人数を記入していただきたいとのことです。
2)「戦後脱却による日本復活」も、じつはファンタジーにすぎない恐れが強い! 詳細はこちらを。
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)
3)「戦後脱却による日本復活」というファンタジーを鵜呑みにすると、いかなるパラドックスが待っているかをめぐる体系的分析です。
『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)
4)そもそもわが国の戦後史そのものが、壮大なポピュリズム的ファンタジーだったのかも知れません。
『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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5)「問題は当の指導者たちが、ひたすら民衆の人気取り競争を続けていることだ。(中略)法律を制定するかわりに、彼らはおべっかを使いだす。民衆を導くのではなく、民衆の意のままに動くだけの存在となり果てる」(309ページ)
おかげさまで5刷となりました!
『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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6)トランプの指名受諾演説は、多くの点で、アメリカ独立の起爆剤となったこの本を想起させます。同国は原点回帰しようとしているのではないでしょうか?
『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
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7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966
ーーー発行者よりーーー
【特別プレゼンテーション公開中】
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200年の時を経て、産業革命の悲劇が再び・・・』
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