From 佐藤健志
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先週のメルマガでは、2011年、東日本大震災の発生にあたり、政治学者の御厨貴さんが提唱した「災後」の概念を取り上げました。
それによると東日本大震災は、日本人にとり、敗戦に匹敵するほどの国民的共通体験だったそうです。
他方、このような共通体験こそ、行き詰まった「戦後」を脱却するために必要な起爆剤だった。
ゆえに震災を契機として、日本はついに「戦後」を脱却、「災後」なる新しい時代に入る、というわけですが。
この論理にしたがうかぎり、いかに甚大な被害をもたらそうと、東日本大震災の発生は喜ぶべきことになります。
事実、震災発生直後に発表した評論「『戦後』が終わり、『災後』が始まる」(『中央公論』2011年5月号)で、御厨さんは「災後」到来の御利益(ごりやく)を予想してみせました。
たとえば、こんな調子。
1)戦後が終わった以上、中国・韓国・北朝鮮といった国々も、今後は日本を敵視するような外交政策を取りづらくなるだろう。
2)それどころか、福島第一原発の事故を見たあとでは、あの北朝鮮すら、核開発と核管理がいかに困難かを認識したはずである。
いや、素晴らしいですね!
東アジアに反日的な国がなくなるばかりか、北朝鮮の核問題まで解消される。
日本を取り巻く国際環境が一気に好転します。
震災バンザイではありませんか。
ただし御厨さんの予想は外れました。
正反対の結果になったと評しても過言ではありません。
これは何を意味するか?
論理的に言って、以下の二点のどちらか、ないし両方となります。
1)震災によって時代が切り替わったという発想そのものが間違っている。
2)かりに切り替わったとしても、「戦後」の行き詰まりが「災後」によって打開されると考えるのは御都合主義にすぎない。
言っては何ですが、当たり前ですね。
時代の転換とは、われわれ自身の手によって、主体的に達成されねばならないもの。
御厨さんの主張からは、この「主体性」という概念が、キレイに抜け落ちています。
そして「主体性なしでも時代の転換は実現できる」と構える安直さから、上述の御都合主義が生まれたのです。
しかるに。
なんと御厨さん、今でも「災後」概念を提唱しています。
日本経済新聞が3月10日に配信したインタビュー「『戦後』から『災後』の日本を憂う 御厨東大名誉教授に聞く」から抜粋してゆきましょう。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO97981080T00C16A3000000/?dg=1
まず「災後」について、現在の御厨さんはこう語ります。
(東日本大震災が)政府から一般国民まで人心に与えた影響は大きかった。理不尽に何人もの命がなくなり、今後の自然災害時にどう対応するのか。もともと東北は過疎問題を抱えていた。そのまま復興してもしょうがなく創造的復興が必要になる。東北を日本の先端に変えることで日本が変わるというのが『災後』の言葉に託した意味だ。
(カッコは引用者、以下断りないかぎり同じ。句点を追加)
なるほどなるほど。
〈戦後の行き詰まり〉が、いつの間にか〈東北の行き詰まり〉(=過疎問題)に置き換えられていますが、その行き詰まった東北を「日本の先端」に変えることで、日本全体を変えようというのですから、まずは肯定的に評価できる主張でしょう。
国際環境の改善について触れていない点も不問としておきます。
けれども震災発生直後、政府(菅直人内閣)が設置した「復興構想会議」で議長代理を務めたくだりになると、発言はこうなる。
復興構想会議で(『災後』の考え方を反映した)提言を取りまとめた。当時は民主党政権で官僚を縮こまらせた時期だったが、やる気あふれる官僚たちが作業をがんばってくれた。逆にショックだったのは、被災地各地から出てきた復興計画が、もともと過疎化が進んでいたのに人口が増える前提にたったものが多かったことだ。(中略)僕ら(=復興構想会議)の思いと違う『明るい未来』を描いていた。
(最初と三番目のカッコは原文。句点を追加)
まずハッキリさせておきますが、「やる気あふれる官僚たちが作業をがんばってくれた」というのは、復興構想会議がまともに機能しなかったことを告白したも同然の発言です。
会議のメンバー16名(特別顧問の梅原猛さんを含む)に、いわゆる官僚とおぼしい肩書の人物は一人も見当たりません。
同時に設置された「検討部会」のメンバー19名についても同様です。
つまりは事務方の官僚たちに頼るほかなかったということですね。
http://www.cas.go.jp/jp/fukkou/pdf/kousei.pdf
しかも被災地各地からの復興計画が、過疎化の解消を前提としており、「僕らの思いと違う『明るい未来』を描いていた」ことがショックだったとは、一体どういう意味でしょうか?
御厨さんは〈もともと東北は過疎問題を抱えているのだから、それを解決するような創造的復興が必要になる〉という認識のもと、「災後」を提唱したはずなのです。
ショックを受ける理由は何もないでしょう。
かりにそれらの計画が、過疎化の解消について甘すぎる見通しを立てていたのなら、より現実的な路線に軌道修正してやればいいだけの話。
そのための復興構想会議ではありませんか。
だいたい「僕らの思いと違う『明るい未来』を描いていた」と言う以上、復興構想会議、ないし御厨さんは、震災後の東北の未来を暗いものと見なしていたことになる。
ここで気になるのが、「もともと東北は過疎問題を抱えていた。そのまま復興してもしょうがな(い)」という箇所です。
この箇所、「どのみち東北は衰退しているのだから、過疎が解決できないとすれば、そもそも復興する必要はない」という意味にも取れることにお気づきでしょうか?
〈もう東北など見捨てよう〉というのがホンネで、あとに続く「創造的復興」とか、「東北を日本の先端に変える」といった言葉のほうが、たんなるタテマエなのかも知れません。
というか、発言の文脈を踏まえるかぎり、そうとしか思えないのです。
御厨さん、被災地の現状についてこう語っているのですから。
復興が進んできたのは間違いないが、自民党政権になってから土木事業にお金がバンバン出るようになって一部の被災地では作りすぎの状況もある。
つまり、こういうことですね。
1)2012年末に第二次安倍内閣が誕生していらい、政府は震災復興にカネをかけまくった。
2)その結果、被災地の一部では復興が行き過ぎている。
ならば今後、復興関連の予算はカットしても良いという話になりますが・・・
ではなぜ、被災地では今なお6万人近い人が仮設住宅で暮らしているのでしょう?
阪神大震災のときには、5年で仮設住宅が用済みとなったにもかかわらず、今回は仮設住宅解消の見通しすら立っていないのはどうしてでしょう?
主体性を欠いた発想は、その安直さゆえに、御都合主義的な主張を繰り返したあげく、無責任かつ有害な結論にたどりつくのです。
これは「災後」に限った話ではありません。
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』で論じたように、十分な主体性を持たないまま戦後脱却を試みることは、方法論のいかんを問わず、失敗を運命づけられている。
そしてこの点を隠蔽しようとすると、右傾化、つまりナショナリズムを強調した全体主義化と、アメリカへの全面的な従属という、無責任かつ有害な結果が待っているのです。
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明るい未来をめざすうえで、御厨貴さんから学ぶべきことは、きわめて多いと言えるでしょう!
ではでは♪
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3)「災後」をめぐる御厨さんの主張の問題点については、この本でさらに詳しく分析・批判しました。
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4)過去70年あまり、日本人がどのような主体性の獲得をめざし、どのように失敗してきたかについてはこちらを。
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