日本経済

2018年8月21日

【三橋貴明】公共サービスは撤退してはならない

From 三橋貴明@ブログ

昨日のテーマと関連する話ですが、
民間企業の目的はビジネスであり、
利益です。

水道の民営化が
「老朽水道管の交換」の特効薬のごとく
進められていますが、バカげています。

民間企業の目的は利益最大化であるため、
「利益にならない」老朽水道管の交換は
当然、後回しです。

チャンネル桜
「【討論】日本が危ない!Part②
-公共インフラ解体か?」[桜H30/8/18] でも議論になりましたが、
https://youtu.be/4Oyg6oiKprs
http://www.nicovideo.jp/watch/so33706128

そもそも「公共サービス」に
「ビジネス」を適用していいのか、
という話です。

何しろ、公共サービスは
「利益以外」の目的も持っています。

鉄道や水道であれば、
地域のインフラストラクチャーを維持し、
住民の生業や生活を守るという目的です。

交通機関もライフラインも
提供されない地域で、
人間は暮らせません。

となると、人口が特定地域に集中し、
国家全体の安全保障が
脅かされることになります。

というわけで、
東日本大震災や熊本地震、
西日本号災害のような
大災害が起きたとしても、公共サービスは
「撤退してはならない」のです。

公共インフラが災害で
破壊されたとして、

「じゃあ、復旧しても利益にならないし、
コストもかかるから撤退するわ」

などとやることは許されないのです。

とはいえ、
民間の株式会社の論理に従えば、

「利益にならないから、
復旧せずに撤退する」

という選択は合理的になります。

だからこそ、公共サービスは
「国営」「公営」である
必要があるのです。

『続く鉄道網の寸断
貨物列車も運休、
代替輸送能力は被災前の13%…
赤字路線「廃線になるのでは」と不安
https://www.sankei.com/west/news/180817/wst1808170062-n1.html

西日本豪雨による鉄道網の寸断は
被災から1カ月以上経過した
今も続いており、
各方面に影響が出ている。

特に深刻なのは物流だ。

中国地方の輸送の大動脈を担う
JR山陽線は三原(広島県三原市)
-海田市(同県海田町)間と
下松(くだまつ)(山口県下松市)
-柳井(同県柳井市)間で運休。

これにより同区間を使用する
貨物路線も止まったままで、
西日本の物流は大きな
打撃を受けている。(中略)

JR西によると、豪雨により
近畿・中国地方の鉄道は
7月11日時点で12路線
15区間が運休。

施設被害も279カ所で確認された。

JR西は、電源設備が水没し
復旧まで1年以上かかるとしていた
木次(きすき)線出雲横田-備後落合間
について、被害を受けていない路線から
電源ケーブルを引くなどして
8月上旬に運転を再開。

山陽線なども当初より1カ月前倒し、
10月中に全線復旧させるとしている。

ただ、運休が長期化している
沿線住民の間からは、
「このまま廃線になるのでは」
との懸念の声が漏れる。

JR西は各路線の収支を
公表していないが、採算ラインは
1日1キロ当たりの平均利用者数を
示す輸送密度で2千人以上。

平成28年の芸備線備後落合-三次間
の輸送密度は225人、
福塩線塩町-府中間は206人で、
いずれも「赤字路線」だ。(中略)

赤字路線は山間部や海沿いに
あることが多く、土砂を撤去するための
重機が地形的に搬入しにくいなどの
問題がある上、復旧には周辺の
河川などを管理する国や自治体との
調整が必要になる。

実際、橋が流失した芸備線では
河川の防災対策と一体となった
鉄道の工事計画を練る必要に
迫られており、沿線の自治体などは
JR西に路線存続を求める
要望書を提出している。

地方にとって、鉄道は
欠かせないインフラだ。

鉄道アナリストの川島令三さんは

「鉄道を失った地方都市は、
観光客の減少や人口流出などで
急速に衰退するケースが多い。

街の玄関口である駅がなくなれば
地図に地名が掲載されなくなるなど
交通手段以外の役割も大きく、
存続はまさに死活問題だ」

と指摘する。』

「鉄道を失った地方都市は、
観光客の減少や人口流出などで
急速に衰退するケースが多い」

それはまあ、交通インフラがなくなり
「繁栄」するなどという話は
ありえません。

交通インフラの消滅と
「衰退」はイコールです。

西日本豪雨の被災地に限らず、
現在の日本で起きているのは、
まさに、

「交通インフラを軽視したことによる、
地方の衰退」

でございます。

逆に、衰退を繁栄に転換したいならば、
交通インフラを建設するしかないのです。

ところが、我が国は
過去二十年以上もの期間、
交通インフラの整備を「放棄」し、
全国的な衰退を招きました。

もちろん、東京圏のみは
成長を続けましたが
(※ただし、2013年まで)、
それは、

「東京圏が地方の人材や
投資を吸い上げる」

形で進んだのです。

日本で地域格差が広がったのは、

当然すぎるほど当然です。

というわけで、我が国は
「繁栄」のためにも交通インフラを
全国的に整備しなければ
ならないのですが、
政府は真逆に向かっています。

それどころか、
国鉄が「民営化」された結果、
自然災害からの復旧すらなされず、
鉄道が「廃線」になる可能性が
高まっているわけでです。

本当に、これでいいのでしょうか。

国民の多くが良いと考えるならば、
我が国はこのまま所得格差、
企業間格差、地域間格差が広がる形で、
発展途上国に落ちぶれることに
なるでしょう。

すでにして、衰退途上国であることは
間違いないのです。

衰退か、繁栄か。

わたくしたち国民が「国家」について
いかに考えるのか。

それが全てを決定します。

日本国の運命は、国民や政治家の
「考え方」によって決まるのです。

とりあえず、ごく当たり前の
「考え方」だけでも思い出しましょう。

公共サービスは撤退してはならない。

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【三橋貴明】公共サービスは撤退してはならないへの3件のコメント

  1. あまき より

    上場前の話だから、ずいぶん前になりますけど、JRがローカル幹線向けに新型電車89両を投入して国鉄時代からの経年客車を全車置き換える、と報じられた時、JRは地方にもちゃんと積極投資を行うから偉い、と思ったお人よしがいました。これを書いている人です。いまになって思えば、歯切れがいいだけの加藤寛さんがよく出ていた「新世紀歓談」を少し見すぎていたかも知れません。

    自分は分母を確かめないで報道を鵜呑みにしたのです。置き換えの対象は合計230両。つまり89/230だから、積極投資どころか6割もの削減だったのです。いくら新型が高効率で、旧型の非効率を補うに余りあるとはいえ、6割削減で現行サービスを維持するというのは無茶です。

    案の定、通勤通学時間帯の増結が侭ならず混雑率が悪化、これに嫌気がさした肝心の定期顧客が大幅にマイカー利用へ逃げ、地元でも特集で報じられたようです。国鉄末期クビをちらつかされながら職員たちが必死に獲得した、血よりも濃い顧客を、JRは自ら手放したのです。しかも驚くべきことに、事業者としては収入以上のコスト削減さえ得られればよく、これも経営判断に基づくものだったと、不便による顧客の逸走が想定内であったことを間接的に認めます。

    水道民営化でも、積極投資と見せかけた大幅削減が横行することでしょう。そして与党はいずれ必ず「それは当時の国民のみなさま方のご判断でもあったわけで」「わたしたちは国民のみなさま方と一緒に考えたのであって、決して国民の意見を聞かずに独断専行したわけではないです。独断専行できないのが議院内閣制のいいところで」などと、うやむやの内に責任回避に終始することでしょう。

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