日本経済

2018年8月2日

【三橋貴明】ILCの経済効果と「未来への効果」

From 三橋貴明@ブログ

技術とは、どのような理由で
発展するでしょうか。

もちろん、科学者、技術者たちが
「好奇心」に基づき、例えば
「金の精錬はできないだろうか?」
などと、様々な実験を繰り返し、
その過程で各種の
科学的法則が見つかった、
というケースもあります。

錬金術は、シーズ(供給能力)
主導の技術発展ですね。

もっとも、錬金術師たちにしても、

「金を精製して金持ちになりたい」

といった欲求があったわけです。

すなわち、技術は結局のところ、
何らかの「ニーズ(需要)」が
存在した時に初めて発展します。

技術開発、技術投資
を活性化するためには、何らかの
「ニーズ」が必要なのです。

そして、技術に対するニーズは、
より高次の「ニーズ」が
前提に存在します。

南アルプスを掘りぬくトンネル技術は、
リニア新幹線建設というニーズが
あって初めて発展します。

さらには、リニア新幹線建設の裏には、

「より短時間で
東京、名古屋、大阪を結びたい」

という高次のニーズがあるのです

(厳密には、リニア新幹線を早期に建設し、
東海道新幹線のメンテナンスを
しなければならないという
ニーズもあるのですが)。

国際リニアコライダー(以下、ILC)
の場合はどうでしょうか。

ヒッグス粒子の謎を解き明かし、
「物質」「質量」「重力」等について
解明するというのが究極的な
「ニーズ」ですが、それ以外にも
「使用済み核燃料の半減期を短縮する」
といった高次のニーズもあります。

とはいえ、ILCを建設するためには、

「直線型の加速器内で、
超電導空間において
電子と陽子のビームを収束し、
タイミングを合わせて衝突させる」

という、人類史上「空前」といっても
過言ではない高度な技術が必要です。

この時点で、既存の技術では
実現できないニーズなのです。

無論、現在は上記を実現する
技術は確立していません。

とはいえ、ILCを実現しよう
という人間の「意志」が様々な
技術開発を進め、最終的には
実現することになるわけです。

『<ILC>経済効果5.7兆円と試算
設置後20年間で
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201807/20180731_33025.html

超大型加速器
「国際リニアコライダー(ILC)」
の誘致を目指す岩手県
ILC推進協議会は30日、
施設の建設から20年間で
総額5兆7190億円の
経済波及効果が見込める
とする試算を発表した。

ILC誘致が呼び水になり、
加速器を使って開発した
部品の利用が半導体、自動車などの
産業分野で拡大すると仮定した場合の
経済効果を3兆106億円と算出。

これに他産業への波及分を合算した。

研究者と家族の住宅に約500億円、
オフィスや商業施設に約500億円の
民間投資が生まれる推計。

居住者の生活費や海外研究者らの
滞在費と合わせた地方創生効果は、
20年間で4000億円と見込んだ。

ILC誘致による経済波及効果は、
文部科学省の有識者会議も
6月に発表している。

建設費や研究者の消費による
直接効果で1兆2200億円。

参画企業の生産性向上や
製品開発による間接効果を考慮して
計2兆3800億円と試算した。
(後略)』

加速器建設という
「ニーズ」を満たすために、
各種の技術が開発される。

結果的に、経済効果がILC建設費
(当初は5000億円)の
十倍規模になるのは確実です。

逆に、日本がILC誘致を断念すると、
本来は「開発される可能性があった技術」
が、夢幻と終わるのです。

【Front Japan 桜】
緊急現場レポート!人類の運命を左右する
-ILC(国際リニアコライダー)
誘致実現のタイムリミット迫る (他)
[桜H30/6/29]
https://youtu.be/jDTVs9WCTNc

にもある通り、
ILCというニーズがあるからこそ、
企業が技術開発に投資し、
様々な技術が開発されます。

開発された技術は他の分野に波及し、
日本の生産性を押し上げていくのです。

ILCについて語るときは、
経済効果はもちろんのこと、
開発された技術が「未来に与える効果」
も語らなければ不公正です。

日経新聞の先日の記事は、
未来への効果はもちろんのこと、
経済効果にすら一行も
触れていませんでしたが。

ちなみに、8月5日にお茶ノ水大学に
シェルドン・グラショウ博士
(1979年 物理学賞)、
バリー・バリッシュ博士
(2017年 物理学賞)と、
二人のノーベル学者を招いた

「ノーベル賞受賞者に聞く
「ILCが開く科学の未来」」

というシンポジウムが開かれます。

シンポジウム終了後、
わたくしが両博士にインタビューし、
チャンネル桜で報道される予定に
なっておりますので、ご期待ください。

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【三橋貴明】ILCの経済効果と「未来への効果」への2件のコメント

  1. 神奈川県skatou より

    三橋先生のご活躍を熱く暑く応援しております。

    ニーズは事前に顕在か?という問題もありそうです。
    フォードの明言、

     「もし顧客に何がほしいか聞いたら、速い馬が欲しいと答えただろう」

    だれも車という機械は欲しいと答えない、という意味です。
    ニーズとは、とてもふわふわしたもので、それ自体に答があるわけではなく、作り手が具体的提案をしたあとに「欲しかったものに気づく」ということだと思います。

    ちなみに自分は、速い馬が欲しいとさえ、誰も答えないと思います。馬は馬以上、速く走れないから、ある程度以上は望めない、と、誰もが枠をはめて考えてしまうからです。

    ソニーのウォークマンが無かったころ、歩きながら音楽を聴きたい人はいたでしょうか?市場調査しても5%も存在しなかったのではないでしょうか。
    「そんなニーズは無い」
    そのひとことで普通の会社なら企画は潰されます。
    そもそも、録音機能のないテープ”レコーダー”って、何?

    よく見えないから、測れないから、ダメ。
    あるいは、測っても足りないから、ダメ。

    効率的に(つまり従前の尺度で)という発想そのものが、デフレ思考だと、だと・・・日々物悲しく思っております。

    返信

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      1. F-NAK より

        製品開発には、すでに「要求開発」という概念があります。

        要求アナリストという職種があり、要求は「開発側が探索するもの」と位置付けられています。

        「顧客の声にそのまま応える」ことがニーズに応えること、と思うのは素人発想で、開発者は「顧客のしたいことを理解し、尊重するが、顧客の間違いに警戒し、その声の裏にある根拠を想像する」必要があるわけです。

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