From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)
緊縮財政と公共サービスの民営化が
一種の信仰あるいはファッションと化し、
財政が好調なはずの東京都までもが
下水道運営権の売却を検討する有様なのは、
先日、三橋貴明さんが寄稿された通りです。
https://38news.jp/economy/11490
しかしながら、こうした動きは
各自治体レベルだけのものではありません。
自治体の公共サービス売却を容易にすべく、
中央政府主導で法改正が進もうとしている
というのがこちらの報道です。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO25291440T00C18A1MM8000/
政府は、公共インフラ建設や運営の民営化、
いわゆるPFI(Private Finance Initiative)
を推進するための行動計画を昨年改定し、
実行金額の目標も掲げました。
今回の法改正案もその一環のようで、
公共インフラの運営権売却に際して
地方議会の議決が不要となるほか、
運営企業の利用料金設定も届け出制にして
現在は必要な自治体の承認を不要とし、
さらには、売却した自治体がもともと
インフラ建設の際に中央から受けていた、
財政投融資の繰り上げ返済を可能にする、
といった内容が盛り込まれているそうです。
この法案、インフラの売却のみならず
自治体の負債返済も促進するという点で、
いかにも緊縮財政色にあふれています。
中央政府が自治体から受け取った返済金も、
その分支出の増加に充てられる訳ではなく、
恐らくは「財政健全化」と称して、
ほとんどが国債償還に回るのでしょう。
さらに輪をかけて問題なのが、
民営化された公共インフラの
利用料金設定を届け出制にするという部分。
これは複数の問題を孕んでいるのですが、
今回は地方自治権の観点から論じてみます。
地域の重要な共有財産である公共インフラ。
それを一民間企業の手に委ねるか否かは、
地域住民にとって相当重要な問題のはず。
だからこそ、事前のチェック機能として、
地域代表である地方議員の集まりである、
地方議会の議決を要件としているはずです。
他方で、一度売却してしまったら、
仮にそのことが失敗だったと判明しても、
元に戻すのは容易なことではありません。
だからこそ、企業の利益追求が行き過ぎて、
公益が侵害されるリスクを減らすため、
住民が選んだ首長を戴く自治体の承認を
売却後の利用料金設定の際には必要とし、
事後のチェック機能を確保しているのが、
現行法制なのではないでしょうか。
今回、事前チェック機能を緩める代わりに、
事後チェック機能をより一層強化し、
バランスを取るということなら
「まだ」理解できます。
しかも、本紙でもしばしば報告されている
アメリカの事例にもあるように、
公共サービスの民営化は利用コスト上昇か
サービスレベル低下を招くリスクも高い。
にもかかわらず今回の法案、
事前も事後もチェック機能を緩め、
制度の暴走リスクを一気に高めています。
しかも、地方議会の議決も自治体の承認も、
いわば住民自治権の間接的な行使。
それを同時に奪っているのです。
料金設定の自由度が与えられれば
公共インフラ運営のリスクがその分減り、
民間企業の参入がより活発になって
PFIが促進される。
今回の改正法立案者が考えているのは
そんなところでしょう。
政府は、本法案の早期成立・施行を目指し、
今月始まる通常国会に提出するそうです。
けれども、住民自治権が奪われたあげくに
緊縮財政という最悪の経済政策が促進され、
さらには公共サービスも劣化する。
こんな法案を成立させたところで、
一体誰が幸せになるというのでしょうか。
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【島倉原】国民を不幸にするPFI法改正への8件のコメント
2018年1月10日 8:32 AM
核攻撃等に匹敵するぐらいのダメージが有ると思うんですがねコレ
実質的に、戦争して負けたのとそう変わらないぐらいの被害が出ません?
通してはいけないどころか、提案してはいけない。
ぐらいまで押し込みたいものです
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2018年1月10日 8:40 AM
>一体誰が幸せになるというのでしょうか
右や左の お国が幸せになるかと、、
民草は 文字通りの 「草」にされ
隣国から 刈られるので ございませう。。。
草草 が 現政権を支持なさっているのですから
当たり前のことが 当たり前に進行しているだけ
鴨
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2018年1月10日 8:58 AM
やっぱり、この国は滅びる運命かも….いや ! 確定 !
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2018年1月10日 10:00 AM
資本主義って金を持っている人がどんどん有利になるシステムだよね。小さな政府にすりゃ、それがどんどん加速する。
お隣の共産主義の方が上手くいってるね~
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2018年1月10日 10:32 AM
右でさえ「この国」とか言ってる人間が
エラそうにしてるようでは
難しいでしょうねえ
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2018年1月11日 9:36 AM
>一度売却してしまったら、・(略)・元に戻すのは容易なことではありません。
ABCは民間の活力とか言いつつ政府は、TOSHIBA等が売却されていくのに保護政策も何もしないでPB固持のまんまなのでしょう。
もう政府ではなく単なる一企業じゃないですか!
PFIとかFITとかFTAとかアルファベットの略称ばかりにかまけてる場合かってんだ!
言葉や文字に重みも何も感じられない気がしてならないのです。
なんてアホなオイラが感じてもそう言う感はエスタブリッシュメンバーには覚られないんでしょう。
何故か泣けてきました。
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2018年1月18日 10:31 AM
島倉先生の考察は法の精神からみて真っ当だと感じます。
首長、議員のチェック機能等が正当であるという性善説であり、例えば、田舎
の議員でもそこそこチェックできるレベルであることが前提と感じます。
しかし、この前提が崩れた場合はどうなるのでしょうか。
小さなまちで、自己の利益のために猛烈に活動されている地方議員はたくさん
おり、例え自己の利益に見えなくとも、次回選挙時の当選のために、行政に介入
していることが散見され、結果、無駄遣いとなります。
例えば、まちのホールの運営のSPCには、役所の天下りが長となり、多数の副長に
地元民が群がり、開設以来赤字続きであっても、公共という名目で補助金や委託
料、利用料など税金で補填をし、あげく役員には高額な報酬が支払われています。
同じ金額を税金で補填(助成)するのであれば、知恵ある民間事業者が、独立採
算ベースで競争をした結果、充実した運営になる方が、住民にとっては有益ではな
いのか・・・とこれまで思っておりました。
公務員には無い発想を持つ民間事業者の知恵ある運営が充実すれば、儲けが生
まれ、その儲けから納税や賃貸料などの名目で役所への支払いが発生する。
これまでの赤字施設が住民のためにお金を生む施設に発展することが、期待できる
からです。
今回、先生の考察を拝見して、どのようなことが有益なのか、もう少し、勉強してみた
いと感じました。ありがとうございました。
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