From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)
最近、景気良さげな報道をよく目にします。
リーマン・ショック以来停滞していた
世界の貿易量が昨年後半から急回復し、
日本でも、輸出主導の景気回復の構図が
出始めているんだとか。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO2390973025112017EA3000/
そうした背景もあってのことでしょうか。
内閣府試算の日本経済の需給ギャップも、
2017年に入って3四半期連続でプラス、
すなわち需要超過なんだそうです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23941140X21C17A1EE8000/
過去最高益の日本企業が、国内設備投資を
増やしているとのこちらの記事もその1つ。
その中で、2013年度の設備投資が
16年ぶりに減価償却費を上回り、
その構図が現在まで続いている事実が、
設備投資回復の動きを示すものとして、
グラフ付きで示されています。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO23904130V21C17A1EA2000/
上記の事実は2014年度、すなわち
消費税増税で景気が後退していた時期にも
成立していました。
してみると、そもそも設備投資回復や
景気回復の指標として適切なのでしょうか。
上記記事には「企業はITバブル以降、
現金収支を確保するため設備投資を
減価償却費の範囲内に抑えてきた」とあり、
それに続いて上記事実が指摘されています。
確かに「借入=通貨の創造」であり、
一定の成長が続いている経済の下では
企業全体の現金収支はマイナスが正常。
こちらのグラフもそのことを示しています。
日米企業部門の貯蓄投資バランス(=所得-実物投資)の推移です。1998年以降の日本企業の大幅な黒字化は、緊縮財政で国内経済成長即ち利益成長機会が失われ、投資意欲が低下した結果です。
— 島倉 原 (@sima9ra) March 22, 2017
↓参考「財政支出が経済成長を規定するメカニズム」https://t.co/lZX2P8ogdL pic.twitter.com/6FMd0I2KyZ
とはいえ、設備投資と減価償却費だけでは
現金収支は決まりません。
現金収入は利益動向に左右されますし、
投資支出の対象には設備以外の要素、
例えば土地なども当然含まれます。
すなわち、上記日本経済新聞記事のような
議論をするのであれば、
それらも含む真の現金収支をたどるべきで、
私が作成した上記グラフもその1つです。
日経と同じ「法人企業統計」に拠るのなら、
こちらのようなグラフになるでしょう。
【企業の実物投資と「純利益+減価償却費(≒営業キャッシュフロー)」の推移(兆円)】
財務省の法人企業統計から、企業部門の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの推移を抽出しました。前者に対する後者の比率の低迷は、輸出主導で企業利益が拡大しても、国内投資にはさほど結びつかない実態を示しています。
— 島倉 原 (@sima9ra) November 28, 2017
↓参考記事「企業の投資意欲の実態」https://t.co/Z8jqcLltc8 pic.twitter.com/XCoQ4cL0mx
土地への投資も含む「実物投資」に対し、
現金収入あるいは営業キャッシュフローに
ほぼ一致するのが「純利益+減価償却費」。
後者に対する前者の比率が100%以上なら
企業部門の現金収支はマイナスで正常、
100%未満ならプラスで異常という訳です。
当該比率はこの5年間低下傾向で、
直近2016年度のそれは過去最低水準。
当然、100%を下回っています。
しかも、リーマン・ショックが起きた
2008年度のそれをも下回っていて、
到底明るい兆しは見出せません。
これに対して、日経に準拠した
「設備投資÷減価償却費」は100%超。
確かに過去最高益だけあって、
設備投資「額」はそれなりに増えています。
とはいえ、金額ベースで見ても所詮は、
過去20年間のデフレ不況期の範囲内。
しかも、明らかに国内需要が不振な中で
両比率の乖離が拡大する現状が示すのは、
海外需要によって利益が拡大したとしても
国内投資にはさほど波及しないという構図。
その分海外投資に向かっていると考えれば、
目先で国内投資が幾ばくか増えたところで、
長期的な結果としてもたらされるのは、
国内産業の競争力低下に他ならないのです。
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↓「スタートトゥデイの新戦略とITバブルの循環」
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↓「ツイッターの時価総額を超えたスクエアの今後」
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