From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)
最近ほとんど話題にならなくなったアベノミクス「新3本の矢」。
安倍首相が発表したのは2015年9月24日のことでした。
このうち、第1の矢は「希望を生み出す強い経済」ということで、
2020年頃に名目GDP600兆円達成、という具体的な数値目標も掲げられました。
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO92034300U5A920C1000000/
国内全体の所得を示す名目GDPの当時のピークは1997年の約537兆円(旧基準)。
その翌年から日本経済は長期デフレに陥りました。
デフレ下で伸び悩んできた名目GDPを過去最高水準に引き上げるというのは、
デフレ脱却の次なるステップとして、確かに筋が通っています。
その後2016年7-9月期には、GDP統計基準改定によるかさ上げ効果もあり、
名目GDPの季節調整値が、過去最高だった1997年10-12月期のそれを超えました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS08H0R_Y6A201C1MM0000/
ところが、以前から述べているように、
この名目GDPには「消費税によるかさ上げ」分も含まれています。
誰かの所得とは、別の誰かが支出することによってもたらされるもの。
支出は税込価格であることから、その合計である名目GDPには消費税分の金額が含まれ、
その分は「政府の所得」ということで、所得の合計としての名目GDPの一部ともなります。
とはいえ、GDPを「経済活動の順調さ」や「国民の豊かさ」を図る指標として用いるなら、
経済活動の結果に対して後から割り当てられる所得税や法人税ならいざ知らず、
予め政府の所得であることが決まっている消費税分を含めるのはいかがなものでしょうか。
極端な話、消費税分も含めて良いのであれば、消費税をさらに25%ほど引き上げれば、
一時的に600兆円を達成することは来年にでも可能でしょうが、それでは無意味でしょう。
それは、増税による物価上昇で、統計上デフレが解消されても無意味なのと同じことです。
ということで、名目GDPの季節調整値から消費税分を差し引いたのが、
こちらのグラフの赤い実線です。
【名目GDP(季節調整値及びそこから消費税分を控除した値)の推移(兆円)】
日本の名目GDPは公式には2016年に過去最高を更新したことになっていますが、政府の所得になる消費税分を除いた「事実上の国内所得」はグラフの通り、未だにピークを下回っています。
— 島倉 原 (@sima9ra) June 28, 2017
↓参考記事「「アベノミクスとは何だったのか」」https://t.co/Uaa4Z0pHV2 pic.twitter.com/KZWXXIybZj
なお、各年度の消費税額は、国税分を表示したこちらの数字を基に、
地方消費税分を加味して算出しています。
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.gif
今回のグラフを見ると、改定された現在のGDP統計基準の下でも、
消費税分を除いた事実上の名目GDPのピークは1997年1-3月期であり、
その後はITバブルやアメリカ住宅ローンバブルの時期に短期的なピークを形成しつつも、
徐々にその水準を切り下げてきたことがわかります。
そして、記録上は過去最高となった2016年度も、
実態としてはそうしたバブル期のピークすら下回っています。
しかも、本メルマガでも三橋貴明さんや藤井聡さんが述べている通り、
2017年1-3月期の名目GDPは、GDPデフレーターと共に前期比マイナス。
仮に、このまま名目GDPが縮小していくような事態になれば、
「アベノミクスとは、過剰な金融緩和によって一時的なバブルを起こしただけで、
デフレ脱却にはほとんど無効な政策だった」
というのが、今回のタイトルに対する後世の答えとなるのかもしれません。
2014年の消費税増税以降の日本経済は、いつそうなってもおかしくない状況にあります。
少なくとも事実上の名目GDPがピークを超え、その後も拡大を続ける状況になって初めて、
「日本はデフレから脱却した」と言うことが可能なのではないでしょうか。
そのために必要なのが財政支出の継続的な拡大であることは、言うまでもありません。
〈島倉原からのお知らせ〉
デフレが金融の問題ではなく、その原因が20年にわたる政府の緊縮財政であることを、
数々の長期的な統計データと共に確認できる一冊です。
↓『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』
http://amzn.to/1HF6UyO
一昨日藤井聡さんが紹介されていた、自民党若手議員の「日本の未来を考える勉強会」。
私も先月、「積極財政で復活する日本経済」と題して講演を行いました。
講演の模様と当日の配布資料は、下記にてご覧いただけます。
(↓講演動画はこちら。上段はユーチューブ、下段はニコニコ動画で、同じ内容です)
https://www.youtube.com/watch?v=1hj3c9Fa7mk
http://www.nicovideo.jp/watch/sm31257396
(↓上段はスライド資料、下段はレジュメ。いずれもPDFでダウンロード可能です)
http://bit.ly/2q7PhJN
http://bit.ly/2qSse2K
アベノミクスが起こしたバブルといえば、間違いなくその1つはマンション価格のバブル。
その現状と中期的な見通しについて、
新築マンション市場の長期にわたる統計データを基に分析しています。
↓「続・マンション市場の現状と今後」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-258.html
本国アメリカで食料品スーパー買収を発表したアマゾン・ドット・コム。
その戦略の背景を、アメリカのEコマース市場に関する統計から読み解いています。
↓「アマゾンが食料品スーパーを買収する必然性」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-257.html
↓ツイッター/フェイスブックページ/ブログでも情報発信しています。
こちらも是非ご活用ください。
https://twitter.com/sima9ra
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【島倉原】アベノミクスとは何だったのかへの1件のコメント
2017年6月29日 3:26 PM
アベノミクス失敗の原因は「利権団体に遠慮したせいで成長戦略としての規制緩和が足りなかった」とはよく聞きますが、「財政支出が足りない」なんて大手マスコミから一度も聞いたことないですね。
早く早く、何が何でも規制緩和の方向に持って行きたくて、駆け足すぎて急ブレーキでつんのめって前のめりに倒れこんでるような感じ。財政なんかこれっぽっちも見ちゃいない。こんなに露骨に利益誘導しているのに黙っているしかないなんて。せめて自分にできることは島倉さんのような経世済民を唱える方々の言論活動を応援するくらいです。
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