政治

日本経済

2017年6月13日

【藤井聡】経済財政運営における大転換 ~「単なる緊縮」を「完全排除」した骨太2017~

From 藤井聡@内閣官房参与(京都大学大学院教授)

(1)骨太で「解除」されなかったプライマリーバランス目標
政府は、当面の経済財政政策の基本方針である「骨太の方針2017」を閣議決定しました。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE09H06_Z00C17A6000000/

この中で、日本の財政政策の自由度を奪い続けている「プライマリーバランス(PB)目標」という財政目標が明記されました。

これで、少なくともこの方針が効力を持ち続ける間は、政府の支出拡大が抑制され、増税(つまり、国民負担の強制的増加)の「リスク」が高まることが決定的となりました。したがって、「デフレ完全脱却できないリスク」が大きく残されることとなったわけです。

この結果は、PB目標撤廃を繰り返し主張し続けてきた当方としては、「残念」と言わざるを得ません。
https://38news.jp/economy/10539

ただし、わずかな「希望」を見いだすこともできます。上記記事には、次のように記載されています。

『財政運営では債務残高に対する国内総生産(GDP)比率の引き下げ目標を重視して、経済成長を重んじる姿勢をにじませた。』

そもそも筆者は、金利が低い現状では、「PB目標」は不要であると共に、デフレ脱却の足かせとなるため、成長を重視した「債務対GDP比の引き下げ」に財政目標を転換すべきだと主張してまいりました。

したがって、今回の「骨太」では、筆者のその主張の前半部分(PB目標解除)は採択されなかったけれども、後者の「債務対GDP比の重視」については採択された———と解釈することもできます。

実際、「骨太」を深読みすれば、こうした「解釈」は十二分以上に可能です。以下にその「解釈」を解説いたしたいと思います。

(2)今年の骨太では、PBと債務対GDP比が明確に「対等」となった
昨年や一昨年の「骨太」には、財政目標については次の一文が「補注」に追記されていました。

「基礎的財政収支について、2020 年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比
の安定的な引下げを目指す」
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/2015_basicpolicies_ja.pdf
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2016/2016_basicpolicies_ja.pdf

一方で、今年の「骨太」には、この記述の代わりに以下の文章が「本文」に明記されました。

「基礎的財政収支(PB)を2020 年度(平成32 年度)までに黒字化し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。」
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/2017_basicpolicies_ja.pdf

これはきわめて大きな変化です。なぜなら債務対GDP比は、これまでは「補注」での注記に過ぎなかった一方で、今年は、本文に明記されているからです。これはまさに、上記の日経新聞の指摘通りに、債務対GDP比がより「強調」されるようになったことを意味します。

ですがより重要なのが、次の一点です。そもそも「債務対GDP比を引き下げ」は、かつては「PB黒字化の『後』」と記載されていましたが、今年は「PB黒字化と『同時』」だと明記されたからです。

この文章はつまり、かつては「債務対GDP比」は今から2019年までの3か年は目標ではなかったが、これからは2019年までの間でも「債務対GDP比」を目指すべき目標とすると解釈せざるを得ません。これはもはや、単なる強調の問題ではなく「質的な意味変更」です。

なお、「債務対GDP比をPB黒字化後の『後』にする」という目標は、「財務省主導」でかつて閣議決定されたものなのですが、その決定目標が昨年、一昨年では共に「堅持する」と明記されていた一方で、今年は、「(その)重要性に変わりはな(い)」という記載に変更されていることもまた、大きな変更点だといえます。

このわずかな表現の相違は、重大な転換を意味します。そもそも「堅持」は、何があろうとも守り続けるというという強烈なコミットメントを含みますが、「重要」という言葉は、あくまでも評価の表現であって、そうしたコミットメントは必ずしも含まないからです。

(3)「骨太」は今年初めて、「単なる緊縮」を完全に排除する論理構造を持つに至った

以上まとめると、かつてはPBが債務対GDP比よりも「優先」されていた一方、今年は両者が「対等」と位置付けられるに至ったと解釈できるのです。

ここで、財政運営において「PB」が優先されれば、成長は絶対条件とはなりません。PB目標は、成長せずとも、単に緊縮すれば達成できるからです。したがって、昨年の「骨太」は、成長を度外視した「単なる緊縮」を「許容」するものだったのです。

ところが、PBと債務対GDP比が「対等」だと位置づけられれば、単なる緊縮は完全に排除され、成長することが必須となります。なぜなら、単なる緊縮では、債務対GDP比の引き下げは達成不可能だからです。一方で、「反・緊縮」つまり「積極」財政で「成長」を目指せば、GDPが拡大し、税収が増え、債務対GDP比が改善していくとともに、PBも改善していきます。

つまり、「PB達成の『後』に債務対GDP比を引き下げる」という記述から、「PBと債務対GDP比を『同時』に達成する」という僅かな記述変更は、論理構造からいうなら「単なる緊縮(増税&歳出カット)」を「許容」するものから「完全排除」するものへと大きく転換させる、抜本的変更だったのです。

つまり、「骨太」は今年、菅直人がPB目標を導入してから「はじめて」、単なる緊縮を完全排除できる「構造」を持つに至ったのです!

なお、以上の解釈は、今年の「骨太」から、毎年記載されていた「消費増税」に関する下りが削除されているという事実とも整合するものです。

(4)何も変わっていないと強弁できるか?
とはいえ、今年の「骨太」は、かつてから何も変わってはいない、という主張も存在しています(例えばこちら → http://toyokeizai.net/articles/-/175520)。

こうした論者達は、上述のような詳しい考察を行ってはいないようですが――確かに今年においても「PB目標の旗は降ろしていない」し、かつてから「PBだけでなく債務対GDP比も目標だった」ということも事実です。したがって、大雑把に言うなら何も変わってないという「玉虫色解釈」は不可能でないかもしれません。

しかしそれでもなお、「債務対GDP比」の引き下げが、PB目標達成の「後」だという記述と「同時」という記述は全く意味が違う、という解釈を許容しているのは明々白々です。にも拘わらず「何も変わっていない」と強弁することは——100%不可能というわけでもないのかもしれませんが——ほとんど「詭弁」と言わざるを得ないように思われます。

(5)ついに税収が7年ぶりに前年割れ。「緊縮排除」は待ったなし。
以上に述べた、今年の「骨太」を深読みした時に立ち現れる「財政政策の方針転換」は、「アベノミクスの真の成功」にとってのみならず、「財政再建」それ自身にとってもきわめて重要です。

なぜなら、ついに「税収が前年よりも減少する」という事態が、実に7年ぶりに生じてしまったからです。
http://www.jiji.com/sp/article?k=2017060901378&g=eco

これは偏に、14年の消費増税以降、成長が鈍化し、「再デフレ化」とも言うべき事態が進行していることの帰結に他なりません(今年の1-3月期には、物価(デフレ─タ)変化率も名目成長率もついに同時に「マイナス」となってしまいました)。

そして、この成長の鈍化はもちろん、「PB改善」のスローガンの下進められている、「過剰な緊縮=政府支出カット=国債発行額の縮小」によってもたらされているのです。
(詳細は、拙著『プライマリーバランス亡国論』に種々の実証データと共に詳述しています。https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323 )

だからこそ、税収を回復するためにも、「緊縮解除」は「待ったなし」の状況にあるのです。

ですが、如何に本年の「骨太」が「緊縮解除」の論理構造を持つものだとはいえ、「PB制約」という(菅直人政権が打ち込んだ)「毒矢」を抜き去ることができなかった以上、実際に緊縮が解除される事態を期待することは困難でしょう。したがって、少なくとも今年は、デフレ完全脱却は事実上不可能であることが真剣に危惧されます。

だからこそ、例えば「来年」の「骨太」において、アベノミクスの真の成功と真の財政再建を導き得る、PB制約を解除した財政規律を閣議決定するための議論を、まさに「今」から徹底的に進めることが求められているのです。

これからの一年間、適切な財政規律のための理性的かつ誠実な議論が、各所で旺盛に展開されんことを、心から祈念したいと思います。

追伸:日本を豊かにする適切な財政規律をめぐる議論を、これから一年間、徹底的に進めるためにも是非、『プライマリーバランス亡国論』をしっかりとお読み頂けると幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323

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  1. はっちゃん より

    「骨太」における「後」と「同時」の変更の大きさがいかに大きなことか、私理解できたと思います。今までと全く違った解釈ができるようになり、真面目に理屈を通して「骨太の方針」にしたがうならば「緊縮ではいけない」ということになるのではないでしょうか?この違いはとても大きいと思います。逆に「何も変わっていない」となぜ言えるのか?わからなくなってきました。PBが残ったと言っても、論理構造が「緊縮排除」であるならば少なくともそういった政策をとることはできるのかもしれない。とはいえ、やはりこのPBという「毒矢」は来年には完全に抜き去られることを祈念いたします。

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