日本経済

2016年8月20日

【三橋貴明】続 快適な日常生活の「大黒柱」である運送サービスについて考える

From 三橋貴明@ブログ

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2016年7月12日、
南シナ海に対する中国の領有権主張や人工島の建設などが国際法に反するとして、
フィリピンが中国を相手に提訴した裁判で、オランダのハーグにある常設仲裁裁判所は、
中国の主張に法的根拠がないとの判断を示した。

これに対して、中国は強く反発し、強硬な姿勢を崩していない。

また、8月6日には、日本の尖閣諸島周辺に中国の漁船約230隻が侵入し、
同日、中国の爆撃機が南シナ海を飛行するなど、挑発的な行為を続けている。

この先、中国の国際的立場はどうなっていくのか。それによって、日中関係はどうなるのか。

三橋貴明が、まずは現状を冷静に分析し、日本の強みと中国の弱点を炙り出し、日本が取るべき道を探っていく。

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「日中冷戦〜誰が日本を追い詰めたのか?」
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 昨日に続き、運送サービスの話題です。
 なぜ、運送サービスについて取り上げるかといえば、まずは昨日も書いた通り、90年の規制緩和が、
「需要が十分にある時期(97年まで)は、サービス価格の低下(のみ)をもたらした」
「需要が縮小する時期(98年以降)は、賃金の低下をもたらし、生産者を貧困化させた」
 と、規制緩和の「善と悪」がもろに出た業界であるためです。
 さらに、デフレ期に規制「強化」に踏み切らなかった結果、人手不足が深刻化しています。現状、日本の「三大人手不足業界」の一つになっています。(残り二つは、介護と土木・建設)

『トラック運転手不足深刻 物流システム瀬戸際
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO023571/20160814-OYTAT50003.html
 トラック運送業界が危機的な運転手不足に直面している。規制緩和による競争の激化で収入が減る一方、近年はインターネット通販の拡大で細やかなサービスが求められ、負担は増している。「社会の血管」に例えられる物流システムをこの先も維持できるか、瀬戸際の状況が続く。(中略)
 トラック運送業界は1990年の規制緩和で新規参入が進み、事業者が急増した。過当競争のあおりで運転手の平均年収は減り、大型トラックの場合、ピーク時(97年)の510万円に対し、2015年は437万円。全産業の平均より50万〜60万円も低い状況が続いている。(後略)』
 
 読売新聞が「規制緩和による競争の激化で収入が減る」と、正しいことを書いています。ちょっと、吃驚。

 ところで皆さん、不思議に思いませんか?

 これだけ人手不足が深刻化しているにも関わらず、なぜ運送サービスでは介護や土木・建設のように、
「ならば、外国人労働者を」
 という話が出てこないのでしょうか。
 それは「免許」の問題です。日本国内でトラックドライバーの職に就くには、日本語の運転免許試験に合格しなければならないのです。

 以前、ある運送会社が「ベトナム人ドライバー」の育成にチャレンジしたのですが、やはり無理だったようです。日本語を「普通に」話せ、読み書きができない限り、日本の運転免許は取得できません。
 今後、政府が「ならば、外国語でも運転免許を取得できるようにしよう」などと、アホな(究極的にアホな)規制緩和に乗り出さない限り、我が国の運送サービスは「日本国民」で賄うしかないのです。

 というわけで、運送サービスは「人手不足を日本国民で、いかに補うのか?」の試金石になると思います。
 もちろん、中長期的には「運転サポートシステム(あるいは自動運転)」や「ドローン」など、技術開発や設備投資による生産性向上が切り札になります。とはいえ、短期的には「給料を引き上げる」ことで、業界に人手を呼び込む必要があるのです。

 読売新聞も書いていますが、大型トラックドライバーの年収は、97年の510万円から、437万円に、何と14%以上も下がってしまったのです。まずは、この水準を引き上げていく必要があります。 

 そのためには、昨日も書きましたが、我々日本国民が「サービスに対し、適正な価格を支払う」という意識を持たなければなりません。
 高度成長期からバブル期にかけ、運送サービスはやはり人手不足で(だから、規制緩和という話が出てきた)、長距離ドライバーの方々の年収は相対的に高く、
「運送サービスで働き、家を建てる」
 ことが普通にできました。

 今は、まず不可能でしょう。
 いかがでしょうか? わたくしは運送サービスのみならず、介護や土木・建設、医療といった「人が動かざるを得ないサービス」で汗水垂らして働く「国民」が、比較的高い年収を確保し、持ち家を建てられる社会こそが、「素敵な日本国」だと思うのです。高度成長期からバブル期まで、日本国はまさにそういう国でした。
 もちろん、「人が動かざるを得ないサービス」でも生産性を高めていく必要がありますが、とりあえず我々日本国民が「人を大切にする」国民性を取り戻す必要があると思うのです。

 読売新聞の記事のラストで、順天堂大学の川喜多喬・特任教授が、
「大災害で物流が止まると、人々はトラック輸送のありがたみを実感するが、日頃は当然のことと考え、高校で運送の仕事を教わる機会もない。運転手の待遇の改善に加え、『物を運ぶ仕事』の大切さに理解を広めていくことが必要だ」
 と語っています。

 まさに、その通りです。日本国民が『物を運ぶ仕事』の大切さを理解していかない限り、我が国の運送サービスは中長期的に現在の品質を維持することはできないでしょう。

ーーー発行者よりーーー

2016年7月12日、
南シナ海に対する中国の領有権主張や人工島の建設などが国際法に反するとして、
フィリピンが中国を相手に提訴した裁判で、オランダのハーグにある常設仲裁裁判所は、
中国の主張に法的根拠がないとの判断を示した。

これに対して、中国は強く反発し、強硬な姿勢を崩していない。

また、8月6日には、日本の尖閣諸島周辺に中国の漁船約230隻が侵入し、
同日、中国の爆撃機が南シナ海を飛行するなど、挑発的な行為を続けている。

この先、中国の国際的立場はどうなっていくのか。それによって、日中関係はどうなるのか。

三橋貴明が、まずは現状を冷静に分析し、日本の強みと中国の弱点を炙り出し、日本が取るべき道を探っていく。

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【三橋貴明】続 快適な日常生活の「大黒柱」である運送サービスについて考えるへの4件のコメント

  1. ハンダ より

    三橋先生、ありがとうございました。運送業の件について語って頂いたこと感謝いたします。

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  2. 學天測 より

    一生懸命働いたら高い給料をもらえて当然なんて事はありませんよ。財産の私有は当たり前ではないですからね。公共の事に関心も持たず、ひたすら自分の蓄財だけに熱心な連中が家を建てる事がステキな日本だと私は思いません。あくまで財産の私有は公共に対して犠牲を払う事で認められる権利で有る事を忘れてませんか?その責務を放棄して、それをお人よしの誰かに押し付けて、自分の私的利益の追求ばかりして、家が建つような日本はロクな事になりゃしないのは結果で見ての通りでしょう。世には自分の私的財産追求を放棄しても公の責務を優先している市井の方がたくさんいる。まず、そういう方が報われる日本がステキだと私は思いますけどね。人類的な常識としてなぜ私有財産が認められるかを考えた場合にね。

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  3. 學天測 より

    三橋さんと同じ様な理想は共産党さんも言ってます。でも私が知る限り実現には程遠いようです。理想は大事だが目の前の現実がある。己の境遇を変えたければ、己が命を懸けて立つしかない。だからビジネスマンは起業する。少なくともその変、本のコピペで知った風な事を言う学者よりは本を読まなくても物を知っている。

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  4. ななし より

     「人を大切に」リメンバーサプライ、ですね。モノやサービスの向こう側に居る、労働者の存在を想像しようって事ですね。 年寄り連中は「便利さが人を薄情にした」って言いますけど、どうなんでしょうね?江戸時代でも、町人が「最近の百姓は贅沢を覚えた。たまには飢饉に遭った方が良い。」なんて言ってたそうですが。 企業が我儘な消費者を育てたと言うか、消費者が我儘だから企業が労働者にしわ寄せしてきてると言うか…卵と鶏ですね。 個人的には、宣伝に「無料」って言葉を使うのを禁止すればいいのにって思います。「1個買ったら、もう1個は無料!」じゃなくて「1個分の値段で2個買える」とか「実質無料!」じゃなくて「このお値段でこれだけサービス」って言えばいい。朝三暮四で解り難い宣伝なんて、勘違いした客からのクレームが増えると思うんですよね。

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