コラム

2016年9月24日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第廿六話

From 平松禎史(アニメーター/演出家)

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 ◯オープニング

ブームとか社会現象にはこのようなことがままあります。

『あるものごとをきっかけとした社会現象が拡大していく過程で、「功罪」の「罪」の側面が顕在化しているにもかかわらず拡大が止まらないこと。あるいは、「功・罪」の「功」を見ることなく否定する言説の拡大が止まらないこと。
つまり、ものごとの弊害を適切に見極めることができなくなること。』

現実のあらゆることに「功・罪」の両面が存在します。
ある方法が、ある時期には「功」だったとしても状況が変化すれば「罪」になる(その逆もあり)、ということは当メルマガ読者の皆さんには、常に正しい経済政策はない、または合成の誤謬など三橋先生のご主張を通してよくご存知かと思います。

社会心理の動きを回転するエンジンにたとえ、弊害を吐き出してしまう現象を「2サイクルな状態」と考えて拙ブログで展開していました。「序」から「その2」まで。
『ポケモンGO・2ストロークの社会現象(序)』
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/entry-12193885519.html

今回はこの場をお借りしてその「まとめ」とします。
ブログタイトルをそのまま引き継ぎますが、タイトルに「ポケモンGO」が入っているのは当時、これがちょっとした騒動になっていたからです。(覚えていますか?)
社会現象を考えるきっかけとして用いたわけですが、ブログでも再三書いているように、このゲーム自体の善し悪しを追求しているわけではありません。

当メルマガの藤井聡教授が書かれたふたつの投稿も大変勉強になりました。
『「ポケモンGO」と「国土学」』
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/08/02/fujii-207/

『なぜ、デマやウソが世論を席巻してしまうのか? 〜豊洲市場「空洞」騒動の真実〜』
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/09/21/fujii-215/

第廿六話:「ポケモンGO・2サイクルの社会現象・まとめ」

 ◯Aパート

自動車などのエンジンの構造はおおざっぱに二通り、2サイクルと4サイクルがあります。

2サイクルは構造がシンプルで小型化にできて立ち上がりが速いメリットがある反面、燃焼室と力を伝えるクランク室が分離されておらず、燃焼室に弁がないため、燃料や潤滑油の燃えカスなど有毒物が排気ガスに混じるデメリットがあります。

この問題を解決しているのが4サイクルエンジンです。
燃焼室とクランク室を分離し、吸気と圧縮を弁で切り替えて排気ガスに有毒物が混じることを抑制できるメリットがある。
大型で高価になり、こまめなメンテナンスが必要ですが燃費が良くて長持ちすることもメリットです。

『あるものごとをきっかけとした社会現象が拡大していく過程で、「功罪」の「罪」の側面が顕在化しているにもかかわらず拡大が止まらないこと。あるいは、「功・罪」の「功」を見ることなく否定する言説の拡大が止まらないこと。
つまり、ものごとの弊害を適切に見極めることができなくなること。』

ブームや社会現象というものは、そのものにどんな意味があるのかよく吟味されないまま急速に拡大していく特徴があります。
2サイクルエンジンの特徴である、立ち上がりの良さで急激に高速回転し、有毒ガスを吐き続ける様とよく似ているので「2サイクルな現象」と呼んでいます。

現実に「功・罪」、メリットとデメリットがあることを認識し、「罪・デメリット」を抑えながら「功・メリット」を伸ばす(弊害を減らす)にはどういう姿勢が必要なのか。

エンジンの構造に着目すれば、「複数のことがらを分離して考えること」ができているか、ということになります。
動力を思考に置き換えればこうも言えます。
思考の過程で「目的と手法」や「原因と結果」を吟味する時に、自分が当初持った印象(善悪、好き嫌い)を分離して考えることができているか、ということ。

さらに怖いのは「忘れてしまう」ことです。

現実の問題には、この「2サイクルな現象」に思い当たることが多々あります。
デフレ脱却を阻止している緊縮財政や金融政策偏重、グローバリゼーション(この辺りは20年ほどの蓄積がありますが)、大阪都構想、石原都政から田母神氏をも含む現在までの東京都知事問題、ポケモンGO騒動、「貧困JK」問題、「二重国籍」問題、豊洲移転問題…
さらに、歴史をたずねれば
「戦後」を維持強化してしまう「左・右・保守」の存在、明治維新、七世紀以降の律令体制…
という具合にです。

それぞれできごとにある「功・罪」両面は、予断を捨てて明らかにされているか。
その上で、「功」を伸ばす方向に向かっているか。
忘れてしまっていないか。

 ◯中CM

最近、再び「古事記」に関係する本を読んでいます。
関連して「伝説」や「昔話」なども読み始めました。
前者は主に三浦佑之氏の著作。後者は柳田國男氏の著作です。

三浦氏が膨大な資料を基に考えたのは、「古事記」には律令国家としての日本が置き忘れてきた「感性」が記録されている、ということ。
それは国家を価値付ける歴史からは見えてきません。
外国と対峙するために「律令国家」という新しいレイヤーを、さらには「近代国家」という新しいレイヤーを重ねていった中で、過去の日本の姿が見えなくなっていないか。
(書き文字を輸入したことで、やまとことばが停止してしまったと高島俊男氏は述べています。)

「古事記」に強く興味を持ったのは、岡田英弘氏が歴史家の立場で述べた「偽書説」がきっかけです。
江戸中期から明治期にかけて「古事記」が政治的に利用されてきた経緯も興味深かった。
三浦氏は文学者の見方で、「古事記」を歴史や政治から分離した上で比較検討し、ありのままの日本をみつけようとする試みをしていると思ったのです。

これは4サイクルな見方ですね。

日本が歴史上、外国の文化を受け入れ日本流に作り変えてきたのは自明なことです。
そこには「功・罪」があるはずですが、イデオロギーによって「功」「罪」のどちらか一方を取り上げようとする向きがあります。
これは2サイクルな見方だと思います。

 ◯Bパート

ポケモンGO騒動の時「レイヤー構造」という話を目にしました。
つまり、歴史上積み重ねられてきた価値観、藤井先生の問題意識で言えば「歴史的地理空間」といったものを「レイヤー」にたとえたものです。

【レイヤー】1:層。階層。2:グラフィックスソフトやCADソフトにおける、絵や設計図の仮想的なシート。複数のシートを重ねたり、別々に編集したりできる。
(デジタル大辞泉)

我々が体験を通して価値づけてきた「層」が幾重にも重なっているイメージです。
ゲームが現実の空間に新しい価値を付加していくことをポジティブに捉える見方があるようです。
それは否定しませんが、問題は、歴史的な階層を私たちは覚えているのか、ということです。

史跡などを訪ねる良い機会になるという意見もありましたが、そこに着目できるのはそもそも史跡などに興味を持っていた人であって、ゲームに飛びつく人にとっては「アイテムが手に入る場所」というレイヤーが重ねられるだけです。
そのようなレイヤーが社会現象的に急激かつ大量に重ねられれば、歴史的地理空間は不可視となり、ヒストリーから押し出され消えていってしまいかねません。
これが藤井先生の問題意識であり、弊害が勝ってしまう「2サイクルな現象」と言えると思うのです。

そして現象そのものが忘れられ、また繰り返されていくのです。

ポケモンGOに関しては当初から「気をつけて楽しんでね」と書いてきました。
経済効果や引きこもり脱却などせっかくのメリットも事件事故や迷惑行為で台無しになってはいけないと思います。
『上野公園・弁天堂、境内で「ポケGO」禁止』9月22日
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160922-OYT1T50001.html

こうしたことは目に見えやすいことですが、「歴史的地理空間」、日本人の背後にある伝統的な価値観など目に見えないいものは破壊されても気が付きにくいのです。

ブログの「その2」の最後で触れた『「わたし」とそれ 』というのは、「わたし」の背後にあるものを意識できているか、ということです。
個人には、好むと好まざるとにかかわらず、その上位に地域社会、歴史、伝統のレイヤーが無数に重なっています。
可視化できているのは個人の一枚だけってことはないですか?
見えていると思っていても個人の下位でゴッチャにし都合よく選択していませんか?
「わたし」とは誰(なに)のことなのか。

「レイヤー」というより「いれこ(入れ子・入れ籠)」といったほうが正確でしょうね。
レイヤーは一覧表示できますが、いれこは重ねられた中身が見えませんから。

 ◯エンディング

問題を抜本的に解決することなどできませんし、してはいけません。
安易な過去否定は革命のようなものですし、自分(や誰か)を否定する必要はないと思います。

繰り返しの中から、願わくばその度に、少しでも「功」の方を伸ばすように、立ち止まって考えていきたい。
そのためには「サイクル」に気がつく必要があります。
気が付かねば立ち止まることはできません。
参照可能なレイヤーを増やしていくこと、いれこの奥の奥をいつでも探し出す意識を持つこと、つまり忘れないこと。

繰り返しの中から学んでいきたいと思います。

 ◯後CM

10月5日水曜日、深夜2時21分から、テレビ朝日にて「ユーリ!!! on ICE」がスタートします。
http://yurionice.com/

男子フィギュアスケートを描くテレビアニメーション。
ボクは、キャラクターデザイン・総作画監督を担当しています。

8月22日のブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/entry-12192546026.html

ブログ内の動画が見れなくなっているのでエイベックスさんが公開している公式動画をリンクしておきますね。
https://www.youtube.com/watch?v=u6bIj8xQ0UY

ぜひご覧ください!!!

平松禎史のブログ
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

ーーー発行者よりーーー

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【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第廿六話への1件のコメント

  1. あまき より

    問題を抜本的に解決してはいけないとの結語に、強い共感を得ました。ふだんアニメーションにはほとんど縁がありませんが、紹介いただいたものを観ると、平松さんのお作は描きこみすぎ、盛り込みすぎがないのに、胸にせまるものを感じます。鶴田仁美さんという方の作画も素晴らしいですね。

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