コラム

2016年4月13日

【佐藤健志】〈詰まったトイレ〉が表すもの

From 佐藤健志

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かつて日本は「一億総中流」などと言われ、比較的、経済格差の少ない国だとされていた。その「一億総中流」の経済力によって、大きな経済成長を遂げてきた国だった。

しかし、それも「今は昔」。デフレが深刻化するとともに、経済格差の拡大が問題視されるようになっている。

三橋貴明はその原因を政府が「デフレを甘く見ていること」と「実質賃金を軽視していること」と指摘する。特に「実質賃金」は重要なキーワードであるという。

実質賃金とは物価変動の影響を除いた賃金のことだが、要するにモノやサービスを「買う力」を表している。

この実質賃金が、日本では1997年をピークに下がり続けているという。株価が上昇していたアベノミクス初期ですら、実質賃金(=買う力)は下がり続けていたのだ。

なぜ、日本国民の「買う力」は低下し続けているのか。また、この事実はデフレや格差拡大とどのように関係しているのか。

三橋貴明が、デフレの正体やその脱出法とともに詳しく解説する。

『月刊三橋』最新号
「日本経済格差拡大のカラクリ–実質賃金の軽視が招いた大災害」
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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【おことわり】
今週の記事には、飲食中にお読みになるには不適切な内容が含まれています。
食事の直前や直後にお読みになるのも、避けたほうが良いでしょう。
以上の点にご留意のうえ、ご覧くださいますようお願いいたします。

先週の記事のおさらいからまいります。
日本の現状を理解するうえで、重要な意味を持つのが「思考停止を伴った自己絶対化」たるキッチュの概念。
しかるにキッチュには、以下のような矛盾した特徴が見られます。

1)明らかに無理のあるタテマエを、「誰でも理想として信奉している(はず)だ」という理由で美化・絶対化する。
2)そのような姿勢を取るうえで都合の悪い一切の事柄を、汚物のごとく見なして排除の対象とする。

何が矛盾しているのか?
明らかに無理のあるタテマエを絶対化したら最後、かえって無理が際立ってしまうではありませんか。
くだんのタテマエを信奉するうえで、これは間違いなく都合が悪い。

キッチュに陥った人々は、排除の対象としなければならない「汚物」を、じつはみずから生み出しているのです!
さしずめ「身から出たクソ」ですが、そうと認めてしまったら、キッチュが崩壊してしまうのは必定。

ゆえにキッチュを維持するには「自分(たち)の中から汚物が出てくるはずはない」と言い張らねばなりません。
とはいえ、この発想にも見事に無理がある。

即物的なレベルで言えば、人間、誰しも排泄せずには生きられない。
象徴的なレベルで言っても、無理のあるタテマエを絶対化しておいて、無理が際立たないはずがないでしょう。

このジレンマに悩まされるためか、キッチュな人間は、往々にして大便に異様なこだわりを見せます。
自分の中から汚物が出てくるはずがないにもかかわらず、ああいうモノが出てきてしまうのですから、致し方ないところですね。

──私のクソは汚物ではないと、みんなに認めさせたい!!
これこそ、キッチュの見果てぬ夢なのです。

しかるにお立ち会い。
朝日新聞政治部次長・高橋純子さんは、見果てぬ夢の実現に向けて、大胆な一歩を踏み出しました。
2月28日に発表したコラム風の記事「『だまってトイレをつまらせろ』 あなたならどうする」によれば、彼女は最近、クソまみれの新聞紙で詰まったトイレのイメージに、自分でも困ってしまうほどの「きらめくなにか」を感じるのだとか。
http://digital.asahi.com/articles/ASJ2V54CGJ2VUTFK00L.html?_requesturl=articles/ASJ2V54CGJ2VUTFK00L.html

失礼ながら、くだんの感受性にはかなり倒錯したものがある。
高橋さん自身、新聞に記事を書く立場の人間です。
新聞紙がクソにまみれ、トイレに詰め込まれているイメージの、何がそんなに魅惑的なのか?!
かなり深い自己嫌悪を、ここから読み取ることは容易でしょう。

ついでに自己嫌悪の由来を推察することも難しくありません。
朝日と言えば、わが国の左翼・リベラルを代表する新聞。
そして『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』でも論じたとおり、戦後日本の左翼・リベラルは、「絶対平和主義」や「国家権力の否定」、あるいは「憲法擁護」といった点について、キッチュの傾向を強く見せてきました。
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/

けれども上記のキッチュは、いずれも1970年代ぐらいまでは顕著な社会的影響力を持っていたものの、その後だんだん弱体化してゆきます。
今では内実まで、相当に形骸化してしまいました。
たとえば昨年、安保法制がらみで「平和憲法を守れ」という声が高まりましたが、日米安保条約の廃棄とか、自衛隊の廃止といった主張はサッパリ出ていません。
それどころかシールズなど、公式サイトで「もちろん、私たちは憲法改正それ自体を否定するつもりはありません」と宣言しているのです。
http://www.sealds.com/#opinion

左翼・リベラルにとって、これは自分たちの理想を否定する「クソ」の勢力が強まったことを意味します。
ならば「クソまみれの新聞紙で詰まったトイレ」も、「メディアの保守化、ないし『右傾化』が進んだせいで、社会が閉塞状況に陥った」ことを表すものとなるでしょう。
つまりは敗北の象徴です。

ならばなぜ高橋純子さんは、このイメージに「きらめくなにか」を感じてしまったのか?

これを理解するには、問題のイメージがいかなる文脈で出てきたかを振りかえる必要があります。
何でも高橋さんの読んでいた本に、こんな問いかけがあったらしいんですね。

ある工場のトイレが水洗化され、経営者がケチってチリ紙を完備しないとする。労働者諸君、さあどうする。

常識で考えれば、会社の費用でトイレットペーパーを置くよう、経営陣と交渉するのが筋となるものの、問題の本には、こんな選択肢が提示されていたとのこと。

新聞紙等でお尻を拭いて、トイレをつまらせる。
チリ紙が置かれていないなら、硬かろうがなんだろうが、そのへんにあるもので拭くしかない。意図せずとも、トイレ、壊れる、自然に。修理費を払うか、チリ紙を置くか、あとは経営者が自分で選べばいいことだ――。

この戦術の是非については脇に置きます。
肝心なのは、「クソまみれの新聞紙で詰まったトイレ」のイメージが、上記の文脈で何を表すか。

ケチで身勝手な経営者が、反骨精神と創意工夫に富んだ(とりあえず、そういうことにしておきます)労働者によって追い詰められ、窮地に陥ったわけですから、これは「横暴な支配層が、反骨精神と創意工夫に富んだ左翼・リベラルの前に屈する」ことを表すものとなるでしょう。
左翼・リベラルにとっては、むろん勝利の象徴です。

しかも見逃せないのは、本来なら汚物として水で流されるべき存在であるクソが、ここでは労働者、ないし左翼・リベラルに勝利をもたらすこと。

──われわれのクソは汚物ではなかった! 理想実現のための貴重な道具だったのだ!!

キッチュに陥ったせいで、大便に異様なこだわりを持つにいたった者にとり、これはじつに喜ばしい話と言わねばなりません。
しかも左翼・リベラルは、メディアが保守化や「右傾化」といったクソにまみれたあげく、社会の閉塞状況に一役買ってしまっているのではないかと懸念していたはず。

「だまってトイレをつまらせろ」戦術の存在を知った高橋純子さんの頭の中では、〈クソまみれの新聞紙〉のイメージが、敗北の象徴から勝利の象徴へと、鮮やかな変身を遂げたのではないでしょうか?
ならば、「きらめくなにか」を感じるのも当然のなりゆき。
自分のクソは汚物ではないと、みんなに認めさせる方法を発見したことになるのですから。

高橋さんの記事は「『だまってトイレをつまらせろ』 あなたならどうする」と題されていましたが、その真意は
「『どんなに負けが込んでいるように見えても、左翼・リベラルは勝つ』 あなたはそれでも現体制を支持するのか」
ということだったのです!

日本の現状、わけても「インテリ」と呼ばれる人々の言動を理解するうえで、キッチュの概念がいかに重要、かつ有益か、ここからもお分かりいただけるでしょう。

もっとも。
高橋さんの感じ取ったきらめきは、しょせん錯覚にすぎません。
これについては、次週の記事で論じます。
ではでは♪

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2)左翼・リベラルのキッチュが、社会的影響力をなくすにいたった過程についてはこちらを。

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3)とはいえ現在では、かわりに保守のキッチュ化が目立ちます。その背後にひそむ近代日本のジレンマについてはこちらを。

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4)「崩壊の危機に直面した国家にはさまざまな腐敗がつきものだが、フランスの新たな共和制は、なんと誕生の瞬間から腐敗にまみれている」(216ページ)
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5)「イギリスとの縁をあと五十年も切らずにいたら、どうなると思うかね? 向こうの法律、慣習、および国民的品格は、ことごとく腐敗のきわみに達するだろう。まさに腐れ縁」(268ページ)
水洗トイレの特許が最初に取得されたのは、アメリカ独立が宣言される前年、1775年のこと。特許を取得したのは、アレクサンダー・カミングという発明家です。

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