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2016年9月9日

【上島嘉郎】能天気なデラシネ

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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8月6日、日本の尖閣諸島周辺に中国の漁船約230隻が侵入した。
同日、中国の爆撃機が南シナ海を飛行するなど、挑発的な態度をとっている。

この先、中国の国際的立場はどうなっていくのか。それによって、日中関係はどうなるのか。

三橋貴明が、まずは現状を冷静に分析し、日本の強みと中国の弱点を炙り出し、日本が取るべき道を探っていく。

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民進党の代表選挙(9月15日投開票)に立候補している蓮舫代表代行の日本国籍と台湾(中華民国)籍との「二重国籍」疑惑に関し、蓮舫氏の事務所が産経新聞に文書で以下の回答を寄せました。

〈国連の女子差別撤廃条約の締結を控えて改正国籍法が施行(昭和60年1月1日)された直後の昭和60年1月21日、17歳の時に日本国籍を取得しました。日本法の下で適正な手続きを行い、日本国籍を取得しています。あわせて台湾籍の放棄の宣言をしています。
台湾法において、台湾に籍があるのかというご指摘がありました。
このため、確認を行いましたが、いかんせん30年前のことでもあり、今のところ、確認できていません。
今後も確認作業は行いたいと思いますが、念のため、改めて本日、台湾の駐日代表処に対し、台湾籍を放棄する書類を提出しました。〉
(平成28年9月7日付同紙)

さて、台湾籍を除籍した時期の「確認ができない」ということは、蓮舫氏は「二重国籍」状態のまま、総理大臣の座をめざす野党第一党の党首選を戦っている可能性があるということです。

産経新聞以外の新聞は事実上、これをほとんど問題視していません。
当の民進党の岡田克也代表も8日の記者会見で「多様な価値観というのは、わが党にとってキーワードだ」とし、蓮舫氏について「お父さんが台湾出身ということと、(蓮舫氏本人が)女性であることは、多様性の象徴でもあり、民進党の代表としてふさわしい」、
「二重国籍」疑惑に関しては「お父さんが台湾の人だから、何かおかしいかのような発想がどこかにあるとすると、極めて不健全なことだ。民進党は、そういう考え方と対極にある」と問題視しない考えを示しました。
http://www.sankei.com/politics/news/160908/plt1609080023-n1.html

さすが、かつて「日本列島は日本人だけの所有物じゃない」と言い放った人物を首相に押し上げた政党です。鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦と続いた民主党政権の時代の特徴は、国家の解体を志向する政治が行われたことで、今回の蓮舫氏の二重国籍疑惑に関する党内の反応も「どこが問題なのかわからない」といった感じなのは、党名変更したぐらいではその体質は変わらないことを露呈しています。

世界はグローバル化、多様化、ボーダレス化しているのに「国籍」に拘るなんてくだらないという意見は、対象が市井の人ならともかく一国の舵取りを委ねる存在の資質を問うには不当です。国政に参画するとは、その国の命運に我が身を重ねることと同じです。この基本的な意味に旧いも新しいもない。

人間は独り宙空に生まれ出て、宙空に生きるのではない。いずれかの共同体に生まれ、そこに育つ。いつの時代の、どんな両親のもとのどんな共同体に生まれるかは誰も選べない。どこかに誕生し、その現実の中で生きていく過程で、生来のもの、所与を放棄し、自らの意思で何ものかを選択することはできる。
しかし、いいとこ取りはできない。この当たり前の感覚が、いまの日本人には薄いような気がしてならない。

「国籍」という問題を考えとき、筆者はいつも第二次世界大戦時の米国における日系人の苦悩を想起します。とくに二世として米国に生まれ育った若者たちの命懸けの戦いについて。

当時、移民の国であるはずのアメリカで“敵性外国人”として強制収容されたのは日系人だけです。ドイツ系も、イタリア系もそんな目には遭わなかった。日米戦争の遠因となった排日土地法や排日移民法に見られるように、日系人だけが、単に交戦国であるという理由だけでなく人種によって排除されました。

“一旗組”ではなく、アメリカで生きることを決めた日系人たちは、アメリカ国家への忠誠を示し、「国民」として正当な権利を手にするために軍隊に志願し、厳しい訓練に耐えたのち主に欧州戦線に投入され、苛酷な戦場で戦いました。

有名なのはハワイ出身の日系人主体で編制された「第442連隊戦闘部隊」(442部隊)です。1944年1月から2月かけてドイツ防衛線のグスタブ・ラインの攻防戦に投入されたのを始め、5月にはローマ南方のカエサル・ライン突破に活躍し、イタリア戦線最大の激戦地とされたモンテ・カシノの戦闘では多大な犠牲を払って米軍の進撃を支えました。

442部隊の名を高めたのは、1944年10月、ドイツ軍に包囲されて救出困難とされ、「失われた大隊(Lost battalion)と呼ばれたテキサス大隊の救出に成功したことです。救出を下命された彼らは、休養が十分でないにもかかわらず、待ち受けていたドイツ軍との激戦に「Go For Broke!」を叫んで突撃を繰り返しました。

戦闘から4日目、442部隊はついにテキサス大隊の救出に成功しますが、テキサス大隊の211名を救うために442部隊は約800名の死傷者を出したのです。救出直後、テキサス大隊の隊員たちは小柄な442部隊の日系隊員たちに抱きつき、涙を流して感謝したと伝えられますが「ジャップじゃないか」と吐き捨てる白人兵もいました。

屈辱に耐えながら442部隊は戦い続け、靡下の第552砲兵大隊はその後ドイツ国内で激闘の末にミュンヘン郊外のダッハウ強制収容所を解放します。しかし日系人部隊が強制収容所を解放したという事実は長い間秘匿され、1992年まで米国内でも公にされることはありませんでした。

戦後、日系人として初の連邦議員になったダニエル・イノウエは、出征前に父親にこう諭されたという。
〈井上家はアメリカから大きな恩を受けている。いまこそ、お返しをするときである。おまえは母親にとっても私にとっても大事な長男だ。しかし、しなければならないことは、すべきである。たとえ、それが死を意味しても――。井上の家名に泥をぬるようなことはするな〉(渡辺正清『ゴー・フォー・ブローク!』光人社)

また、戦友を救うために命を投げ出し、死後、最高位の「議会名誉勲章」を授与されたサダオ・ムネモリは、これも出征前母親にこう言われたという。
〈日本人として恥ずかしくないように、あなたの国アメリカのために戦いなさい〉(同)

日系人が「信頼される市民」として米国内で認められるために、一体どれほど膨大な血と命を捧げ、長き歳月が必要だったか――。
七十数年前の旧い時代の価値観と切って捨てるのは簡単ですが、グローバル化、多様化、ボーダレス化が称揚される今日であればこそ、この一事を顧みる必要があるのではないでしょうか。能天気なデラシネとして衰亡への坂を転げ落ちる前に。

〈上島嘉郎からのお知らせ〉
●日本文化チャンネル桜【Front Japan 桜】に出演しました(8月24日)
https://www.youtube.com/watch?v=8s_r9QAyb8Q

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————発行者より—————

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はーやん様のレビュー: ★★★★★ 
「中国の本質が理解でき感謝です。」

特に印象に残ったのは以下3点となります。

1.グローバル経済の凄さ

確かに中国の経済規模は無視できないと思います。
冷戦前の1991年以前は鎖国していたので貧乏でしたが、
それ以降外資を導入して経済拡大したのはよく理解できました。

品質は悪いといわれていますが、新幹線も原子力も自国で
製造できるようになっているのは、経験の蓄積といえ、今後も脅威と思います。

2.中国共産党の意思決定の速さ

これは選挙で選ばれていないので民意を反映しないで
意思決定できる点がなるほどと思いました。
独裁国家であることを再認識しました。

3.尖閣の問題

日本として妥協してはいけないと思います。

領土問題は世界のどこでもありますが、
妥協すると相手の思うつぼっていうのは当たっていると思います。

いつ解決できるかはわかりませんが、
日本国として毅然とした対応が大切と感じます。

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【上島嘉郎】能天気なデラシネへの5件のコメント

  1. 上島嘉郎 より

    きちんと文意を汲んでいただける読者ほど書き手にとって有り難い存在はありません。「米海軍のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦(日本でいうイージス艦)の118番艦の艦名は「ダニエルイノウエ」になった」…知りませんでした。ご教示ありがとうございます。

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  2. 神奈川県skatou より

    上島先生のご活躍を熱く応援しております。先月は塾の懇親会でお話しできて大変うれしかったです。軍オタな話ですみませんが、米海軍のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦(日本でいうイージス艦)の118番艦の艦名は「ダニエルイノウエ」になったそうです。アニメな話ですみませんが、某ヤマト2199で、敵軍に「第442特務小隊」というのが出てきます。征服民が本国への忠誠を明かすために潜入作戦の決死隊となり、全滅するって話です。無論、第442連隊のオマージュですね。私の従兄は若いころ、仕事でオーストラリアに住み込みで働いたそうですが、ガチでケンカしないと相手の気持ちがわからない、つまり、仮面をかぶった人種者別の本音が「その時はじめて出てくる」、と言っていました。第442連隊のWikipediaを見るまでもなく、他国で信頼を得ることとはどういうことか、忘れてはいけない、自他ともに、と思います。

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  3. アンジェラマオ より

    あんたさあ、自分が卑怯だって気付いてる?安倍の「国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」って発言の時はこんな風に問題視したのかよ?あんたのいう「能天気なテ_ラシネ」を志向してんのは現総理大臣の安倍だろうが!そういうのは一切問題視しない癖に民進党だとこれかよ!このメルマガはいろんな人が無償で書いてくれてると聞くけど、それが青木先生や藤井先生のような真の愛国者に書いてもらえるのは本当にありがたいけど、あんたみたいな卑怯者の売国奴にいくら只で書いてもらってもありがたくもなんともないよ。

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  4. 名無し より

    >しかし、いいとこ取りはできない。自分勝手はできない、と取ります。まあ、肘外に曲がらずですね。グローバリズムは間違っていない。しかし、ローカリズムも間違っていない。だから、近代の超克。

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  5. robin より

    多様性の尊重とは何だろう、多文化共生とは一国内で文化毎に住み分けることか、分化の画一化、文化的淘汰を指すのか。異国間同士の相互理解を深めるために我が国が率先して二重国籍の政治家を受け入れますよ、だからそちらも受け入れて下さい、という非武装、全裸外交だろうか。グローバル化による資本と富の集中、格差拡大と呼応してるのか。多様性が生まれついての個性の尊重を指すなら規律的な教育は虐待であり不要である、特殊で個性的な無能、会話もままならない無垢な子供のまま大人になることが正しいということか。他方で生まれつき豊な教育を受けた特別有能な人間の出現を待望する、服従的な救世主願望でもあるのか。積極的に長いモノに巻かれて行く生存戦略だろうか。戦時売春婦像に土下座した元日本国総理が居たが、彼は全ての罪を一身に背負うことで神に、キリストになりたかったのだろうか。罪は嘘でも構わなくて、積極的に苦難や責任、罪を背負い、(日本)人の嫌がることを進んで行うことで神に近づくことが出来るのか。無意味な前提こそ宗教に必須なことだろう、牛豚肉を食わない、単年度PB遵守とか。背広を脱いで法衣を着た方が良いのではないだろうか。

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