From 佐藤健志
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ふたたび「スター・ウォーズ」ネタでまいります。
前回の記事では、同シリーズに登場する重要な概念「THE FORCE」について、「フォース」とカタカナで表記するより、「理力」「原力」などと意訳したほうが良いのではないかと論じました。
「フォース」は原語の発音にこそ近いものの、THE FORCE の持つ意味の広がりを伝えるものとは言いがたいからです。
意味の広がりを伝えていない以上、THE FORCE の概念を多面的に理解することは難しくなる。
ひらたく言えば、イメージが豊かにふくらんでゆかないんですね。
じつはここに、われわれが母国語を大事にすべき理由があります。
言葉は何であれ、単独で存在しているわけではなく、何らかの言語の一部をなしている。
そして言語の背景には、固有の歴史や文化が横たわっています。
言葉が持つ意味の広がりやイメージのふくらみは、歴史や文化によって支えられているのです。
裏を返せば、他の言語に属する言葉について多面的に理解するためには、なるべく母国語に移し替える(つまり翻訳する)ほうが良い。
そうすれば、新たな形で意味が広がったり、イメージがふくらんだりするからです。
いえ、意味やイメージがずれてしまうこともありますよ。
たとえば STAR WARS は当初、「惑星大戦争」という題名で日本公開されることになっていました。
アメリカでの爆発的なヒットを受けて、原題通り「スター・ウォーズ」で公開されることが決まるのですが、「惑星大戦争」名義で作品を紹介した記事も、いくつか雑誌に出ていたのです。
STAR は惑星ではなく恒星ですから、これはちょっと違う。
銀河全体の覇権をめぐる物語という、映画の内容とも合致しません。
「銀河大戦争」ならともかく、「惑星大戦争」がボツになったのは、無理からぬなりゆきと言えるでしょう。
ちなみに1977年冬、東宝が「惑星大戦争」というSF映画を公開していますが、これはボツになった題名を流用しただけであり、内容的にはまったく無関係です。
けれども「銀河大戦争」のほうが、「スター・ウォーズ」より、どんな物語か連想しやすくありませんか?
当然の話です。
「銀河」も「大戦争」も、日本語としての意味の広がりやイメージのふくらみを持っているのですから。
実際、「スター・ウォーズ」関連用語で、カタカナ表記にしないほうが良かったのでは? と思えるのは「フォース」だけではありません。
劇中の有名な小道具、「ライトセーバー」もそうです。
ご存じのとおり、これは刃の部分がレーザーになっている剣ですが、初公開当時は「光剣」「光線剣」と訳されていました。
日本人にとって、どちらがイメージ豊かな表現か、あえて言うまでもないでしょう。
「ライトセーバー」でとくに気になるのは、こんなふうに書くと、「光の剣」ではなく「光を節約するもの」のように読めてしまうこと。
英語なら前者はLIGHT SABER、後者は LIGHT SAVER ですが、カタカナ表記で両者を区別するのは事実上、無理です。
ついでにわが国において、 SABER は「セーバー」という英語読みではなく、「サーベル」というオランダ語読みで定着している。
1978年、「スター・ウォーズ」が初公開されたときの上映パンフレットを見ると、LIGHT SABER は「光線剣」と訳され、「ライト・サーベル」とルビが振られていました。
英語読みとオランダ語読みをつないだわけですが、わが国には重箱読み(「じゅうばこ」のように、上の字を音で読み、下の字を訓で読む)や、湯桶(ゆとう)読み(その逆)の伝統がありますので、これは良しとすべきでしょう。
「ライト・サーベル」なら、光の剣なんだなとイメージが湧くじゃないですか。
あるいは敵側の繰り出す最終兵器、「デス・スター」。
初公開当時は「死の星」と訳されていました。
英語のDEATH には「死神」(=死をもたらすもの)という意味もあるので、「死神星」としたら、いっそう良かったかも知れませんが、「デス・スターが近づいてきます!」というより、「〈死の星〉が近づいてきます!」のほうが、緊迫感があるのは明らか。
それどころか初公開版パンフレットは、主人公たちの乗る宇宙船「ミレニアム・ファルコン」号を紹介する際も、船名をカタカナで表記したあと、「(黄金時代の鷹)」と補足しているのです。
MILLENNIUM FALCONの意味を説明したわけですが、いかにも速そうな感じがしませんか?
かりに英語で
MILLENNIUM FALCON ESCAPED FROM THE DEATH STAR
と言ったとしましょう。
これはむろん、
「ミレニアム・ファルコン号がデス・スターを脱出した」
ことを意味します。
しかしそこには、
「鷹が死を逃れた」(FALCON ESCAPED DEATH)
というイメージもこめられている。
このイメージを日本語で伝えようと思ったら、
「〈黄金時代の鷹〉号が、〈死の星〉を脱出した」
と訳したほうがいいわけです。
日本初公開から今年で38年、「スター・ウォーズ」に「惑星大戦争」という幻の邦題があったことを知るファンも、今では少数派でしょう。
けれども「フォース」が「理力」と訳され、「ライトセーバー」が「光剣」と訳されていたころの方が、日本人は「スター・ウォーズ」の世界をイメージ豊かに楽しんでいたように思えます。
われわれの母国語が日本語であることは、38年前も今も変わらないのですから。
ではでは♪
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4)「(革命派の経済政策は)〈貧乏人の子だくさん〉ならぬ〈おバカ政府の政策だくさん〉ではないか」(282ページ)
エドマンド・バークの原文では、革命政府の「prolific imbecility」(何も分かっていないのに、あれこれやらずにいられないバカさ加減)から、病弱な子供のごとき政策がいくつも生まれたと述べられていました。上記の訳文は、そこにこめられた皮肉や比喩のニュアンスを再現しようとしたものです。
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トマス・ペインの原文では、ローマ史の故事にちなんで「われわれはすでにルビコン川を渡ってしまったのだ」となっていました。それが独立戦争当時のアメリカ人読者に与えたであろうインパクトを伝えるために、清水を持ち出した次第です。
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