コラム

2016年1月13日

【佐藤健志】フォースか、理力か、原力か

From 佐藤健志

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遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
退院してそろそろ一ヶ月になりますが、おかげさまで結構、歩き回れるようになりました。
新たな本の刊行も、いくつか決まっています。
本年もよろしくお願いいたします。

さて。

この正月、大きな話題を呼んだ映画と言えば、やはり「スター・ウォーズ フォースの覚醒」でしょう。
同シリーズの10年ぶりの新作で、通算7作目。

「フォースの覚醒」は、シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカスの手を離れて製作された、最初の「スター・ウォーズ」映画にもあたります。
新たな製作元となったディズニーは、ルーカスの提示した構想を却下、独自の方針を取ったと言われており、そのためルーカス本人は映画の仕上がりに不満を抱いているふしもあるのですが、興行的には文句なしの大ヒットとなりました。

しかるに。
みなさん、「フォースの覚醒」の中国語題をご存じでしょうか?
こうなります。

「星球大戦 原力覚醒」。
中国版ポスターのURLも付記しておきましょう。
http://getnews.jp/archives/1295478

「星球大戦」は「スター・ウォーズ」の中国語訳として、シリーズが誕生した1970年代後半から使われていたものながら(※)、注目したいのは「フォース」が「原力」となっている点。
(※)ただしこのころ、中国語圏での「スター・ウォーズ」公開は、返還前だった香港など、一部地域に限定されていました。文化大革命が終わったばかりの中国政府は、同作品の輸入を禁じていたのです。

フォース(正確には「ザ・フォース」)とは、「スター・ウォーズ」の世界で大きな役割を果たす、一種の超能力のことですが、じつは日本でも、かつてこれが「原力」と訳されたことがあります。

証拠物件こちら。
1978年にバンダイ出版事業部が刊行した「スター・ウォーズ 特撮の秘密〜ジョージ・ルーカスの世界」。
アメリカで前年に刊行された「THE STAR WARS ALBUM」という本の日本語版です。

同書の翻訳を担当した小野耕世さんは、「ザ・フォース」を「原力」としました。
たとえば、こんなふうにです。

きみのお父さんはね、やはりジェダイの騎士のひとりだったダース・ヴェイダーに裏切られ、殺されてしまったのだよ──ベン・ケノービはそう答え、誰でもが根源的に持っていながら、うまく使いこなすことのできないエネルギーの場、〈原力〉を、自由に操れるようになれと、若者を励ますのだった。
(38ページ。表記を一部変更、以下同じ)

文中の「若者」とは、1作目から3作目までの主人公ルーク・スカイウォーカーのこと。
原文では〈原力〉に、「ザ・フォース」とルビが振られていました。

小野耕世さん、本のあとがきで、この訳語を使った理由について以下のように説明しています。

生物が本来的に持っている力、という意味を考え、また原語の響きの持つ単純な強さを考えて〈原力〉とした。
(83ページ)

「ザ・フォース」の訳語は、〈原力〉だけではありません。
1978年夏、「スター・ウォーズ」(1作目)が日本公開された際の字幕では「理力」となっていました。
その半年ぐらい前に刊行された同作品の小説版では、「力場」という表現が使われていたのです。
変わったところでは、「霊力」と訳されたこともありましたね。

1980年代以後は「フォース」とカタカナで書くのが主流になってきますが、「理力」は字幕に使われたこともあって、かなり後まで生き残ります。
たとえば1991年、シリーズ2作目にあたる「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」のサントラ盤がCDで再発売されたものの、「YODA AND THE FORCE」という曲は、「ヨーダと理力」と訳されていました。

しかるに考えてみたいのは、日本人が「スター・ウォーズ」の世界を深く楽しむうえで、果たして「フォース」というカタカナ表記が最適かどうか。

なるほど、言葉の響きは原語と同じです。
ついでに「フォース」は、「スター・ウォーズ」の「ウォーズ」と字面が似ているので、作品の本質に関わる概念だということを視覚的に暗示する効果があるかも知れない。
アルファベット表記だと FORCE と WARS となり、まるで似ていませんので、この類似性は日本語独自のものです。

しかし「フォース」からは、THE FORCE が英語として持つニュアンスの広がりがこぼれ落ちてしまっている。

英和辞典で FORCE を引くと、「力」という基本的な語義のあと、「腕力、暴力」「武力、戦力」「影響力、貫禄」「精神力、気力」「(言葉などの)真意、もっともな道理、理由」など、いろいろな訳語が出てきます。
「スター・ウォーズ」における THE FORCE の概念は、こういった FORCE の意味合いをすべて踏まえたもの。

THE FORCE は、いわゆる「念動力」(精神の力で物を動かすこと)のように描かれる場合が多いものの、相手の心理を操る「気迫」「カリスマ」のごとく描かれることもあり、さらに「道理」と深い関係を持っています。
つまり善用すれば良い結果をもたらす一方、悪用すると「ダークサイド」と呼ばれる怒りと憎しみの世界への入り口となり、周囲には破壊を、本人には破滅をもたらすんですね。
ちなみに「ダークサイド」も、かつては「暗黒面」と訳されていました。

こう考えると、「原力」や「理力」といった訳語のほうが良かったのではと思えてくる。
とくに捨てがたいのが「理力」。

この訳語、「理(ことわり)の力」と読めるからです。
「ことわり」は道理のこと。
つまり「理力」には、〈正しい道理に基づいて使うべき力〉という THE FORCE 本来の意味合いが、ちゃんと反映されている。

それどころか「理」には、「普遍的な絶対・平等の真理・理法」という意味まであります。
ならば「理力」は、〈宇宙の普遍的な真理に基づいた力〉というニュアンスも持つことになりますが、これも THE FORCE をめぐる設定と合致する。

「THE DARK SIDE OF THE FORCE」というフレーズを訳すとき、「フォースのダークサイド」としたらオリジナルに忠実で、「理力の暗黒面」としたら意訳だとは言えません。
むしろ後者のほうが、オリジナルが英語として持っている語感を、日本語として的確に表現しているのです。

え?
「理力の暗黒面」は漢字が多くて、若い世代には取っつきにくい?
遺憾ながら、それは日本語能力の衰退にほかなりません。

英語化推進の暗黒面・・・いやダークサイドというやつですね。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)フォース同様、保守や愛国にも「暗黒面」が存在します。正しい方向への覚醒にはこちらをどうぞ。

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2)英語化推進に限らず、近年の日本には「物事はすべてアメリカ式にするのが正しい」という発想が見られます。その根底にあるものについてはこちらを。

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4)エドマンド・バークの文章が英語として持っている語感を、日本語として的確に再現することを心がけました。従来の日本語訳より読みやすくなっているとすれば、じつはそのためです。

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5)同じく、トマス・ペインの文章が1776年当時のアメリカ人読者に与えたであろうインパクトを、現在の日本語で再現することをめざしました。この本が日本で全訳されたのも、これが初めてとなります。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
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6)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
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