From 佐藤健志
藤井聡さんの共著となる新刊
『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)が
無事、刊行の運びとなりました。
http://amzn.asia/7iF51Hv(紙版)
http://amzn.asia/cOR5QgA(電子版)
『右の売国、左の亡国』を絶賛して下さった岩手県の達増拓也知事は、今度の本についても、さっそく次のようにツイートして下さっています。
炎上を政治手法として使う、統治の邪道ともいうべき「炎上政治」。それを鋭く分析してきた、あるいは直接対決した、二人の対論。勧善懲悪の仮相の下で自らを善側に置いて悪を責め立てる炎上は、巨大になれば全体主義にも。今の日本を救うのに必要な書。
炎上を政治手法として使う、統治の邪道ともいうべき「炎上政治」。それを鋭く分析してきた、あるいは直接対決した、二人の対論。勧善懲悪の仮相の下で自らを善側に置いて悪を責め立てる炎上は、巨大になれば全体主義にも。今の日本を救うのに必要な書。 pic.twitter.com/Fp0onXXqI3
— 達増拓也 TASSO 希望郷いわて (@tassotakuya) June 15, 2017
『対論「炎上」日本のメカニズム』を読めば日本が救われるかどうかはともかく、
この本で提起された論点に拒絶反応を示したりするようでは、たしかに日本は助からないかも知れませんね。
また明日、6月22日には、本書の刊行記念もかねて、新宿レフカダでスペシャルトークライブを行います。
題して、
「歴史に筋を通す~勝手にしやがれ、天下国家!」
時間は19:00~21:00。
司会は sayaさんです。
http://peatix.com/event/269504
会場となる新宿レフカダはJR新宿駅東口から徒歩15分、新宿三丁目駅のC7出口から徒歩5分ほどのところ。
面白いイベントになると思いますので、 ぜひいらして下さい!
藤井さんもちょうど東京にいるので、官邸から急用で呼ばれないかぎり来るとのこと。
平松禎史さんも来られるはずです。
詳細は上記のイベント情報ページか、主催団体「カルティベイトの会」までどうぞ。
http://peatix.com/group/52292
cultivate1group@gmail.com
・・・さて。
6月7日の記事「炎上とツイン・ピークス」でも触れましたが、今回の本はこんなフレーズで終わります。
「仮相(※)と化した現実の闇を、魔術師は見通さんと欲す。
真剣さと遊びの狭間(はざま)で唱えるのだ──炎よ、われと共に歩め!」
(※)「現実の真の姿から乖離した虚構」と考えて下さい。
これは1990年代はじめに話題を集め、今年、四半世紀ぶりに復活を果たしたアメリカのテレビドラマ
『ツイン・ピークス』に出てくる有名な呪文をもじったもの。
文春新書編集部がこのフレーズに共鳴したのか、アマゾンの商品説明(紙版)も、こう締めくくられていました。
炎上はどこにでも起こりうる事象になっている。これと付き合わないで生きていく手段はない。ならば、本書を読んで、高らかにこう叫ぼうではないか。
炎よ、われと共に歩め!
この呪文、オリジナルの英語では以下の通り。
THROUGH THE DARKNESS OF THE FUTURE PAST
THE MAGICIAN LONGS TO SEE.
ONE CHANTS OUT BETWEEN TWO WORLDS:
FIRE WALK WITH ME!
未来と化した過去の闇を
魔術師は見通さんと欲す。
二つの世界の狭間で唱えるのだ、
炎よ、われと共に歩め!
1行目「未来と化した過去の闇」から行きましょう。
『ツイン・ピークス』の世界では時間の流れが狂っており、過去と未来が入り乱れています。
1992年の映画版『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の七日間』(※)など、
テレビのパイロット版にいたる出来事が描かれているのに
最終話の出来事について語る人物が、ヒロインであるローラ・パーマーの夢に出てきたくらいでした。
(※)このタイトルも、英語では「TWIN PEAKS: FIRE WALK WITH ME」です。
また劇中には「ブラック・ロッジ」という、一種の異次元空間が登場します。
ここに巣くっている悪霊「キラー・ボブ」が、さまざまな人間に取り憑いては猟奇殺人を繰り返すのです。
よって3行目「二つの世界の狭間」は
〈現実世界と異次元の狭間〉
または
〈この世とあの世の狭間〉
ということでしょう。
すると呪文の意味は、次のようになります。
「過去と未来が入り乱れた状態の中で、魔術師は明確な方向性を見出そうと欲する。現実と異次元の間に接点をつくるべく、炎と共に歩むのだ!」
しかるにこの内容、『対論「炎上」日本のメカニズム』の論旨ときれいにマッチしているのですよ。
われわれの現実認識が、実相(=現実の真の姿か、それに近いもの)から仮相へと変化することこそ
炎上が蔓延する条件だというのが、本の重要なポイントの一つ。
のみならず炎上は
「崩壊しかけた仮相を、どうにか立て直そうとしながら、結果的には仮相をさらに突き崩してしまう行動」
と規定されます。
つまり炎上が蔓延する社会においては、崩れゆく仮相の背後に、長らく直視してこなかった実相が垣間見えることになる。
まさに「二つの世界の狭間」ではありませんか。
ついでに三橋貴明さんが、6月7日のブログ「経路依存性とPB(プライマリーバランス)目標」で書いていたように
今の日本では、さまざまな経路(長年続いてきた方向性)が入り乱れたあげく、
「何が保守志向で、何が急進的改革志向なのかも、視点次第で逆転しかねない」
状況が成立しています。
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12281508793.html
保守志向とは、おおまかに言えば「過去を尊重すること」であり
急進的改革志向とは、同じくおおまかに言えば「未来を尊重すること」ですから
くだんの状況は「何が過去志向で、何が未来志向か判然としない」ことにひとしい。
論より証拠、保守志向の表明としか思えない「日本を、取り戻す。」というフレーズまで
急進的改革志向の宣言であるかのごとく扱われてしまうのが、2010年代のわが国の実情です。
これが「未来となった過去の闇」でなくて何でしょう?
となると『ツイン・ピークス』の呪文は、こう読み替えることもできます。
進歩主義と化した復古志向の闇を
魔術師は見通さんと欲す。
仮相と実相の狭間で唱えるのだ、
炎よ、われと共に歩め!
あるいは、こう読み替えてもいいでしょう。
左翼と化した保守の闇を
魔術師は見通さんと欲す。
グローバリズムとナショナリズムの狭間で唱えるのだ、
炎よ、われと共に歩め!
・・・ただしわれわれは、必ずしも炎上を煽っているわけではありません。
より正確に言いますと
「炎上には肯定的・建設的なものもあるにもかかわらず、今の日本では否定的・破壊的なものが目立っている」
というのが本書の出発点。
すなわち発展や繁栄のために活用されるべきエネルギーが、売国や亡国のために使われている。
だから「右の売国、左の亡国」となってしまうわけですが、
〈ならば炎上のエネルギーを、肯定的・建設的な方向へと切り替えるにはどうしたらいいか〉
を論じ合ったのです。
その意味で『対論「炎上」日本のメカニズム』は、『右の売国、左の亡国』と直結している本にほかなりません。
二冊をあわせて読んでいただくと、いっそう深いものが見えてくるでしょう。
https://www.amazon.co.jp/dp/475722463X
または
https://honto.jp/netstore/pd-book_28326014.html(紙版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B06WLQ9JPX(電子版)
ところで『ツイン・ピークス』に話を戻しますと、
この作品が〈アメリカの魂は善か悪か〉をめぐる寓話と解釈できることは、前回の記事でも述べました。
しかるに「エンターテインメント・ウィークリー」は5月26日、デヴィッド・リンチ監督へのインタビューを配信しています。
その中に、興味深い質問が出てくる。
現在放送されている新シリーズでは、
「キラー・ボブ」を封じ込めようとするFBI捜査官デイル・クーパーが善と悪に分裂したあげく
ブラック・ロッジに幽閉された善の分身に代わって、悪の分身が現実世界を跳梁しているのですが、
これについて、ずばり聞いているんですね。
「クーパーが悪になってしまったのは、アメリカの精神状態についてのコメントなのですか? 世界の現状は残酷で冷たいと言っているようにも取れますが?」
リンチいわく。
『ツイン・ピークス』をつくるとき、
「今の世の中はこんなふうだから、内容に反映させよう」
といったふうに考えたことはないよ。
たんにそういうアイディアを思いついたんだ。
ただし、今の発言をひっくり返すようだが、世界の現状を見てアイディアがひらめくことも多い。
時代のあり方とまるで無関係に出てくるアイディアもあるし、時代のあり方に触発されたアイディアもあるということだ。
だから、時代の影響は受けているんだよ。
http://ew.com/tv/2017/05/26/twin-peaks-david-lynch/?xid=entertainment-weekly_socialflow_twitter
禅問答のようですが、これは『ツイン・ピークス』という作品そのものが
「時代の影響を受けつつ、それを超えようとする」形で、
二つの世界の狭間に位置することを意味しているように思います。
そして『対論「炎上」日本のメカニズム』も
「悪い炎上が蔓延する時代の影響を受けつつ、それを超えようとする」本。
両者はやはりつながっているのです。
というわけで、高らかに叫ぼうではありませんか。
FIRE WALK WITH ME!
炎よ、われと共に歩め!!
ではでは♪
<佐藤健志からのお知らせ>
1)『表現者』73号(MXエンターテインメント)に、評論「『信用』が人間を裏切るとき」が掲載されました。
『シェルタリング・スカイ』『コズモポリス』という二本の映画(および両者の原作小説)を題材に、中野剛志さんの大著『富国と強兵』を論じます。ぜひご覧下さい。
2)戦後脱却が「未来と化した過去の闇」に陥っていることをめぐる体系的論考です。
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)
http://www.amazon.co.jp//dp/4198640637/(紙版)
http://qq4q.biz/uaui(電子版)
3)わが国の保守、および左翼・リベラルも、敗戦の焼け跡という「ブラック・ロッジ」から生まれた分身同士にほかなりません。ただし問題は、どちらが善で、どちらが悪かハッキリしないこと。
『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)
4)戦後日本が、仮相と実相という二つの世界の狭間で炎上しつづけたことの記録です。
『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM
5)「政治家たるもの、迷信にもプラスに活用できる要素がないか探るべきである」(187ページ)
時代の闇を見通すには、「魔術」が必要なこともあるのです。
『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)
6)「苦難の旅を続ける乙女を受け入れよ! そして人類を救うべく、すみやかに自由の神殿を築くのだ」(169ページ)
『ツイン・ピークス』のヒロインの名はローラ・パーマーと言いますが、「パーマー」はもともと「聖地巡礼者」の意味。しかも彼女は殺害され、ブラック・ロッジの中にいるのです。トマス・ペインの言葉と、妙に重なってくるではありませんか。
『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)
7)日本文化チャンネル桜の番組「闘論! 倒論! 討論!」に出ました。
テーマの無意味さが途中で浮き彫りになってしまう、圧巻の内容です。
テーマ:日本人として安倍政権に物申す
https://www.youtube.com/watch?v=Wez5V3EB8V0&feature=youtu.be
8)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966