From 佐藤健志
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TPPは日本の植民地化を進めるのか・・・?
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「政治的機能不全」(political dysfunction)という言葉をご存じでしょうか。
アメリカの作家、マイケル・グッドウィンさんが提唱したもの。
グッドウィンさんは2012年、「ECONOMIX」(エコノミックス)という本を、ダン・E・バーさんという人と共同で出版しました。
タイトルのECONOMIX は、ECONOMICS(経済学)とCOMIX(コミックス)の合成語。
経済の仕組みについて、辛辣なコメントをまじえつつ、漫画で描き出すという趣向です。
グッドウィンさんが文章を、バーさんが絵を、それぞれ担当した次第。
好評だったようで、2014年には「TPPと〈自由貿易〉」というエピソードが発表されました。
こちらは全編、「ECONOMIX」公式サイトで見ることができます。
文章は英語ですが、27ページと短いものですし、バーさんの絵が内容を的確に視覚化している。
興味のわいた方はぜひご覧ください。
http://economixcomix.com/home/tpp/
さて。
2014年と言えば、TPPが大筋合意にいたる前年ですが、グッドウィンさんはのっけから、物事がこれからどんな展開を見せるかについて、こう予測しました。
1)最終的な条約は、普通の人間にはほとんど理解できない内容になる。
2)政治家、国際金融資本の回し者、および大部分の経済学者は、「TPPは絶対にわれわれを豊かにする!」と力説する。
3)これにより、条約批准に反対する意見はつぶされる。
4)だがTPPがもたらすはずだったメリットは、永遠に実現されない。
鋭い!
個人的には、これにもう一つ、
5)そしてTPPによって巨大なデメリットが生じたところで、誰も責任を取ろうとはしない。
というのを追加したいところですが、それは脇に置きましょう。
ならばどうして、TPPが推進されるのか?
ここで出てくるのが政治的機能不全です。
「TPPと〈自由貿易〉」の18〜19ページ、「〈歴史早わかり〉過去40年間、アメリカはどんな経済政策を取ってきたか」という箇所で、グッドウィンさんは政治的機能不全を、条約推進の原因、ないし元凶と位置づけました。
言葉の定義は以下の通り。
この国の政治システムが、富裕層のみに奉仕し、他の国民の利益を無視するようになったことの婉曲な言い方。
〈歴史早わかり〉という見出しの通り、グッドウィンさんはここで、アメリカ政府が1970年代いらい、金持ち優遇の新自由主義的な経済政策を推進していった様子を解説しました。
富裕層への減税や、大企業にたいする規制緩和、さらには金融市場の規制緩和などです。
これらの政策は、回り回って国民全体に利益をもたらすと宣伝されていましたが、そちらの方はすべて幻だったとのこと。
しかるにアメリカの富裕層は、多国籍企業と密接に結びついていますので、国境を超えた資本の移動をどんどん容易にしたいし、できるだけ多くの国の市場を制覇したい。
だから政治的機能不全を突き詰めると、TPPにいたるわけです。
国境を越えて、新自由主義の徹底をめざす条約ですからね。
しかしこうなると、わが国については、いっそう深刻な政治的機能不全を想定しなければなりません。
名付けて〈日本型政治的機能不全〉。
言葉の定義は以下の通り。
この国の政治システムが、もっぱらそういうアメリカの意向に奉仕し、自国民の利益を無視するようになったことの婉曲な言い方。
両者の違いはお分かりですね。
そうです。
アメリカの政治的機能不全が「自国民の一部に集中的に奉仕し、他の国民を無視する」ものなのにたいし、日本型政治的機能不全は「外国の意向に優先的に奉仕し、自国民を無視する」ものなのです。
いや、自国政府の機能不全によって利益を得る日本人が皆無とは言いませんよ。
だとしてもそれは、「健全な一般論は、例外の存在を前提として成り立つ」(エドマンド・バーク)ということで片のつく話でしょう。
そして本家のアメリカ同様、日本型政治的機能不全も、TPPにおいて浮き彫りとなりました。
次の記事をどうぞ。
安倍晋三首相は(10月)6日午前、首相官邸で記者会見を開き、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉が大筋合意したことについて「日本と米国がリードして、アジア太平洋に自由と繁栄の海を築き上げるTPPが大筋合意した」と述べた。
また「世界経済の4割近くを占める広大な経済圏が生まれる」と強調。その上で「その中心に日本が参加する。TPPはまさに国家100年の計だ」と語った。
http://www.sankei.com/politics/news/151006/plt1510060016-n1.html
その前夜も、総理は記者団にこう語っています。
TPPは、価値観を共有する国々が自由で公正な経済圏をつくっていく国家百年の計であります。政権発足後、最初の日米首脳会談において交渉参加の決断を致しました。以来、2年半にわたって、粘り強い交渉を続けてきた結果、妥結に至ったことは、日本のみならず、アジア太平洋の未来にとって大きな成果であったと思います。
http://www.sankei.com/politics/news/151005/plt1510050031-n1.html
私の記憶が正しければ、政権発足以前、自民党はTPP参加に慎重だったはずですが、これは脇に置きましょう。
総理発言のポイントは二つです。
1)日本にとって、TPPは国家百年の計である。
2)TPPの妥結は、日本とアメリカがリードすることにより達成された。
大願成就、めでたしめでたし!
・・・という感じですが、ここでお立ち会い。
施光恒さんや、三橋貴明さんも指摘されている通り、TPPには未だ日本語全訳が存在しません。
もっと言えば、同条約の正文は英語、スペイン語、フランス語と定められており、日本語が含まれていないのです。
国家百年の計は、非常に重要な事柄のはず。
当たり前の話ですね。
しかもTPPの妥結にあたり、日本はアメリカと並ぶリーダーシップを発揮した(らしい)。
付記するならば参加各国のうち、わが国の経済規模はアメリカについで二番目となります。
にもかかわらず、日本語は正文に含まれていない。
交渉に際し、外務省はこの点を要求すらしなかったという話まであります。
そして公式の日本語全訳も、未だ発表されていない。
すなわち日本政府は
1)自国のあり方について、長期にわたって大きな影響を及ぼすと認識している条約をめぐり、
2)自国を十分に尊重するよう求めず、
3)自国民が条約の内容を理解しやすくするための努力も見せないまま、
4)妥結に向けて、アメリカと並ぶリーダーシップを発揮した
ことになるのです!
くだんの姿勢は、アメリカの意向と自国民の利益、どちらを優先させたものでしょうか?
先に紹介した総理発言に「政権発足後、最初の日米首脳会談において交渉参加の決断を致しました」という箇所があることも、関連して見過ごせません。
さしずめ、国家百年の機能不全。
個人的には、この問題だけを取っても、TPPの批准にはできるかぎり慎重であるべきだと思いますね。
なにせ国家百年の計なんですから。
ではでは♪
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2)記事の中に出てきたバークの言葉は、この本からのものです。彼はつまらぬ批判の撃退法も心得ていたのです。
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3)日本はどのようにして、自国民の利益より、アメリカの意向を優先するにいたったのか? これについては、こちらをどうぞ。
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4)わが国の政治的機能不全をめぐる文化史的、ないし文明論的な背景をめぐっては、この本で詳しく論じました。
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