アーカイブス

2015年11月18日

【佐藤健志】「聖羅ちゃん」のパラドックス

From 佐藤健志

——————————————————-

【本日18日まで】

期間限定プレゼンテーション
マスコミの言わない不都合な真実
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_C5_100_mag_3m.php

このプレゼンテーションを見た方に限り、
合計7時間01分の解説音声&映像が100円で試せます。

——————————————————-

前回記事で取り上げた「聖羅ちゃんツイート」について、さらに掘り下げてみたいと思います。
まずは簡単におさらいしておきましょう。

今年の夏、安保法制に反対するデモが各地で開かれましたが、その際、小さな子供を連れて参加する母親がいることが話題となりました。

これについては、「ママたちも声をあげはじめた!」などと賞賛する人もいた反面、
「政治について何も分かっていない子供をデモに参加させるな!」とか、
「真夏の炎天下、小さい子供を歩かせると熱中症になる!」といった趣旨の批判も寄せられます。
(注:上記のコメントはどれも厳密な引用ではありません。念のため)

そんな中、次のような内容のツイートがなされたんですね。

【拡散希望】安保反対国会前デモに連れていかれた、
我が孫、聖羅が熱中症で還らぬ人になってしまいました。
あの嫁はゆるせません。
わたしたちは何度も聖羅を置いてくように話したのですが…。
聖羅は何度も何度も帰りたい、と母に泣いてたそうです。

ツイートには「聖羅ちゃん」の写真まで添付されていました。
と・こ・ろ・が。

この話、じつは嘘だったのです。
「聖羅ちゃん」の写真にいたっては、新潟市に住む大嶋陽さんという方のお嬢さんの写真を、勝手に転用したことが判明!
大嶋さんはツイッター社にたいし発信者の情報開示を求め、認められました。

何というか、呆れるほかはない顛末ですが・・・
「聖羅ちゃんツイート」、よく読むといろいろ見えてくるものがあるんですね。

まずはツジツマ。
私の感覚で言うと、孫が死んだことを「還らぬ人になってしまいました」と表現すること自体、どこか不自然なものがあります。
後半、「何度も」がやたらに繰り返されるくだりも、人工的というか嘘くさい。

が、これらは主観の問題として脇に置きましょう。
もっと決定的に破綻している箇所があるからです。
つまり最終行。

聖羅は何度も何度も帰りたい、と母に泣いてたそうです。

それは可哀想にと言いたいところながら、おばあちゃん、この話を誰から聞いたのでしょう?

おばあちゃん自身はデモに行っていないんですよ。
嫁、つまり聖羅ちゃんの母が話すとも信じがたい。
息子、つまり聖羅ちゃんの父がデモに同行していたとすれば、自分で娘を連れて帰るべきでしょう。
でなければ息子にも責任があることになり、嫁だけを非難する態度に筋が通らなくなります。

「わたしたちは何度も聖羅を置いてくように話した」とある以上、夫、つまり聖羅ちゃんの祖父も家に残ったはず。
残るは〈嫁のデモ仲間〉ですが、「あの嫁はゆるせません」と激怒している祖母に、そんなことをわざわざ話すと思いますか?

ちょっと冷静に考えてみれば、ツイートの内容がおかしいことは、裏を取るまでもなく明らかなのです。
逆に言うと、このツイートを読んで納得してしまった人は、気づかないうちに思考が止まっていることになる。

思考はなぜ止まったのか?
お分かりですね。
「純真な子供が、本当は嫌がっているのに、大人の都合でデモに連れて行かれて死んだ」というイメージに共鳴してしまうためです。
そんな理不尽な! と思ってしまうわけですよ。

しかしお立ち会い。
理不尽はいいとして、それは安保法制の良し悪し、ないし必要性(の有無)について、何か証拠立てているのか?
答えはもちろん、ノーです。

そしてこれこそ、くだんのツイート最大の問題。
安保法制に賛成なら、ハッキリそう言えばいいではありませんか。
法制に反対する人々のイメージを(作り話で!)貶めることにより、間接的に肯定しようとするなど、姑息もいいところです。

ちなみに「姑息」は、「姑(しゅうとめ)の息」と書きますが、このツイートが「嫁を許せないと思っている姑の独白」となっているのも、こうなると良くできた話。
「息巻く姑」のふりをしてツイートしていれば、内容が姑息になるのも当たり前なのですよ。

のみならず、この作り話を貫いているのは、純然たるお涙頂戴の発想。
理屈はどうでもいいから、感傷に酔ってくれという書き方です。
裏を返せば、「何も考えずに安保法制に賛成しろ」というのが、ツイート主のホンネ。
まあ、自覚はしていないと思いますが。

しかるに「何も考えずに安保法制に賛成しろ」と主張して良いなら、「何も考えずに安保法制に反対しろ」と主張されても文句は言えないはず。
やっていることは同じなんですから。
論より証拠、「聖羅ちゃんツイート」の構造は、反戦平和を訴える人々が好んで紹介する「戦争の語り部」の述懐と瓜二つなのです。

嘘だろうって?
では、ツイートをちょっと書き直してみましょう。

【拡散希望】女学校時代、一番の仲良しだったA子さんが、
戦争末期、勤労動員で軍需工場に連れてゆかれ、
空襲で還らぬ人になってしまいました。
戦争は許せません。
私たちはいつも「平和がいいね」と話していたのですが…。
息を引き取る直前、A子さんは何度も何度も
「もっと生きたい」と涙を流して訴えていたそうです。

構造は一切変えていませんよ。
時代と状況を置き換えただけです。
よって「聖羅ちゃんツイート」を根拠に安保法制賛成を主張するのであれば、「A子さんツイート」を根拠に安保法制反対を主張されたときにも、もっともだと納得しなければなりません。

というか、本当はこんな書き直しをする必要すらない。
聖羅ちゃんが安保法制に反対するデモではなく、賛成するデモに連れてゆかれたことにすればいいだけの話です。
架空の子供なんですから、どちらでも悪いことはないでしょう。

聖羅ちゃん(の死)は、安保法制反対派を貶めるダシにも、賛成派を貶めるダシにも使える!
さしずめ「聖羅ちゃんのパラドックス」ですが、どちらに転んでも失われてしまうものがあります。
すなわち安保法制の良し悪しや、必要性の有無をめぐるまともな議論。

そして藤井聡さんが言うとおり、物事をまともに考えようとせず、チープな感情に支配されたまま付和雷同することこそ、全体主義の始まりです。

お涙頂戴レベルの発想で世の中を語るべからず!
それが、聖羅ちゃんにたいする最大の供養と言えるでしょう。
ではでは♪

—メルマガ発行者よりおすすめ—
【期間限定プレゼンテーション】
マスコミの言わない不都合な真実
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_C5_100_mag_3m.php

このプレゼンテーションを見た方に限り、
合計7時間01分の解説音声&映像が100円で試せます。

※本日18日23:59まで※

〈佐藤健志からのお知らせ〉
1)「聖羅ちゃんのパラドックス」が示すとおり、お涙頂戴レベルの発想には、右も左もありません。そこから抜け出すにはこちらを。
「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

2)国家が全体として思考停止に陥ると、いかなる破滅的な事態が生じるかという警告です。
「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

3)戦後日本の歴史にも、思考停止はひそんでいます。
「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

4)いや、近代日本そのものが思考停止を抱えているのです。
「夢見られた近代」(NTT出版)
http://amzn.to/18IWkvl(紙版)
http://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B00NMHCN44/ref=tmm_kin_title_0?_encoding=UTF8&qid=1413359176&sr=1-9(電子版)

5)アメリカがいかなるパラドックスのもとに生まれたか、そのマニフェストがこちら。
「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

6)そして、ブログとツイッターは以下の通りです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

関連記事

アーカイブス

【柴山桂太】「第二の矢」は効いている

アーカイブス

【三橋貴明】徴税しても政府に富が蓄積されるわけではない

アーカイブス

【室伏謙一】国内「移住」促進は地域の破壊につながりうる

アーカイブス

[三橋実況中継]「おおさか維新の会」による公権力を用いた明確な言論弾圧

アーカイブス

【東田剛】絶滅への道

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】手取りを増やさないのは自民党

  2. 日本経済

    【三橋貴明】人の意見を変える方法

  3. 日本経済

    【三橋貴明】最強の野党

  4. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】如何にすれば私達は「日本を滅ぼす売国石破政権...

  5. 日本経済

    【三橋貴明】人間万事塞翁が馬

  6. 日本経済

    【三橋貴明】手取りを増やす

  7. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】MMTの提唱者・ビルミッチェル教授をお招きし...

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】【大胆予想】これからの日本の政治はどうなって...

  9. 日本経済

    【三橋貴明】キャスティングボート

  10. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】三沢カヅチカ京都拾得ライブ2024は満席の大...

MORE

タグクラウド