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2015年11月18日

【佐藤健志】「聖羅ちゃん」のパラドックス

From 佐藤健志

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前回記事で取り上げた「聖羅ちゃんツイート」について、さらに掘り下げてみたいと思います。
まずは簡単におさらいしておきましょう。

今年の夏、安保法制に反対するデモが各地で開かれましたが、その際、小さな子供を連れて参加する母親がいることが話題となりました。

これについては、「ママたちも声をあげはじめた!」などと賞賛する人もいた反面、
「政治について何も分かっていない子供をデモに参加させるな!」とか、
「真夏の炎天下、小さい子供を歩かせると熱中症になる!」といった趣旨の批判も寄せられます。
(注:上記のコメントはどれも厳密な引用ではありません。念のため)

そんな中、次のような内容のツイートがなされたんですね。

【拡散希望】安保反対国会前デモに連れていかれた、
我が孫、聖羅が熱中症で還らぬ人になってしまいました。
あの嫁はゆるせません。
わたしたちは何度も聖羅を置いてくように話したのですが…。
聖羅は何度も何度も帰りたい、と母に泣いてたそうです。

ツイートには「聖羅ちゃん」の写真まで添付されていました。
と・こ・ろ・が。

この話、じつは嘘だったのです。
「聖羅ちゃん」の写真にいたっては、新潟市に住む大嶋陽さんという方のお嬢さんの写真を、勝手に転用したことが判明!
大嶋さんはツイッター社にたいし発信者の情報開示を求め、認められました。

何というか、呆れるほかはない顛末ですが・・・
「聖羅ちゃんツイート」、よく読むといろいろ見えてくるものがあるんですね。

まずはツジツマ。
私の感覚で言うと、孫が死んだことを「還らぬ人になってしまいました」と表現すること自体、どこか不自然なものがあります。
後半、「何度も」がやたらに繰り返されるくだりも、人工的というか嘘くさい。

が、これらは主観の問題として脇に置きましょう。
もっと決定的に破綻している箇所があるからです。
つまり最終行。

聖羅は何度も何度も帰りたい、と母に泣いてたそうです。

それは可哀想にと言いたいところながら、おばあちゃん、この話を誰から聞いたのでしょう?

おばあちゃん自身はデモに行っていないんですよ。
嫁、つまり聖羅ちゃんの母が話すとも信じがたい。
息子、つまり聖羅ちゃんの父がデモに同行していたとすれば、自分で娘を連れて帰るべきでしょう。
でなければ息子にも責任があることになり、嫁だけを非難する態度に筋が通らなくなります。

「わたしたちは何度も聖羅を置いてくように話した」とある以上、夫、つまり聖羅ちゃんの祖父も家に残ったはず。
残るは〈嫁のデモ仲間〉ですが、「あの嫁はゆるせません」と激怒している祖母に、そんなことをわざわざ話すと思いますか?

ちょっと冷静に考えてみれば、ツイートの内容がおかしいことは、裏を取るまでもなく明らかなのです。
逆に言うと、このツイートを読んで納得してしまった人は、気づかないうちに思考が止まっていることになる。

思考はなぜ止まったのか?
お分かりですね。
「純真な子供が、本当は嫌がっているのに、大人の都合でデモに連れて行かれて死んだ」というイメージに共鳴してしまうためです。
そんな理不尽な! と思ってしまうわけですよ。

しかしお立ち会い。
理不尽はいいとして、それは安保法制の良し悪し、ないし必要性(の有無)について、何か証拠立てているのか?
答えはもちろん、ノーです。

そしてこれこそ、くだんのツイート最大の問題。
安保法制に賛成なら、ハッキリそう言えばいいではありませんか。
法制に反対する人々のイメージを(作り話で!)貶めることにより、間接的に肯定しようとするなど、姑息もいいところです。

ちなみに「姑息」は、「姑(しゅうとめ)の息」と書きますが、このツイートが「嫁を許せないと思っている姑の独白」となっているのも、こうなると良くできた話。
「息巻く姑」のふりをしてツイートしていれば、内容が姑息になるのも当たり前なのですよ。

のみならず、この作り話を貫いているのは、純然たるお涙頂戴の発想。
理屈はどうでもいいから、感傷に酔ってくれという書き方です。
裏を返せば、「何も考えずに安保法制に賛成しろ」というのが、ツイート主のホンネ。
まあ、自覚はしていないと思いますが。

しかるに「何も考えずに安保法制に賛成しろ」と主張して良いなら、「何も考えずに安保法制に反対しろ」と主張されても文句は言えないはず。
やっていることは同じなんですから。
論より証拠、「聖羅ちゃんツイート」の構造は、反戦平和を訴える人々が好んで紹介する「戦争の語り部」の述懐と瓜二つなのです。

嘘だろうって?
では、ツイートをちょっと書き直してみましょう。

【拡散希望】女学校時代、一番の仲良しだったA子さんが、
戦争末期、勤労動員で軍需工場に連れてゆかれ、
空襲で還らぬ人になってしまいました。
戦争は許せません。
私たちはいつも「平和がいいね」と話していたのですが…。
息を引き取る直前、A子さんは何度も何度も
「もっと生きたい」と涙を流して訴えていたそうです。

構造は一切変えていませんよ。
時代と状況を置き換えただけです。
よって「聖羅ちゃんツイート」を根拠に安保法制賛成を主張するのであれば、「A子さんツイート」を根拠に安保法制反対を主張されたときにも、もっともだと納得しなければなりません。

というか、本当はこんな書き直しをする必要すらない。
聖羅ちゃんが安保法制に反対するデモではなく、賛成するデモに連れてゆかれたことにすればいいだけの話です。
架空の子供なんですから、どちらでも悪いことはないでしょう。

聖羅ちゃん(の死)は、安保法制反対派を貶めるダシにも、賛成派を貶めるダシにも使える!
さしずめ「聖羅ちゃんのパラドックス」ですが、どちらに転んでも失われてしまうものがあります。
すなわち安保法制の良し悪しや、必要性の有無をめぐるまともな議論。

そして藤井聡さんが言うとおり、物事をまともに考えようとせず、チープな感情に支配されたまま付和雷同することこそ、全体主義の始まりです。

お涙頂戴レベルの発想で世の中を語るべからず!
それが、聖羅ちゃんにたいする最大の供養と言えるでしょう。
ではでは♪

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