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2015年9月11日

【上島嘉郎】悪徳代議士の襟にブルーリボンバッジ

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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もし、あなたが、子供や孫たちに安全で豊かな日本を引き継ぎたいなら、、、
この恐ろしい現実を知ってください。

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8月31日に放送されたドラマ「SP八剱貴志(やつるぎたかし)で北朝鮮による拉致被害者救出を祈るシンボルのブルーリボンバッジを贈収賄事件で逮捕される政治家役に着けていた問題で、TBSは9月7日、説明を求めていた拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」に回答しました。

〈救う会によると、ブルーリボンバッジを着けた理由について、TBSは「議員としてのリアリティーをより強くもたせたいとのスタッフの発案によるもの」と説明。そのうえで、「全く他意はなかった」とした。

また、拉致被害者の家族や救出活動に取り組む関係者の気持ちを傷つけたことに対し、「おわびを申し上げる」と謝罪。さらに、再発防止を図り、ドラマを再放送しないことも決めたという。〉(9月8日付産経新聞)

私はこの問題で、ある種の“踏み絵”を迫る気はないのですが、ドラマの演出とは意図をもってなされるのですから、「他意はない」というTBSの言い分は、およそ通用しないものでしょう。

それから、TBSは「救う会」への回答の前に、自社のHP上に「配慮に欠け、拉致被害者家族をはじめ支援者、関係者の気持ちを傷つけたことを心よりおわびする」との文言を掲示しましたが、「お詫び」ではなく「お知らせ」と題されてのものでした。

お詫びする必要があるとは思っていないが、まあ世間向けに仕方ない、といった感じがありありです。

少なくとも、このドラマの演出家には、北朝鮮による日本人拉致問題に対し、被害者救出の願いに寄り添う心持はなく、その運動に関わる人々に胡散臭さを印象付けようとしたといっても、けっして穿ち過ぎではないでしょう。

あるいは拉致問題には全く無関心で、ただ表層的な知識からブルーリボンバッジを「政治家にリアリティーを持たせる」ため役者に着用させたのだとしたら、これは安易すぎ、無神経に過ぎると言わざるを得ません。

かりに悪徳代議士が女性で、その襟にピンクリボンバッジだったらどうでしょう。そんな演出は端からしないでしょうし、それが放送されたら人権団体も黙っていないでしょう。
ところが、ブルーリボンバッジなら、せいぜい「救う会」と「家族会」が騒ぐ程度…と。
TBSの“前科”を思い返せば、そこまで勘繰りたくなります。

日頃人権擁護を訴える市民団体も、事が北朝鮮による拉致問題となると冷淡だったり無関心だったりします。ここにも戦後日本の歪な人権観が現れています。実は彼らは「普遍的な人権」の擁護を訴えているつもりでも、実際においてはそうではない。

TBSがどんな言い訳をしようと、彼らには拉致問題を当事者として受け止める感覚がなく、拉致被害者とその家族、同胞に対する慈しみの感情が乏しいことが露呈したと言えます。

権力の暴走を監視するとか、様々な疑惑を追究し事実を明らかにするとか、報道機関としての自己存在をいくら主張し、正当化しようとしても、TBSにはその資格がないことを証す一事です。けっしてドラマ演出における些事ではありません。

ただ、このドラマがもっと人間の本質に迫る真剣さをもって描かれていたら、私は別の感想を持ったでしょう。

かりにその代議士が拉致被害者の救出に努力しているように見えて、その裏ではまったく逆の政治判断に加担していたとか…。しかもその理由が保身や利権にあったとか…。

実際、拉致問題は、北朝鮮による犯罪であることを政府として認識していながら、長い間事実上“放置”されてきました。

事件が頻発していた頃に現場の捜査官だった警察OBから、事件の概要を報告し、さらに追及したい旨を上申したところ、「この件はこれで終わり」と上層部から指示されたという類の証言も耳にします。

歴代自民党政権の中枢にあった政治家、社会党の幹部等々、拉致事件を知りながら被害者の救出に動かなかった政治家、動かないどころかその隠蔽や矮小化を図ろうとした政治家の存在を、事実として究明しきれなくとも、国民への問題提起としてドラマに描くことは可能でしょう。
それこそテレビ局として、報道部門ではなくドラマ制作部門の出番ではないか。

拉致問題の解決、被害者の救出に向けて進展のない現況を踏まえ、国民に対する政治家や高級官僚たちの不作為や怠惰、悪意を告発する。あるいはそうした政治家、高級官僚の狡さ、弱さ、懊悩を描き、それに翻弄される国民の苦悩、苦境を伝える。
そういう意図をもったドラマであるならば、私はブルーリボンバッジを小道具として使うことを不当とは思わない。

ヒューマニズムにはいろいろ重層的な意味がありますが、人道主義や人間賛歌の対極にあるような人間の非情さ、残酷さ、狡猾さ、厭世観等々を描くこと自体は否定されるべきものではない。

古いドラマの再放送には、これも地上波ではほとんどお目にかからなくなって、衛星放送主体ですが、必ず「今日では不適切とされる表現がありますが、制作当時の時代背景と制作者の意図を尊重してそのまま放送します」といった字幕が開巻前に表示されます。

今日的な価値観、人権観が正しく、望ましいもので、過去は正しくなく、望ましいものではなかったと言っているようなものですが、この前提は果たして正しいか──。

やや脈絡のない話になってしまいましたが、今回の問題は拉致問題に関するメディアや国民の意識を改めて炙り出すとともに、創作や表現に関わる仕事をする者たちに、その目的や覚悟のほどを問うことにもなったと思います。

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【上島嘉郎】悪徳代議士の襟にブルーリボンバッジへの2件のコメント

  1. 言起 より

    上島先生へ。今秋に休暇を取り成東駅へ行く計画を立てています。先生のメルマガを読み、こみあげてくるものを感じ、当時のいたいけな少女達含む命を落としたすべての方々に両手を合わせに行くことにしました。戦時下のこうした一般の人のことをもっともっと知り、そしてその地へ足を運びたいと思います。現地へ赴いたとき、この方々との「つながり」を感じ取れることでしょう。ちなみに、私は大阪在住で千葉県の土はまだ踏んだことがありません。それゆえに、この成東行きを楽しみにしています。上島先生へ。このような感動的なエピソードを紹介してくださりありがとうございます。もっともっと紹介してくださいね。

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  2. エクサゾーン より

     無知の一読者ですが書き込みをお許しください。 サブリミナルだけでなくイメージによっての洗脳を戦後ずーっと今も放送媒体企業(一部かもしれませんけど)が行っているのですね。ヘイト・スピーチ法案ならぬ、ヘイト・カモフラージュ・メディア法(そんな法律有りませんけど)に掛けるべきだとおもいました。けど、ネイティブ日本人が訴訟を起こすと反日裁判官、員等により捻り潰されそうな気がします。 ある意味、既に日本は移民問題を抱えてきた。そして今安倍政権はそれを拡大推進し、フィリピンパブならぬ、フィリピンメイドにより片言の日本語酒場造りならぬ片言の日本語日常茶飯事を創ろうとしている。まさに痴呆創生。放送媒体により公共を叩き潰し、民営化だけが繁栄の道、瑞穂の資本主義への道と信ずるようになって偏って傾いてしまった。歴史観だけでなくデフレーションに於ける経済観も曲げられてしまった。歴史観で精神を自己否定され、経済政策で物理的安全保障をも自ら壊してしまっています。 あ、経済的なことへ脱線してすみません。でも書いているうちに繋がってしまったんです。逮捕しないでください。戦後歴史観が曲げられ今は経済観も曲げられた極致(血液がネオリベで充満している感じ)に至ってしまったように観えます。

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