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2015年9月3日

【柴山桂太】「国づくり」はインフラから

From 柴山桂太@京都大学准教授

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●●自虐史観はなぜ作られたのか、、、
月刊三橋の今月号のテーマは、「大東亜戦争の研究〜教科書が教えないリアルな歴史」です。
http://youtu.be/cx6gcrylFvc

◆◇お客様の声◇◆

”日本の問題の根本は、正しい歴史を学ばないことにあると常日頃考えています。
なぜ、他国の顔色を伺った、脚色された歴史を学ばなくてはならないのでしょう?
真実を知り、正しく理解することはイロハのイの字です。”

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先日、スイスで「ゴッタルドベーストンネル」が完成した、というニュースがありました。

http://www.businessnewsline.com/news/201508270256310000/5.html

「ゴッタルドベーストンネル」は、アルプス山脈を縦貫する全長57kmの鉄道トンネルで、計画開始からすでに20年以上の歳月がかかっています。完成すると、チューリッヒ=ミラノ間の移動時間が短縮されるだけでなく、このルートを通る貨物輸送量が現在の2.5倍になると見込まれるなど、南北ヨーロッパを結ぶ物流の大動脈となることが期待されています。

このトンネルが完成した意義は、単なる経済効果にとどまりません。近年、何かと対立が目立つ南北ヨーロッパをつなぐ象徴的な意味があり、だからこそ注目を集めているのです。

地理的にみてヨーロッパ大陸は、アルプス山脈によって南北に分断されているという特徴があります。そのため、アルプス以北と以南では、国民性や経済水準などの面で小さくない違いがあります。EUはその二つの地域を一つに統合する歴史的プロジェクトでしたが、現在、さまざまな問題が生じているのは周知の通りです。

「ゴッタルドベーストンネル」は、この南北の壁を突破する、一大プロジェクトと位置づけられてきました。もちろん、縦貫トンネルが一本通ったところで、南北の経済格差が解消するわけではないですし、政治的対立がなくなるわけでもありません。ただ「多様性の中の統一」を理念とした欧州統合の長い歩みを考えた時、このインフラ事業が一つの記念碑となるのは間違いないところでしょう。同種の大型事業は、他にもいくつか(南北軸だけでなく東西軸の交通ネットワークも含めて)存在するようです。

現在のユーロ危機を見ていると、共通通貨の実験はほとんど失敗に終わったのではないかと思えてきます。最悪の場合、ユーロ圏が縮小・解体されたり、ヨーロッパが再び国家対立の時代を迎えることもありえます。短期的には混乱は避けがたいものとなるでしょう。しかし、全欧州規模のインフラ整備が今後も着実に整備されていくとすれば? 一〇〇年スパンで見れば、度重なる政治的挫折を乗り越えて、統合が進んでいく可能性は残ります。

ここにインフラの重要な役割があります。インフラストラクチャーは、日本語では「下部構造」や「社会基盤」と訳されることがあります。道路・鉄道・上下水道・送電・ガス・港湾・通信などの「下部構造」や「社会基盤」がしっかり整備されなければ、政治空間は安定しません。一九世紀以後の国民国家建設で、各国がインフラ整備に力を入れたのも、現在の欧州で広域インフラのプロジェクトが(ゆっくりした歩みとはいえ)進められているのも、こうした理由によるのです。

日本はどうでしょうか。藤井聡先生の近著『超インフラ論』を読むと、日本がインフラ先進国とは言えない現状が見えてきます。

http://www.amazon.co.jp/dp/4569826342

http://honto.jp/netstore/pd-book_27257653.html

この本の第二章に示された図を見ると、高速道路網や高速鉄道網の整備率が、アメリカ・ドイツ・イギリスなどと比べるとはるかに低い水準にとどまっていることが分かります。日本でこれらのインフラが整っているのは、太平洋ベルト地帯だけ。特に東京・首都圏へのインフラ集中が顕著です。

もちろん諸外国でも大都市圏のインフラ集中は見られますが、大都市圏とそれ以外の地域の分断は日本ほどひどくありません。日本では、以前から東京一極集中が問題視されていますが、その原因がインフラ格差にあるということが、本書を読むとよく分かります。

ヨーロッパ大陸がアルプス山脈で分断されているように、日本列島も山と海が各地を分断しています。明治以後の日本は、この分断を埋めていく努力を続けてきました。それが日本の「国づくり」だったのですが、国土全体を十分に結びつけるインフラ整備が終わらないうちに、その熱意が世論から失われてしまったように見えます。

その結果、人口や富の3割以上が東京圏に集中するという、災害リスクや安全保障リスクを考えても、また今後の産業発展を考えても問題の多い国土状況になってしまいました。今のインフラ状況が続く限り、東京一極集中を根本から是正することはできないという本書の主張は重要です。

昨今の日本では、地域間格差への対策として地方分権や地方創生が盛んに議論されています。しかし、法や制度の「上部構造」をいくら弄っても、たいした結果は得られないでしょう。交通インフラが東京を終着点として分断されたまま、国土全体で交通インフラがネットワーク化されていないという「下部構造」の歪みを糺さない限り、いま言われている制度改革も十分な効果を挙げられないのです。

もちろん、インフラ整備にはお金も時間も掛かります。個々のプロジェクトを見れば賛成・反対がわかれるでしょう。しかし確認すべきは、地理的な分断を突破し、国土を重層的なネットワークに統合していく「国づくり」に終わりはない、ということです。なぜなら国づくりには、他の国家との総合的な競争という面があるからです。そして金融危機後の現在は、(途上国・先進国を問わず)どの国もインフラ投資に力を入れる時代が回帰しています。

その昔、哲学者のオルテガは「国家はつくられつつあるか、壊れつつあるかのどちらかである」と言いました。壊れつつある日本を、再び正しい方向に戻すには何が必要なのか。『超インフラ論』は、国づくりの基本がインフラ投資にあるという当然の、しかし現在多くの人が忘れている論点を力強く思い起こさせてくれるという点で、重要な本と言えます。

**** メルマガ発行者よりおすすめ ****

●自虐史観の始まりはGHQの・・・?
●大東亜戦争という名称が消えた理由とは・・・?

答えはこちら
http://youtu.be/cx6gcrylFvc

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【柴山桂太】「国づくり」はインフラからへの9件のコメント

  1. 亀の子太郎 より

    インフラの重要性はわかるが、やはり個人目線での土地の変化というものにはなかなか抵抗がある。うまいやりようとういうのも追究して欲しいなあと。

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  2. あまき より

    YOYOさん。同じく私も新幹線・高速道路整備は必要条件であると確信しています。新幹線について言うと、新大阪を中心とした新幹線網がいままでなかったことの方がおかしいと思っています。そして新幹線整備の必要性と同時に、在来線のあり方についても真剣に論じなければ国土強靭化の名に値しないのではないか、というのが私の言いたいことなのです。とりわけ、近年リニアのような極めて特化した高速輸送機関整備にのみ言及して事足りるかのような、専門知識に正直疑問を禁じ得ない経済専門誌あたりの賛成論にそれこそYОYОさんの言われる効率至上主義の「至上」がぷんぷんにおって、一抹の不安が拭いきれないわけです。民営化以降、幹線ですら在来線の規格が低すぎて最適接続タイミングで乗換駅に到達できない事例が各地でみられるのみならず、ローカル旅客以上に潜在需要が高いはずの高速貨物が満足なスピードで走れません。トンキロ当たりシェア僅か5%という異様な数字は、旅客収入に依拠する在来線の今後を占う上でも国土強靭化を考える上でも今後重要な鍵になると思われます。なおスイスのBahn 2000計画は、柴山さんが触れて下さったNeue Eisenbahn Alpentransversaleと両輪の長期巨大公共事業であり、高い投資効果を発揮して大成功を収めているようです。ただし成功ゆえの課題も浮上していることもご紹介しておきます。お邪魔しました。

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  3. トキ より

    藤井さんや三橋さんのお話からも、如何に日本の鉄道や道路が他の先進国のそれよりも遅れていることが良くわかりました。これは、田中角栄元首相が構想した「日本列島改造論」があるべき姿であった、という理解でよろしいでしょうか?田中元首相が何故失脚したのかは色々とあるみたいですが、それにしても、何故日本では’無駄な道路’’無駄な鉄道’⇒ 税金の無駄!! と目の敵にされてしまったのでしょうか?確かにバブルがはじけた後辺りから、’公共事業=ムダ’みたいな構図が喧伝されるようになったような記憶があります。あのころの週刊誌には、よく’1m1億かけて作ったが1日に50台も通らない○○道!’みたいな写真が晒されたものでした。私が知りたいのは、何故「公共事業=ムダ」と喧伝する勢力が出てきたのか、彼ら彼女らの意図するところは何だったのか、ということです。藤井さんや三橋さんのお話はとても明快でいつも膝を打つのですが、是非上記についても解説願いたいと思います。

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  4. YOYO より

    現在の日本は、「国づくり」の土台となるべきインフラ構築への理解が希薄であるのが現実です。敗戦後は、表現の自由が保障され、検閲もなかったと信じられていたようですが、実際はGHQによる情報統制が行われており、その毒は、何年も経た後に日本全体に浸透していった様に思います。戦後しばらくの間は、戦前世代が一定の歯止めになっていたのでしょう。高度成長はそういう時代に達成しています。ところが、昭和も終わりが近くなる頃になると、戦前世代は次々と引退していきます。そんな中、日本は経済大国だと浮かれ、バブルに興じます。そして、バブルは崩壊。すると今度は、改革に明け暮れる事になるのですが、その頃には、戦後教育を受けた世代が幅を利かせるようになっていました。不幸なことに、そんな時代に冷戦が終結し、日本は重大な決断をいくつも成す必要に迫られます。適切な助言を請うべき戦前世代を欠いた状況で。そして、改革と称し制度をいじっては、事態を悪化させ、終にはデフレに突入します。それでも飽き足らず、小泉竹中構造改革、民主党への政権交代。こうして、失われた十年、そして二十年が過ぎていきました。公共事業に対する国民の感情は、良いものがほとんどありません。利権や無駄といった、印象論が幅を利かせ、子孫への遺産といった視点がありません。日本の現状は「国づくり」を論じる以前なのが現実です。そんなだから、地方のインフラ構築の可否を、効率論だけで論じるような議論が罷り通るわけです。我々が当たり前と信じている事が、実は戦後教育の中で刷り込まれてしまった嘘である場合がかなりあるでしょう。それは歴史的事実に留まらず、極端な個人主義に見られるような価値観にまで浸透してしまい、もはや洗脳が完了したと言ってもよい状態なんだろうと思います。国づくりはインフラから。しかし、国づくりは健全な国家観が土台となります。となると、健全な国家観を育んでいくことが不可欠ということになりますが、それには、戦後体制に毒されてるであろう我々の思い込みの数々(ここでは効率至上主義)からの覚醒の積み重ねが絶対に欠かせません。今回の記事を読んで、その思いを強くしました。

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  5. YOYO より

    最後の部分、書き損じてしまいました。正しくは、「新幹線や高速道路は、十分条件ではないかも知れませんが、必要条件である事だけは押さえておかなければなりません。」です。

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  6. YOYO より

    「新幹線や高速道整備しか情熱が及ばない人」って?何が言いたくて、このような物言いをするのでしょうね?既存のインフラを有効に使う事は結構なことですが、だからといって新たなインフラ構築が必要なくなるわけでもありません。ましてや、欧米と比較しても立ち遅れているインフラ整備を「しか情熱の及ばない」などと言っても、インフラ整備に水をさすのがせいぜいでしょう。整備新幹線における在来線の取り扱いには、多くの問題があるにも関わらず、そこが議論に挙がって来ないという現実はありますが、それが、新幹線や高速道路の新規整備の必要性を否定するものではありません。真に「恩恵を地方にゆき渡らせなければならない」からこそのインフラ整備です。新幹線や高速道路は、十分条件ではないかも知れませんが、必要十分である事だけは押さえておかなければなりません。

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  7. シュワイマー より

    表面的色々と言えるが、自称保守派には憲法を変えるなり破棄し新たに制定すれば万事解決すると思い込む癖があるようだ。どうしてそう単純になれるのだろうか。だから、憲法をどう変えるかという本質論はそっちのけで、現状を変えてくれるであろう詭弁屋を信じてしまう。現首相や大阪の大ぼら吹き。それがどう変わるのかは大して興味がない。結局、護憲派も改憲派も、改革・革命派であって、保守ではない。単なる内ゲバ。改革。革命派に共通する思考は、己の目的のためなら、どれ程の犠牲が出ようが構わないというスタンス。これは左翼だろうと右翼だろうと同じ。本当にもう右翼左翼、赤だのなんだのもう終わってるにもかかわらず、そこから離れられない。俯瞰すれば同種なんだが。今回の柴山氏の記事にあるように、インフラというのは単なる事業ではなく社会基盤の重要要素。従って、インフラを考えることは、社会、経済、引いては国を考えると同義。だから、経済政策(特に財政と規制)ではダメだが憲法改正のために、と現政権支持というのは矛盾でしかない。

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  8. あまき より

    アルプトランジット計画、それからバーン2000計画もぜひ多くの日本人に知ってほしいですね。1987年から始まり今なお続いているこの計画は、公共交通機関相互の連携を徹底的に強め、乗り継ぎ乗り換えを楽にすることでスイス全土の速達化を図ろうというものです。新幹線や高速道整備しか情熱が及ばない人、並行在来線の不便を「お話し合いで解決するしかない」などと強靭化に水を差すような生ぬるい考えの人に、このレジリエンスの先輩といえるスイスの、恩恵を地方にゆき渡らせなければゆき渡らないところから国家が綻んでくることを伝統的に骨身にしみているスイスの公共事業にかける不屈の精神をぜひとも知っていただきたいです。

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  9. 學天測 より

    何が必要かといわれれば憲法を小学一年生レベルの馬鹿でもわかるように書き直すべきですね。現在の憲法は制定から時間がたっているのでいろいろ不備はあろうかと思いますが憲法として、制定当初から目につくほどおかしいのは9条以外、私は見当たらないと思います。1条で天皇の元首が言われますが、私はよくわからない。この国の歴史を考えれば天皇の位置づけはそういうわかりやすいものかと思う。とにかく東大憲法学の啓蒙的解釈が間違ってるのは統治の結果から明らかですね。国民が共有すべき最低限の国家の基本軸が歪んでいるから国は衰退し滅びる。万物は法の支配下にあり、法に逆らわないから存在できる。国も変わりませんよ。

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