アーカイブス

2015年8月26日

【佐藤健志】演劇的インフラ論

From 佐藤健志

——————————————————-

●●自虐史観はなぜ作られたのか、、、
月刊三橋の今月号のテーマは、「大東亜戦争の研究〜教科書が教えないリアルな歴史」です。
http://youtu.be/cx6gcrylFvc

——————————————————-

藤井聡さんの新著「超インフラ論 地方が甦る〈四大交流圏〉構想」(PHP新書)は、みなさんご存じでしょう。
私もしっかり拝読しました。

第一部「総論」と、第二部「具体論」からなる同書は、
・なぜ日本再生にはインフラ整備が必要なのか?
・日本のインフラ(とくに人流・物流の基盤となる交通インフラ)はどういう状態にあるのか?
・具体的には、どのようなプロジェクトを推進すべきなのか?
といった点について、明快なビジョンを提示しています。
とくにサブタイトルにもなっている〈四大交流圏〉構想は、気宇壮大であるうえ、合理性も伴ったもの。

とはいえ驚かされるのは、藤井構想の基盤の一つとなっている整備新幹線計画が、なんと1970年代前半に決まっていたこと。
この計画、今でも十分には実現していないのです!
石油危機を乗り越えたあと、1980年代から1990年代にかけて、計画をやり遂げていれば、日本のあり方もずいぶん違っていたでしょうに。

演出家・プロデューサーの浅利慶太さんも、1971年の時点でこう書きました。

東京中心の体制では、日本を見つめ直す新しい考え方は生まれてこない。〈中央〉と〈地方〉という明治以来の悪習にしたがっていては、日本の再生、日本人の未来はない。(中略)
日本の芸術文化も産業も、そうしなければ(=東京一極集中を脱却しなければ)大きな壁にぶつかるだろう。政治など、芸術文化と産業の後からついてくればいい。それが健全な人間の社会の姿なのだ。
(「浅利慶太の四季」第一巻、慶應義塾大学出版会、1999年、250ページ。表記を一部変更)

激しい調子ですが、これには理由があります。
われわれの考え方や感じ方に大きな影響を与える点で、文化もまたインフラの一つ。
道路や鉄道、あるいは橋やトンネルといった〈物理的なインフラ〉が「ハード・インフラ」と呼ばれるのにたいし、こちらは「ソフト・インフラ」と呼ばれます。
つまりはインフラにも、ハードウェアとソフトウェアがあるという話。

しかるに演劇文化は、それ自体がソフト・インフラの一種(ブロードウェイの舞台は、間違いなくニューヨーク市のインフラです)でありながら、ハード・ソフトの両面でインフラ整備が進まないと開花しないのです。
必要となるインフラを、ここで列挙してみましょう。

まずは劇場。
当たり前ですね。同じ作品でも、劇場でやるのと、多目的ホールでやるのとでは、仕上がりにかなり差が生じます。
技術スタッフの腕が良ければ、それなりにカバーできるとはいえ、限界があるのは否定できません。

また劇場に関しては、設備もさることながら、立地条件が重要。
人が集まりやすいところにあることや、周辺にいい喫茶店やレストランがあることも大事ですが(飲まず食わずで芝居を観たい人、手を挙げて!)、決定的なのは住宅地からの距離。
日本の演劇界では、ソワレ(夜公演)の開始時間が、欧米より二時間前後早いものの、なぜそうなっているかと言うと、真夜中前に帰宅できないお客様が出るのを防ぐためなのです!

したがって、次はこれ。
よく整備された都市内・地域内交通。
公共交通もさることながら、劇場の周辺に駐車場がなかったりすると、けっこうイタい。

そしてもちろん、地域の経済が疲弊していては話になりません。
映画などと比べて、芝居はチケット代が高いのですから。

つまり演劇文化は、都市計画まで含めたハード・インフラが整備されたうえ、地域経済が活性化して、はじめて開花するのです。
しかしこれでも、まだ一つ足りないものがある。

分かりますか?
時間です。
芝居を観るための時間。

休憩を含めると、三時間は欲しいんですね。
理想を言えば三時間半。
これに劇場までの往復にかかる時間と、観劇前後の飲食などにかける時間を足して下さい。

先に私は、日本の劇場ではソワレの開始時間が早いと書きましたが、本当のことを言えば、今やソワレそのものがどんどん減っています。
主流は完全にマチネ(昼公演)。
演劇興行の基本は「一週間につき、ソワレ6回+マチネ2回」(※)のはずなのに、すっかり逆転してしまいました。

(※)なぜソワレが7回でないのかというと、休演日が1日入るからです。

理由は明らかでしょう。
わが国では、働いている人の多く(とくに男性)は芝居を観るための時間が取れないのですよ。
ゆえにお客様は、時間とお金に余裕のある一部の女性層が中心となる。
ですから、そういったお客様の好まれる内容の作品が、集中的に上演されるわけです。

その手の作品にも、むろん優れたものは多々ある。
しかし豊かな文化には、多様性が不可欠であることを思うとき、現在の状況は手放しでは喜べません。
だいたい三島由紀夫さんの名言にならえば、芸術には「夜」が不可欠なのです。

ソフト・インフラとしての演劇文化を真に充実させるには、勤労者が金銭的余裕のみならず、時間の余裕も持てるような社会・経済システムが必要となる。
そのためにはまず生産性を高めることで、比較的短い時間で、より多くの付加価値を生み出せるようにならなければならない。
三橋貴明さんの持論ですね。

しかし同時に「生産活動とは関係のない時間を、人々がたっぷり持てるようにするのもインフラ整備のうち」という発想が求められる。
つまり余暇。
演劇に限らず、お金と余暇が両方なければ、文化的な消費は成立しません。
需要が高まらず、いつまでもデフレが続くわけです。

「時は金なり」という格言にならえば、「余暇もインフラなり」。
日本のインフラは、この点でも(あるいは、この点でとくに!)先進国レベルとは言いがたいのではないでしょうか。

なお来週は都合によりお休みします。
9月9日にまたお会いしましょう。
ではでは♪

**** メルマガ発行者よりおすすめ ****

●自虐史観の始まりはGHQの・・・?
●大東亜戦争という名称が消えた理由とは・・・?

答えはこちら
http://youtu.be/cx6gcrylFvc

*****************************

<佐藤健志からのお知らせ>
1)8月11日にBSフジ「プライムニュース」に出て以来、アマゾンで在庫薄となっており申し訳ありません。
一時は中古品に5000円以上の値段がついたりして驚きましたが、このメルマガが出るころには補充されていると思います。

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

2)戦後日本のあり方をめぐる浅利慶太さんの発言は、この本でも折に触れ紹介しました。

「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

3)「かりに芝居を観に行って、(フランス革命で生じた国王連行のような)場面に出くわしたとする。私は悲劇性に打たれ、客席で涙を流すことだろう」(115ページ)
エドマンド・バークも演劇好きだったのです。

「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

4)トマス・ペインによれば、アメリカの独立達成は、世界史を変えるドラマの幕開けとのことでした。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

5)8月17日発売の「表現者」62号(MXエンターテインメント)に、評論「天使の狂気か、人間の正気か」が掲載されました。

6)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

関連記事

アーカイブス

[三橋実況中継]需要から目を背けている

アーカイブス

【三橋貴明】家事の生産性向上!

アーカイブス

〔三橋実況中継〕日経に騙されてはいけません

アーカイブス

【藤井聡】防災はイノベーションの母

アーカイブス

【島倉原】第三の道

メルマガ会員登録はこちら

週間ランキング

  1. 1

    1

    【島倉原】国民を不幸にするPFI法改正

  2. 2

    2

    【三橋貴明】変わる世界、変わらない日本

  3. 3

    3

    【三橋貴明】所得の誤謬

  4. 4

    4

    【三橋貴明】マネタリーファイナンス

  5. 5

    5

    【saya】初めましての告白

  6. 6

    6

    【三橋貴明】輝ける日本国

  7. 7

    7

    【三橋貴明】緊縮財政と公共インフラ売却

  8. 8

    8

    【三橋貴明】国民経済の教育(後編)

  9. 9

    9

    【三橋貴明】東京都の下水道運営権売却について

  10. 10

    10

    【藤井聡】クルマを捨ててこそ地方は甦る

MORE

累計ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】大阪都構想:知っていてほしい7つの事実

  2. 2

    2

    【藤井聡】「公明党・大阪市議団が日本を破壊する」というリスク...

  3. 3

    3

    【藤井聡】「橋下入閣」は、日本に巨大被害をもたらします。

  4. 4

    4

    【藤井聡】「日本が再び、被爆国となる」という、今そこに在る危...

  5. 5

    5

    【三橋貴明】人間の屑たち

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】国民経済の教育(後編)

  2. 日本経済

    【三橋貴明】緊縮財政と公共インフラ売却

  3. アメリカ

    【三橋貴明】所得の誤謬

  4. 日本経済

    【三橋貴明】マネタリーファイナンス

  5. アメリカ

    【三橋貴明】変わる世界、変わらない日本

  6. 日本経済

    【島倉原】国民を不幸にするPFI法改正

  7. 日本経済

    【三橋貴明】輝ける日本国

  8. 日本経済

    【saya】初めましての告白

  9. 日本経済

    【三橋貴明】東京都の下水道運営権売却について

  10. コラム

    【小浜逸郎】『西郷どん』への不可能な注文

MORE

タグクラウド