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2015年8月8日

【青木泰樹】国家の信認?

From 青木泰樹@経済学者

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強制徴用で騒ぐ韓国が仕掛けた罠とは?
月刊三橋の今月号のテーマは、「歴史認識問題」です。
https://www.youtube.com/watch?v=vGLmma-WA14&feature=youtu.be
※このテーマが聞けるのは8/10(月)まで※

◆◇お客様の声◇◆

”この数日だけで、自分の頭でより明確に経済や政治を考えられるようになりました。”

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イメージだけが先行し、実体のよくわからない概念に遭遇することが度々あります。
例えば国家の信認という言葉をよく聞きますが、その定義を聞いたことがありません。
おそらく国家の信用のことでしょうね。

軍事および外交面はともかく、経済面から言えば、国の信用を測る尺度は二つです。
「その国に貸したカネが戻るのか」という国債に対する信用度、および「その国のカネは減価しないか」という通貨に対する信用度です。
まとめて言えば、「国家の信用 = 国債の信用度 + 自国通貨の信用度」ということになります。
前者の指標が長期金利の水準であり、後者のそれがインフレ率です。
二つの指標を注視すれば、その国の信用度が分かります(両者を単純に合算したものを大雑把に「国の信用度指数」と捉えると分かり易いと思います)。

しかし、前回論及した、自国通貨でなく共通通貨ユーロを使っているギリシャはどうでしょう。
言うまでもなく、通貨ユーロの価値は域内で同一でなければなりません。
もちろん、全てのユーロ諸国が同一の商品を購入しているわけではないので、国によって物価水準は異なりますが、ユーロ圏の平均物価水準と大きく乖離することはありません。
ちなみにギリシャの物価水準は、2013年以来、マイナス1%〜0%程度で推移しております。
それに対して長期金利は12%超ですから、ユーロ圏における国の信用度は長期金利の水準だけで測るのが妥当ですね。

今回は、国の信用にまつわる話を致します。
題材として、ギリシャ危機に対比させて日本の国債市場もまた危機的状況にあるという慶應大学ビジネススクール准教授の小幡績氏の論考(ニューズウィーク日本語版「転機の日本経済(1)〜(5)」)を簡単に紹介するとともに、そこでの誤解についてお話ししたいと思います(一応、国債問題に関する誤解に遭遇した場合は、出来るだけ誤りを糾しておきたいと考えております)。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/07/post-3751_1.php

財政破綻の定義に関しまして、私は以前より度々論及してまいりました。
一般通念は、国家の財政と個人の家計を混同して「借りたカネが返せなくなる状態」を財政破綻としております(個人の破産と同じだと考えているのですね)。
しかし、三橋新聞の読者の皆様は充分ご存じのとおり、通貨発行当局を傘下に収める国家の発行する自国通貨建ての国債が償還不能になることはあり得ません。
それゆえ私は、一歩進んで、財政破綻とは「民間から追加の借金が出来なくなる状態」と定義してまいりました。
政府を信用できない場合、いくら高い金利を提示されてもカネを貸す人など一人もいないからです。
その状況下における政府の選択肢は二つです。
税収の範囲内で政策経費を賄うという緊縮策を取るか、税収以上に支出せねばならない場合は中央銀行にカネを借りる他ありません。
前者であればデフレスパイラルに陥り、後者であれば必ずインフレになります(場合によってはハイパーインフレの危険性もあります)。
いずれにせよ国民経済は大打撃を被るのです。
当然、その政府は長くはもたないでしょう。

ユーロを発行できないギリシャの場合は、プライマリー黒字にもかかわらず、ユーロ建ての国債費(利払い費と償還費)を支払う必要があったのでトロイカ(ECB、IMF、EU)に金融支援を仰がざるを得ず、今回の危機的状況に陥ったわけです。

実は、小幡氏の論考に注目した理由は、財政破綻の定義に関して私と同じ論点に到達しているためです。
私が様々な機会を見つけて地道に啓蒙活動を続けた結果かどうかはわかりませんが、ともかくも私が知り得る限りでは、経済学者で私と同様の定義をしている人を初めて見ました(一般の方達なら、「当たり前だ」と簡単に同意して下さるでしょうが、経済学者は諸々の事情から正論でもなかなか認めたがらないのです)。
さらに小幡氏は、財務省出身であるにもかかわらず、累積債務残高の水準自体(ストックの問題)は副次的問題にすぎないという正しい認識も示しております。

財政再建の問題には、「これほど膨大な国債残高をどうやって返済するのか」というストックの問題と、「大幅なプライマリー赤字を抱えたままで持続的な財政運営はできるのか」というフローの問題が挙げられるのが通例です。
私は、前者の問題は日銀による長期国債買い切りによって解決可能であり(正しい出口戦略を取るとすれば既に解決済みと言えます)、後者は国土強靭化を目指す財政出動による経済成長にて中長期的に解決可能であると主張しているわけです。

しかし、小幡氏は後者を問題視しております。
すなわち、「財政破綻するのはフローだ」と唱えております。
同一の定義から発しても現状認識、すなわち財政破綻の可能性に関しては真逆となるものですね。
その原因は、背後の経済観の相違にあるのでしょうが。

それでは簡単に小幡氏の見解を見ておきましょう。
基本画面は、先に示したギリシャ危機の状況です。
プライマリー黒字でもデフォルト寸前でした。
トロイカからの金融支援によって何とか凌げたわけです。

小幡氏は、この画面のギリシャを「日本」に、トロイカを「カネを貸す民間人(金融機関)」に置き換えて考えたのです。
そして、カネを貸す民間人がいなくなる状況を「国債市場の危機」と捉え、そうした状況に追い込んでいるのが日銀による大規模な量的緩和策(国債の大量購入)であると主張しています。
日銀の国債の大量購入が国債バブル(国債価格の高騰)をもたらし、それによって民間の買い手(カネを貸す人)がいなくなるとしているのです。
バブルは崩壊するものであるから、暴落が予想される国債を誰も買わない。
量的緩和の出口においてはインフレ率が上がっている筈であるから、名目金利は上昇し、国債価格は下落すると。
そうならないための解決策として、国債市場の売りを減らすこと(新規の国債発行を減らすこと)によって国債の需給ギャップを埋めるしかなく、そのためには財政赤字を減らすしかないというのが小幡説の概要です。

最後はやはり財務省出身者らしいですね。

幾つか問題点を指摘しておきましょう。
先ずは国債バブルについて。
一般的に中央銀行の量的緩和策が国債バブルを生み出すとする認識は疑問です。
日銀を含め世界中で量的緩和は実施されております。
米国のFRBもリーマンショック以来、三度も量的緩和をしました(2014年10月末で止めましたが)。
また欧州中央銀行(ECB)も、現在、量的緩和を実施しております。
それによって確かに世界的な低金利状態が現出しているわけですが、それを指して国債バブルが世界中で発生していると認識するのは如何なものでしょう(もちろん、認識の仕方は自由ですが)。
世界的な需要不足のもたらした金融的帰結、すなわち世界的な資金需要不足と捉えたほうが自然に思います。

日本の場合、日銀の量的緩和の実施以前より長きにわたって低金利状態が続いてきました。
2012年から長期金利は0.6%〜0.8%程度で推移しており、量的緩和第一弾以降も同じような水準でした。
もちろん黒田バズーカ第二弾以降は、大体0.4%〜0.5%で推移していますが、この水準をもって日銀が国債バブルを生んだと断じることは出来ないと思います(国債バブルを如何に定義するかによりますが)。
小幡説に従えば、低金利政策が全て国債バブルの発生因になってしまいます。

次に日銀は量的緩和によって期待を変え、インフレ率を上げ、かつ実体経済における需給ギャップを埋められると主張していますが、私が以前より指摘している通り、量的緩和によって2%のインフレ目標の達成は難しいと思いますし、実体経済を浮揚させることも不可能だと思います。
言うまでもなく、インフレは継続的な物価上昇でありますから、一回だけ物価が2%上昇してもインフレとは言わないのです。
翌年も、翌々年も、ずっと2%上がらなければインフレ目標を達成したとは言えないのです。
百数十兆円のベースマネーを民間金融機関に渡しても、現在のインフレ率は0%代前半にすぎません。
それも40%もの円安による輸入物価インフレを加味した数値です。
ここからさらに大幅な円安になる可能性は極めて低いでしょう。

インフレ目標を達成できない以上、出口はやってきません。
日銀は量的緩和を続け、民間保有の国債残高は払底し、金融は混乱します。
それを救うためには、日銀の量的緩和を適正規模にすることと、財政出動のための新規の建設国債を増発することです。
国債の供給を増やすことが必要なのです。

小幡説は量的緩和によるインフレ率の上昇を前提とした議論です。
インフレ率が上がらなければ成り立たないのです。
しかし、なぜ量的緩和によってインフレが生じるかという理屈を欠いています。
自前のインフレ論が無いために、「リフレ政策のインフレ効果を認めた上でのリフレ政策批判」という奇妙な論理構造になっています。

小幡論考でもう一つ驚いたのは、「現在、景気が良すぎることが問題だ」とする認識です。
小幡氏は、潜在成長率を「経済に存在する資本と労働が100%活用された場合の成長率」と考えています。
いわゆる最大概念の潜在成長率ですね。
その認識と日銀試算の「(平均概念の)潜在成長率は0%台」を基盤として、現況を判断しています(二つの定義を混同しているので本来は無理筋ですが、それは置いておきます)。
すなわち「現在の実質成長率>潜在成長率」であれば、景気過熱であると。
そして、景気過熱は生産資源が消費財生産に必要以上に投入されることを意味し、そのため投資財生産が滞った状態に陥っている。
それは将来の生産量を減少させる、すなわち潜在成長率を引き下げると結論づけております。

しかし、これは乱暴すぎる論理ですね。少なくとも一般性はない。
例えば、内閣府の試算では2015年1〜3月期で需給ギャップが「1.9%(実額にして名目10兆円)」存在しているわけですから、その試算を前提とすれば成り立ちません。
また2014年度の実質GDPは「マイナス0.9%」でしたから、昨年度も成り立ちません。
本年度の4〜6月期もマイナス成長が予想されていますから、そこでも成り立たない。
一体、小幡氏の指摘する「景気が良すぎる現在」とは何時のことなのでしょうか。
私は、実質賃金も低下し続け、実質消費支出も低迷している現況は、景気が良すぎるとは決して思えないのです。

今回、皆様にお訴えしたかったのは、経済学者の言葉や見解を鵜呑みにしてはならないということです。
立場の異なる様々な人達の見解を総合的に勘案しなければ、正確な判断ができない時代だと思います。

【メルマガ発行者より】

●●月刊三橋の今月号のテーマは、「歴史認識問題」です。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv.php
※このテーマが聞けるのは8/10(月)まで※

◆◇お客様の声◇◆
(石渡さま)
”周辺国が何故「歴史認識の問題で日本国をアレコレ言うのか?」を
理解しかねていたのですが、三橋先生の講話を聴いて良く分かりました。
自分は所謂「理系人」の端くれの一人の積もりで、歴史・経済には
強い興味を懐くことは、過去において殆ど無かったのですが、
どうやら間違いであった、と最近思うようになりました。”

PS
次号(8/11)のテーマは「<戦後70周年特集>大東亜戦争」です。
米軍による占領という亡国の期間に
日本人が忘れてしまった日本の歴史観を解説します。

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【青木泰樹】国家の信認?への3件のコメント

  1. robin より

    場所や時機に適うようにより正確に現実を認識するため既存の言葉にない概念が必要になるのだと思う。正しく認識しないと正しい処方箋は出せないと思うが、公益より私益、助け合いより奪い合い、メディアリテラシーよりプロパガンダ、日本政府より世界政府を重視すれば内国債と外国債も同じ国債である的に意図的な混同をするのだろう。守るべきは経済学って枠組みではなく日本の経済、政治家ではなく政治ではないか。ゲームマスター(政府)のいないゲームで安全秩序より動物的衝動を重視する不安定な社会で定期的にリセット(戦争)される社会の方がいいのか。

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  2. 拓三 より

    お〜い、リフレ派、小幡がリフレ批判しとるぞ〜wっていうか、この考えこそが財務省の考えそのものやん。ナルシストなリフレ…….失礼、天才リフレ政策を旨く利用して、消費税増税、構造改革、緊縮財政、に持ち込む悪の根源理論で御座います。でもコヤツらは、財政政策でも同じ様に色んな難癖付けて潰して行くんやろうけど、どうしたもんか。リフレ派のみなさん、そろそろ金融政策の過大評価を辞め、現実を直視しませんか。いつまでも金融政策だけに拘っていたら、小幡の理論に取り込まれまっせ。でもリフレ派の物の考え方やったら、増税、改革、緊縮に行くやろな……….涙。

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  3. とすくん より

    小幡の話はいつも途中からよくわからなくなる。結論が決まっててそれに向けてワケわからん理論言葉を散りばめて「ほら、こうなるでしょ。」って感じ。「まぁ、ボクくらいのエリートしか理解できないだろうけどね。」とか言いたげな論調。それが「省益」のため彼に課せられた仕事なんでしょ。

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